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ドラゴンの泉

「船できたナノだ」


 と言ったのは俺だ。昨日セツの語尾を真似したところ、『ナノだ』という語尾を付けなければならないという呪いにかかったのだ。その呪いを消すため船を作り、ドラゴン島に向かうことになったのだ。


「本当ナノか?」


 と言ったのはセツだ。海好きが昂じて、俺に船を作らせたいがためにこの地味に嫌らしい呪いをかけまでした元凶である。


「船、見当たらないナノだ」


 これはセツ。


「まあ、見てるナノだ」


 これは俺。


 俺たちのこの何気ない会話でわかっただろうが、誰が話しているのか分からないのだ。このどちらが発言したのか分からないカオスな状況を早く抜け出さなければならない。


「ソニア頼むナノだ‼︎」


「了解です‼︎」


 ソニアが水魔法を放った。理論的にはこれで動くはずだ。


 瞬間的なラグがあった後、地面が動いた。


「なんナノだ⁉︎」


 セツが驚きの声を上げた。しばらくして、何が起こっているのか理解したようだ。


「この島が動いているナノだ!」


 そう、俺はこの島ごと船にしたのである。


 船を作ろうにも、この島を離れたくないし、俺たちはセツを入れて4人しかいないので別行動もしたくはない。どうしようかと考えていたそんな時、思ったのだ。『あれ? この島ごと船にしちまえばいいんじゃね』と。


 この島は測った結果、円形で半径500メートルほどだ。大きさ的には東京ディズニーランド一個分くらいである。つまりディズニーランドが動いているのだ。


「すごいナノだ! すごいナノだ!」


セツがはしゃぎまわっている。


「俺たちは海のことわからないからセツが操縦するナノだ」


「ウチがしていいナノか⁉︎ 夢が叶ったナノだ‼︎」


 完全にセツの思う通りに事が進んで少しシャクだったが、嬉しそうにするセツを見て今回は許してやろうと思った。


「出航ナノだ!」


 もう船、もとい島は動いているのだがきっと言いたくて仕方がなかったのだろう。俺はソニアのもとに向かった。


「お疲れナノだ」


 何を隠そう、ソニアの水魔法がこの船の動力源である。仕組みとしては水を高圧で噴射してその反動で動くのだ。噴射口が八方に用意されているのでどこから水を噴射するかで動く向きを変える事ができるのだ。


「動いてよかったですね」


「ああ、これでこの口癖も治るナノだ」


 島を走らせること1時間。


「到着ナノだ!」


「随分早いのですね」


「ソニアの魔法の威力が強かったナノだ」


「セツ! 早くドラゴンの泉とやらに案内するナノだ!」


「焦るでないナノだ、まず換金するといいナノだ。ドラゴン島には独自の通貨があるナノだ。あらかじめ持っておくと便利ナノだ」


 俺たちは島を降りてドラゴン島に上陸したのだが、周りには人だかりならぬドラゴンだかりができていた。


「何が起こったナノだ⁉︎」


「セツが戻ってきたナノだ⁉︎」


「しかも、何かヤバイものを連れてきてるナノだ‼︎」


 今まで考えてもいなかったが、向こうからしたらいきなり島が動いて来たのだ。相当混乱するだろう。


「驚かせてすまないナノだ。敵意はないナノだ」


とりあえず俺は周りに説明した。


「『ナノだ』を使っているナノだ!」


「あれは敵じゃないナノだ!」


「歓迎するナノだ!」


 どうやらドラゴンたちは警戒モードから歓迎モードに変わったようだった。ナノだを使う者に敵はいないと考えているらしい。


「ほー、これはすごいナノだ。1万ミクロで買い取らせてくれナノだ」


 俺は換金所で切れ味の良い木製のナイフを換金した。


「1万ミクロはすごいナノだ! しばらく豪遊できるナノだ!」


 そうなのか。物価がわからんから、すごさがいまいち分からない。


「ここがドラゴンの泉ナノだ」


 セツに案内されてドラゴンの泉とやらに着いた。すると目の前に座っていたドラゴンに声をかけられた。


「一人50ミクロ ナノだ」


「入場料取るナノか⁉︎」


「当たり前ナノだ。ドラゴンの泉は重要な観光スポットナノだ」


 まさか語尾を感染うつしておいて、金を取るとは。商魂たくましい連中だ。


「おおー治ったぞー‼︎」


 ドラゴンの泉の水を飲むと『ナノだ』がたちまち治ったのだった。


「娘がすまなかったナノだ」


「あなたは?」


「セツの父、ナノ=リン=マイークロ ナノだ」


「コウセイです。治ったのでもう気にしてはいません」


 俺は短く名乗った。


「実はアレは開発段階だったナノだ」


「開発段階?」


「あそこに柱が見えるナノか?」


「はい」


 泉の奥に蒼く光る柱が見える。


「あそこで語尾に『ナノだ』をつけると語尾が『ナノだ』になるナノだ」


「なぜそんなものが?」


「私が作ったナノだ」


 ん? 様子がおかしくなってきた。もしかしたらこの父ありにして娘ありかもしれない。


「語尾が『ナノだ』になったら面白いナノだ。そして今その装置をどこでも使えるように研究していたナノだ。それをセツが持って行ったナノだ」


 セツの方をよく見てみると蒼く光るピアスが付けてある。


「あれか‼︎」


「そうナノだ」


 つまり、俺はセツの父が遊びで作った装置を娘のセツに使われてここまで来るハメになったってことか。一気に脱力する話だ。


 そんな事を話していたら突然、目の前にズドン‼︎と大きな岩が落ちてきた。


「こっちに落とすじゃないナノだ‼︎」


 セツが大声を出す。


「テラーテラッテラッテラー」


 崖の上にはドラゴンがいた。俺たちがイメージする通りの見た目のドラゴンである。


「手が滑ったテラ。まあチビドラゴンには当たらないテラね」


 テラってまさか、メガ、ギガのテラなのか⁉︎


 このカオスな空間を目の当たりにし、俺は早くこの島を出ることを誓った。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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