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憤怒の赤、狂い咲く華  作者: 徳川万次固め
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二話 ロビー活動と酒の席

「ネジレキノコの売却、承りました」


 冒険者ギルド、その中の依頼物納品カウンターにてアグゼはギルド職員(カイゼル髭の紳士)に依頼物だったキノコを納めていた。


 迷宮内では多種多様な資源を採ることができる。

 それは鉱物だったり、植物だったり、食用肉だったり様々だ。

 これらは地上では求めることのできない効能を秘めており、それ故に危険を冒してでも狙う価値が存在していた。

 アグゼたちが大モグラと激闘を繰り広げていた所は迷宮内でも浅い階層に過ぎなかったが、ネジレキノコはそんな初級者向けの場所で取れるものの中でも、それなりに高値で取り引きされるものの一つだった。


「報酬は1140ダールになります。明細を確認なさいますか?」


「ええ、お願いします」


 常時買い取り品はその名の通りいつでも受け付けており、基本的に買い取られないということがない。

 それらは経験の浅いパーティーでも安定して受けられ、彼らが食事にありつけず野盗に成り下がるような事態を防ぐセーフティーネットの役割りも持っていた。

 しかし冒険者ギルドとてその資金が無限にあるわけではない。

 その時々で足りている物、足りていない物は変わり、それによって納められたものの値が上下するのは当然である。

 無論できるならば足りないものを持ってきた方がその冒険者の懐は潤うのだが、常時買い取り品のメイン納品者たる新人達は、より簡単に採れる物の方に流れることが多いのが実情であった


「結構良い額になったな。やはりこのキノコを狙って正解か」


 満足できるだけの値が付いたことを、アグゼは嬉しそうにつぶやく。


「ネジレキノコは基本いつも在庫が心許無いので助かります。集めやすいものは取り合いになりやすく、出向いても空振りになる可能性がそれなりにあるものです。こういった少々見つけ辛いものにもっと気にかけて下されば、こちらとしても助かりますし相応の報酬を用意するのですが」


「キノコ探しとかは、冒険者としての能力が上がっても身に付くとは限りませんからね」


 そう言いながら彼は横にいるオオカミの頭に手を置いた。


「俺の場合は、相棒のおかげですよ」


 バウッ


 ラグロが軽く吠える。

 褒めろと言わんばかりである。


「頼もしいですね」


 頷いたアグゼはラグロの頭をグリグリと撫でる。

 そして報酬を受け取り懐に収めると、彼はカウンターを後にした。


 今回の冒険者ギルドでのやり取りは、実のところ金銭的な意味だけでなくギルドからの印象を良くするためのロビー活動としての狙いもあった。

 無論これだけでさして影響があるとは彼自身も思ってはいないが、ギルドにとっての有益な冒険者であるという立ち位置は、一回や二回の大きな活躍よりむしろこうした小さな積み重ねが大事なのではないだろうか。


(コツコツが大事だよな、コツコツが)


 さて、一仕事を終えその後の雑事も無事完了した今、次はどうするかと考える。

 刹那的な暮らしをすることが多い冒険者は、依頼を終えた後はそのまま飲みに繰り出す者が多い。

 無事終わったならそれを祝い、無事でなかったならそれを忘れるために飲むという考えもあり、仕事の後の一杯は冒険者の慣習の一つとも言えた。

 ただアグゼの場合は大体己とラグロ、一人と一匹で依頼をこなすので「周りが飲むから自分も飲む」ということがこれまであまり多くはなかった。


 何か買って帰るか、と考えながらギルドの出口に向かうアグゼ。

 そんな彼に声が掛けられる。


「おっ、ここにいてくれたのか、アグゼ」


 街に戻るまで同道していたディーンだ。

 後ろにはリジェッタの姿もある。

 彼らは街に到着した後、今日は自分達が泊まっている宿に帰り、依頼達成の報告などは明日にすると言っていた。

 気落ちしたライオネルやパーティーの立て直しに力を使い果たしたレイシャのことを考えると無理もないと思えたが、目の前の二人は存外まだ元気が残っていたようだ。


「今日はもう休むのかと思ったんだが」


「あん時はそう言ったけどよ、俺とこいつは気が高ぶっちまってさ」


「そーそー、レイシャ達には悪いけど、ボクすごくイイ経験したなーって感じちゃってるんだ!」


 どうやら死線を乗り越えた興奮がまだ続いているらしい。

 いや、むしろ時間をおいて再燃したといったところか。

 それで同じ出来事の当事者であるアグゼと共に、食事で盛り上がろうと考えたようだ。


 アグゼは基本少人数で動く男だが、それはとある理由によるものだった。

 特に人付き合いを嫌っているというわけでもなく、ちょうど何か食べようと思っていたところでもあるので、彼はその誘いに乗りギルドに併設されている酒場に向かうことにするのだった。




  ----




 円形テーブルに座り適当に注文をした彼らはまず先に持ってきてもらった酒で乾杯をする。

 そして迷宮での出来事を語らいながら、お互いの事情も深くない範囲で教えあっていた。


「ネジレキノコってあの量でそんなになるの? んー、そっちを狙っとくべきだったのかなぁ」


「あれは人が探すにはコツがいる。即金にはならないと思うぞ」


 バゥワゥッ


 テーブル下で荷物と共に丸くなっていたラグロのアピールだ。

 このオオカミ、地味に自己主張が強い。


「まぁ優秀なレンジャーなら、その秀でた感覚を活かしてネジレキノコの採取術をあっさりマスターする者もいると聞く。ディーン次第かもな」


「兄ちゃんけっこー抜け目が無いしさぁ、がんばって採れるようになってよー」


「俺みたいなのは観察力が鋭いって言うんだよ。ふふふ、任せなさいって。すぐにその技術、身に付けてやるよ」


 呼び方から察せられるようにこの二人は兄妹だった。

 言われずとも性格や気質が似ていることが簡単に見て取れたので、察することは難しくはなかったが。

 その会話はかなり気安く、良い関係が築かれていることがよく分かった。


「無理にこだわるのは禁物だ。緑魔鉱とかで確実に稼ぎながら並行して探すことを勧めておくよ」


 ディーン達は今回の迷宮探索ではモグラの強襲により予定外の出費を強いられていた。

 それを挽回したくなる気持ちは分かるが、無理をすれば次に無くすものは命に他ならない。


 なお緑魔鉱とは使用に魔力を要する魔具などのエネルギー源となるものである。

 緑魔鉱は魔鉱石という迷宮で入手できる採掘物の中で最低ランクに位置付けられる代物だ。

 しかし日常生活に多用されることもあり、それは常に一定の需要が存在していた。

 まぁ希少性も無く、その分取引き額は大したものではなかったのだが。


「実際のところ、資金は大丈夫なのか?」


「お、心配してくれるのか? まぁ大丈夫だよ、うちは駆け出しにしては財布事情がそこまで悪くなくてね」


 彼ら四人のパーティーの名は【スタンプ進撃団】。

 そのメンバーの内の一人ライオネルは家名持ちであり、それはこの世界では貴族であることを示していた。

 彼自身は次男で十代後半の現在では家を出るような立場らしく、今は冒険者として名を上げることを志しており、その為の支援を実家から受けているのだという。


「あ、勘違いしないでよ、アグゼさん! ライオネルの家からの支援前提な冒険をするつもりはないんだからねっ」


「まぁ今回みたいな場合は……あいつ次第かな」


 ライオネルはレイシャに惚れていて大切に思っており、今回のような事態ではそのケアも兼ねて、必要とあらば親の前で地面に頭を擦り付ける覚悟も見せるだろうとディーンは語った。


 ちなみにリジェッタとライオネルとレイシャは幼馴染、そしてディーンはウィッツワーク家の長男、つまりライオネルの兄の友人であり、その友人から頼まれてライオネル達三人が冒険者になろうとしたときに一緒に行くことにしたんだとか。

 ディーンはメンバーの中で一人だけアグゼと同年代程度のやや年上に見えたが、そんな彼がこのパーティーにいる理由がこれであった。


「助けられた謝礼は絞り出そうと思えばもっと出せたわけだが、どうする?」


「先の契約の値はこちらから言い出したものだ。騙されたという話でもない。それを後になって釣り上げるのは無粋だし、何より男が下がるというものだ」


「よっ、イイ男!」


 もっと上げられたかもしれない報酬を惜しむ様子もないアグゼにリジェッタは合いの手を出す。


「そうか、悪ぃ、つまらんことを聞いちまったな」


 嫉妬されやすい環境なのは間違いないだろう。

 同期の同業者あたりに何かしらのやっかみを受けてきたのかもしれない。

 そんなパーティーのリーダーであるというのは、なかなか大変そうだとアグゼは感じた。


「ぬるま湯に浸かってると笑うかい?」


「まさか。人のバックボーンは様々だ。俺が食うに困るほどの境遇なら嫉妬の一つもするだろうが、あいにくそんな状況に陥ってはいなくてね」


「ハハッ、あんたならそー言ってくれると思ったぜ」


 ディーンが笑い、リジェッタも嬉しそう表情を浮かべている。

 アグゼからすればそういった個々人の背景もまたその人物の力だ。

 笑うなど御門違いだと彼は考えた。


(生い立ちでどうこう言うなら、俺は……)




 ----




 酒を飲みながら雑談に興じていると注文の品々が運ばれてきた。

 蒸かし芋に揚げ芋、炒り豆、豚のスペアリブ、チーズなどいかにも飲みの席での料理といった感じだ。

 ちょうど酒だけでは腹の溜まりが悪いと思っていた面々は、早速料理を摘まみだす。

 テーブルの下で丸まっていたラグロも匂いに釣られたのか、這い出てきて前足でテシテシとアグゼに催促を行う。


「分かってるよ」


 彼は荷物の中からボウルを取り出すと、そこに多めに頼んでおいた料理を盛っていく。

 普通の犬や狼なら人の食事そのままよりも専用の餌を用意した方が良いのだろうが、ラグロは迷宮オオカミという魔物の一種であった。

 生肉も当然普通に食べるが、味付けされた人用の食事も好んで食べるという趣向を持っていた。

 蒸かし芋など肉以外も入れられたボウルを目の前に置かれると、ラグロは待ってましたと言わんばかりにそれを食べ始めた。


 アグゼも自身の食欲を満たそうと料理に手をつけ始める。

 まずはチーズを一齧り、炒り豆をポリポリ、スペアリブをガブリ。

 併せて酒を注ぎなおせば気分はご機嫌だ。

 今回の探索は金銭だけでなく同輩からの感謝というプライスレスな報酬もあり、彼の舌は雑で濃い味付けの居酒屋メニューもいつもの三割増しに美味しく感じていた。


「やぁ、リジェッタ、ディーン、それに噂の剣士さん。僕も相席、構わないかな?」


 ふと顔を横に向けると、薄い茶髪をストレートに腰まで伸ばした人物が立っており、にこやかな笑顔でアグゼ達に話し掛けてきた。

 一見女性のようだが、ハスキーな声や中性的な顔、口調などによりそれを特定することはなかなかに難しかった。


「あ、ジェシー。久しぶりー」


 ジェシーとは男性にも女性にもつけられる名前だ。

 性別の特定するヒントにはならない。

 アグゼは便宜的にジェシーを『彼』として扱うことにした。


「よぅ。俺は構わねぇけど、えーと……」


 ディーンは頭を掻きながら隣を見る。

 会話からアグゼとジェシーが知り合いではないことが察せられたからだ。

 気分良く飲んで食べてといった状況にて、横から割って入る人物に対してどう反応するかは人によって結構違うものだ。


 アグゼは少しだけ酔いの回った頭で考えた。

 ちゃんと挨拶から入り、こちらの都合を聞いてくる。

 つまり無遠慮で相手のことを考慮しないような人物ではないということであり、それは「とりあえずは敵ではない」ということを示していた。

 こっちを不快にさせたなら、どうするかはその時にまた考えればいい。

 それに、噂の剣士と言ってきたことも少々気になる。

 目立つ格好をしていることは理解しているし、普段から評判が良くなるような行動をそれなりに心掛けてきているつもりだが、世の中つまらない事情で恨みを買うことはあるものだ。

 それこそ今ここで追い返した場合などもそうなる可能性は否定できない。

 この突然の客人を招き入れ、噂の内容を聞くというのが無難かつ最良の選択となるだろう。


「問題ない。まぁ酒の席だ。お互い楽しく飲もうじゃないか」


 アグゼは言外に楽しくない振る舞いはしてくれるなよ、と含めたつもりだったがさてどうなるか。


「ありがとう、お邪魔するね」


 彼はテーブルの席に着こうとする。

 テーブル下の空いている部分から顔を出していたラグロは、自分の居場所が狭くなることに文句を言いたげだったが、ジェシーはそれに対して「ちょっとゴメンね」と言いながら己のスペースを確保していた。


「ボクはジェシー、吟遊詩人だよ。呪歌を使うバードとして冒険者パーティーに臨時のバイトで加わることもあるけれど、それはあくまで副職。本業は吟遊詩人で世界にあふれる出来事を蒐集して詩を作り、それを世に広めることを使命としているのさ」


 仰々しいことをサラリと言ってのける様はなかなかの大物感を見せるが、年齢は若く身に付けるものもさして金が掛かっては無さそうである。

 吟遊詩人としてはまだ新人なのだろうか。


「まだ駆け出しだよ、残念ながらね。でも実力はともかく情熱まで軽く見てもらっては困るな。そうだね、ここの支払いはボクに任せてくれないかな」


 アグゼの考えを読み取るようなセリフからはジェシーの心意気が垣間見える。

 たかが一回分の食事代とはいえ、中途参加なのにここまでの分も含めた払いを持つというのは、駆け出しにしては十分な誠意と言えるだろう。

 アグゼはもう少しこの詩人の望みに積極的に付き合ってもいいかと思い始めていた。


「気前が良いな」


「気分よく飲み食いしている場に割り込んだ手前、これぐらいは当然だよ」


 モグラの強襲により予定外の出費を強いられた兄妹もジェシーを歓迎した。

 ジェシーはアグゼ達に新たな注文を聞いてから給仕を呼び止める。

 そして新しい注文を頼まれた給仕が離れるのを確認すると、他の面々、特にアグゼに顔を向けた。


「それで、だね……どう切り出すべきか、難しいな。そうだ、何か聞きたいことがあったりはしないかな? あるなら先に受け付けるよ。どう?」


「いや、ねぇよ」


「これといって特には……」


 ディーンとリジェッタは首を横に振る。

 自分達二人はジェシーとは既知の仲だし、ジェシーのお目当てがアグゼなのは一目瞭然だ。

 何か疑問が出るとすればそれはアグゼの口からとなるのが自然の流れだろう。


「そうだな。その噂の剣士というのがどういう内容なのか、聞かせてもらえるか? 俺はあまり冒険者の横の繋がりが太くないせいで、情報というものに疎くてね」


「うん、いいよ」


 軽く了承したジェシーは、少しだけ頭の中で言葉を整理する。


「んー、そうだね。話題沸騰ってほどじゃないけど、吟遊詩人や同業者の傾向が気になる冒険者なら多少は知ってるってぐらいの話、だね」


 ややもったいぶるように一呼吸入れるジェシー。


「まだ深層には行ってないけれど、たった一人で迷宮に潜り続ける孤高の男。狼を伴い道を切り開く力は確かなもので、世界で最も深いと目されるこのラズマード・ラビリンスの最奥に到達するのは、もしかしたら? それが赤髪のソードマン、アグゼである。……そんな感じかな」


「へぇ、何というか、まぁ随分と評価されたものだ」


「当人を前にして言うのもアレだけど、こういうのは基本盛って話すものだからさ、オーバーな感じなのは気にしないでよ。実際、今一番深く潜ってるパーティー達を超えていくって考えてる人は、さすがにいないと思うよ?」


 肩をすくめながら話すジェシーに対して、遠慮がないなとアグゼは苦笑する。


「新しい詩の題材として、俺はロマン枠に該当するのか」


「気を悪くしないでね。明け透けに言っちゃったけど、僕はこれでも君には凄く期待しているんだ。迷宮探索の最前線にいる人達は、貴族の子弟がメンバーにいたり種族の威信をかけた集団だったりで、バックアップが完備されてるようなパターンがほとんどだからね。奥へ進むことで彼らの名声が高まるのは確かだ。けれど、そこから生まれる物語はよくある英雄譚の一つに過ぎないよ」


 彼はつまらなさそうに語る。先程挙げた面々が聞けば憤慨すること間違いなしだろう。

 しかしジェシーの顔は、吟遊詩人として興味が惹かれないのだからしょうがないと言わんばかりだ。


「あぁ、しまった、悪い。君たちのことを悪く言ったつもりはないんだ。許してくれ」


「大丈夫、分かってるさ」


 先程述べた境遇に当てはまりそうな人達が同じテーブルにいたことを失念していた彼は慌てて謝罪をする。

 スタンプ進撃団は基本的にはそんなバックアップに頼らずやっていこうとしているので、実際にはジェシーのいった連中とはやや別枠と言えるだろう。

 そのことを理解しているのかディーンもリジェッタも特に気にする様子はない。


「まぁ、ともかく……その点君は素晴らしいよ。深層を目指す冒険者としてメンバー的、そしてバックアップ的にも独力で進み続ける人物なんて、ほとんど聞いたことがない。失礼ながら、さすがにこの先も問題無く進むとは思い難い……けれど、だからこそ面白いんだ。もしかしたら伝説が生まれる過程を見ているのかもしれない、そんな気にさせてくれる君の歩む姿は、とても興味深いとしか言いようがないね。あぁ、詩人として気の利いた言葉が出せないなんて恥ずかしい限りだ」


 物凄い青田買いだ。

 駆け出し吟遊詩人ゆえに大きなヒットを出したかったり理想が大きいのかもしれないとアグゼは考える。

 面白いなど言い方はアレだが、まぁ評価してくれていることは間違いない。

 現状は知る人ぞ知る程度のもののようであれど、それでも、人の噂になっていることを彼は悪くない気分で受け止めた。


 豆を口に放り込みながら黙って話を聞いていたリジェッタは、止まってしまったジェシーの代わりに口を開く。


「そういえばさぁ、今日のアグゼさんの登場はナイスタイミングだったよね。もし伝説になったらその一端に加えてもいいエピソードかも」


「確かに、狙ったようなタイミングだったな」


「言っておくが偶然だぞ。変に勘ぐってくれるなよ」


「えっ、何、何っ!? 教えてくれないか、お願いだよっ!」


 ちょうどその時頼んでいた追加の料理が運ばれてくる。

 新しく出てきた話のネタを肴にして、面々は料理に手をつけバカ騒ぎを続けていった。







 アグゼは基本的に己の名声のために積極的な嘘をついたりすることはない。

 しかしこれには、実はある種の思考誘導や、間違った評価点を敢えて訂正していない小賢しさなどが存在していた。

 そのうちの一つを例に挙げよう。

 意外と感じるかは人次第だが、彼をよく知らない人から見た時、ラグロはパーティーメンバーに数えられないことが間々あった。

 アグゼが使役する使い魔や装備のように捉えられる――つまりアグゼの持つ力の一つのように思われるのだ。

 本当は索敵、直接戦闘、荷物持ちなどその能力は多岐に渡り、驚異的な理解力も加味すれば実質的にメンバーであることは否定できようはずもないのだが。


 とは言えアグゼ自身はこうした話をする際には「ラグロはパーティーメンバーである」と周知させていた。

 一人(と一匹)での冒険はすごいことだが、二人だと考えてもそれはそれでやはり十分すごいと言えるうえ、彼は相棒のオオカミを決して道具などと思ってはいないのだから。

 ただ周りが勝手に少しだけ高く評価してくれること、それを放置しているだけの話である。


 浅ましいと言えばまぁ否定はできないのかもしれない。

 しかし心に棚を作り「それはそれ、これはこれ」と据え置くこと、それもまた人の業なのではないだろうか。


 なお普段は自分をしっかり主張するラグロだが、直接こうした話がされているときは素知らぬ顔で我関せずを通している。

 もしこれが相棒の欲を理解したうえで敢えて行っているのならば、その気遣いは称賛に値するレベルだったと言えるだろう。



ソードマン+ペットなのか、ソードマン(メイン)/ビーストマスター(サブ)なのか。

捉え方は人次第。

でも、すごいと言われるのは後者だろう。


ジェシー:金バード

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