まずはお姉さまのしつけから!
コンコンコン! と激しく扉がノックされた。それと同時に返事も待たずに一人の少女が部屋へと入って来る。
「ちょっとパフィット、いつまで寝てるのよ! 転んだくらい、なによ。本当にとろいわね」
いつもの様に赤いポニーテールの髪を揺らしながら腹違いの姉であるフローラお姉さまが、ずかずかと姿見の前に居るあたしの傍へと歩いてくる。それを眉一つ動かさないで凝視する。
「な、なによ、その目は」
普段のあたしならフローラお姉さまの姿を見ただけで萎縮してしまう所なのに、微動だにせず自分を見つめて来るあたしの様子に少したじろいでいる。
「……はしたないですわね、フローラお姉さま」
「はぁ?」
「いくら姉妹とはいえ、返事も待たずに部屋へ入って来られるだなんて。それでも淑女教育をお受けになられた令嬢ですか?」
自分が何を言われているのか理解できないといった表情で、ポカンと口を開けるお姉さま。
「それに……そのお口を大きく開いたままのお間抜けなお顔! とても見れたものじゃありませんわよ」
「なっ……なっ……」
怒りで顔を赤く染め上げたフローラお姉さまが、思わず手を振り上げてあたしを叩いた……と、思わせておいてその手をヒョイッとかわしてやる。空を切った自分の腕につられて、お姉さまの身体がつんのめる。いつもなら簡単にあたしを叩いていたので、まさか避けられるだなんて思いもしなかったのだろう。
「パフィット!」
避けられた事で余計に恥ずかしくなったのか、声を荒げる。
「お・ね・え・さ・ま」
「ひっ!?」
スッと不意を突いてお姉さまの耳元へ唇を寄せるあたし。
「人にアレコレ言う前に、ご自分の振る舞いを見直されては如何かしら? そんなんじゃ、いつまで経っても嫁の貰い手がありませんわよ」
「……ぱふぃ……と」
いきなり態度が豹変した妹の姿に恐怖したのか、今度はどんどん顔が青ざめていく。そして唇を噛みしめて、悔しそうに顔を歪めながらあたしの部屋から逃げて行った。
「やれやれ……多分お義母さまを呼びに行ったわね」
あたしは姿見の前から移動して、部屋に置かれたソファーへと腰掛けた。苛められてはいても、裕福な男爵家の令嬢だ。部屋の家具など調度品はとても質の良さそうな物を置いてある。
「お茶でも淹れようかしら……そういえば、あたしには侍女もメイドも付いてなかったわね」
よくあるラノベとかでは専属の侍女とが居て、お茶の用意なんかはしてもらってるイメージだったけど……あたしは家事をやらされていたものね。邸にメイドは居るけど世話をして貰った事ないわね。まぁ、元々ここに来る前は自分で全部やっていたし。前世でなんて、それこそ一般市民だったから別に自分でする事なんて苦でも何でもないけど。
「うん、喉が渇いたし。取り敢えず厨房へ行こう。この部屋には水差しすら無いもの」
改めて自分の置かれている待遇になんてこった、と肩をすくめた。