最初の駆け引き
とりあえずあの女の『役割』が気になる気がしないわけでもない。まぁそれは一旦置いておいて、『役割』の特定というのは若干無理ゲーなのではないか、とみんな思うだろう。オレもそう思った。何か特定の役に立つことはないだろうか…するともう一人、さっきの気怠げなやつとえらく顔が似てるやつが手を挙げた。オレは隣の奴に
「アレめっちゃ似てるけど姉妹かなんか?」
と聞くと、隣のやつは、
「あれは創設者の孫娘、双子のニノマエさんだよ。成績は双子で学年ツートップ。相当な実力者だよ。」
ほう。漫画とかだとこの姉妹の間にめっちゃ辛い過去とかがある、なんて展開が待ち受けていることが多いが、この双子に関しては確定でそういうのがあるんだなって感じだ。双子の落ち着いてる方が先生に
「特定の手助けとなるもの、あるいは特定された際に身を守る術などはないのですか?」
と聞いた。
「それを今から説明する。一つ特定と言っても特定するにあたってノーヒントというのは流石に無理がある。そのため学校では週一で互いの『役割』のヒントを得るための「ゲーム」が行われる。ただ、「ゲーム」への参加は任意であり、最低でも一人当たり年間一五回は「ゲーム」に行かなければならない。ペアで組むならペアで三〇回というようにもできるが、あまりにバランスが偏っているとそれがまた特定される要素の繋がるかもしれない。そう言った点を考慮しながら参加すること。相手に「ゲーム」で勝つと「攻撃」を行うことができる。ただし同じ相手に三回負けると『役割』を明かされることになる。ここまでの内容で質問はあるか?」
「ゲームの人数などはどうなっているのですか??」
「ゲームの内容に関しては『ジャンケン・将棋』など二人で済むものから『ポーカー・野球』など個人でたくさんの人数、あるいは団体で行うものまで含まれる。そう言った場合例えばポーカーなら一位が指定した人間、野球なら総合的な活躍度を配慮した上で活躍度の高いものから指名して「攻撃」を行うことができる。お互い「攻撃」をしている状態でも相殺される、と言ったことはない。以上が大まかなルールだ。詳しくは冊子をまた配るのでそれを参考にするように。」
なかなか難しいな。これは本当に格差が出てくるかもしれないな。
その日の晩、オレは自分の行動計画を見直すことにした。冊子には結構大事なことが何点か書かれていて、
『「ゲーム」は毎週月曜午後三〜八時に体育館で行われ、その日の「ゲーム」に参加するといえば、その日行われる「ゲーム」には何度でも参加できるらしい。対戦する相手を避ける、と言ったことが起こらないように希望する「ゲーム」の申請はその場で紙にかき担当教員に渡す。ある一種類のゲームに参加したら、次にゲームに参加する回、もしくは一ヶ月の間はそのゲームには参加できない。また、五回分の「攻撃」と引き換えに一ヶ月間学校生活において『役割』を果たさなくても良いものとする。』
と書いてあった。結構大事なのやめてくんね。オレは同じ役割のやつと会う件はどうなったかなーと徐にスマホを開いた。担任からメールの返事が来ていて、「今夜二二時なら会えるとのことだ。場所は高校資材棟の二倉前らしい。」時計を見るとまだ20:25だった。中等部は若干遠いが、九時半に準備を始めても間に合う程度の距離だ。取り敢えず風呂にでも入って今後のことを考えなくちゃなと。あの気怠げなJKだったらガチゆるさねぇからな。
いくら四月とはいえ、夜はやはり寒い。これじゃまた帰ったらお風呂行かなくちゃいけないじゃーんでも大浴場22:30で閉まっちゃうじゃーん熱湯頭にぶっかけるしかないじゃーんと頭の悪いことしか考えられないくらい寒い。
相手はまだ来ていない。少し待つか。取り敢えずクラスのうざいやつの声真似の練習しよう。泊まり行事とかの時に結構ウケるこれ。おっと。相手が来たらしい鬼が出るか蛇が出るか男か女かブスか否かさぁ何でもどんとでもこい!
「あぁ。おんなじクラスの人だったのね。それじゃ、遅くなるのも悪いので今日はお会いするだけのつもりだったので、これで失礼しますね。連絡先だけ書いておいたんで渡しておきます。」
とオレに一枚のメモ帳を渡してすぐ去っていった。えぇ…。せめて女なんだったら「ごめんなさい、まった?」「いや、今来たところだよ。(キリッ)」くらいの下りはあってもいいだろとか言って引き留めようとしようとも思ったが、それをさせないほどの高貴な雰囲気が彼女にはあった。一番めんどいパターン。気怠げじゃない方のやつがオレと同じ『役割』だったのだ。
作戦は決まった。取り敢えず「中身に関してはお互い守秘義務ということで。お互い損のないように協力しましょう。」とだけ送り、相方のポテンシャルがかなり高いという点も鑑みて今後について考える。邪魔になる存在がいるとしたらあの気怠げな方だ。ありとあらゆる可能性を考えオレの脳みそが弾き出した結論は、『負けるわけがない』だった。
時間はあっという間に進み、最初の「ゲーム」当日となった。オレは最初から思いっきり参加するつもりだったので一応前の日に「オレは結構ゲームやるけど、問題ないよね?」と聞いたところ、「あなたに情報を集めてもらいたい気持ちはあるけど、あなたがしたいというならそれを止めたりはしないわ。むしろあなたが全く動かないタイプの人間でペアが割れやすくなる、なんてことよりは全然マシだから。「攻撃」に関しては取っといたほうがいいわ。予定が合う日に二人でがっつり話し合う時間を作りましょう」と返事が来た。てっきり協力的ではないと思っていだが、確かにあの子、周りから一目置かれているようだし自分から情報を集めるのは苦手なのかもしれない。そういう点ではオレもそこまで自信はないが、ここはやるしかない。なんのゲームをやろうか。できれば団体競技でぱっと優勝してそこそこ強そうな奴に攻撃を仕掛けたいところだ。ただ、それにはリスクも伴う。取り敢えずは二人でできるものでレベルがどんなものか把握しておこう。それによって手を抜くか抜かないかも決めなくちゃいけないな〜。
最初は『駆け引き』で決めることにした。相手は誰だかな〜。すでに相手は座っていた。いかにも数学好きそう、という感じの見た目だ。問題の内容が示される。
『あなたたち二人が互いに仕事をしています。互いに協力すると答えれば両方に5万円、片方が協力しない、もう一方は協力すると言った場合、協力すると言った場合1万円しないと言った場合7万円、両方協力しないと言った場合2万円ずつもらえるものとする。お互いが対面し、YES,NOの札を上げるものとする。試行回数は五十回、もらった額が多いものの勝ちとどちらかが旗を上げようとした相手もすぐにあげなければならない。」
なるほど。それっぽいなぁ。これでニノマエの一般生徒がどの程度の思考力を持っているのかだけ見れればいいか。オレはシンプルに行く。シンプルにやって負けるわけがないんだよなぁ。
一回目、オレはYES相手はNOだった。二回目、オレはNO相手もNO。七回目、オレはYES相手もYES。十三回目、オレはYES相手はNO。この時点で相手は勝ち誇った顔をしていた。およそ一分半後、オレの勝利でそのゲームは幕を閉じた。種明かしは簡単だ。オレは最初協力を出し、相手が裏切りをだせば裏切りを次に、裏切り裏切りなら協力をというふうに札をあげていただけだ。相手が慎重派だと見越したオレは思考時間二秒で旗を上げ下げした。相手はそれに気づいたのも知っていた。なので途中三回ほど手数をずらし、点差を埋め且つ相手の思考を鈍らせ相手が余計な考えを持ってわざわざ負けに来てくれたことがあった。点差はすぐに埋まり、四十回目の時点でほぼ勝ちは確信できた。駆け引きの強さが出たような気がした。相手は特に優れた人間でもないようだったので今回は「攻撃」を『役割』の消化に使うことにした。一応相方にも連絡しておこう
「最初の駆け引きには勝ったよ。取り敢えずまずは『役割』を消そう」
彼女から返信が来ることはなく、それを以ってオレは彼女の勝利を確信した。