第一章+Y
俺は、芸人
なった理由は覚えてない。
けど、なりたかった職業があった訳でも無い。
ちなみに売れてない。
劇場に出れるぐらいにはなったが、ショーレースにもテレビにも出ていない。
とりあえず、着替え終わりTwitterを開く
『すみません!「ゆうり」で、置きチケ頼みたいのですが』
俺はこの置きチケが一番嫌い。
わざわざ今から彼女のために外に出てチケットを渡さなければならない。
これだけの労力を使うぐらいなら、あの馬鹿にネタの1本か2本でも覚えさせるのに。
とりあえず、近くにあった革ジャンを着、
近くにいた同期に置きチケ行ってくると声をかける。
返事はなしだが、どう見てもあいつインスタを撮っている。
SNSなんてめんどくせ。
そんなんだから、昭和の男って言われるんだろうな。
言われたことないけど。
そんな一人ボケ一人ツッコミをしていると、
ゆうりと名乗る女性らしき人がいた。
「わー!!やっぱ、実物はかっこいい!
このあと暇ですか?お茶しませんか?」
この人は、この口説き文句をほかの何人の芸人にしてきたのだろう。
残念ながら、俺はあのバカのようにこんな言葉では乗せられない。
「ごめんね、今大事なネタ書いてて…」
こちらもよく使う断り文句を彼女に言う。
まあ、実際単独ライブ用のネタを書いているので、大切なネタではある。
「もぅ!つれないなぁ(><)」
絵文字のような顔を彼女は作った。
はっきり言うと、俺は恋愛体質ではない。
人に恋心を抱かない訳では無いが、どこか諦めてしまう。
もっと恋ができたら、アイツみたいに面白くなれるのか?
そんなことを考えながら、彼女に置きチケを渡し、楽屋に戻った
「はーい、モテ男キングが帰ってきました」
楽屋に馬鹿にしたような声が響く
「ちょ、やめろよwww」
自分もちょけるフリをして彼らを満足させる
どうせ後でそれを見たら
相方さんがよかった
相方さんがいい!!
あいかたさんじゃないの!?
という俺よりもあいつがいいというコメントが来るのはわかっているからだ。
そっとタバコに火をつけ、パソコンと向き合う。
次の単独のネタでは、新しいネタをやってみたい。
俺らはコンビだから、パンサーのような一人だけ落ちたみたいなことは出来ないが、彼らの旅行先と銀行強盗の終わり方が好きだ。
バカキャラのはずの尾形さんが、オチに向井さんに向かって銃を構える
その瞬間にゾクッとして、みんな悲鳴をあげる
さすが、菅さんといったところだろうか。
あんな、最後にサイコキラー的なことをしてみたい。
相方は表現力も高いからきっと易易とやりきるだろう。
パソコンに向かいキーボードに手を置いた瞬間、俺は大きなめまいがした。