無理矢理求婚駄目絶対
キリが悪かったので文量を考慮して2話同時更新です。どちらも楽しんでいただければ幸いです。
3月19日改稿しました。最後の1文です。
ユリウスが語るにはこうだ。
エレーナが父に連れられクーベルン侯爵家にやって来て一年が経ったころ、屋敷で騒動が起きた。エレーナが何者からか呪術をかけられそうになり、それに気づいたユリウスがエレーナを庇い代わりに呪術を受けたのだ。
術者は屋敷の人間につかまりそうになったところで自死し、結局何の呪術だったかはわからない。しかし、翌晩陽が沈むと同時にユリウスの髪は腰までのび、顔立ちは少しまるくなり、あったものがなくなってしまった。
日が昇れば元の姿に戻ることや新月の日には夜でも男性の姿を保っていることから月が関わる呪術だということはわかったが、未だに解術法は見つかっていない。
クーベルン侯爵家に男子はユリウスしかおらず、そのユリウスが体に難を抱えていることが周りに知られれば、乗っ取ろうと考える者も少なからず出てくるだろう。
そこで一番目を付けられやすいのはエレーナだ。エレーナと婚約を結び、ユリウスを失脚させ婿となりクーベルン侯爵家を手に入れるのが最も簡単な方法だからだ。
そのためエレーナを結婚させることは出来ないし、自分もこの厄介な体質のせいで嫁をとることは出来ないのだから二人で結婚してしまえば丸く収まる。
話を聞き終えたイルザは軽い頭痛に頭をおさえる。理解できないことは無いが当然エレーナも反発するはずだ。イルザは時折馬鹿になる幼馴染を呆れたと言わんばかりの顔で見た。普通、夢見る17歳にそんな夢のない結婚を提案するか。
「でもねイルザ。これを打開する方法が一つあるのよ」
「嫌な予感しかしないけど聞いてあげるわ、エレーナ」
「それはね、イルザとユリウスが結婚して男の子を生むのよ。後継者がいれば私の将来の旦那さんがうちを乗っ取ることもないし元から事情を知っているイルザが嫁ぐんだからユリウスの問題も解決よ」
私頭いいでしょう、と言わんばかりのドヤ顔をするエレーナのもちもちのほっぺたをつまんでやりたい気持ちを抑え、イルザはユリウスの様子を伺った。
ユリウスは表情をそげ落とし、エレーナの華奢な腕をさすりながら「折れそうだな」などと不穏なことを呟いている。
傷をつけてしまえば嫁には出せないのではないかなどと考えているのではないだろうか。関わった時間が長い分何を考えているかは何となくわかってしまうのが今度ばかりは嫌で仕方がないイルザであった。
「エレーナ、その案は非現実的だから諦めなさい。親友としては、そこの犯罪者まっしぐらの義弟と覚悟を決めて一緒になるかいっそ罪をかぶせて牢屋に閉じ込めることをお勧めするわ」
「ええ、我ながら名案だと思ったのだけれど。イルザってばユリウスのことなんだと思っているの?犯罪者になんてならないわよ。ユリウスはどう思う?」
「俺はエレーナと結婚一択かな。じゃなければ今すぐ罪を犯すかもしれない」
淀んだ瞳でエレーナの手をぎゅうと握りしめるユリウスに、エレーナは戸惑っている様子。イルザはまだユリウスに人間の心が残っていることを期待して、そそくさと屋敷を後にした。厄介ごとには関わらないのが一番だからである。
イルザが立ち去った後の客間には、微妙な空気が流れる。
「なんでエレーナは俺との結婚を嫌がるの?俺のこと嫌い?」
こてんと首をかしげ上目遣いをするユリウスに、エレーナの姉心がくすぐられ素直な言葉がこぼれた。
「嫌いじゃないわ。嫌なところもやめてほしいことも沢山あるけど、大好きよ。でも、私たちは義理とはいえ姉弟だし、私は半分貴族じゃないから…」
「そんなの誰も気にしない。父さんたちだってエレーナなら許してくれる」
「私が、気にするのよ。早く呪いを解いて、ユリウスにお似合いの女の人を見つけましょう?私、なんでもするわ」
辛そうに笑うエレーナに、ユリウスはかっとなりその両手を片手でまとめ上げると、ソファに押し倒した。
呆気にとられるエレーナを他所に、ユリウスは息が触れ合うほど顔を近づけそのまま唇を奪おうとした―――ところで後ろから頭を固いものでぽかんと殴られ、ユリウスの唇はエレーナの口の端に落ちた。
「何をしているのかしら馬鹿息子は。エレーナちゃん、大丈夫?」
上からのぞき込んでいるのはクーベルン侯爵夫人、ブリュンヒルデ・クーベルンだ。
扇子で後頭部を殴られたユリウスは実母に向けるには剣呑な視線でブリュンヒルデを見るが、もう一発行くか、というジェスチャーをする母に渋々エレーナの上からひいた。
「ありがとうございますお義母さま。助かりました」
ユリウスの唇が触れた口の端がまだ熱い。エレーナは訳もなく前髪を触り、ソファから立ち上がった。
「いいえ、間に合ってよかったわ。全くユリウス、エレーナちゃんをお嫁にしたいのはいいけれど無理やり迫るのはナシよ。罰として薪割りしてきなさい」
「わかりました母上。エレーナ、俺にはお前だけだから」
射貫かれるような視線にエレーナはたじろぐが、母親にさっさと行けと追い払われたユリウスはくるりと背中を向け裏庭へ行ってしまった。
「大変だったわね。それにしても私の息子、そんなに魅力がないのかしら」
私に似て十分見れる容姿だと思うのだけれど、と冗談めかして笑うブリュンヒルデにエレーナはぶんぶんと首を振る。
「ちが、違います。ユーは本当なら、女の子に人気でしょう。それを狂わせた私と結婚なんて、申し訳なくて」
ユリウスは社交界には一切出向かない。茶会には参加して夜会にいないのは不自然だから、と基本的には屋敷で王宮勤めの父の代わりに領地に関する仕事をこなしている。
周りからはあることないことを言われているユリウスへの贖罪の意味も込めて、エレーナは侯爵家の名前を守るために様々な催しに顔を出している。大抵は神出鬼没のユリアナに邪魔をされるが。
「あの子はそんなこと気にしないでしょう。寧ろ、そのうち利用しそうな勢いね」
「ユーは優しいからそんなことしないと思います。私が、もっとはっきり言えればよかったのですけれど」
どうしてもユリウスを本気で拒むことが出来ない自分の甘さに嫌気がさす。落ち込むエレーナのために、ブリュンヒルデは使用人に新しい紅茶を準備させた。
「たまには私とお茶しましょうよ。久しぶりにかわいい子を補給させて?」
20代だと言われても通用しそうな若々しく美しい義母のおねだりに絆されエレーナはソファに戻った。
気ままに各国を渡り歩いて家を空けていることが多い義母との語らいはエレーナの心を明るくさせたが、心の片隅に小さな陰りは残り、なかなか消え去ってくれなかった。