正義を執行する
第一話 始まりと、終わり
「おーーい、起きてくれ」
んっ!?
「おっ、やっと起きたか。ミリオ、見張り交代の時間だ ぞ!」
「もうそんな時間か、すまないアレックス。ありがとう。」
「おう!じゃあ、オレ寝るわぁ〜」
「あぁ、お疲れアレックス。」
アレックスと交代で、俺は見張りについた。
視界に広がるのは暗闇と静寂。
焚き火の僅かな音と明るさが、俺の中の根底に纏わりついた孤独を、紛らわしてくれる。
俺とアレックスの二人は、故郷であるギニス帝国を旅だち、王国の北に位置するドラマント王国を目指してる。
今現在、俺達がいるこの場所は両国間に広がるラムダ砂漠だ。ここにはサンドウルフと言われる凶暴な動物が生息しているため、このように見張りを交代で行なっている。
「俺ら、ドラマントで上手くやっていけるかな」
これから自分達に待ち受けているだろう運命に、少しの期待と多くの不安。
やがて辺り一面に光が差し込み、長い夜が終わりを告げるのであった。
―――――――――――――――――
俺とアレックスはギニス帝国の辺境の村、アルバ村の孤児院で育った。物心ついた時から両親と呼べる存在はなく、孤児院の皆んなが家族だった。
神父のマルクさんや、シスターのリリィーは、俺達孤児に沢山の愛情を注ぎ育ててくれた。衣 食 住はどれをとっても、贅沢とは程遠いものであったが、それなりに幸せだったと思う。
だけど、両親と手を繋いで幸せそうに歩いている村の子供を見ると、どこか寂しさのようなものが込み上げてくるのも事実だった。
俺達孤児院の子供達は、この国で成人として認められる十五歳になったら孤児院を出て行かなければならない。
だから十五歳になるまでに仕事を見つけるのだ。
幸いにも、俺達はリリィーから計算や文字を教えてもらっていたため仕事を見つけるのにそこまで苦労はしなかった。
特に俺とアレックスの様な少し他の子よりも秀でた子らには、色んな所からスカウトが来ていた。
俺もアレックスも計算が得意ということもあり、世界有数の商業国であるドラマント王国にある商業ギルドで働く事が決まった。
マルクさんもリリィーも俺達の仕事が決まったときは、とても喜んでくれた。そして、毎月仕送りをしたいという俺達の提案を、「自分達の将来のために使いなさい。幸せになるんだよ」 と言って断った。
本当にいい人達に育っててもらったと思った。いつか、何か恩返しをしようと心に決めた。
俺達がドラマント王国に向けて旅立つ日、孤児院の皆んなが温かく見守ってくれた。
最初は行商人の方に頼んで馬車で、ドルムント王国まで送ってもらう手筈だったが、少しでも外の世界をゆっくり見てみたかったので二人で歩いて行くことに決めた。
もちろん危険だからと反対されたが、俺達二人の説得によりなんとか許してもらえた。
最後にマルクさんがお金を集めて俺達の為に用意してくれた、マンゴーシュと言われる剣を強く握りしめて、村を後にしたのだった。
――――――――――――――――
朝になって、起きてきたアレックスと共に朝食を済ませてまたドルムントに向かって歩き出す。
「村を出てもう六日か、あと半分くらいか?」
アレックスがそう尋ねてくる
「そうだね、地図によると今ラムダ砂漠の三分のニは来てるはずだよ。だから、後三日くらいで着くかなぁ〜」
「まじか!!!、思ったより早いな。なんかやる気出てきたわ!」
そんなことを話していると、前方から凄い勢いでこちらに向かってくる影が見えた。
「んっ!なんだあれ、行商人かな?」
「多分そうじゃねぇか?それか、盗賊じゃね?笑笑」
シャレにもならないことを言うアレックス。
「いや、マルクさんがここら辺の盗賊は捕まったからそんな心配はないて言ってたろ!」
「分かってるって笑、冗談だよ冗談!」
この世界には盗賊団と言うものが沢山存在する。盗賊というのは子供や女性をさらって奴隷商に売り渡したり、村や行商人を襲い金品などを奪って行くやからのことだ。
中には百人以上で構成されている盗賊団もあると聞く。世界中の国々が、彼らに手を焼かされている。
やがて前方からくるものの正体が、明らかになってくる。
「ヒァッハァーーーー!お頭っ!前方に獲物が二匹いますぜぇ!!!」
なっ!!!
「ミリオ!やべぇーぞ!ありゃ、どう見ても盗賊じゃねぇか!逃げねぇと! クソっ、こんなところで捕まってたまるか。」
「アレックス!荷物を全部捨てて、逃げるんだ!」
二人は荷物を捨てて、後方に一目散に逃げ出した。
「お頭っ!あいつら逃げますぜぇ、スピードを上げましょうよ」
「おう、お前ら!あの獲物は絶対逃すなぁ!死んでも捕まえろ。」
盗賊達はさらにスピードを上げて近づいてくる。
(くそっ、ここは砂漠だから隠れる場所がない分すぐに追いつかれてしまう。)
その時、「あっ、」すぐ横を走っていたアレックスが砂に足を取られてつまづいてしまった。
「アレックスっ、大丈夫か!立てるか!」
そう言ってアレックスに手を差しのべた時
「おうおう、これはこれは中々顔が整ってるじゃねぇか。こりゃあ、高くで売れるぜぇ、ハハハッハ笑」
気がつけばすでに俺達は囲まれてしまっていた。