第三章+Y
「おい、お前今日ぼーっとしすぎだぞ」
俺を悩ませる本人がスタバのキャラメルマキアートを片手にちゃらく言ってくる。
「仕方ねーだろ。新ネタ考えててなかなか寝てないんだよ!」
なるべく覚悟を持って入ったこの業界だったが、思ったよりしんどかったことが沢山あった
「知らねーよ、ほかの仕事に支障きたすな」
だから、こういう言い合いは色々したし、
そのうえで俺らがいることはわかってる。
「お前だって今日遅刻しただろ!」
喧嘩腰に言ってみるが、向こうは元ヤンかなうわけないとわかってる。
「それはそうだけど…」
もごもごと言ってくるあいつに嫌気がさして
「もういいか?新ネタ書くの意外と疲れるんだよ!たまには休ませてくれ!」
と最低な言い返しをし、俺はあいつから逃れるためヘッドホンを装着した。
流れてくる曲はウソツキ
シロセ塾という方々の曲である。
pvを見たら、大号泣してそこからハマっていった
命を大切にしようとか、死んだらだめだよっとか薄っぺらい歌詞を並べた曲より
フリースタイルダンジョンだから、嫌われがちだけど、歌詞の一言一言に魂のこもっているこの曲は、
聞くととても考え深いものだ。
そんなことを考えながら、俺は喫煙所に向かい、差し入れでいただいたタバコに火をつけた。
外側には、付箋で
[いつも面白いネタをありがとうございます。]
っと書いてあるが、売れてない身からいうとただの煽りにしか聞こえない。
リプでくる。
とても大好きです!とか、結婚してくださいとか、ネタだろ??いや、罰ゲームか…
はっきりいってファンなんだったら黙って、チケット買って、黙って笑って、黙って帰ればなんでもいいんだよ。
もしくは、そういうのは相方にやってくれ。
あいつはちょろいからすぐ喜ぶし
あいつはチャラいから、若しかしたら手を出すかもしれないし
あいつはやばいから付き合…
考えかけた言葉を舌を噛むことによって静止した。
もう考えるのはやめよう。
ただ虚しくなるだけだ。
そっと、瞼を閉じて周りを見ないようにしよう。
そう、眠りについてすぐだった、
誰かが起こしてきてこういった
「寝れる時寝ときや!」
そこには満面の笑顔で俺を見る相方がいた。
本当に心臓に悪いから勘弁して欲しい。
先輩に教えて貰ってんっと、ケタケタと俺の寝顔を指さして笑うあいつに、
俺はどう声をかけていいかわからなかった…