エピソード③
その後も、第六部隊総出での捜索が行われたが、有力な手がかりは未だなく。
時間だけが過ぎて行き、また他部隊の状況も相まって、困難を極めていた。
戦況の激化である。
元々、トクセンの任務は中東圏における過激派組織の鎮圧が主であった。
だが、そこに来ての草薙の一件は、上層部においても捨て置くわけには行かない事態である。
故に……。
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(くそ……!)
与えられた自室にて、静也は洗面台の前にいた。ややグレーかかった短髪と、目の下のクマが視界に入る。
だが、そんな事は今の彼にはどうでも良かった。
「何故……何もつかめない? 草薙、お前はどこへ行った?」
焦る気持ちがどうしても抑えきれない。もしかしたら草薙は、既に中東圏から離脱し……どこかであざ笑っているのかもしれない。
そう考えるだけで、静也の怒りがどんどん大きくなる。
自分だけ生き残った悔しさ、仲間の無念、そして……裏切られた衝撃。
(赦すわけには、行かないんだ……!)
怒りのぶつけどころを求め、許可を得て置かせてもらったサンドバッグを殴りつけた。何度も何度も。
そうしていた時、スピーカーからアナウンスが入った。
『第六部隊、コールサインクロウ603より入電! 哨戒中に敵勢力と遭遇! 二機では対応不可との事! 至急、第六部隊員は応援に向かうようにとの指令!』
静也個人の想いで言えば、哨戒での敵勢力との交戦等どうでもよかった。だが、自衛隊に所属する者として……任務を放棄するわけにもいかない。
なるべく速足で格納庫に向かうと、静也は自身の機体に乗り込んだ。
コックピットに座り、起動したその時……ふと、草薙への違和感を覚えた日の事が脳裏にフラッシュバックする。
(なんだ? 俺は何故今、そんな事を?)
《わたしの、こえが、きこえて、るの?》
「なっ!?」
どこからか聞こえて来た、少女のか細い声に驚く静也だが、その声は気にする事なく話を続ける。
《うれしい、な。しずや、も……わたしに、きづいて、くれたの、ね?》
(俺も……だと!? どういう、事だ……?)
問いただそうとしたが、通信が入って遮られてしまった。通信主はクロウ601……珱栖からだった。
『各機、準備はいいな? 急いで救援に向かうぞ!』
承知した旨を伝えると、それぞれ格納庫から射出された。目指すは602と603……ノヲンと紀也の救出だ。
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救援に向かうと、二機の装甲には数多の傷がついていた。
そして……敵勢力を確認して……静也は驚いた。
彼らが使っていたのは、旧式の戦車や戦闘機、そして砲台だったのだ。
時代遅れの武装だ。そもそも、敵対勢力も同じように核体を使用した機動兵器に乗っているはず。
(彼らは何者だ? 何故こんな事を?)
疑問に思っていたのは、静也だけではない。他の隊員達も同じだった。
しかも、タチが悪い事に彼らは機動兵器の弱点を突いてきている。それ故の救援要請だったのだと気づいた静也は、隊長である珱栖に通信で尋ねる。
「どうなさいますか? 想定していた敵勢力とは別のようですが」
『これは……撤退を命じる! 各員、聞こえているな? 撤退だ!』
想定外の敵勢力への攻撃は、任務に含まれていない。上層部に指示と対応を仰がなければ動けないのが自衛隊なのだ。撤退するべく、破損している二機をワイヤーで繋ぎ、引きずって撤退しようとしたその時だった。
『核体を解放せよ! 非人道的な蛮族共よ!』
謎の敵対勢力が、どういう手段か通信に割り込み、そう声を荒げて告げたのだ――。