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終話 虹色の花びら

 俺は空中で目を閉じて深呼吸をする。

 竜との決戦に備えて、気持ちを整える。怖さはある。でも打ち勝てると言い聞かせる。


 俺は青い空を見上げて竜のいる頂上へとゆっくりと浮き上がっていく。


 頭上にあった岩壁の切れ端を超えると目の前の視界が大きく広がった。頂上だ。

 その地は眩しいほどのキラメキに覆われていた。俺は目を細める。まさに満開の花々、ニジイロザクラだ。大地から力強く生える木々の幹の先には、キラキラと虹色に輝く花びらが無数に咲き乱れている。


 天国に来たのかと心がぼんやりし始めた時、バサーッと大きな音が鳴って、目に飛び込んできたは地獄の怪物。サクラの木々の中に隠していた姿をついにその上空に現した。


 冥途からやってきたような真っ黒な体表は、それだけで恐怖だ。そして巨大。ゆうに俺の体を一飲みにできるだろう。長く伸ばした翼をはたき、大きな咆哮を放った。咆哮が耳をつんざく、体を震わせる。

 俺は歯を食いしばる。


 勝負だ。


 咆哮の強風と威圧に耐え、俺は怯むことなく杖を振って火炎を放った。竜は体を傾け、素早く斜めに前進しながらするりと俺の火炎を避け、そのまま周囲を旋回し始めた。俺は竜を目で追いながら飛び立って浮遊する。

 あれだけ素早く動かれたら火炎は当たらない。

 でも、できるはず。できるできると自分に念じる。杖を天にかかげる。


 バキバキッと避けるような音を伴って、空から稲妻が竜に向かって走り、竜の体がビカッと光る。とらえた。竜から黒い煙が上がる。竜は一瞬怯んだが、すぐに立て直して俺を睨みつけ、その赤い目をカッと開いた。急加速して真っ直ぐこちらに向かってきた。口を大きく開け、喉に青い光をためる。

 来いよ、竜め。

 喉から前の牙まで青い光をため切って、放った。強烈な青い炎。熱が伝わる。それは数舜後に跡形もなく溶け死ぬ予告。おれはそいつを直視しながら、杖を青い炎に向ける。

 できるんだ俺は。


「ダレノマゴダトオモッテンダー!!」


 杖の先にめらめらと赤い炎のボールが現れ、そのボールに空から雷が落ちる。炎のボールは電光を帯び、火の粉を散らす。青い炎に向かって飛び出す。竜の青い炎を左右に蹴散らしながら駆け抜ける。

 いけ。

 そしてついには、炎のボールが勢いそのままに、青い炎を吐きつける竜の喉元に激突する。全方位に赤と黄色の光線を放射する。耳をつんざく爆音が轟く。

 見たか。

 竜の大きく広がった翼がしおれ、逆立っていた尻尾が垂れ下がる。ついに竜は推進力を失って地面にむかって崩れ落ちていく。


 大きな衝突音を立てて落下した先は、ニジイロザクラの林の真ん中だった。どっと虹色に輝く花びらが一斉に舞い上がった。花びらが風に舞いあげられ、頂上の大地一面をきらめく花びらが覆いつくした。


 俺は地上に降り立ち、上空を舞う無数の輝きに酔いしれた。

 それは勝利を祝う桜吹雪だった。




 ニジイロザクラが舞う中、俺は待っていた3人の所に降り立った。

 3人も虹色の桜吹雪に見とれている所だった。

 

「終わったよ。竜は討伐した。きっともう大丈夫」


 3人は安心した様子で俺を迎える。

「サトシ。やったのね。本当に立派になったわ」

 ヨネが微笑んで俺を褒める。

「サトシさん。信じてました」「サトシくん。本当にありがとう」

 リナとルークが俺に感謝を伝える。


「それから、おばあちゃん。これ持ってきたよ」


 俺はニジイロザクラの枝をヨネに手渡す。頂上から取ってきた約束の品だ。枝の先にはいくつも虹色の花びらが咲いている。

「まあ綺麗。おじいさんがくれた物と同じ花だわ……」

 ヨネはとても穏やかな表情で涙を流している。喜んでくれて嬉しい。やっと一つ恩返しが叶った。


「頂上に沢山咲いているんだ。みんなで見に行こう」


 俺は3人を持ち上げて飛び立ち、みんなで頂上に降り立った。

満開のニジイロザクラにみんな息を飲んだ。いつまで鑑賞していられる光景だ。


 ヨネは俺の渡した枝を持って、いつまでもその大事な花の景色を静かに眺めていた。


 ルークがヨネのかたわらに立って、その手を握った。


 その背後で。

 俺とリナは、初めてのキスをした。

 地面を覆っている散り花が二人を祝うように輝いていた。




 後日。

 俺はとびきりおしゃれなタキシードを着て玄関をノックする。扉を開けたのはリナだ。水色の髪が今日も綺麗だ。「どうぞ入ってください」と言うので、リナの自宅に入る。デンジャラス山での約束だった。この世界の女性の部屋に入るのは初めてだ。レンガ造りの落ち着いた家だ。


 俺とリナはテーブルのある長いすに隣あって座る。リナがお茶入れますと言って持って来たのは湯飲みだった。中は緑茶だった。それから、これどうぞと飴玉を差し出した。俺はなんとなく彼女には似合わないような品々だと思った。


「これお姉さんにお店を教えてもらって、私も買ったんです」

「そうか。リナにはお姉さんがいたのか」


「いえいえ。あれ?聞いてないんですか?ヨネさんですよ。兄と結婚したんです」


「え?うそ?」


「ほんと。ルーク兄さん、前世がおばあちゃんて聞いたら、そういうのもろタイプっすとか言って即行で結婚しました」


 俺は聞いてないし、展開早すぎるだろと思った。

「なんなんだよあのばあちゃん。自分だけは楽しそうにやってるよな」


「でも、……私とサトシさんのこと、認めてあげてもいいわよって、言ってました」


 リナはほほを赤らめる。

「そうだ!約束した討伐のお礼を持ってきます」


 リナは席を立って、持って来たのは鉢に植えられた緑色の植物、アロエだった。待て、まさか大事なモノっていうのはそれなのか。

「これ、アロエって言うんです。とっても健康にいいんです」

 知ってる。

「私のおばあちゃんに、しっかり育てて、健康を願う一番大切な人ができたら渡しなさいって教えられたんです。だから、受け取って下さい」


 リナは恥じらいながらアロエの鉢を俺に差し出す。期待したものと大分違うなあと思いつつ、俺は無理やり笑顔をつくって受け取る。

「うん、ありがとう。うん。うれしいよ」

 リナは嬉しそうにほほを赤らめている。その顔がとても愛おしかったから、俺は幸せだった。


「大切に使うよ。それに君の事も大切にするよ」

「へへっ。んー。へへっ」


 リナはうつむいて、すごく恥ずかしがりながらニタニタしている。その可愛さに耐えきれなくなって、俺は前もって考えていた提案をする。


「リナ。君とこれから二人切りで一緒に冒険がしたい。どうかな?」


「んー。そうですねえ。んー。ちょっと早いですかね」


 それもそうか、俺達は時間をかけてやっていこう。

 リナは続けてこう言った。


「そうですねえ。隣の国にあるデンジャラス峠の先の、デンジャラスダンジョンにある聖杯を取ってきてくれたら、受けてもいいですよ。そのお話」


 おお。なんと危険な響きだろう。その危険な響きにワクワクする自分がいる。


 そうか。俺自身の冒険がこれから始まるんだ。




<完> 蜜柑プラム



完結です。ありがとうございます。

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