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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第一章
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宝物が増えました



 日差しが温み始め、春の訪れを教えてくれる今日この頃だが、気温はまだそれほど高くは無く、暖炉は未だに火を点していて、実感するには至らない。

 そんな季節の狭間の様な時期。

 炎を揺らめかせ、暖かさを提供する暖炉の前で談笑する女性が三人居た。

 一人は吸血族。

 もう一人は天族。

 そして、人族。

 三人に共通する事は、お腹にストールを掛けている事。

 そして、少し離れた所の椅子に座って、俺は複雑な表情で彼女達を眺めていた。

 確かに冬の間は夜が長かったし、あっちの世界みたくネットとか有る訳でもないから遅くまで起きている事も出来ない。それに、遅くまで起きている、という事は暖炉に使う薪と蝋燭の消費量が馬鹿に成らないし、金銭的にも無駄が出てしまう。

 結果として暖炉の火を早めに落とす訳だが、そうすれば室温も下がるし、寒さを凌ぐには布団に潜り込む事になる。更に言えば、寒さを凌ぐには一人寝よりも二人と、後は言わなくても分かるよな。

 だから、という訳じゃないけど、俺は超頑張ってしまった。

 で、その結果が目の前で談笑する、キシュアとフェリス、そして、マリエの三人。

 その会話の内容と言うのが――。

「わらわは今から楽しみだ」

「俺もだぜ」

「私もだ」

「お前等はもう決めたのか?」

「うむ」

「はい、男の子ならマルコム、女の子ならマルファ、と」

「俺は男だったらラマール、女ならフェルミアだ」

「わらわはマルドクルとリミアだ」

「しかし、アイシン様よりも先に授かってしまうとは、正直、予想外でした」

「マリエはダークエルフの血が流れているとは言え、人族だからな。マサトとの間にはでき易いのだ」

「そうだな。でもよ、ウェスラよりも先にできるとは俺も予想外だったけどよ」

「うむ、それに関してはわらわも意外であった。だが、姉さまには悪いが、嬉しくて仕方ないのも事実だ」

 要するに、彼女達は妊娠していて、お腹の子供の名前を既に決めており、その事で楽しそうに話をしている、という訳だ。

 そして、彼女達のお腹の子の父親は何を隠そう、この俺だったりする。

 尤も、俺としかやってないんだし、当たり前と言えば当たり前だよな。

 まあ俺としても正直な所、家族が増えるのは嬉しい。嬉しいのだが、その反面、今の収入ではどう考えても無理があり、そこが悩みの種でもあった。

 なんせ、夏にはアルシェの子が生まれ、晩秋あたりにはもう三人、子供が増えるんだし。

 ま、アルシェの方は俺の稼ぎは関係ないんだけどさ。

「あ、ここに居たんですか」

 背後から声が掛かり首だけ向けると、ローザが小走りに近付いてくる。

「ん? どしたの?」

「マサトさんに少し相談したい事があるのですが……」

 何だか少し困った顔をしていた。

「相談?」

「はい」

 何だろう? 

 そう思い、微かに首を傾げる。

「実はですね。実家へ戻る時なのですが、私とマサトさんの他に同行出来る人が、あと一人だけですよね?」

「そういえば、そう書いてあったな」

「どなたを連れて行くのですか?」

 実は、あの手紙には同行する者を一名だけ許す、と書いていあった。なので、当初は誰にするか悩んでいたのだが、それも冬の間はすっかり忘れていた。

 だって、三ヶ月以上も先の話だったしさ。 

 でも、今ならば誰を連れて行くのかなんて、すぐに答えが出る。

「ウェスラに頼もうと思ってるよ」

 これを聞いたローザの表情は、やっぱり、といった感じだ。

「私はライルちゃんを連れて行きたかったのですが――」

「ライルかあ……」

 今回は正直な話、ライルを連れて行くのは躊躇っていた。

 何故ならあの手紙からは、きな臭い匂いが駄々漏れだったのだから。

 俺が難しい顔をして考え込んでいると、足元に何かが触れるのを感じ目線を向ければ、そこにはレジンが擦り寄っていた。

「レジンか――」

 こいつは何故だか子犬の姿が気に入ったらしく、偶には元に戻れば? と言っても、これで良い、と返って来る始末で、しかも、ご近所の子供と戯れて喜んでいるという、飼い犬ならぬ、飼い魔獣化していた。

 まったく、こいつらの思考回路はどうなってるんだろうな?

 一度頭カチ割って覗いてみたい、と思うのは俺だけじゃ無い筈だ。

「今は遊んでやれないぞ」

――そうではない。我も連れて行って欲しいのだ。

「はあ? 何でお前も行くんだよ?」

――人では制限が有る様だが、この姿ならば問題あるまい? それにガルムイとやらに居る仲間にも会いたいのでな。

 確かに問題は無いし、仲間に会いたいと言われてしまっては、駄目とも言い難い。それに、ペットを連れ来るな、とは書かれていなかった。

「そうか! その手があったか!」

 右の拳を左手に打ち付けて口元を歪めると、ローザに向かって口を開いた。

「喜べ! ライルを連れて行けるぞ!」

「え?! ほ、本当ですか?!」

「ああ、レジンのお陰だ!」

 ヒントをくれた当の本人は二つの頭を夫々傾け、不思議そうに俺を見上げている。

「ライルも元の姿に戻れば良いんだよ。それも、ガルムイの手前で」

「あ! なるほど! それでしたら問題ありませんね」

「だろ?」

 ローザは嬉しそうに頷いていた。

「でもそうなると、教授も連れて行かないとな」

 ポツリ、と呟いた一言に、俺の足をレジンが強く噛んだ。

「痛っ!」

――あれを連れて行くなど、我としては面白くない。

 確かにレジンからすれば、面白くないかもしれない。

 戻って来てからというもの、教授にあれこれと何やら色々叩き込まれているらしいし、教えた通りに出来ない時は、教育、と称して魔法をぶっ放されてたしな。

「そうは言われてもなあ。あれを野放しにしておくと、悪い予感しかしないんだよなあ」

「そうですねえ。教授さんって、あれはあれで危ないですしねえ」

 ローザの言うとおり、教授は危ないのだ。

 何がどう危ないのか、と言うと、新興宗教の教祖様並に危ない。しかも、広めるのが小さな女の子限定というおかしさだ。

 そして、何を広めているか、と言うと、俺の事らしい。

 何故、らしい、なのか。

 それは、教授はおろか、何かを吹き込まれた女の子達も、一切口を噤んでいるから全く分からない為だった。

 尤も、何を言い含めているのかは、子供の目を見ればある程度の想像はつく。

 なんせ少女漫画宜しく、俺を見る時に限って、瞳の中に星が煌いてたからね。

「マサトさんも薄々感付いていると思いますが、あの子達、成人したらお嫁に来る心算でいますよ? それに親御さん達も何故かそれを容認している様ですし……」

 彼女の言っている事は九割がた、当たっていると思う。

 どうも教授はハーレム拡大を目論んでいる様で、あの超絶優男面で近所の子供――女の子限定――を抱き込み、更にはその両親さえも洗脳しまくっている様だった。

 まったく何を考えてんだ、あのボケ教授は。

「なあ、レジン。教授はライルのお守りって事で連れて行くから、それでいいだろ?」

――駄目だ。奴は手が空けば、確実に我をしごく。

 確かに教授ならばやりかねないな、と思い、どうしたものか、と頭を悩ませていると、フェリスが口を挟んできた。

「そんなの簡単じゃねえか。レジンはマサトの監視してりゃいいんだよ」

「はい?」

――陛下、それはどういう意味でしょう?

 二人して首を傾げる。

「それは詰まり、マサト様が勝手に妻を増やさない様にする為、ですね?」

「その通りだ。われ等の知らぬ所で増やされては困るからな」

 レジンは納得した様に、何度も首を縦に振っているが、俺は渋い表情を三人に向け、口を尖らせた。

「俺がそんな事する訳ないだろう?」

「では、私は違うのか?」

 マリエが悪戯っぽい笑みを浮かべ、そう言い放つ。

 そして、しばらくマリエの目を見詰めた後、俺は明後日の方へ顔を向けると、昔を懐かしむように遠くを見る素振りをした。

「誤魔化そうとしても駄目ですよ?」

 ローザにまで言われてしまい、俺は更に現実逃避を決め込む。

「最近は暖かくなって来たなあ――」

「あなたは何馬鹿な事を言っているのですか」

「げ! い、何時の間に!」

 驚いて振り向くと、アルシェが大きなお腹を抱えてそこに立っていた。

「キシュアさんが、増やされては困る、と言っていたあたりから、ですね」

「あ、いや、その……」

「まったく、愛しの糸様はだらしが無いですね」

「し、シアもいたのかよっ!」

「気配を消すのは得意ですので」 

 こうなったら最早、俺に逃げ道は無い。

「それではレジンさん。マサトの監視は任せましたよ」

――承知した。

 まるで胸を張るかのように顎を引き、綺麗なお座り姿を見せるレジンに対し、俺はがっくりと項垂れる。

 俺ってこんなに信頼されてなかったのか……。

 そんな俺の肩に手が置かれ、顔を上げると、

「マサト殿、雄はどれだけの雌を囲えるかで力を示すもの。ここで項垂れている場合ではありません。私もお手伝い致しますので、更に増やしましょう」

 堂々と教授がそんな事を言い放った。

 何この空気読まない発言は?!

「ねえ、せんせい。男の子は女の子をいっぱいつれてると、強いの?」

 ライルの声に俺は目を剥いた。

 何時の間に?!

「そうですよ、殿下。強い雄は雌を沢山従えているものなのです」

 教授はなんちゅうことをライルに吹き込んでるんだよ!

「そっかあ。じゃあ、おとーさんは強いからおかーさんがいっぱいいるんだね!」

 ライルが羨望の眼差しを俺に向ける。

 魔獣としては正しい事も、人に置き換えると正しくない事は幾らでもある。そして、今の教授の発言がそれにあたるのだが、我が息子は物の見事に信じ込んでしまった様だ。

「ローリーの言う事も、確かに一理あるな……」

 フェリスは目を瞑り腕を組んで頷いている。

 そこで同意すんなよ!

「なるほど。マサトは魔獣と同じなのだな」

「キシュア殿、それでは私達まで同じになってしまうと思うのだが……」

「流石は糸様。人の姿をした鬼畜なのですね。私はそんな者の子を身篭ったのですか」

「ちょっと待て! 誰が鬼畜なんだよ!」

 聞き捨てならない事を言われてしまい、俺は口を挟んだ。

 まったく、放って置くと何言い出すか分かったもんじゃないな。

「済みません、間違えてしまいました」

 それに俺が一安心したのも束の間、

糸畜(いちく)様ですね」

 新たな称号を得た瞬間でもあった。

「い、糸畜ってな――」

「シアさんも子供が出来たんですかっ?!」

 俺の声に被せてローザが叫んでいた。

 え? シアも出来ちゃったの?

「はい、その様です」

 三人だけだと思ってたのに……。

「いいなあ、あたしも早く欲しいですよ」

 チラリ、とローザがこちらに目線を向けるが、俺は間髪居れず極自然に顔を背ける。

「無理を言うでない。今のマサトでは養い切れぬじゃろうしの」

 何時の間にかウェスラまで現れ、そんな事をのたまう。

「そうだよ、ローザちゃん。今のマサトくんの甲斐性じゃ、極貧になっちゃうよ」

 リエルさん、幾らなんでも極貧は言い過ぎだと思うのですが……。

「それもそうですね」

 ローザが何度も頷いていた。

 どうすんだよ! 納得しちゃったじゃないか!

「最悪は支援いたします。マサトは曲がりなりにも王女たる私の夫ですから」

「流石、糸畜様です。アルシェアナ様にここまで言わせるとは」

 何故かシアは涙を流していた。

 ここは泣くとこなの?! ってか、ヒモ決定?!

「ふむ、それにしても良い事は重なるものじゃのう。ここまで一気に子宝に恵まれるとは、ワシも予想出来んかったの」

 ウェスラは自分の事の様に顔を綻せ、俺は深い溜息を付いたのだった。

 冬の間頑張り過ぎた結果がこれとは、笑うに笑えねえよ……。

諸事情により執筆時間が中々取れないため

次話は二十三日になるかと思います。

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