結局、僕が一番クソだった訳だ【上】
「どう言う、事だ……」
僕は枯れた喉をさすりながらモニタの表示を見ていた。
僕は一週間の顧客獲得週間を乗り越え……られなかった。
二倍のノルマが達成されない可能性は考えていた。そして事実、ギリギリで届かなかった。
元よりノルマ設定が非常に……いや、異常に厳しかったからノルマ達成していなかったのは正直仕方ない。寧ろ今回は善戦したと言っても良い。
だが、この結果は想定していなかった。
「何で……何で電話を落としてる割合が……放棄率が増えているんだ……? こんなのおかしいじゃないか!?」
コールセンターの業務を極限まで簡単に説明すると『掛かってくる電話を取る事』。それに尽きる。
だから、単純に件数のノルマ以外にも別の評価軸が存在する。
それが『何回電話を取れなかったか』、即ち放棄率だ。
CMでタレントが『今すぐお電話を』と言うと馬鹿みたいに文字通り今すぐお電話が来てしまう。それを全て取り尽くすのは至難、と言うか不可能だ。だから、放棄が発生する。
その放棄が今回、なんと二割五分まで増えていたのだ。
僕はセンター内の無駄な足枷を排し、アクティブに動ける人員のみにして能率を上げた。その筈だ。
仕事サボりの町田君を消した事で教習の手間を削減し、中村さんを消した事でフォローに割くリソースを仕事に回せる。
その筈だったのに。
「どうしてだぁ……単純な人数では確かにマイナスに見えるけど能率はしっかり上がるようにしたのに……っ」
人手が減れば回らなくなるから排除する人員を二人にまで厳選した。その筈なのに……。
きっと何処かに盲点が……見落としがある。
ノルマとは『別の評価軸』。それが今回の失敗の原因だったのと同様に町田、中村両名にも他に評価すべき点が存在したのでは無いかと考える。
「何だ……僕は何を見逃した……? ツイッターをしまくるバカと、アスペルガーの無能。二人に別の評価軸があるとでも……あっ」
あった。
そう、僕は見落としていた。
「もしかして……」
町田君のもう一つの評価点。ムードメーカー。
彼を排除してから新人君達の動きが鈍っているような気がした。
初めはただの思い込みかと思っていたが、時間が経つにつれてーー具体的には顧客獲得週間の半ば辺りから生気がなくなっていった。
クソ真面目なルーキー達はてんてこ舞いになってオーバーワークしやがったのだ。
「ガス抜き……町田君がそんな作用を……?」
いや、だけど根拠が無い。明確な数字が出ていない以上これは机上の空論に過ぎない。
「クソッ、気持ち悪ぅ……気持ち悪ぅ」
新人君達の動作不良はこれで一応の説明がつく。だが、それだけで放棄率が上昇したとは思えない。
となるともう一人、中村が無能に見せかけた有能……。
「はっ、無能に見せかけた有能かよ。クソクソクソクソクソッ!! ジュブナイル的なご都合主義万歳ってか!! ふざけるなよ……散々足引っ張ってたのにいなくなると回らなくなるとか、ご都合主義的過ぎて腹わたが煮えくり返る思いだよ全く……!!」
ムードメーカーの町田、暫定有能の中村。それを僕が排除したから、失敗した?
いや、そもそも僕は何故ピンポイントでこの二人を排除しようとしたのか。それは……アドバイスを貰ったからだ。
あの夜に。『鳴海神社』で。
「謀られた……この僕が?」
あのアドバイスによってそうなるように誘導された。そう考えると何もかも辻褄が合う。
このクソつまらない現実を、大声で笑っているであろう黒幕がいる。
「クソッ……まんまとあいつの手のひらの上で踊らされてた訳だ」
誰よりも滑稽なのは……僕だった。