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ノビシロファミリーと禁酒法の町  作者: 鳳凰取 真
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のびしろ18  二人目の盟友 カスカ・クロスハーツ

炊き出し中にやってきた司祭との会話を始めたノビシロ。

しかし、話相手がいつの間にか別の人物になっていく…。

「ノビシロさん。どうかこの場は穏便に…」


リーンダート神父の言葉は、普段から穏便にことを運ばない人間に使われるべきだ。わけてもこの慈愛と博愛精神を重んじる僕に言っていい言葉じゃない。


「神父。僕は穏便です。常にね」


この世界に来てまだ一度も怒ったことなどないはずだ。優しさやカリスマも上がり、表情筋の躍動も素晴らしいと自負している。何が問題か。


僕は笑顔を崩さないまま、首を傾げているとリーンダート神父が近寄ってきた。手元に刃物の類は持ち合わせおらず、敵意は感じない。


彼の行動を観察していると、彼は近づいて来て耳打ちを要求してきた。


司祭を前にして聞かれたくない話というのは何だろうか。


「このお方はこの地区一帯を統括されている御方で、大変神への信仰も厚い方です。ですのでどうか、私の顔を立てると思って。話をしてくれませんか」


リーンダート神父はそういってから眉を上げて少し顔を和らげた。この場に争いを持ち込ませたくないという意志が感じられる。それは僕も同じ気持ちだった。争いごとはなるべく避けたい。


しかし、相手が同じ水準で対話が出来るというのは奇跡に近いことだ。期待することは難しい。


「貴様、先ほど嘘をついたな。覚えておるゾ。ニョは嘘つきが嫌いゾ」


司祭の後ろには、ピカピカと宝根(ウルズ)を光らせている配下達が立っている。返答次第では、僕はあの宝根(ウルズ)で怪我をするだろうな。


「奇遇ですね。僕もそうです」


僕はそうやって力の象徴を突き付けられて、フツフツと腹の底から何かが湧いてくるような感覚がしたけどそれをグッと抑えて笑って見せた。


「噓つきの言葉は薄っぺらいゾ。貴様の言葉は紙より薄いゾ」


司祭は言ってやったとニヤニヤしているけど、それを言うためだけに来たというワケではないだろうから僕は早く本題に入らないかと思いつつ、付き添いが司祭に耳打ちするのを待った。


それを察したのか隣にいる眼鏡の男が司祭に耳打ちすると、それに操られるように司祭が話始めた。


「きょうはお前がなにをしている者なのか、ニョが直々に聞きに来てやったゾ」


一言ずつ耳打ちしているのを見て、それなら眼鏡が僕と話をしてくれないかと思いつつ、適当に相槌を打って対応した。


「占い師をやっています」


すると眼鏡の男がまた司祭に耳打ちをする。


「ソレは近頃話題になっている、ブラックマーケットの、占い師ゾ? 」


「占い師なら僕以外には見たことありませんね。前はいましたけど」


そう返すと、配下の一人が使用したウルズによって僕は後方へ弾け飛ばされた。見えないゴムボールを思い切り腹に当てられたような痛みが腹部に走り、鈍痛でしばらく呼吸が苦しくなった。


何か彼らの気に障ったらしい。


うずくまり僕が痛みに苦しんでいる姿を見てグフフと笑っている司祭を見て、僕は先ほどまでフツフツと湧いていたものが、さらにグツグツと煮えているような気がした。


「余計なことは言わなくてよいゾ。ニョは貴様の占いが見てみたいんだゾ。もし異端の魔法を使うようなら貴様の成した財は没収ゾ!! 」


司祭は声を大きくして威張るようにそう言った。


当然、彼に【のびしろ】を使う気にはなれない。


僕はスキルを使うためにモーションを取りつつ、彼らの中で一番のびしろのありそうな人物を探した。すると、司祭に耳打ちをしている眼鏡の男が丁度強い波動を持っていることに気づく。


この光り方は、()()()()()()()()()()()で他の人々にはない大きな成長を遂げることが分かった。


「では、そちらの眼鏡の方。あなたにお手伝いしていただきたい」


すると、眼鏡の男は司祭にまた耳打ちをした。


「なぜニョのシモベを貸してやらねばならんゾ。なにか他の者で不都合があるのかゾ!? 」


「もちろんその通りです。僕は占いを通してその人に眠る潜在能力を目覚めさせることが出来ます。そしてどうやらそこの彼は稀に見る才あるお方のようだ。ぜひ、僕に協力して頂きたい」


眼鏡の男は司祭の後ろに隠れてしばらくじっとしていたけど、司祭に差し出されると渋々と言った感じで僕の前に出てきた。


「お名前は? 」


「カスカ・クロスハーツ。なぜ私の名前を? 長命族はあまり個という存在に価値を見出さないと聞いたが」


眼鏡の男は、そのガラスレンズの向こうから品定めするような目で僕を見ながら聞いた。


「答えた後に聞くんだね」


「…質問に質問で返すことを好ましく思わないだけだ」


面白い男だ。出会った瞬間に何か似た波長を感じたけど、間違いじゃなかったらしい。


「そっか、いい心がけだね。じゃあ一つずつ答えていくことにしよう、名前を聞いたのは単純にこれから長い付き合いになりそうだと思ったからさ」


コレは単に()で、なにか論理的な理由があるワケじゃなかった。だからこんなことを初対面の相手に言うのはとても変だ。変だけど、これ以上にこの奇妙な出会いについて述べる言葉を僕は持たなかった。


「それに僕は長命族の中でも異端でね。話せば少し長くなる。とりあえず座って話でもしないか、神父カスカ。君のことをもっと知りたい」


僕はそう言ってカスカを教会の中にある長椅子に座らせた。隣に少し開けて僕も座って、他にいた司祭の配下には僕の代わりに労働者達に炊き出しをするように言った。


「なぜ我々が…」


「君たち暇だろ」


そう言うと、彼らはいやいや炊き出しをし始めた。一般市民の僕の言葉に律儀に従っているのを見ると、40を超えたカリスマの力というのを感じた気がした。そしてなぜか司祭もその中に紛れて人々に食事を配っている。


…なんであいつまで? …まあいいか。


「貴様と話をして私になんの得がある? 」


カスカは眼鏡のつるを中指で上げると、精彩を欠いた声でそう投げかけてきた。


「もちろん大いにあるとも。例えば僕にどんな力を目覚めさせてほしいか、とかね。そうは言っても前例がないとイマイチぱっとイメージがつきにくいかも知れないから、一つの例をあげよう」


「―――少し前にある青年の力を目覚めさせたことがあった。その青年は人間族によく虐められているような子でね、筋肉もなくていつも体に生傷が絶えないような子だった」


僕は彼の表情を見ながら、僕のやってきたことを話した。


例え彼がこのまま敵であったとしても僕のしていることについて知っておいてほしいと思った。


なぜならシジュウと同じ強い光の波動を持つ彼ならば、きっとどこかで五十年後に現れる勇者の力になるはずだという、不思議な勘が働いたからだ。


「彼の内に目覚める力を開放すると、途端にその青年はその力を使って人間族の三人を自らの手で倒して見せた」


「宝根も無しにそのような力を持つとは、いささか信用に欠ける話ではあるが…続けろ」


カスカは腕を前で組んで、僕の話に警戒しながら情報を吟味しているようだった。


「後で聞いた話だけど、彼はその時強い力に対する渇望を持っていたらしいんだ。僕の力はそういった何かに対する強い渇望に魅かれる。それで今回は君が選ばれた」


「その言い方だと私が何かを欲してるということになるが?」


ふふんと僕は笑ってしまった。まさか彼は自分の欲望に自覚がないのだろうか。


「…まあいい。聴いてやる」


そう言ってカスカは顎に手を当てた。あの司祭を、というよりあの集団を操っているのは彼で間違いない。


僕を貶すように司祭に助言したのも彼で、おそらく僕に攻撃するように命じたのも彼だ。そしてそのパフォーマンスが相手とその周りにどういった影響を及ぼすのかもよく分かっている。


しかし自分についてはよく分かっていないようだった。


体面では彼らは僕が寄付を多くしたからやってきたと話しているようだけど、一ヵ月そこそこ寄付をした程度で会いに来るとは到底思えない。なぜならそんな人間は他にも大勢いるからだ。


そんな中で、ただ寄付が多いという理由だけで、浮浪者が多く棲みつく、危険で、オンボロで、経営難の教会に足を運ぶほど、彼らも暇ではないはずだ。


となるとやはり司祭たち…というよりカスカが来た目的は僕の占い、【のびしろ】がどういうモノかを見定めに来たということだろう。


「じゃあこうしよう。論より証拠だ。僕がアナタの無意識にある渇望を目覚めさせる。もし気に入って頂けるのであれば、これからもあなたとは仲良くしたい」


僕から彼に友達申請をすると、カスカはコチラの意図が読めないという表情で眉を顰めた。


そんなに怖がらないでほしかった。ただ僕は友人が欲しいだけなんだ。そういう意味を込めて笑みを作った。


もっとも、彼には僕が悪魔の囁きをしているように見えているのかもしれないけれども。


「ほう…貴様が私の渇望を満たすと? ―――ならば問いかけてみるがいい。あるかどうかも知れない私の渇望とやらに」


交渉成立ということで僕は【のびしろ】を発動させるためのモーションを取った。


一ヵ月も練習すると何事も様になってくるというもので、スキルを使うためにかかる時間も前よりも短くなっていた。


そして目の前にはシジュウの時にも見た眩い光を眼鏡から放つカスカの姿がある。僕の【のびしろ】はその光の波動に呼応するようにいつもより強い出力で発動に成功した。


ドクン、というカスカの心臓の音が僕には聞こえたような気がした。


「ウッ…」


カスカは軽い立ち眩みを起こしたのか、座っていた長椅子に背中を預けると、俯き片手で顔を隠すように覆った。


ソレに気づいた炊き出し中の他の聖職者たちは急いで近づくと、司祭の周りは誰もいなくなった。


「カスカ様! 」


「下がれ! ……邪魔をするな」


カスカは頭を押さえる別の手で彼らを追い払った。随分と同僚からは好かれているらしい。


そんなカスカを見て仕方ないと言った様子で、他の聖職者達は司祭のもとに戻り炊き出しを再開した。彼らもコチラの状況が気になるだろうに、律儀に仕事をしてくれて本当に助かる。


聖職者というのは誰かの言葉に付き従いやすい生き物なのだろうか。


「コレが…私の渇望か」


カスカはボソッと隣にいる僕にだけ聞こえるような声で呟いた。独り言だったのかも知れないけど、聞こえたので返事をした。


「気に入らなかった? 」


力を受け入れたカスカは、手に入れた力に震えているようだった。シジュウがそうだったけど、僕が力を目覚めさせてから彼の人生は大きく変わった。


カスカもまた力に目覚めた以上、意識しなければ同じ生活を送ることは出来ないだろう。そしてそのことはカスカ自身もよく分かっているようで、


「…コレは正しく悪魔の呪法だ。下手をするとこの国を変えてしまう程のな」と言って頭を掻いた。


まだ状況が整理できていないようだったから、しばらく隣に座ってゆっくり話すことにした。


「そうかも知れない。でも、その力を使って炊き出しをするぐらい構わないだろ? 」


「炊き出しだと? くだらん。帝王に届きうる力だぞ、コレは」


カスカにそう言われ、僕は初めてこの力の強大さを理解できる人に出会ったような気がした。


「そう言われても僕は炊き出し以上の正義を知らないから。でも君にはさぞ無意味な行いに見えているんだろうね」


「使い方も分からぬようならば寄越せ、その力を私に。有効活用してやる」


カフカは立ち上がると、静かに興奮した様子で僕の肩を掴んでそう言った。表情があまり表に出ない人間なのかと思ったけど、表情に出ないだけでそれなりに感情の起伏はあるようだ。


「カスカ君…僕はちゃんと力を示した。今度は君の番だ。君の力を僕に分かる形で示してほしい」


「では約束しろ。示したその暁には貴様のその悪魔の呪法を私にも使わせると」


「僕を友と呼び力を示してくれるなら……協力するのはやぶさかじゃない」


「では三カ月もたたないうちに、私の力をお前に見せよう。それまで炊き出しでも何でもして待っているがいい。だが少しでも私に逆らうようなことをしてみろ。コチラにはすぐにお前を神の名の下に裁く準備があることを忘れるな」


「それなら今すぐに炊き出しを手伝ってくれている配下を使って僕に言うことを聞かせても良いんじゃない? 」


力で解決しようというのなら、今すぐにでも宝根を使って制圧する方が良いんじゃないかと提案する。もしそうなれば所詮その程度ということで僕も友人の道は諦め、敵対する道を選ばざるを得ないけど。


「私もそれほど愚かではない」


そう言ってカスカは周りを見た。


教会の内外には僕達の話し合いがいつ終わるのか待っている労働者階級の人々が大勢いた。


炊き出しは他の者たちが行っているはずだけどいつも僕が餌をやっているので、僕からも何か貰えるのではないかと思って見ているのかも知れない。


そしてカスカはもしも僕に何かあればこの人々が暴動を起こすと思っているらしい。


人の皮を被った獣にそんな知性を求めても無駄だと思うけど、コチラとしては嬉しい誤算だった。


「そっか。じゃあまた会える日を楽しみにしてる」


カスカは司祭のもとに戻ると、また司祭に耳打ちをした。すると司祭は教会内に響く大きな声で、


「貴様の実力、とくと見せて貰ったゾ。褒美にニョの家がしばらくこの教会を支援してやるゾ。感謝に咽び泣くがよいゾ」と言って豪快に笑い嬉しそうに手を叩いている。まるで大きい赤ちゃんだ。


そしてリーンダート神父も司祭の言葉にひれ伏して喜んでいるところを見ると万事解決したようだと安心することが出来た。


「は、ありがたきお言葉」


一礼すると、先ほど嘘をついたという事実も忘れたかのように司祭は気をよくして頷いた。単純で馬鹿なのかと思っていたけど、もしかしたら彼は大器の持ち主なのかも知れない。そう思わせる大きな背中がそこにはあった。


「ガハハハッ。行くゾ者ども。ニョに続けー! 」


そういって司祭は教会の外に出る時も、市民を「邪魔だ、ゴミだ」と言いながら宝根で吹き飛ばして楽しそうに馬車に戻っていった。


とりあえず試練は乗り越えたみたいで安心することは出来たけど、それと同じくらいカスカがどう動くのか不安が残った。



カスカとノビシロ。二人の出会いが今後どのようにコハギアの町を変えていくのか。

それはまだ誰にも分からない…。

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