のびしろ1 禁酒法の町にて
深夜テンションで思いついた話をその場で書いてみました。
2024/11/24 修正
転生というのはいつも突然に起きることだ。
現に、僕はいつ死んだのかもわからず赤の他人の肉体となって知らない町の中で佇んでいたのだから。
そしてなぜそんな状況で自分がまた転生したと、断定できるかというと。
目の前で、僕と目が合っている服をきた人の形を羽虫が言うのだ。
「私は妖精のフォーリン! おはようございます。転生者さま」と。
僕の後ろには噴水と、西洋風の城へと続く長い大通りが続くのみだ。該当する人間は僕しか見当たらない。
「フォーリンさん。僕の名前は野比 白と言います。呼び方はノビでも、シロでも結構です」
「うん! じゃあノビシロ! あなたにはこの異世界に転生して貰った理由があるの!」
フルネームで呼ばれたくなかったからあえて分けて提案したのに。なんてヤツ。
まあ、呼び方なんてもう慣れたものだ。転生した理由とやらを聞こうじゃないか。
「あなたには重要な任務があるの。いい? 心して聞いて。これから半世紀後、あなたは伝説の勇者を魔王の根城まで導かなくてはいけない存在なの」
「勇者に魔王。おとぎ話というよりゲームによくある話に聞こえるけど……」
「そうゲーム! まさにゲームのような世界なのよ、ここは。というより、人間の創造できることなんだもの。神様が先に作っていたって不思議じゃないわよね」
彼女の言い方をコチラが解釈すると、神様が先に異世界を作り、人間がその後に神様の作った世界と似たモノをゲームという形で作ったという話のようだ。というか羽虫の分際でゲームを知っているのか?
いや、何となくだがコチラに話を併せているだけのようにも見える。話慣れていない感じの喋り方だというのが何となく伝わってきたのだ。
「卵が先か鶏が先かみたいな話?」
「そう! そしてあなたは勇者様を導けるようにこの五十年間、みっちり頑張って貰うわ! 」
フォーリンはそう言って嬉しそうに、僕の周りをパタパタと飛び回っている。
彼女は500mlのビール缶ぐらいの大きさで、こういう場合に言うのかは知らないけど、人間目線で言うと彼女はトランジスタグラマーってヤツで、足が長くて全体的に細い線のような妖精で、その目は使命に燃えているようだった。
「そしてお待ちかね。あなたが授かったスキルとステータスの話をさせて貰うわ! 」
お待ちかね? 誰か待っていたのか。僕の知らない誰かが。
「情報を頭に入れてないと出来ないゲームはクソゲー……というのは冗談だけど、お手柔らかに頼む。悪いけど、僕はそれほど賢くはないからさ 」
「任せて、上手く説明しちゃうんだから。まずはスキルから! あなたに与えられたスキルは【のびしろ】。あ、そうそうこういうのを説明される時って、貴方は動かしながら教えて貰った方が嬉しい派? それとも一度教えて貰ってからいきなり実践派? 」
体を動かさずに話だけを聞いていてもつまらないだろう。それなら体を動かして教えて貰った方が楽しそうだ。
「体を動かしながら教えて貰おうかな」
「分かったわ。じゃあ、この町で【のびしろ】を使える場所を探しましょ。見つける方法を教えるわね」
フォーリンはそういって頭に乗ると、僕の頭のコメカミを拳でグリグリすると、光の粒子を周囲にパ~っと広げてみせた。どうやら他に歩いている町の通行人には見えていないようだけど、この光る粒子のウェーブがどうなるのだろう。
様子を見ていると、光る粒子に当てられて発光している箇所がいくつか発見出来た。
どうやら【のびしろ】の効果範囲は、様々な人や物らしい。
そんな中、一際輝いている光が路地裏から確認出来た。
「丁度いいわ。路地裏に光っているモノに【のびしろ】を使ってみましょ! 」
フォーリンが指を指したのは、この町らしき場所の噴水広場らしき場所から少し離れた路地裏だった。
光の当たらない人二人分が通れる道には、布を敷いて雑魚寝しているホームレスらしき人々がいる。
そんな人たちの住み家に足を踏み入れながら、光が強く反応する場所に導かれるまま進む。
すると、路地の行き止まりで三人がかりになってリンチを加えられている青年を見つけた。
光っているのは間違いない、今殴られて倒れ込んだ青年だ。
なぜやられたままなのか、なぜ逃げないのか。僕にはわからない事情が彼らの間にあるんだろう。
「あっちゃー……ごめんなさい。ヒロインかと思ったら違ったわ。他を探しましょ」
「助けよう」
「冗談でしょ? 」
回れ右して元の噴水前まで飛んで戻ろうとするフォーレンの腕を僕は掴んで止めた。情けの一つぐらいかけたっていいだろ。その可愛い見た目ならなおさらさ。
「助けても良いけど。この異世界ではあまり好かれていない獣人族よ? もしかしたら、助けたことで私達も痛い目を見るかも……」
獣人族、というのは恐らくこの世界に住む民族の一つを指すのだろう。
今も暴行を受けている青年は僕よりもずいぶんと毛深く、特徴的な黒に近い焦げ茶色の肌をしている。
というより、耳の位置がそもそも僕とは違う。服を着て二足で立つ犬のシェパードのような見た目だ。
体躯もしっかりしていて肩幅も広い。どうしてケンカに負けているのか謎なぐらいだ。
もしもそんな見た目がリンチの原因なら止めたいし、もしも獣人族の青年に非があるとしてもその場を何とかしたかった。だからフォーリンに頼んだ。
「……たとえお節介でも。助けたいんだ」
僕の選択がさらに事態をややこしくするかも知れない。だけど、彼を見ていると助けたいという気持ちが強くなった。
「ふーん、分かったわ、ノビシロ。じゃああの大きな青年に【のびしろ】を使ってみて」
「使うって? どうやって? 」
カッコいいポーズや決めゼリフが用意されているのならば、それを使うのもやぶさかではない。
「ソレは……えーと、スキルを使う時は特定のモーションを取るの。アナタのスキルの場合だと両手を握って前に出してオーラを送る感じ? う~私もよくわかんないけど、そう言われているわ! 」
「誰に? 」
「神様? 」
「えぇー……」
神様僕の前にも姿を現してくれませんか。どういうことだかサッパリ分かりませんよ。
「だ、大丈夫よ! さぁ、やって見せて! 」
フォーリンにいわれた通り両手を握り拳にして前に突き出すと、光る波動が青年に送られていくのが目に見えた。
カッコいいポーズではなかったけど、スキルとやらは見事に発動したらしい。
光る波動に包まれた青年は、先ほどまでとは見違えるほど毛深くなり、先ほどまでリンチしていた三人をその大きな拳でなぎ倒してしまった。
「おぉー……」
なぎ倒された人間達はピクリとも動かないが、果たしてこれで良かったのだろうか。
「やったわ! 効果テキメンね! 声をかけてみましょ」
獣人族の青年の元によって声を掛けようとすると、青年は手のひらを前に突き出して、
「止まれ」と言われた。
そう言えば、この世界の言語が日本語に聞こえるのはどういう仕様だろうか。深く考えるだけ馬鹿を見るのだろうか。
まぁ、そんなことはおいておくとしてまずは目の前の興奮した様子のナザリスの青年をなだめなきゃいけなさそうだ。
「ちょ、ちょっと待って。僕は敵じゃない」
「あぁ? お前らもアイツらの仲間じゃねえのかよ」
「僕が君に力を与えたんだ。だからどうか、話を聞いて」
「お前がこの力を? へヘヘッ、気に入ったぜ。この力。この力がありゃ、同胞の仇も取れるってもんだ」
青年の目には光はなく、黒い復讐の炎が燃えている。このまま放置しておけばこの町にまた血が流れることは間違いない。
「少し話でもしよう」