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お庭で爆睡駄目絶対

物憂げな表情でグラスを傾ける女性が一人。周りはそれに様々な感情の滲む視線を送る。女性は暫く不躾な視線を黙って受けていたが、グラスの中身が空になるとフラリとテラスへ足を向け、貴族たちはこれ幸いとひそひそと陰口を叩き始めた。


「あれが噂の…」

「半分でのくせして義妹をいじめるなんてとんでもない女だ」

「クーベルン侯爵も持て余していると聞いたわ。そういえば、あの家にはご子息がいらっしゃったはずでは?」

「そうだったか?ああ、子息といえば私の息子なのだが―――」



大して知らない他所の娘を非難した口で自分の子どもを自慢する。社交界とは、こういうものだ。




―――息が詰まるかと思った!

 人気のない庭までやってきてエレーナは大きく深呼吸をする。

今日はトフマン伯爵家の夜会へ招待されたため顔を出すだけ出したのだが、ここまで悪名が轟いているとは。

帰ったらユリウス―――今はユリアナだ、に文句を言ってやろう。諸悪の根源は久しぶりに王都の別邸に出てきた義父に捕まっていたため、今夜の夜会には参加できない。


気を取り直して手入れの行き届いた庭を散策していると、遠くのベンチに人影が見えた。

ピクリとも動かないその姿を不審に思い、恐る恐る近づいてみる。


 座っていたのは1人の男性。ぐっすりと眠りこけている。

暗がりのため容姿はよくわからないが、きっちりとした格好をしているところから夜会の参加者だろうか。しかし普通他所の夜会で爆睡したりするだろうか。エレーナが声をかけるか迷っていると男性がうっすら目を開けた。


「あの、大丈夫ですか」

「はあ。あれ、私寝てました?」


 ぽけっとした表情で間抜けなことを問う男性にエレーナはふっと笑みをこぼす。


「それはもう。このようなところで寝ては不用心ですわよ」

「はは、そうですね。お気に入りの場所なのでつい」


 お気に入りとは、そんなにしょっちゅうトフマン伯爵家に出入りするような人物なのだろうか。エレーナが首をかしげていると、男性がすっと腰を上げた。


「見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私はライナー・トフマンと申します」


 自然な動作でエレーナの手を取り手袋越しに口づけた男性の名に、エレーナはああ、と納得した。

トフマン伯爵には4人の子どもがいる。本妻の間に3人の娘、愛人との間に息子が1人。


 ライナーは伯爵の1人息子だが、愛人に自らの座を奪われることを恐れた本妻が伯爵に自分の長女に婿を取らせて次期当主とすることを約束させたため継承権はない。噂話を好む貴族なら皆知っている話だ。



 それで伯爵家が主催の夜会でも堂々と抜け出して居眠りをこけるわけだ、エレーナは礼儀だと自らも名乗り返した。


「私はエレーナ・クーベルンです。お見知りおきを」


 まあ知らないわけもないでしょうけど。エレーナはちらりと相手の反応を見た。

ライナーは焦った様子もなくのほほんとして、このようなところで立ち話も何ですし、と東屋へ案内を申し出てきた。


―――ほう?


 予想の100倍良い感触だ。普通なら名前を告げた瞬間に顔をそらされるか不快そうな顔をされるかだが。エレーナは期待を抱きながらライナーのエスコートを受けた。


 東屋にはぽつりぽつりとキャンドルが置かれ、なんだか良い雰囲気だ。

少し離れたところにはトフマン家の侍従が控えており、間違いは起きないだろうとエレーナは促されるまま腰かけた。


「素敵なお庭ですわね。我が家では見かけないお花が沢山あって、見ていて飽きません」

「ありがとうございます。私も気に入っているんです、休みの日などは一日中いることもあるほどで」

 

 たまに自分でも手を加えるんですよ、と笑うライナーにエレーナの好感度は爆上がりだ。


―――素朴な好青年、よし!!


 それから二人は、男女の友人として適切な距離感を保ちながらパーティーが終わるまで会話を続けた。初めは少しだけライナーを警戒していたエレーナだったが、ぽつりと百聞は一見に如かずという言葉を実感しました、と話すライナーの正直さに、余計に気を回すのはやめようと思った。


 またいずれかのパーティーで会おうと口約束をして、エレーナはトフマン邸を後にした。


 ライナーなら、もしかするとユリアナと出会っても変わらず自分に接してくれるのではないだろうか。


そんなエレーナの淡い幻想は、思いもよらない方法で打ち砕かれたのだが。


 


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