超速!品種改良
長いです。説明の部分は適度に流してください。
「クラフト!」
「うーん、ダメか」
「何をしているのですか?」
ソニアがやってきた。
「海水を水と塩に分離してみようといたのだけど、うまくいかないんだよな。加工することができても分離はできないみたい」
「そうなんですね」
「そういえばソニアって他に何の魔法を使えるのだっけ?」
使える魔法を知っておけばいろいろと便利かもしれないからな。
「えっとまず火の魔法です」
ソニアがボッと指先から火をつけた。
「大きさも変えることができます」
「それってもっと熱くできたりするの?」
「こうですか?」
「すごいな、ここからでも熱さを感じるよ。ソニアは熱くないの?」
「私は熱くないです」
これはいろいろ試したくなるな。酸素をたったらソニアは火の魔法を使えるのかとか。学生の時は実験嫌いだったのに今となっては強制されても無いのに実験したくなるとはなんだか笑える話である。俺が回想しているとソニアが次の魔法を使ってくれた。
「これが風です」
「温かい風も出せます」
これ、ドライヤーにしか使えなそう。
「これは水です」
そう言ってソニアは手から水を出した。飲み水にしたやつである。
「最後に土です」
ソニアが目の前に土の塊を作る。
「植物を生やすこともできます」
そう言ってソニアは土から植物を生やす。土からすくすくと植物が成長していく。
「えっ⁉︎ これ凄くない?」
明らかに性質が他の魔法とは違うのだ。
「そうでしょうか、あまり使う機会はなかったです」
「そうだな防衛用の柵としてしか使われなかったな」
「キリア来てたのね」
「ええ、楽しそうなことをしていらしたので」
確かにこの魔法は攻撃手段としては価値が少ないだろう。しかし、この無人島生活においては多大な力を発揮するかもしれない。
「これどういう仕組みなの?」
仕様が分かればもう少し使いやすいかもしれない。
「そういえば考えたこともないです」
どうしたら仕組みが分かるのだろう?
「あ、ちょっと待ってて」
家に帰った俺が持ってきたのは島で拾っておいた植物の種だ。ただ俺は植物の知識が無いのでどれが何の種かわからない。
「ソニア、ここにもう一回土を作ってくれる?」
「はい」
ソニアは返事をした後すぐに土を作った。改めて考えるとすごい魔法だ。
俺はそこに今持ってきた種を撒いた。
「これでさっきみたいに植物を生やしてくれない?」
「分かりました」
するとグングン植物が伸びてくる。俺はその植物のうち一番目立った花だけから種を取ってまた新しい土に撒いた。
「もう一回できる?」
「できますよ」
さあ、ここだ。これでこの魔法の仕組みがわかるかもしれない。
「じゃあいきますよ」
ソニアの声と共に植物が生えてくる。予想の中で一番良い結果になった。種を撒いた花しか生えてこなかったのだ。
つまりこの魔法は植物を自在に生やす魔法では無い。植物の成長を異常なほど早める魔法なのだ。好きな種を撒けばその植物が生えてくるのである。
「すごい! すごいぞ! これは!」
「なんかいつもとテンションが違いますけど大丈夫ですか?」
「興奮しない方がおかしいよ! 言うなれば時間を操る魔法だよ! ラスボス級だよ!」
「ああ、コウセイさんがおかしくなってしまいました」
「ソニア様叩けば治ると聞いたことがございます。試してみましょうか?」
「やめて、正気だから」
「元に戻りました。よかったです」
「でもこの魔法は本当にすごいよ。やっぱりソニアの魔法は人を傷つけるための魔法じゃないんだ」
「本当ですか?」
「例えば品種改良ができるな」
『品種改良?』
二人がそろって聞いてきた。
「ソニアが成長させた物の中で一番美味しい物の種だけを次に撒くんだ。すると、次の世代にもっと美味しい物ができる。これを繰り返すんだ」
一般的にこのやり方の品種改良は何百年、何千年もかかるがそれは作物が育つのに1年ほどかかるからである。
しかし、ソニアの魔法を使えば1分で1世代だ。単純計算で実に10万倍の成長速度である。サービス終了間際のソシャゲですらこんなインフレは起きない。この人類が何千年もかけてやってきたことがなんと1日もかからないのだ。
この魔法のすごさがわかっていただけただろうか。俺がはしゃぐのも無理はない。
「やってみましょう!」
「オッケー、じゃあこれがいいかな」
俺は先ほど成長させた作物から、いくつか美味しい物の種を撒いた。そしてそれをソニアに成長させてもらうのである。
〜この作業を繰り返すこと2時間〜
「もう無理です」
「ああ、俺もダメだ」
俺たちはずっとこの作業を繰り返していたのだが、1つ問題があった。そう、お腹が膨れるのである。なるべく一口しか食べないようにしていたのだが、チリも積もればなんとやら、今や歩くのもしんどい。そんな中力を発揮したのが、
「ソニア様、私にお任せを!」
大食漢いや、大食娘のキリアだった。別に急いでいないので明日にしようと思っていたのだが、キリアの活躍のおかげで1日で作業を終わることができた。
後になって気づいたことだが、作物が病気にからないのもありがたい。成長スピードが速いせいで病気にかかる時間が無いのだ。基本美味しい物ほど病気に弱いのだが、それを気にしなくていい。おかげで現在流行りの無農薬栽培である。
そしていろいろな物を混ぜた結果、見たことのない品種をいくつか作ることができた。
最後の方はキリアしか食べていなかったので俺とソニアは完成した物をここで始めて食べる。
「こんなものはじめて食べました!」
「うまい!」
なんというか面白い味だ。美味しく無いときの食レポの常套句としての面白い味じゃなくて、本当にに面白い味なのだ。見た目はカラフルなフルーツなのだが、中は柔らかく高級な肉の様なジューシーで甘い味がする。
「次はこれか」
テキトーに混ぜた、今回一番の雑種なのだがどうだろうか。
「意外といけます!」
あれだ、味の宝石箱という物が本当にこの世に存在していることを今知った。いろんな味が次々と現れては消えていく。どちらかと言えば味のおもちゃ箱かもしれない。
「これで最後か」
イチゴのような見た目だ。一口サイズなので丸ごと口に放り投げた。
「すっぱっ!」
俺はあまりの刺激に吐き出してしまった。胃酸の100倍はすっぱい。日本でドンキとかに罰ゲーム用として売り出したら売れそうだ。生憎、この世界にドンキは無さそうだが。
「ダメだったか? すっぱくて美味しいと思うのだが」
「私は1番好きかもしれません」
マジですか。エルフは強烈にすっぱいのが好きと、覚えておこう。二人だけかもしれないけど。
「それにしてもいろいろできたな」
最後のは俺の口には合わなかったが他のはどれも想像以上においしかった。これからも気が向いたときに新しい品種を作ったら面白いだろう。
「私、こんな使い方は思いつきませんでした。やっぱりコウセイさんはすごいです!」
「ああ、私も考えもしなかった」
「ダーウィンという偉人の知恵を借りただけだから別に俺がえらい訳ではないよ」
「力を誇示しないとはな。さすがだ」
本当に俺の力じゃないんだけどな。これ以上言っても仕方無いので諦めた。
ガラパゴス諸島を作ろうというのがこの話のコンセプトの1つなのですが、ようやくそれっぽいことを書くことができて良かったです。2つめのコンセプトは秘密です。想像してみてくれたらうれしいです。
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