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2話 大事な花

 おばあちゃんのお葬式のため田舎に帰った日、季節は夏だった。俺はお葬式の前日に現地に着いた。時間が空いたので、俺はおばあちゃんとよく行った砂浜に行き、浜辺を歩いていた。

 ここ数年おばあちゃんに会いに来なかった事を後悔している。おじいちゃんが8年前に亡くなって、それからおばあちゃんは一人だった。遊んでくれた、可愛がってくれたおばあちゃんに、俺はもう大人なのだから何か恩返しをすべきだった。


 せめて明日のお葬式でしっかりお別れをしようと思った。

 

 考え事をしていたせいで、気付かないうちに足が海水に入っていた。突然足に激痛が走った。浅い海水の中にバチャーンと転んだ。クラゲだ。大量にクラゲがいた。そして露出した全ての皮膚から激しい激痛を感じた。


 死んだ。


 いくら話を進めたいからといってこんな雑な死に方でいいのかと神を呪った。



 ~~~~~ 〇

 ~~~~~~~



 俺は転生した世界で、今とても美しい女性とランチをしている。その女性はあんたハンバーグ好きでしょと勝手にメニューを決めたりする。それにちゃんと食べてるの?とかアロエがいいわよとか言ってくる。

 その美しい女性剣士の前世は俺のおばあちゃんなのだ。


「おばあちゃんて、強いんだね」

「そりゃそうよ。若い時は言い寄ってくる男は一人や二人じゃなかったのよ。中には乱暴なのもいるの。自分の身は自分で守っていたわ」


 ギルドでのあの強さってそういう問題なのか?と思ったが。


「へー。じゃあ冒険者でバリバリやってけそうだね。おばあちゃん冒険話好きだったでしょ」

「好きだけど、一人じゃね、つまらないわ。ゆっくり過ごしたいわ。……おじいさんと一緒なら楽しいんだけど」

 女性剣士(おばあちゃん)はしばらく物思いにふけっている。きっとおじいちゃんの事を思い出しているだろう。かと思うといきなりこっちを見た。


「サトシ。あなたと一緒なら行ってもいいわよ」


「いやあそれはちょっと……。困るかな……」

 それは困るのだ。俺は美人とパーティを組んであわよくば的な事を考えている。おばあちゃんがついて来るなんてすごくやりずらい。断固断りたい。ただ、さすがにババアは邪魔だとは言えない、断り方が難しい。


「行きましょう。どうせ仲間はいないんでしょ」

「いやあ、そのう。俺弱いんだよ。一応、魔導士なんだけど、まだ一回も魔法使ってなくて――」

「いいのいいの、いざという時は私が守ってあげるわ」

「うーん。そのう。えー……」


 俺がうじうじ断り方に困っている時。助け船がやって来た。横から知らない女性が「すみません」と話しかけてきた。


「こんにちは。先ほどのギルドでの立ち回りを拝見しました、お見事でした」


 俺と女性剣士(おばあちゃん)は会話を中断し、女性の方を向く。


「ええまあ。別に大した事ないわよ」


「あのう。お話を聞いて頂いてもよろしいですか?」


 女性は背中に大きな杖を掛けている、魔導士なのだろう。水色の髪は肩までの長さだ、目がパッチリ大きくて華やかな顔立ちだ。顔は女性剣士(おばあちゃん)の方が若干タイプだけど、こちらの女性魔導士は女性らしい体型で豊かな胸を持っている。


 俺は孫の顔から、できる魔導士の顔に変えて、女性の要望に応じた。


「どうぞ。魔導士のお嬢さん。さ、ここに座って」

 俺は自分の隣の席に美人魔導士を促した。


「ちょっとあなた。うちの孫に色目使ったわね、今?どうなのそれ?」


 俺はここに自分のおばあちゃんがいることを思い出した。


「――いえ……そんなことは……」

 美人魔導士はしゅんとして、言葉に詰まっている。

「おばあちゃん。困ってるじゃないか。別に彼女は変なことしてないよ」

「まあサトシも大人だから。やいやい言わないわよ。でもあまりはしたないやり方は感心しませんよ」

「……あの、気をつけます。すみません」


 俺はいいよいいよと美人魔導士をなだめる。彼女を俺のとなりの席に座らせると、彼女は自己紹介をした。美人魔導士はリナという名の回復師だった。リナは俺と美人剣士はどういう関係なのかと聞くので、二人とも転生者で前世で祖母と孫だったと説明した。


「お二人とも転生者……すごい!最強じゃないですか!」

 彼女は目を輝かせて俺達を褒める。転生者というのは強くて、かなり珍しいらしい。


「最強のお二人にお願いがあります。デンジャラス山のデンジャラス竜を討伐してほしいのです。お願いします!」


 リナは切実な表情で懇願し、頭を下げた。デンジャラス山、そしてデンジャラス竜。明らかに危険そうではないか。

 さすがにこの世界に来て間もない俺はそんな危険を冒したくはない。しかし俺は無下に断るのもかっこ悪いと思ったのでおばあちゃんが断る方に賭けた。


「いやよ。私は今から孫と温泉にいくのよ。だいたい図々しいわよあなた」

 何を勝手に俺の予定を決めているんだ。しかし断るのはいい。その調子だ。


「図々しいのは承知です。でも私の村が被害を受けているんです」


「自分の身は自分で守るものよ。私は自分から進んで野蛮な行いはしないの」

 おっしゃる通り。ギルドでの一件はちょっと野蛮だったがな。


「報酬も出します。村の宝物全部!お譲りします」


「この年になるとねえ。そういうのはもういいの」

 あなたは正しい。見た目は若いが正しい。


 リナは女性剣士(おばあちゃん)にそっけなく断られ続けて悔しくなったのか目に涙を浮かべる。

「それに……それに、ドラゴンの住み家には、ニジイロザクラという希少な花が咲いています」


「ん?」「ん?」


 俺と女性剣士(おばあちゃん)は一つの単語に反応した。ニジイロザクラ。知っている名だ。

 リナも二人が食いついたと思ってまくしたてる。


「ニジイロザクラはすっごくすっごく貴重な幻の花なんです。寿命を延ばすと言われています。それにそれに鑑賞用としてもとても重宝されます。それに――」


「いやそうじゃなくて、どんな花なの?見た目は?」


「えっと、日の光を反射して見る角度によって虹色にきらめく花です。5枚の花びらで、小振りな花だと聞いています」


 俺と女性剣士(おばあちゃん)は目を合わせた。きっとそうだ。ニジイロザクラはおじいちゃんが外国にある山の山頂からとって来た花だ。そしておばあちゃんにプレゼントした。おばあちゃんが大事に大事にしていた花だ。

 女性剣士(おばあちゃん)は押し黙って下を向いて何かを考えている。

 しばらくの沈黙の後、女性剣士(おばあちゃん)が慎重に口を開いた。


「それでもやめておくわ。お金には困ってないの。孫と一緒にいれ――」


「行くよ、俺が!おばあちゃん!取ってくるよ、ニジイロザクラ」


「いいわよ。そんなもの。無理しないで」


「いや行かせてくれ!おばあちゃんは待ってて。俺はおばあちゃんに何も恩返しできてないだろ。後悔してるんだよ。だから花を取りに行かせてよ。それに、竜とは戦わなくても、持って帰ってこれるかもしれない」


 女性剣士(おばあちゃん)は俺の顔をじっと見た。女性剣士(おばあちゃん)の目から静かに涙が流れた。そしてほほ笑みながら「ありがとう、ありがとう」と震える声でつぶやいた。


 俺は「心配しないで」と言って、女性剣士(おばあちゃん)から視線を外す。そしてリナに向き直って、できる魔導士として言う。


「そういう事だから、俺がデンジャラス山に行くよ。リナも付いてきてくれるんだろ」

「はい!お願いします!本当にありがとうございます!」


 彼女は目を潤ませて喜んでいる。俺とリナは互いに見つめあう。見つめながら手を取りあう。二人だけの世界に入りきる寸前だった。


 視界の端に女性剣士(おばあちゃん)がヌッと入って来たのが見えた。女性剣士(おばあちゃん)は怖い目つきになって俺を睨んでいる。きっと、女性剣士(おばあちゃん)を置いて美人回復師と冒険する事が本当の目的なんじゃないかと疑っているのだろう。ふっ、そんなわけないじゃないか。強いて言うとないとも言い切れないが、とにかく気付かないふりをしよう。



 店の扉が勢いよく開いた。すらりと背の高い男が入って来て、こちらを視認するなり向かってきた。


「リナ。探したよ」

「兄さん。来ちゃったのね。今、竜の討伐を依頼している所よ」

「そう。急に村からいなくなったから追いかけてきたよ。心配させないで」


 男はリナのお兄さんらしい。すらっと背が高くて、肩や胸はがっちりしている。銀色の髪は短く力強く立っている。リナに似て目がパッチリして華があるが、口周りに髭を蓄えており、ワイルドな印象の顔立ちだ。


「こちらのお二人が、討伐に行ってくださるのかい?」

 リナのお兄さんはリナから目を外して俺達を確認する。


 女性剣士(おばあちゃん)が急にガタッと席を立ってリナのお兄さんに近ずく。彼の目を見つめてこう言う。


「そうです。あなたのために私が竜の討伐に行きます」


 おい!あなたは行かんでいいんだ!

 俺の気持ちなどお構い無しに、女性剣士(おばあちゃん)は彼の手を取って、胸の前でぎゅっと握る。リナのお兄さんは困惑する。


「え、どうも、よろしくお願いします……」


「兄さん、こちらのサトシさんと私も行くのよ。おばあさ――」

 女性剣士(おばあちゃん)がリナをキイッと睨んで、リナは絶句する。


「ていっ!…………私はヨネです。ヨネとお呼びください」


「……お願い……します。ヨネさん。俺は、リナの兄のルークです。俺もお供します」

 女性剣士(おばあちゃん)あらためヨネはリナの兄、ルークの目を見つめて離さない。完全に目がハートになっている。

 いいのかよ。孫の前でそういうの、やめてほしいんだけど。


 ヨネは、レイを解放して、イスの上に登り、俺たち3人を見下ろした。そして右手を天に上げて握り拳をつくった。


「いざ!デンジャラス山に出発!」


「お、オーッ」「オーッ」「オーッ」

 掛け声はあまり揃わなかったが、ヨネは満足そうだった。



(つっこみてええ。いろいろつっこみてえよ)




デンジャラスな冒険が始まる。



<つづく>


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