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ヴィスティス魔導学院の魔王  作者: 2Hz
プロローグ
1/4

前日譚:人魔戦争

本編の千年前のお話です。

 この世界には、人族が治める大陸と、魔族が治める大陸が存在している。

 この2つの大陸は隣り合っており、ある一点で交わっていた。

 対立する人と魔が、この地を戦場とするのは必然であった。


 ――人魔戦争。後にそう呼ばれる、人族と魔族の史上最大の戦争も最終決戦を迎えていた。


「〈聖護(ホーリー・プロテクト)〉。あとは……頼みましたよ――」


 質素ながらも荘厳さを感じさせる衣装に身を包んだ男が力尽き、倒れる。

 これで、この場に立っているものは残り二人になってしまった。


「……ありがとう。ベルメール。おかげでまだ、戦える」


 黄金に輝く鎧を纏い、聖剣を携えたこの男は、勇者。

 しかし、その姿はもはや満身創痍。強力な回復効果と、あらゆる耐性、強大な防御力を付与する〈聖護(ホーリー・プロテクト)〉によって持ち直したものの、勇者の劣勢は明らかだった。


「全ての仲間を失い、なおも立ち向かってくるとは見事。……しかし、それは蛮勇というものだ」


 勇者に対するは、全ての魔族を束ねる大王、魔王だ。

 その姿は影のようであり、実態を掴むことができない。しかし、溢れ出るそのオーラは圧倒的な威光を放っていた。


「たしかに無謀かもしれない……。だけど!僕は勇者だ!ただ強いものを勇者と呼ぶんじゃない。勇気のあるものを、人は称賛をこめて勇者と呼ぶんだ。だから僕は立ち向かう!その名に恥じぬように、僕を勇者と呼んでくれた全ての称賛にかけて――」


 勇者が踏み出す。

 そのまま目にも留まらぬ速さで魔王に肉薄すると、跳躍。渾身の上段斬りが魔王に迫る。

 勇者の持つ聖剣が光り輝き、まばゆい閃光がほとばしった。


 ガキィィン!!


 しかし、それは暗黒の障壁によって防がれた。

 聖剣の浄化の光をもってしても、その闇を払い切ることはできないようだ。


「くっ!」


「"暗黒(ダークネス・)(スラッシュ)"」


 魔王の反撃。空間を切り裂く暗黒のエネルギーが、勇者もろとも空中に爪痕を残す。


「カハ……ッ!!」


 勇者の口から苦しげな息が漏れる。

 

「"重力獄(グラビティ・ジェイル)"」


 魔王はさらに追撃を加える。不可視の力場が勇者を襲い、地面に叩きつけられる。

 

 勇者はもはや動くことができない。


「フハハハ!無様だな勇者よ。大口を叩く割にはその程度か。所詮、人族など魔法も使えぬ劣等種族。我の敵ではない」


「(ぐッ……。何だこの力は……。いくら魔王とはいえ、この力はおかしい……!)」


「魔法に不可能はない。例えばこんなこともできる。魔法は斯くも偉大なり!"聖槍(ロンギヌス)"!」


 聖なる光が槍のように勇者に突き立ち、鎧を砕いていく。加護に護られている勇者に聖属性の攻撃はあまり効果がない。にもかかわらず魔王が聖槍を使ったのは、デモンストレーションに他ならない。史上最高の魔法使いでもある絶望の魔王にとって、聖なる力を行使することは容易い。


「ガァッ……!!ハァ、ハァ、…………まさか、聖属性すら操るとは。これは……打つ手がないな……」


 勇者の顔に影が落ちる。剣を地に突き立ててなんとか立ち上がるも、先程までの輝きはもう感じられなかった。


「どうやらここまでのようだな。人類最後の希望も、この絶望の前には無力……。嗚呼、この世のなんと無情なことか。我は誓おう。この世の全てを、無情から救い出すと。全てを、無に還すのだ」


 全てが終わろうとしているその時、"何か"が魔王の背中を貫いた!


「グハ……ッ!……き、貴様は!」


 そこにいたのは、魔族の副首領とも言える人物。魔王の右腕、ダオスだった。


「あなたの力の源である”絶望の宝玉”は封印させてもらう!私の命と引き換えにな」


 魔王を背後から貫いたその手には、混沌の闇を滲ませる宝玉が握られていた。


「魔王様……。あなたは絶望に呑まれすぎた。肥大化しすぎたその絶望は、人族のみならず魔族を含んだこの世のすべてを破壊しようとしている。それは我々魔族の望むところではない。お覚悟を!」


 突如、魔王を中心に幾層もの魔法陣が展開される。その複雑さ、超大さは個人で扱えるものではない。反旗を翻した魔王軍の精鋭のバックアップあってこそのものだ。


「『封印』!!」


 辺りが光に包まれる。


「グ……ッ!き、きさまぁ!!グ、グア゛アァァァァァ……――!!!」



 目も開けられないほどの光が収まり、そこには魔王だけが立っていた。


「おのれぇ……許さんぞ……魔族も、人族も、全てを滅ぼしこの世を絶望に堕としてくれるわ!」


 魔王は憤っているものの、先程までの圧倒的な力は感じられない。


「(チャンスは今しかない!!)」


 勇者はこの瞬間にすべてを賭けると決意し構える。


「次の一撃に、僕の全てを込める。覚悟しろ、魔王!」


「舐めるな勇者!力の多くを失ったとはいえ、貴様を屠る程度の力は残っておるわ!……しかし、いいだろう。次の一手で終わりにしてやる」


 魔王の周囲に魔力がほとばしり、チカラが高まっていく。一方、勇者は剣を構えるものの、そこには何も感じられない。闘気も、気配も、熱量も、全てが鳴りを潜み、まるで存在そのものが消えてしまいそうな不気味な希薄さがあった。



「――改めて名を聞こう、勇者よ」



「僕の名は、フォルス。勇者フォルスだ」



「我は、絶望の魔王インドラ。勇者フォルスよ、人知れずその勇気――」



「散らすが良い――」





「「ウオオォォォォォォォォ!!!」」





 両者の全力がぶつかる。


 魔王の前に幾重もの魔法陣が展開され、集束された膨大な魔力が放たれる。

 

「凄まじい砲撃だ……。だが!負ける訳にはいかない!この一振りに、人類の未来がかかっているんだ!僕の全身全霊を、この聖剣に込める!」


 希薄な気配しか感じさせなかった勇者が、一気にそのチカラを開放させる。大地を盛り上げるほどの衝撃が生じるが、それも全身から徐々に聖剣に集約される。


 勇者の全てが込められた聖剣と砲撃が衝突した。聖剣は魔力を切り裂いていく。が、まだ足りない。両者はほぼ拮抗しており、勇者が若干押してはいるものの、決定打には至らない。


「まだ……足りない……。もっと絞り出せ!もっと集めろ!全てを出し尽くせ!僕を勇者と呼んでくれた全ての称賛にかけて!!」


 その時、拮抗が崩れた。聖剣に込められたチカラがさらに集約され、切っ先に集まる。小さく輝く切っ先のその光が、全てを切り裂いていく。


「……馬鹿な!貴様のどこにそんなチカラが残っていた!……認めん!認めんぞ!この私に敗北など――」


「僕は一人で戦っているんじゃない。僕を信じてここまで共に戦ってくれた仲間や、希望を胸に勇者の帰還を待ってくれている皆。人類の全てが、お前の前に立ちはだかっていると知れ!」

 

「……滅びぬ!貴様ら人類が生きる限り、絶望は滅びぬぞ!絶望の魔王はいつか必ず蘇り、再びこの世に混沌をもたらしてくれるわぁぁぁ……――!!!」




 ――――こうして、人魔戦争は勇者フォルスの勝利で幕を閉じた。


 

 戦後、勇者らの働きかけによって人族と魔族は和解。共にこの世を破壊しようとした魔王と戦った仲間として共に歩む道を選んだ。


 戦場となった地には、平和の象徴として学院が建てられた。人族と魔族が共に学び、次世代の平和への礎として世界へ羽ばたいていくのだ。魔王と勇敢に戦った勇者の勇気を、胸に抱いて。







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