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Couse End  作者: 二六 尚希
1/1

1 伝説は遠く

久々にダークファンタジーを書こうと思い、私の中の強き者の二角である神と竜を伝説に仕立て、その世界を作ってみました。

これから男がどんな旅をするのか作者自身楽しみです。

『光が消える時、人の時代が終わり、新たな時代が訪れる』


 神が在り、竜が蠢き、風も吹かず草もない岩と土だけがある、ただただ静寂が支配する世界。


 悠久の時を経て、『偽りの神ラパス』と『偽りの竜ジーニアス』が岩の峡谷にて出会った。

 神に成りきれず竜にも成りきれなかった両者は禁忌を犯し、交わり、そして子を為した。


 神は神の手で死ぬことはなく、竜もまた竜の手で死ぬことはない。

 それまで平行線を辿っていた神と竜は、双方を殺すことの出来る『半神半竜の子ミラオス』の存在を危惧し、深い深い地の底へと封じ込めた。


 そしてその両親であるラパスとジーニアスを殺すべく神々と竜達は初めて手を取り合い、ラパスを竜達が、ジーニアスを神々が殺し、再び世界は平穏を取り戻した。


 だが一度交わった神々と竜達が再び平行線に戻ることはなく、竜達の強さを恐れた神々は危険を排除し世界を支配するべく、無欲で平穏を望む竜へと攻撃を開始した。


 初めて見せる神の刃と竜の炎。

 均衡する両者の衝突により世界に光が生まれ火が起こり、今まで身を潜めていた多くの生物が永い眠りから目を覚ました。


 そして目覚めた者達の中で神々に手を貸したアルトリカとその一族、深淵の魔女達、死を支配した王ゴトーは、神々を助けるべく竜達の弱点を探し出し戦況を有利にするため奔走する。

 一方目覚めた者の中から竜達と共に神々に対抗するべく数多の幻獣種、希望の魔女達、生を司るヨハンが立ち上がった。


 両陣営は幾度となく衝突するが、神々は竜の身体に傷をつけることが出来ず、竜達は神々の力の前に攻めあぐね、両者共互角な戦いが続いていた。


 その争いの終わりは神々にも竜達にも見えなかったが、弱点を探していたアルトリカが遂に竜の弱点を見つけることに成功する。

 竜の、攻撃を受け付けない鎧である鱗の一部分、顎の裏にあるとされる『逆鱗』を破壊すれば神々の攻撃は竜達へ通用すると言うことだった。


 かくして竜の弱点を知った神々は顎の裏にある逆鱗を破壊し、深淵の魔女達の炎が鱗を焼き払い、死の王ゴトーの一撃が竜に死を与えた。


 弱点を暴いた神々は竜との戦いに勝利し、アルトリカの功績を讃えて人々が平穏に暮らせる世界を創造した。

 深淵の魔女達は再び地の底である深淵へと帰り、死の王ゴトーも再び死の眠りへついた。


 竜を助けた希望の魔女達は、深淵の魔女達に深淵の檻へと幽閉され、生を司るヨハンはゴトーが眠った後に人々の世界に教会を建て神の崇拝と並ぶ人々の心の拠り所となったと言われている。 



――――

 


『光が消えるとき、人々の時代が終わり、新たな時代が訪れる』


 聖書の一説に書かれたこの文章は神代より永く語り継がれてきた。


 いつからか人々の中に短命、不死、異形の者が現れ始め、それは人々の中で呪いと呼ばれ、迫害を受けた。

 その呪いは止まることなく広がり続け、とある国では国民すべてが飲み込まれたという話もあった。


 やがて同じ呪いを持つ者同士は何かに導かれるように集まり、何処かを目指して旅をするようになった。


 国々は呪いを食い止めるためにあらゆる手段を使い、最後には供物を捧げ、祈りを捧げ、生け贄を捧げたがどれも効果はなかった。


 対策が無いまま呪いは拡大し、真実かもわからない、かつて聖人ヨハンが設立した教会の聖書に載る、世界に火を灯す方法『湖の試練』へ挑むために旅を始めるものも現れ始めていた。


 その湖へ行くためには呪われた者の案内が必要であり、常人では辿り着くことは出来ないとされる。





 ――――長かった夢も終わり、男は浅い眠りから醒め、重く疲れの残る身体をゆっくりと起こす。

 幾度となく聞いた湖の試練についての伝説を思い返し、これだけは忘れるわけにはいかないと思いながら立ち上がる。

 期待を込められ贈られたマントは雨風と長旅でボロ布のように変色し穴が開き、旅に適していると言われて買った装具ももはや意味を成していない。

 ただ腰に下げた剣だけはいくら刃が砕けようとも鈍器として使っていた。


 剣が必要な世界になったのはいつ頃からだろうか。

 呪いを持つ者――――『呪人(のろいびと)』達が誰彼構わず襲うようになり、呪人から人々を守る『騎士団』や呪人を狩る『呪狩り』が結成されたにも関わらず増え続ける呪人への対処は追い付かなかった。

 そして遂には騎士団や呪狩り達も呪人となり、生き残る人々は身を潜めるように生活し、人間の世は終わりへと着実に歩みを進めていた。



 男は自らの身を蝕む短命の呪いを憎みながら湖を目指して歩いた。ヨハンの聖書によると湖の試練を通過した者はその先にある伝説の地へと進むことで呪いを消し去る事が出来るという。

 未だ湖の試練を通過した者が現れたという話がないのはその先にある伝説の地へ進むことができたのか、それとも辿り着くまでに倒れたか。


 ただひたすら時間の感覚を忘れて歩き続けているうちに、道端に転がる呪人を見かけることが多くなり、それは湖が近いことを感じさせた。


 足の踏み場もないような荒れた山道が古びた石造りの道へと変化し、それを辿るうちに苔の生い茂る石造りの門が見え、来る者拒まずと言いたげに手を広げて待っていた。


 男は迷うことなく門を通ると、そこで世界は終わっているかのような錯覚に襲われた。

 石畳の道は門を入ったところで途切れ、鬱蒼と立ち並ぶ木々の中に見渡す限り水面が広がっていた。

 日の光が届かない水面は怪しげに煌めき、生暖かい風が吹きそれでいて肌寒い。

 男が立つ道の両脇には無数の呪人『だったもの』の残骸が積み重ねられ、ここで惨劇があったことを知らせる。


 この場所が伝説にある『湖の試練』であることは周囲の状況から見てとれた。

 ただ辿り着いたもののこれからどうすればいいのかわからないまま男は湖の中を覗き込む。

 すると湖の中から白い腕が二つ現れ、男の首を掴み水中へと引きずり込もうとする。


 男はなけなしの力と反射でその手を避け、一歩下がる。

 白い腕と共に骸骨が水中から現れ、けたけたと笑いながら空を舞う。

 その数は十を越え、誘うように湖の奥へと飛んでいく。

 骸骨達が通った後ろには水中から石で出来た橋がからくりのように出現し、通れと言っているかのように奥へと続いている。


 男は旅だったあの日より立ち止まることは許されていない。

 立ち止まろうとも思ったことはなかったが、ここに来て初めて躊躇った。これより先に進んでしまえば本当に後戻り出来なくなる気がした。


 一瞬だけ躊躇った足を一歩前に踏み出し、湖面に浮かぶ橋を渡る。

 久々に心臓が高鳴り、鼓動が耳を塞ぐかのようだった。

 男は左右の湖に注意を払いながら進んでいく。

 

 どれくらい歩いたか。

 後ろを振り返ると湖と自らが歩いてきた橋しか見えない。前方には終着点であろう陸地が見え、その先には円形の演劇場のような場所が見えた。


 だが、陸地に近づくにつれ、その石の柱で囲まれた円形の場所の中に巨大な豚とも牛とも見える石像のような物が置かれていることに気づく。

 それは不自然に俯いた状態で魂を抜かれたかのように佇み、その先へと進む道を塞ぐような場所にあった。


 男はその違和感に剣を抜き、じりじりと近づいていく。

 近づけば近づくほどその石像のような物が生きているように見えた。

 まるで今にも動き出しそうであり、眠っているようにも思えてきた。



「………ピシッ」



 亀裂が入ったような炸裂音が音のない森の中に響き、男は剣を構える。

 元人間である呪人が相手であれば鈍器と化した剣でも戦えるが、巨大な石像となれば勝ち目は限りなく低く、正面から打ち合っても勝つことは不可能だ。



「グオオォォォッッ!!」



 大きく身体を左右に揺らせながら立ち上がり、獣のような石像は衝撃で後退りしてしまう程の咆哮を放った。

 

 あの積み重なった死骸達は皆この獣の石像にやられたに違いない。そして『湖の試練』とはこの怪物との戦闘だと確信した。 

 どんな手を使ってでも倒さなければ自身もあの死骸の仲間入りとなる。


 錆びつき剣としては使い物にならない剣を正眼に構え、様子を窺う。

 男が戦闘態勢に入ったのを確認したのか、獣の石像はその巨体に似合わぬ速さで飛びかかった。


 反射的に転がった男は千切れそうなくらいに弱った身体をなんとか引きずり起こし、石像の脇腹を薙ぐように斬る。


 見事なまでに真ん中から折れた剣は宙を舞い地面に突き刺さる。

 石像のように見えた獣の怪物の体は本当に石で出来ていて痺れが腕を走る。


 得物を失った男はじりじりと追い詰められ、後ろ足が半分ほど水面に乗った。

 獣の石像は初手と同じ勢いで男へ飛びかかり、息の根を止め、首を食いちぎろうとする。


 しかし、男は怪物に捕まる前に自ら水の中へ飛び込んだ。


 追いかけた石像も当然湖に落ち、その巨体と重量は男が睨んだ通りでそれ以降浮かび上がってくることはなかった。


 

 男は水から上がり、息を整えて石像が塞いでいた道の奥を見る。

 するとその先、遠くだが微かに火の明かりが漏れだしている場所があり人の住居のように見える。


 男は悩むことなく前へと進み、折れた剣を鞘に収めながら住居を目指した。

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