のびしろ16 異世界一ヵ月後のステータス
ステータスが変わることで周囲の反応も変わっていく。その効果を体感することなく、ノビシロはフォーリンと焼肉を食べることに。お互いに幸せに浸っていると、外から酒の臭いのするシジュウが入ってきて…?
「早速だけどステータスを見るわよ」
【野比 白】
≪武力≫:21 +20アップ
≪見識≫:25 +13アップ
≪優しさ≫:30 +18アップ
≪ビジョン≫:20 +10アップ
≪カリスマ≫:40 +18アップ
このステータスを見たら、この一ヵ月の僕の頑張りようが透けて見えてくるようだった。僕はこのフォーリンから出される紙切れ一枚のために頑張っているのだと思うと無償に泣けてくる気がしたけど、コレは嬉し涙に違いない。
「今の僕はどう見える? 」
カリスマが7の時はテントウ虫レベルの魅力しかなかった僕だけど、40ともなれば話は別だ。きっと後光が差して見えるに違いない。
「そうね、道で振り返ってみる人がたまにいるぐらいかしら。勿論いい意味でね」
顔が変形でもしているのだろうか。立ち振る舞いには変化はないと思うし、何がどう作用しているのか僕にはわからなかった。
「もっと実益のある話が聞きたい」
「あるじゃない。いろんな人に初対面で好印象を持たれるってことよ? 」
「無条件で? 」
「ええ」
神様による集団洗脳でもされているのかと思ったけど、そう言うワケではないらしい。ステータスを上げることで人相やらが少しずつ変化しているらしく、フォーリンが言うにはコチラの世界に来た時よりも、僕は優しそうな顔をしているのだという。
「こっちの世界の方が殺伐としているのに僕は優しい顔になってるのか。…ちょっと頭のおかしいヤツみたいで嫌だな」
「アハハ何言ってんの。アンタ元からヤバイ奴じゃない。自覚はあったんでしょ? 」
キョトンとした顔で彼女は言う。どうやら悪気はないらしい。それで逆に僕も怒れなくなり少しもどかしい気持ちにさせられた。
「…それより食事の支度をするから台所で話さない? 」
「他のステータスの値にも比較対象と詳細なデータが欲しいんのよね? まー、別にあんたが人と比べたい気持ちも分かるけど、アンタはアンタなんだから、それで変な自信つけるの止めなさいよ? 」
「ッ…分かってる」
人と比べるな、か。中々耳が痛い言葉だ。
僕は台所に移動して、帰り道に寄って買った食材の入った紙袋を置いた。地下にまだ使いかけの食材も残っていた気もするので、其処らへんの処理も考えつつなるべく手抜きが出来る料理というのが今日のコンセプトだ。
「そういえばシジュウはいるのかな」
「いないわよ。同じ種族の友達と遊んでいるんじゃない? 」
そうそう、この一ヵ月でシジュウの周囲にも変化があった。力が強くなってカリスマも上がったおかげなのか、彼の周囲には仲間がよって来るようになっていた。
僕はこれを野良犬の集会と密に呼んでいる。罪を犯していないヤツを探す方が難しい不良グループで、僕が前にシジュウを呼びに行ったら彼の友達という輩に肩をドつかれたこともあった。
「作り置きしておこうか」
「ほっときましょ」
フォーリンは相変わらずドライだなぁ。そう思うと同時に、ふとフォーリンの可愛いところも見たくなり今日のメニューを発表した。
「今日は一ヵ月記念ということで……焼肉です」
フォーリンから湧き上がるような拍手が起きた。
「この時を待ってました! 私焼肉大好き! 木炭と金網持ってくるわね! 」
フォーリンのテンションは一気に跳ね上がった。そして彼女は好きなメニューの時だけ配膳を頑張ってくれる。
部屋だと煙がこもるので、庭先で焼肉をするために外に出ると、先ほどまで外にいたのにもう外の寒さに震えている自分がいた。
家の暖かさは偉大だ。それもこれも【のびしろ】で手に入れたお金で買えたことが僕にとって幸運だった。
スキル【のびしろ】で稼いだお金はほとんどを寄付や炊き出しに使っているけど、こうして残ったお金は今日のような少し豪華な食費や高級品の調味料になって消えていた。
今日もなんやかんやで神に与えられたもので生かされているのだと思いつつ、僕はそんな神の使いであるフォーリンと共に肉を焼く準備をした。
「さぁ、肉を焼きなさい! 肉を! 」
フォーリンはフォークを持って待ち構えている。僕の席にはトングと肉が盛られたトレイが置かれてあった。
いつだって彼女は食べる準備万端というわけだ。
そんな彼女に僕はゲームを提案した。
「どっちが高級肉か当てるゲームをしよう」
「またするの? アンタも好きねぇ」
彼女は肉ではなく僕の罠に喰いついた。
「もうね、匂いで分かるのよ。肉わね」
「そうなんだ」
フォーリンに目隠しをして待機して貰い、僕はその間に僕用の肉と彼女用の椎茸を用意した。椎茸には切れ込みを入れ肉の油を沁み込ませ、肉厚、旨味ともに肉と遜色ないレベルにまで育て上げた。これが椎茸の伸びしろだ。
「はい、フォーリン。あーん」
「あーん」
椎茸を食べた彼女は美味しそうにそれを噛みしめて、「コッチが高級! 間違いないわ! 」と言っている。
「外れ。じゃあ、こっちはどうかな」
厚切りにした椎茸をまた彼女の口に入れると、次はよく噛んでから彼女は頬が落ちそうという表現を体で表しつつ「こっちが高級なお肉! 」と叫んだ。
愛すべき馬鹿舌に、僕は微笑みながら高級なお肉を胃袋に収めた。リカーに家賃替わりに貰ったビールで乾杯もしつつ、幸せな晩餐はこうして過ぎていった。
最終的に市販の肉と椎茸だけでフォーリンのお腹は満たされ、僕は高級なお肉をたらふく食べることが出来た。そうしてお互いに満足していると、その煙につられたのかシジュウが玄関から帰ってきた。
「゛あー! 俺の分は!? 」
「置いてあるよ」
ちなみにシジュウは下水道から離れてから妙に鼻が利くようになったらしく、本当に匂いで肉かどうか当ててしまうため、格付けチェックは殿堂入りをはたしている。
そんな殿堂入りのシジュウが席に座って肉を食べようとしたその瞬間、僕は気のせいかと思う臭いを彼から嗅ぎ取った。
「シジュウ…酒飲んでる? 」
「おう。大丈夫だぜ、酔ってないし」
そう言う問題ではない。家の中なら問題ないけど、家の外で飲んだというのが問題なのだ。この町で飲酒状態を見つかると罰金では済まされない。最悪牢屋送りになるのだ。ソレは十分に彼も知っているはず…何があったんだ?
「友達はビビったりしてなかった? その、シジュウがお酒を飲んでいてさ」
「俺がリカーの話をしたらよぉ、ダチが飲ませてくれって言ったんだ。だから俺も他の仲間に振る舞ったのよ。そしたらアイツらすげえ喜んでてさぁ! 体が温かくなったって言ってんの見て、相棒が教会の前でメシ色んな人に渡してる気持ちが何となくわかったっつーか。…改めて相棒はスゲェなぁって思った」
そう彼は楽しそうに自分の犯した罪について語った。確か彼のしたことが明るみになれば、獣人族の場合即刻死刑に当たる。裁判所なんて過程は存在せず、すぐに絞首刑が用意される。
「外でお酒飲むのは違法だ。いや、中もだけど」
「いいじゃねえか。それぐらい、誰も守っちゃいねえよ」
そう言う問題じゃないんだな。
他の人間にも酒を配っているという衝撃の発言をしたシジュウ。
本人に悪気はなく、むしろ良かれと思ってやっているようだ。
一歩間違えば死が隣り合わせにある盟友シジュウの運命にノビシロは苦悩する…。




