エピソード⑤
核体の正体が、人造人間かつクローン体であるという事実は、予想外の形で世に出された。
――草薙含めた各国の離反者達が、世界中の通信網をジャックし告発したのだ。
それから、各国の民達から非難の声が上がり……益々混迷を極める事態となった。
開発者である天埜は姿を隠し、また、各国にある製造工場から核体を救出する者が増え、各国及び敵対勢力は大幅なエネルギー不足に悩まされる事になった。
中には、核体製造工場閉鎖のデモが起こった国もあり、閉鎖を余儀なくもされた。
それは、トクセンも例外ではなく。
国民だけでなく、政治家達からも非難の声が上がった。
そして現在――。
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「上層部が決断を出した。これより鋼式シリーズの使用を禁ずる。各隊員は本国へ即時帰国せよとの事だ」
珱栖の言葉に、静也は複雑な心境を隠せないでいた。それは、残りのノヲンと比美子も同じようで皆俯いている。
まさか、愛機として乗っていた機体に生きた人間が使用されていた……その事実だけでも衝撃なのに、仲間達の次々の離反、そして非難の嵐がより一層そうさせていた。
(これに気づいたから……第三部隊を? だが、なら何故俺は生かされたんだ?)
失意の中、帰国するべく荷造りをしに自室へ戻ると、携帯端末に暗号通信が入っていた。その発信主は……草薙だった。慌てて解析し、中身を確認するとそこには短くこう書かれていた。
『あの日見た夕焼けの海岸にて待つ』
帰国するまではフリータイムだ。静也は携帯端末と……非常用のサバイバルナイフを手に隠れつつ、拠点を離れた。
たどり着いたのは、小さな海岸。
ここは、第三部隊の拠点に近くトレーニングに良く利用されていたのだ。
月夜が照らすそこに人影が一つある。草薙だ。
「よう、群雲。久しぶりだな?」
「草薙……お前はいつから核体について気づいていた? そして、何故俺以外の仲間達を殺した! 答えろ!」
睨みつける静也に対し、草薙は強い光を宿した瞳で答えた。
「オレが気づいたのは、比較的最近だ。彼女の声を聞いてな? それ以来だ。そして……一番のお前の疑問に答えるなら、他の連中の核体はもう寿命だった。あそこで終わらせてやらなければ、彼女達は死に、また新しい核体が利用されてしまう。それを防ぐためだ」
「なら! 何故俺は生かしたんだ!?」
「それは、お前の核体はまだ寿命じゃなかったし……それに、群雲。お前もこっち側の人間になりそうだと思ったからな」
衝撃の言葉の数々に、静也は唖然とするしかなかった。そして、あまりの衝撃に膝をつくと……そこから勢いをつけて立ち上がり、サバイバルナイフで草薙に襲いかかった。
それをあっさりとかわすと、草薙は拳銃を突きつけた。動くのを止めた静也からそのまま距離を取ると、草薙は告げた。
「残念だよ、お前も核体を救う側になると思ったのに」
「それは……こちらの台詞だ! 俺達が守るべきものは国と民だ! はき違えるな! 裏切者が!!」
静也の鋭い視線と言葉を受けても、草薙の表情は変わらない。彼は、静かに息を吐くと今時珍しい煙幕を使い……逃げ去って行った。残された静也は一人涙を流していた。
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こうして、各国から核体の使用をやめる動きが加速する中……次なるエネルギーとして、一度不採用とされたスルツニウムコアと呼ばれる、自然エネルギーに移り替わり、人型機動兵器が新たなステージへと上がる事になるのだった。