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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第一章
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同姓同名でいいのかなあ?

予定より早く仕上がりました。

 ザロン商会。

 去年、ヴェロンへと向かう時の護衛をした商隊がここの所属だった。

 そして、俺にとって初めての商隊護衛であり、二日酔いで戦闘をする、という無様な経験もした。

 野宿を教わったのもこの時だ。

 最も、その時は何も出来はしなかったけど。

 何より、初めて人を切る、という経験を通じて、自身の自覚の無さを痛感させられた依頼でもあった。

 そんな初めて尽くしの依頼者の名前を、この俺が忘れる訳はない。

 最も、この商会と個人的な付き合いは無いし、家族の誰かが付き合いがある訳でもない。

 何せ、王室は王室で御用商人がいるし、俺達は商会で買うものなんて無いからね。

 ただ、このザロンの名前とレジンの名前がくっ付くと、何故か引っ掛かるものがあるのも確かだ。

「んー……。なんだろうなあ? このもやもやは」

 腕を組んで考え込んでいると、コートの裾が強く引っ張られたので顔を向けると、ライルが此方を見上げていた。

「おとーさん、さがしに行こうよー」

 確かにここで考え込んでいても埒が明かない。そもそも、どこへ行ったのか考えていた訳ではないし、その意見には賛成だ。

「そうだな。捜そうか」

 俺がそう言うと、やや不安げに見上げていたライルの表情に光が差し込んだ様に、パッと明るくなる。

「うん!」

 そして直ぐに俺の手を取り、強く引っ張って急かす様な素振りを見せる息子に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。

「ウォルさん、ちょっと待っててくれ。レジンを探してくるから」

 一言言い残して、俺はライルとザロン商会の方へと歩き出した。

「分かりました。ですが、なるべく早くお願いします」

 背後から言葉が投げ掛けられ、俺は片腕を上げる事でその返事とする。

 ライルに手を引かれながら歩く事数十メートル。

 商会の前まで来ると入り口を横目に見ながら、ライルにどこでレジンが居なくなったのかを聞いた。

「どの辺りなんだ?」

「こっちー」

 尚も俺の手を引き裏道へと入り込み、進んでいった先は、商会の裏手――荷揚げ場の近くだった。

「こんな所で遊んでたのか」

「うん。だってほら!」

 少々呆れた感じの俺には目もくれずにライルが手にした物は、一握りに藁だった。

「藁?」

「そうだよー。これをね。こうやってー」

 そして、器用な手付きであっと言う間に藁束から藁人形を作り上げていた。

 うお! 呪いの藁人形! 何時の間にこんなの覚えた?! ってか、教えた奴出て来い!

 驚きの表情で固まる俺を尻目に、ライルは次々と藁を手に取り呪いの藁人形を作っていく。

 そんなに作っちゃだめだってば!

 ただ、その他にも棒っぽいものに、普通の犬っぽいもの、それに、頭が二つと三つの犬っぽいものも作っていた。

 え? 呪い棒に呪い犬? もしかして呪いシリーズですか? ってか、何の用途に使うんだ?

「ほらー、剣も出来たよ」

 棒っぽいものは剣だったようで、それを藁人形に持たせて、地面にきちんと並べて隊列を組ませ始める。

「これがおとーさんで、これがぼく。んで、こっちがせんせいで、これがレジン。これがローザおかーさんでこっちがぼくのおかーさん。マリエおかーさんにウェスラおかーさんとキシュアおかーさん、そして、アルシェおかーさんとシアおかーさん」

 一つずつ並べながら俺に説明をしてくる。

 正直、見ていた俺は関心してしまった。藁で人形を作り、それを自分達に見立てて並べるとは、その発想力もそうだが、この器用さは将来何かの細工師にでも成れそうなくらいだ。

 ただ、それだけではないのも確か。

 隊列を見れば分かるが、これが何のなのかは一目瞭然。

 要は、俺達が戦う時の最善と言える陣形を作っていたのだ。

 前衛として俺を中心に左右をローザとフェリスで固め、その両翼少し下がり目に教授とレジン。すぐ後にライルとマリエを置いて、後方をアルシェを中心として左右にウェスラとキシュア、そして、アルシェの後を固める形でシアを配置していた。

「で、これがリエルおかーさんとゴンおじちゃん」

 シアの隣に追加する形でリエルを置き、殿にゴンさんを置くと、満面の笑みを向けてきた。

 正直、ゴンさんの扱いが酷い様な気もするが、これはこれで正鵠を射ているかもしれない。

 何せ彼は魔法が使えないから、前衛の俺達の速度には着いて来れない。だからと言って、中央で指揮をする訳にもいかないし、後衛は言わずもがな。そうなると居場所は最後尾、要するに殿しかない、と言う訳だ。

 これをもし、ゴンさんに見せれば怒るかもしれないが。俺としてはこれでいいと思う。彼はある一点に置いて、俺達の誰も敵わない能力を持ち合わせているからだ。

 それは気配を感知する力。

 それはあろう事か、あの弓の名手であるマリエすら上回っていたのだから、これはもう驚きを通り越して信じられなかったくらいだし、彼女も酷く落ち込んでしまっていた。

 ただ、ゴンさんに言わせれば、これが出来たからといって、自分で何かが出来る訳じゃない、とは言っていた。

 まあ、そうかもね。近接戦闘しか出来ないしさ。

 最も、これに関しては冗談抜きで教授が褒めちぎっていたけど。

 それに実際の話、俺達の中では誰一人として、ゴンさんに悟られずに背後を取れる者は居ないしな。

 そのゴンさんを殿に置く、という事は、これは開けた場所を想定した隊列なのだろう。

ただ、これに感心してばかりは居られない。

 俺にはレジンを捜して連れ戻す、という使命があるのだから。でも、ここは一応褒めておくべきだろうな。

「凄いな、ライルは」

 そう言って頭を撫でてやると、少し恥ずかしそうにしていた。

「これ、ぼくとレジンで考えたんだよ」

「そうなのか」

「うん」

 なるほどねえ。だからこんなにしっかりとした隊列を組んでるのか。これは大方レジンに仕業なんだろうけど、でも、何でこんな事考え始めたんかね? ライルは兎も角、魔獣の考える事はさっぱり分からんな。

 ライルはこの隊列の時の役割を説明し始めたが、それを聞きながら切の良い所で声を掛ける。

「ライルのお話をもっと聞きたいけど、早くレジンを捜さないと、ウォルおじさんに怒られちゃうぞ」

「あ! そうだった」

 一つの事に夢中になると他の事を忘れてしまうなど、この辺はまだ子供だな、と微笑ましく思え、そして、何時かは独り立ちするであろう事がフッと頭の中を過ぎると、一抹の寂しさを覚えてしまい、少し、複雑な気分だった。

 俺の父さんもこんな気持ちを味わっていたのだろうか?

 不意にそんな事を思い、あっちの世界での生活を思い出してしまったが、その思いには直ぐに蓋をして仕舞い込んだ。

「ライルとレジンはここで遊んでたんだよな?」

 俺をここへ連れてきた、という事は、二人してここで遊んでいた、という事なのだろうと考えて口にしたのだが、正解だったようだ。

「うん。そしたらね、レジン、って声がきこえて、レジンがあっちに走ってっちゃった」

 また、ライルが指差す。

 その指はザロン商会の荷揚げ場の先を指していて、どうやらまた路地へと入って行く様だ。

 あの馬鹿、どこへ行ってんだよ、まったく。

「よし、それじゃ行こうか」

「うん」

 俺はまた手を引かれながら歩き始め、二人して荷揚げ場の前に差し掛かると、横合いから不意に声を掛けられた。

「お久しぶりです、ハザマ卿」

 名を呼ばれ顔を向ければ、そこにはカーベルさんが柔和な表情を浮かべて立っていて、俺はほんの少し驚いてしまった。が、直ぐに我に返ると言葉を返した。

「――お久しぶりです。カーベルさん」

 ただ、この人がここに居る事自体は不思議な事ではないのだけど、こんな所でばったりと会うなんて、偶然以外の何ものでも無いと思う。

 カーベルさんは人夫じゃないから普段は荷揚げ場になんて居ないしね。体つきはどう見ても人夫だけどさ。

「こんにちわ! カーベルおじちゃん!」

 ライルも元気に挨拶をした。

 偉いぞ、ライル。

「こちらのお子様は――」

 挨拶をされたカーベルさんが戸惑っていた。

 あ、そうか。この人は知らないんだっけ。ライルが人化した事。

「ライルですよ」

「え?! この子があの時の子犬、ですか?!」

 心底驚いた表情を浮かべて、眼を白黒させながらライルと俺を交互に見詰めている。

 そりゃそうだよなあ。あれがこうなれば驚くよな。

「ライルはフェンリルですから人化出来るんですよ。それに今は俺の息子ですしね」

 この説明で納得がいったのか、何度も頷き表情も元の笑顔に戻っていく。

「では、今日は息子さんとお散歩、といった所ですか」

「いえ、ちょっと捜しているのがありまして……」

 曖昧な表現になってしまったが、あいつの事を普通の動物と一緒にしていいのか分からないので、こればっかりは仕方ない。

「何をお捜しなのでしょうか? 物にも依りますが、今は手が空いていますのでお手伝い出来ますが?」

 どうやって伝えたら良いか僅かばかり逡巡している隙に、ライルが口を開いてしまった。

「レジンをさがしてるの」

「は? 私――ですか?」

 言った方も言われた方もそのまま固まり、見詰め合っている。そんな中、俺は一人で納得していた。

 あ、なるほど、そういう事か。

 何故レジンとザロン商会の事が引っ掛かったのか、そして、呼ばれて何故居なくなったのか、これで分かった。

 それは彼のフルネームが、レジン・カーベルだったからだ。

 だから名前を呼ばれたレジンは、自分が呼ばれたと勘違いして何処かへ行った、とそう言う訳だ。

 最も、推理小説みたいに、これで謎はすべて解けた、となれば万々歳なのだが、生憎とそれは俺の頭の中だけでの話であって、レジンを捜して連れて行く、と言う根本的な事は何も解決していない。

 とりあえず頭の中はすっきりしたけど、さて、どうしたもんかね?

「え? おじちゃんもレジンなの?」

「はい、私はレジン・カーベルと申しますので」

 ライルがそんな質問を飛ばし、カーベルさんは律儀に答える。そして、二人の顔が俺へと向けられ、何かを待つようにジッと見詰められてしまった。

 何だ? 俺に何を求めてるんだ?

 そのまま数分ほど何も言わずに見詰められ続け、流石の俺も居た堪れなくなった。

「な、なにかな?」

 若干引き攣った表情でそう告げても、二人は俺から目を逸らさない。

 お、俺、何かやっちゃった?

 引き攣った表情が徐々に困惑に変わり始めた時、二人の目線が外れる。

 それに安心をしたのも束の間、

「おばかなおとーさんでごめんなさい」

 徐にライルがカーベルさんに頭を下げて謝っていた。

 え? え? 

「いえいえ、ご丁寧に有難う御座います。でも、ライルくんは立派です。きちんと人に頭を下げられるのですから」

 カーベルさんの視線が痛いほど感じられそれに怯むと、更にライルの軽蔑の眼差しに襲われてしまい、俺は困惑から二人の視線の圧力に負けて後退る。

 何だ?! 何なんだ、二人とも?! 俺が何か悪い事でもしたのかよう!

 この時の俺の表情は物凄く情けなかったに違いない。

 だって、道行く人が顔を逸らして笑ってたし……。

「くっ! こ、こうなっ――」

 たら、と言うとした瞬間、荷揚げ場から叫び声が外へと(まろ)び出て来て、全員の顔がそちらへと向けられる。

「うわっ! な、なんで二頭犬(オルトロス)の子供がこんなとこにっ!」

「こ、殺すなよ! 殺したら、報復されるぞ!」

『ガウガウ!』

「う、うわー! に、逃げろお!」

「ばっかヤロウ! この程度で逃げてんじゃねえ!」

「お、俺は犬がでえきっれえなんだよっ!」

『ガオー』

「こ、こっちくんなっ!」

『ガーウ』

「うわあ! な、何で俺ばっかり!」

「大丈夫だ! 骨は拾ってやる!」

 その叫び声は徐々に笑いへと変わっていった。ただ一人の声を除いて。

「あれって、まさか……」

「そのまさか、の様ですね……」

「いいなー、たのしそうだなー」

 そこは楽しそうじゃなくて、可哀相と同情する所だぞ。

 だが、これは好都合。呼べばたぶん、こっちへ来るはず。

 そう思い、俺が口を開き掛けた時には、すでにライルが両手を口の脇に着けて叫んでいた。

「レジーン! はやくこないとおいてかれちゃうよー!」

 くっ! 先越されたかっ!

 荷揚げ場からは「助かった!」と安堵の叫びと共に「おめえ等、覚えてろよっ!」と罵る声も響いてくる。

 そして――、

『ガウガウ!』

 嬉しそうに尻尾を振りながら、レジンが飛び出してきた。

 こいつ、頭が二つあるだけで、まんま飼い犬だな。

 その姿を見た瞬間、俺はそう思ってしまった。

「この子犬がレジンですか……」

「うん! ぼくのともだち!」

 ライルがレジンを抱え上げて、カーベルさんへと向けると、挨拶でもするように、頭を垂れて一声鳴く。

『ガウ!』

「賢いですね」

 そう言うと、レジンの頭を両方とも撫で、撫でられたレジンは気持ち良さそうに目を細めるのだった。

 お前、もう野生には戻れないんじゃね?

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