五歳 ー 変革の一歩③ ー
公爵家の保存する貴重本は多岐に渡り、リュナンの求める魔道具に関する内容もいくつか見つかった。魔道具が生み出された時代からの変遷から、どのような魔道具が生み出されているのか。だが、やはり魔道具の作り方というのは技術者にとっては秘伝であるのか、残念ながら見つからない。
師匠もまだ見出せていない状況で、ここで行き詰ってしまうことは折角の前世の知識というアドバンテージも活かせない。フィリオーネの未来を変えるためにも、早く行動を開始したいというのに、ここで行き詰ってしまうのは酷く情けない思いに駆られる。
「善処します、なんていっても……」
結局は、五歳児にできることなんて、大したものではない。
嘆息をついたリュナンは、本を片付け部屋を後にしようと扉を開け、廊下へと踏み出し――――
「わっ」
―――――何かに、衝突した。
「ご、ごめんな―――――父さま?」
「あぁ、ここにいたか」
自分の足に激突した息子ににっこりと笑った父の後ろから、ひょっこりと覗くように顔が見える。
「え? ウェイン兄さままで?」
「久しぶり。リュナン」
にっこりと笑いながら次兄――――今年16歳になるウェルフリード・ユンメルが軽く手をひらひらと振るのを見上げながら、リュナンは混乱する頭で問いかけた。
「どうしたんですか? 父さまと兄さまふたり揃って」
「リュナンの才能が魔道具作りと父さまから手紙で報せを受け取ってね。週末に合わせてちょっとこっちに顔を出させてもらったんだ」
答えたのは兄だった。穏やかに笑いながら、兄は言葉を続ける。
「明日魔道具の修理のために専門店に行くんだけど、丁度いいからリュナンに魔道具に触ってもらう機会を作れないかと思ってね」
「――――――本当ですか?!」
思わず笑み崩れる表情を取り繕うことも忘れ、リュナンは声のトーンが高くなるのを自覚しつつも勢いに任せて兄に駆け寄った。
「うん。魔道具なんて、高いからリュナンの歳では中々触れないけれど………魔具創作師になるのなら、早いうちから感性を磨くべきだからね」
「ありがとうございます、ウェイン兄さま」
「どういたしまして。でも、触って壊してしまったりしたら、父さまに暫くお小遣いを減らしてもらうから、覚悟しておくんだよ」
「そうだな。ついでに、反省のために勉強時間も増やしてもらうことになるかもな」
揶揄うような口調で父がそう言うと、リュナンは何度も頷いて了承した。
「わかりました。壊さないように、いろいろ調べます!」
弁償代や反省も、幼いリュナンを教育するにあたって当然のことだ。親として、息子にしてはならないことを教えていく必要があるのだから、と前世の記憶がその当然を受け入れる。
「それじゃあ、明日の昼食を食べた後、ティータイムがてら一緒に出掛けようか」
「はい! よろしくおねがいします、ウェイン兄さま!」
元気よく返答したリュナンの満面の笑みに、優しく微笑んだ兄と父が代わる代わる頭を撫でたり抱き上げたりと仲良く戯れる。
その姿を通り掛かった使用人たちが、穏やかな表情で見守る姿が、ちらほら見られたのは、それから間もなくのことである―――――…。
久々更新になりましたが皆さまお久しぶりです。
仕事の監査や夏祭り企画など、この時期に盛り込まれる行事の数々で圧殺されておりました……。
息抜きさせてください。と思いつつようやくお盆になり、ちょっと落ち着いたので、久々更新。
修正どこまで効くかな、前の直そうと思っても忙しさにかまけてどこが違和感あったのか読み返してもわからなくなってる。
あはは…………どうしよう。