1話 美人剣士
6話で完結します。
ギルドのロビーは騒がしい。冒険者達がそこかしこで打ち合わせという名の言い争いをしている。俺はロビーにある長いすの端に一人で座った。転生してきたばかりなのでここで情報を集めようと思っている。
誰かに声をかけようと辺りを見回す。俺の横の方、同じ長いすの向こう側に、腰に剣を差した女性が座っていた。金色の真っすぐ伸びた長い髪が綺麗だった。女性は背筋が真っすぐ伸びた善い姿勢で、湯飲みをすすっていた。両手で湯飲みを口に運ぶ所作はゆったりとしていて優雅だ。俺はちょっときざっぽくその美人女性剣士に声をかける。
「お嬢さん。聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」
美人剣士は湯飲みをゆっくり口から離し、膝元に抱える。そして優雅に俺の方に振りむく。
「なんだい?」
穏やかな声だった。まるで故郷に帰ったような親しみがある。表情もとても穏やかだった。俺と同じ黒い瞳。顔のパーツに派手さはないが、肌が透き通るように滑らかで、あごの輪郭がすっきりとしている。もろタイプだった。
「俺はここに来たばかりの新参者なんだ。よかったら、この辺りの事を教えてくれるかな?」
美人剣士は穏やかな表情のまま、少し間をあけてから口を開いた。
「そうかい」
美人剣士は引き続き穏やかな表情のまま、また少し間をあける。
「私もね。ここに来たばかりなんだよ。神様に、て・ん・せ・い、とかいうものをして頂いてね。いやあ、珍しいこともあるもんなんだね」
美人剣士は転生者だった。俺も転生してきたばかりだったので、身を乗り出して美人剣士の話に聞き入った。
「まあ、人生色々あったよ。若い時はね、貧乏だったの。母親も病気がちでね、父親の商売を手伝って、だから子供のときから必死に働いたわ」
美人剣士は聞いてもいないのに勝手に自分語りをはじめた。俺はその遅い口調にだんだんとイラつき始める。
「私が20才になった時に父親の商売がようやく安定してきてね。その時に取引先のあと継ぎとお見合いしたの。ふふっ。それがおじいさんよ」
この話いつまで続くんだと思い始めるが……。ん?おじいさん?
「若い時のおじいさんはね。そりゃもう情熱的でね。ふふっ。俺と一緒に人生という冒険に出ないか、なんて言ってプロポーズをされたわ」
俺は確信する。この美人剣士の前世は老婆だ。こんなに若くて美人だが中身は老婆だ。俺としたことが、湯飲みの時点で気付くべきだったのだ……。しかしこの話どかで……
「おじいさんは冒険が好きでね。ある時、遠い国のその山の山頂にしか咲かない花を持って帰ってきて、私にプレゼントしてくれたわ。私はずーっとその花を大事にとっておいたの――」
俺は確信した。
「おばあちゃん!!?もしかして俺のおばあちゃん!!?」
「あら、どうしたの?」
「俺だよ、おばあちゃん!俺!分かる?俺」
「私をなめちゃいけないよ。そういうのには引っかからないから」
「違う違う。サトシ!おばあちゃんの孫のサトシだよ!」
「!!……。サトシ…なのかい?本当かい?……いや顔が違うね」
「本当だよ。俺も転生したんだよ!顔ならおばあちゃんの方が違うからね!」
「だったら言ってごらん?サトシが私の家でおねしょした次の日に壊した物は?」
「おじいちゃんが大事にしてた黒い壺でしょ。ごめんてあの時は」
「だったら、サトシが裏山から泥だらけで泣いて帰ってきた後に壊した物は?」
「障子でしょ。いやもういいって、おばあちゃん」
「サトシ……本当にサトシなのね。……本当に。夢みたい」
美人剣士は俺の両肩を力強く握り、涙を流しながら俺の顔を見つめる。本当に綺麗な顔だ。美人剣士は「サトシ!」と言って、俺を抱きしめた。バラのようなとてもいい匂いがする。
美人に抱きつかれて幸せだ。いや、これは老婆だ。いやいや。
おばあちゃんに会えて本当に嬉しい。
「おいおい!てめえら何イチャついてんだ。あん?」
俺と美人剣士が抱き合っている所に、筋肉ムキムキのスキンヘッドの男が物騒な口ぶりで声をかけてきた。俺と美人剣士は顔を上げる。
「いらつくんだよ。そういうの。今すぐ出てかねえと、挽き肉にしちまうぜ。へへへ」
「おん?」
低い声で反応したのは美人剣士だった。するっと立ち上がって、男の方を向いたと思ったら、何のためらいもなく腰に差していた剣を抜いた。
俺は焦った。こんなやばそうな男と相手をしていけない。謝って穏便に収めるべきなのだ。というより、剣を抜くのが早すぎるだろこのばあちゃん。
俺が美人剣士を抑えようとした瞬間。ササッと音がして、美人剣士がその場から消える。えっ、と驚いてすぐに周りを確認する。気づけば、美人剣士は男の背後にいた。そして、背後から剣先を男の喉元に突き付けている。
すごい、全く見えなかった。男はあごをがくがく震わせて、動けないでいる。美人剣士が冷たい視線を男に向けて、口を開いた。
「挽き肉にする、だったかい?じゃあ、あんたにはお刺身になってもらおうかい。おまけにワサビもつけてやろうか」
男は全身をガタガタ震わせる。
「すっ、すす、すみません」
「次サトシに何かしたら……分かってんのかい?」
「はい――もう――しません」
美人剣士は、すーっと男の首の皮を剣先で撫でてから、剣を引いた。撫でた後に赤い血が滲んで、薄く血が流れる。美人剣士は剣を鞘にカチンと納めた。すると男は白目を剥いて気絶し、バタンと床に崩れ落ちてしまった。
ギルド内は静まり返る。
沈黙の中、美人剣士が俺の元にカツ、カツ、と足音を立てて歩み寄る。そして俺の前に立ってニコッと表情をくずし、首を傾げる。
「さあ、サトシ。ランチに行こう」
「無いわーー!!このばあちゃん無いわーー!!」
美人剣士とランチデートへ
<つづく>