闘葬「ウングイス・ウーは二度死ぬ」 その5
二人の決着がついた後も、式は粛々と進行していった。
遺体は六人がかりで棺に入れられて、競技場から多くの参列者に見送られて出て行く。
本来、遺族も棺と一緒に向かうのだが、第一級封印魔法を受けた関係ですぐに埋める、燃やすといった処理ができない。
喪主であるウー夫人が参列者に謝辞を述べ、葬儀はつつがなく終えることとなった。
式が終わり、一段落したところでウー妻子は関係者にお礼の挨拶に回る。
手伝いをしてくれた親族、受付に立ってくれた父の知り合い、そして葬儀を執り行ったカンパネラ社だ。
闘葬が無事に行われたのは、葬儀支援課のおかげといってもいい。
妻子は是非とも彼らにお礼を述べたかった。
しかし、どこにも姿が見当たらない。
「すみません。葬儀支援課の方々を見られませんでしたか?」
ウー夫人が近くで片付けの作業をしていたカンパネラ社の職員に尋ねた。
「あいつらならもう帰りましたよ」
「帰った?」
大きな声が出てしまったが、周囲の人たちは作業に手を取られ誰も気にしていない。
「他の仕事が急遽できたそうです。『自分たちの仕事はあくまで葬儀の支援。もう式は終わったから必要ないだろう』と話してました」
妻子が言葉を失っていると、察した職員が続ける。
「落ち着いたらお礼でも言いに行ってあげてください。あっ、彼らは公務員なので現金を渡しちゃ駄目ですよ。お礼の品はシュピックドーレのケーキが良いでしょう」
「……ありがとうございます。ぜひ、そうさせてもらいます」
こうしてウー家の長い一日が終わった。
~後日談(あるいは台無し)~
葬儀支援課にウー妻子が訪れたのは葬儀から三日後だった。
本当は二日後にも訪れたのだが、事務所に誰もおらずお礼を渡すことができなかったのだ。
「そんな気遣いなんていらなかったですのに」
「いえ、皆様には本当にお世話になりましたから」
「それではありがたくいただきます。わぁ、シュピックドーレだ」
ポエラがそう言うと、先ほどまで座っていたはずのマリーがすでに彼の後ろに立っていた。
「私はイチゴで」
中には四種類ばらばらのケーキが入っているが、その中にイチゴのケーキが必ずしもあるとは限らない。
シュピックドーレはケーキの専門店、イチゴが乗っていないものも当然ある。
しかし、マリーは当然あるような口ぶりで話している。
「さっそくよそいましょう」
キュレルがポエラから箱を預かる。
部屋の中にはウー夫妻を入れて五人。
支援課は三人と、一人足りなかった。
「レオンさんは……」
ファイナが気になって尋ねる。
「レオンさんなら病院の方へ、手続きに行ってます。もうじき戻ってくると思うんですが……」
「そうですか」
ファイナは少し残念に思った。
「それにしてもタイムリーでした。こちらから伺うはずだったので」
ポエラが真面目な顔つきとなる。
真面目になったところで、さして緊張感がある顔でもないのだが……。
椅子を勧められて妻子が腰掛ける。
「ウングイスさんに関して、二点ほど説明しておかないといけないことがあります。大きな問題と小さな問題が発生しました」
妻子も息を呑んだ。
ウングイスの遺体はまだ妻子の元に返ってきていない。
第一級封印魔法、レザレクションを使う条件として、遺体の返還に時間がかかるとは聞いていた。
理解はしていても、やはり父には近くにいて欲しいと二人は思っていた。
「まず小さい方なのですが、氏に第二級封印魔法『雷葬自炎』の使用に関しての嫌疑がかかっています」
「……嫌疑がかかっている?」
夫人は、理解が追いつかず繰り返した。
「はい、詠唱こそ確認できませんでしたが、五千からの人間があの場にいましたからね。近く裁判所から正式に召喚を受けると思います」
「夫が帰ってこないということでしょうか?」
ポエラはゆっくりと頷いた。
「お父さん、もう死んでるのに罪人扱いされるの……」
ファイナは沈んだ表情で呟く。
それを聞いて、夫人にふと疑問が生じた。
「死人が、罪を犯した場合はどうなるのでしょうか?」
たしかにレザレクションで蘇っていたときに、ウングイスは第二級封印魔法を行使した。
しかし、その当事者がすでに死んでしまっているならその罪はいったい誰に帰するのか。
「死者に法は適用されません」
ケーキをよそった皿を、マリーの机に置きながらキュレルが答えた。
「もちろん罪は本人に帰するもので、家族にも罰は及びません」
「それでは……」
死者である父に、罪の嫌疑がかかっているとはどういうことなのか。
「大きな方なのですが……」
ポエラは言いづらそうに口を何度か開閉させた。
ちょうどそのとき、廊下の方から足音が聞こえてきた。
音は二つ。どちらもその音から図体の大きさを感じさせる。
「レザレクションで復活した際、強い電流を浴びた影響でしょうか。氏の心臓とそのほかの器官が再度動き出してしまったようです」
その音は徐々にこちらへと近づいている。
「どうやら初めてのケースでして……。当面は、先の封印魔法使用の件と合わせて、研究所と病院から出られないでしょう」
足音の中に、よく聞くと杖の音も混じっている。
「そのため、しばらくは会うことはかないません」
扉の前で足音は止まった。
「おっと、どうやら相談者が来てるな」
「外で待っていよう。歩き回れば、良いリハビリになる」
「気にするな。別に入ってもかまわん」
一人の太い声はレオンだった。
そして、もう片方の声は妻子にとって非常に身近なものだ。
「――だから、今日のうちに会わせてあげようと思っていたのです」
扉がゆっくりと開かれる。
ここは都市国家エンデンバンデスの都庁第二庁舎、二階一番奥にある葬儀支援課。
残された生者を支えるために、今日も活動を行なっている。