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ノビシロファミリーと禁酒法の町  作者: 鳳凰取 真
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のびしろ13 のびしろ家の朝

酒の話を聞く前にどうして、この場所に彼女がい続けるのかそれを疑問に思ったノビシロは彼女がなぜこんな地下室に住んでいるのかを聞くのだった。

「魔法使いから妖精に? 」


リカーの言葉を反芻するように聞き返した。彼女の話が本当なら妖精は魔法使いの上位互換、という風にも聞こえる。


「フォーリンは魔法使い時代の話をされないんですか? 」


僕の質問にリカーはフォーリンに聞いたけど、彼女は聞かれたくない話だったのか面倒臭そうな顔になった。


「別にどうでもいいでしょそんなこと。そんなことよりリカー? もしもココに()を生成しているなら中は当然見せてくれるのよね? 」


「えっとぉ…ちょっと人が入れるかんじになってないので、鍵をお渡しするのは明日でもいいでしょうか? 」


「しばらく暇になりそうだし、それでいいわ」


フォーリンとリカーが二人にしか分からない話をするので、僕は()()()()という謎のワードが出たところで一度話に割って入った。


「門って? 」


そう聞くと、フォーリンとリカーはどちらが説明するかじゃんけんをして、負けた方のリカーが説明をしてくれた。


「門は、ココとは別の空間にある魔女の工房に繋げるためのモノなんですよ。見て貰った方がいいかも知れません」


リカーはそう言って、首にかけていた鍵を胸元から取り出して見せてくれた。銅の鍵は手のひらほどの大きさで、彼女はそれに手をかざすと鍵は自立して浮遊したように見えると、次の瞬間には虚空に突き刺さった。


そしてなにもなかったその場所を起点にして、蝋燭の灯りぐらいの青い光を放つ鉄格子の両開き扉が現れた。


「コレが門…」


僕は扉に触れようとすると、彼女は慌てて僕の手を掴んだ。


「明日です。ノビシロさん」


笑みを浮かべて言ってくれているけど、掴んだ腕の力が本気だった。絶対にこの扉の先にはいかせないぞ、という強い意志を感じさせる。どれだけ汚い部屋なのか少し気にはなったけど手を引っ込めて、彼女が門を閉じるまでそこには触れなかった。


新しい同居人だ。面倒ごとは避けておきたい。


「そう言えばココに住んでいないみたいだが、何してたんだ? 」


シジュウがリカーに聞いた。そもそも僕たちは袋をするような音を聞いて地下にやってきたんだった。その音の正体を知るまでこの地下室から出ることは出来ない。


「ここで、ですか? えっと、ここはお酒の成熟に欠かせない環境でして、それでここにお酒を、という感じです」


「酒のせいじゅく? どういうことだ? 」


シジュウの頭にクエスチョンマークが大量に出ているのがみえる。


「成熟というのはですね、美味しいお酒は出来るまでにしばらくの間、寝かしつけなければならないんです。その環境に合った場所はある程度の湿度が保証されていて、尚且つ温度が常に肌寒いぐらいでないといけなく…それでその環境に適しているのがこの地下室というワケでして…」


「おぉおん…? 酒が寝るのか…寝てるかも知んねえよな。確かに」


シジュウは半分もよく分かっていなさそうだったけど、何とか彼女の話が分かっていると示したかったのか、熱心に頷いていた。


そしてしばらく話していたけど、フォーリンが「そろそろ上に戻るわよ」と言ってその日はお開きとなった。


そしてその夜は何ごともなく過ぎていき朝になった。


今日は酒の魔女のお部屋に招待される日だ。


僕以上にシジュウは朝から早起きをして髪のセットに時間を掛けているようだったけど、毛並みが大きく変わったようには見えず、相変わらず二足で歩く黒い長毛犬である。


そんな傍から見てもワクワクしているのが丸わかりなワンコを目で追いながら朝食を済ませるとチャイムが鳴った。


「フォーリン」


「アンタが出なさいよ」


机に座っていたフォーリンは、机に置かれたカゴからパンを取ると、妖精用の小さなナイフで赤いジャムを塗る。


僕はバター派だったから、ジャムは乗せずにバターだけを乗せた。


そして二度目のチャイムがなると、いい加減お互いを牽制するのも面倒臭くなり、僕は席を立った。


「一体朝からなんのようかな……」


そんなボヤキも出てきます。扉を開けると7~9歳ぐらいの少年が立っていた。物乞い、という見た目ではない。彼は帽子をクイッと上げると「おはようございます! 」と元気に言った。


僕はほぼ脊髄反射でそれに「おはようございます」と返した。


「新聞いかがですか」


少年は新聞を売っているようだった。別に新聞なんて必要ない、なぜなら僕は文字が読めないから。そう思いつつ少年の朝日に輝く顔を見ていると、僕は思わず「じゃあ一部」と言って銅貨一枚を彼に握らせてしまうのだった。


“コハギア・ジャーナルVOL.1―No. 79. 帝都コハギア 銀曜日13月2日950年”


無駄な買い物をしたと思いつつダイニングに戻って机に座ると、フォーリンがジャムで汚れた口をナプキンで拭いながら聞いてきた。


「なんだった? 」


「新聞売りの少年…なんで僕のところに新聞を持ってきたんだろうね」


「……家を周ってるだけだと思うけど? 」


「…確かに」


そう言えば僕は家に住んでいるんだった。下水道に住んでいるわけじゃないんだ。新聞屋ぐらいくるか。


ほんの数日しかあの場所にはいなかったけれども、あの下水道から始まったのだと思うとあの場所が家のような気がしてしまう。これからはココが自分の家でココが帰ってくる場所になるのだと思うと、少し今日を頑張る活力のようなものが湧いてくる気がした。


『ちりんちりん』


せっかく椅子に座ったのにまたチャイムが鳴った。


今度は何も言わずに席を立った。玄関を開けると、セラルミナ教会の人間と思われる服装の人間族(ヒューマリス)の女性二人組が立っていた。おそらく宗教勧誘に来たのだろう。


「おはようございます」


そう言って女性の一人が僕に挨拶をした。金髪で、修道服の上からでも分かる豊満な胸と尻が出っ張ったシスターで、とても宗教勧誘の上手そうなシスターだ。そしてもう一人は茶髪でこれまた美人で宗教勧誘が上手そうな女性だった。


「私達はセラルミナ教会の者です。あなたの新しいお住まいに心からのお祝いを申し上げます。わたしたちは、あなたがこの場所で幸福で満ち足りた生活を送るためのサポートを提供したいと思っています。ぜひ、私達の教えをお聞きいただけませんか? 」


金髪の女性がそういった。まだ朝食もすんでいない時間だ。セラルミナ教会の人間は常識が無いのは間違いなさそうだけど、優秀な人材がいるのもまた事実のようだった。


「ちょうど入信しようか悩んでいたところなんです。今日は予定があるので、また明日今日より2時間遅れて来てくれたら話を聞きます」


そう言ったらウキウキで二人共帰っていった。彼女達にもノルマがあるのだろうけど、僕にも予定がある。


僕は手を振りながら去って行く美人二人を見送りながら、どう料理してやろうかと思いながらリビングに戻った。


「セラルミナ教会の人? 」


フォーリンが聞いてきた。僕はソレに頷くと、フォーリンはため息をついた。


「フォーリンは信仰してるの? 」


そう聞くと、彼女はプッと笑った。


「一応そこの神様から指令を受けているんだけどね、別に信仰してないわ」


知らなかったことをまた一つ知った。僕の使命はどうやらセラルミナ教会の神様かららしい。


「宗教は優しさとカリスマのパラメータを上げる施設として丁度いい。これからは有効活用させて貰おう」


「あーら罰当たり…聞かなかったことにしといてあげる」


フォーリンはそう言って小さなティーカップで紅茶を一口飲む。僕もポッドに残った紅茶を飲んで、残ったパンにかじりついた。


宗教を信じているということは、何かに盲目的になれるということだ。そして盲目的になる人間というのは常日頃から困っていたり、ストレスを感じていたりする人間が多い。そう言う人間の悩みを解決すれば自分のパラメータが自然と上がるはずだ。


「そう言えば私が言っといてなんだけどアンタって真面目よね。使命とはいえちゃんとパラメータ上げを頑張ってくれているんだもの」


フォーリンがそんな意味のない話をしてきた。食事も終わって暇なのかも知れない。だから僕も適当に返した。


「ただの暇つぶし」


「暇つぶし? ほんとにそれだけなの? 」


「出来るから」


「五十年後に向けて自身の能力を高めて尚且つ勇者を導くなんて大役よ? 本当にできるって思ってるわけ? 」


「うん。……だから僕がこの世界にいるんじゃないの? 」


そういうとフォーリンはしばらく考えて、「それもそうね」と、言って少し笑顔を見せた。 


「アンタならやれそう」


フォーリンはそう言って僕の頭の上に乗っかったので、すぐに摘んで机の上に戻した。


「食事中だし、あと重い」


「重くないわよ!! 」


フォーリンは怒って何処かへ行ってしまった。そしてリビングで一人になってしまい、シジュウがまだ髪の手入れをしているのかと思い洗面所に行くとまだ一人でブラシと格闘しているようだった。


「相棒……! 」


涙声でシジュウはブラシを僕に渡してきた。何を目標にしているか分からないが、とにかく髪型以前に泣き顔の方をどうにかした方がイイと思った。


「男がメソメソするんじゃない。ほら、涙拭いて。背筋も正して」


僕よりも大きなシジュウに根性を入れるのは勇気が試されたけど、彼は分かってくれたようで、ひとまず涙で腫れた赤い目をリカーには見せずに済みそうだった。


「すまねぇ相棒。なんか初めての気持ちなんだ。こんなに迷うなんてよ」


彼女の家に突撃する恋する男子って感じだ。実際は地下に住んでいる酒の臭いが染みついた魔女が相手なわけだけど。


「迷ったっていい。顔に出さなかったらね」


「あぁ…そうだな。カッコ悪いとこは見せられねえ」


「いつも通りしてれば十分男前だ。元気を出せ。シジュウ」


シジュウの肩を少し背伸びしながら叩いた。すると彼は「ウォウ! 」と家に響くように吼えて、自分で自分の顔を叩いた。そして気合が入ったのか、


「ッシャ、行くぞぉ! 相棒! 」


と言っていつもの髪型に戻した。


そしてシジュウは地下室に繋がる木の戸を開けた。


新聞や宗教という朝の洗礼を受けたノビシロは、地下室へと向かうのだった。

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