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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第六章
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色々と怖いです

「おとーさん、だいじょうぶ?!」

 ライルは小さな(てのひら)を上に向けたまま、心配そうな顔をこちらに向ける。

「ライルのお陰で助かったよ」

 安堵の笑みを返すと、ライルも嬉しそうに笑った。

 そして、身を起こして座り込み、寝息を立てているナシアス殿下の頭を膝に乗せると、深く息を付く。

「それにしても、あの数をお一人で半壊させるとは正しく、人ならざる者の所業、と言った所ですねえ。この様な限られた空間でこんな事が出来るのは、陛下だけだと思っていましたが、これは少々考えを改めねばなりませんね」

 魔獣に人ならざる者、と言われて少々複雑な気分になったが、先ほど教授が言っていた事が気になり、直ぐにその事を聞いた。

「ところで、計画ってなんだよ」

 ライルの張った魔方陣に守られながらそんな疑問を飛ばしたが、当の本人は周りの状況を観察するのに忙しいのか、まったく別の事を口にしてくれた。

「こんな事ならあの方に頼み事などすべきでは有りませんでしたね。これでは要らぬ借りを作っただけではないですか。でもまあ、これでしたら直ぐに返せそうですし、問題はないですね」

 何故か俺を見る視線が物凄く冷く感じたのだが、それは俺ではなく、どうやらナシアス殿下に向けられている様だ。

「それは兎も角、今は急遽変更した計画を実行するとしましょう。――殿下、ここの守りはお願い致します」

「うん、せんせいもきをつけてね!」

「お心遣い有難う御座います、殿下」

 まったくわけが分からない俺達を尻目に、教授は淡々とした態度でライルに告げ、気遣うライルに目礼を送ると、自らは陣から出るのか、前へと踏み出した。

「お、おい! 一人じゃ――」

 驚いて俺は声を掛けたが、踏み出した足をそこで止めて、声と共に後ろ手に何かを投げる。

「マサト殿はこれでも飲んでください」

 慌てて受け止めると、それはコルクで栓をされた、青い陶製の小瓶だった。

「それを飲めば、微量ながら魔力が回復する筈です」

「魔力回復薬か……」

「それと、私がここを出たら殿下は手筈通りにお願いします」

 頼まれたライルは大きく頷き、誇らしげな表情を見せる。

「そうそう、言い忘れる所でした。マサト殿にはお礼を言わなければいけないのです」

 そう告げられ、俺は訝る表情を取った。

「お礼?」

「ええ、全ては貴方のお陰です。私の魔法を一段上に引き上げて頂けたのですから」

 口元に何とも言えない邪悪な笑みを浮かべて嬉しそうに言う教授は、二足歩行している三頭犬の様に見え、何度か瞼を瞬いてしまった。

「それと私の戦い、良く見ておいてください。必ずマサト殿の糧となる筈ですから」

 そう言い残すと、無造作に歩を進め、火炎弾と矢が降り注ぐ陣の外へと出て行った。

 何、おかしなフラグ立ててんだよ! ってか、それ、死亡フラグだろ?!

 だが、次の瞬間、俺は目を見張った。

 火炎弾や矢は教授を避けて有らぬ方向へと飛んで行き、見当違いの所に着弾していたからだ。

 これは――風魔法、の応用? 最小限度の魔力で風を操って、軌道を逸らせてる?

「我が名はベロ・ケルス! 同胞(はらから)を落としいれ傷付けた其の方等の罪、万死に値する! 因って、その命を持って贖うが良い!」

 教授の声が闘技場内に響き渡ると、その名を耳にした全ての者が一瞬だけ動きを止めたが、直ぐに嘲笑と侮蔑の声が上がり、怒声が飛んだ。

「伝説の魔術師さまのお出ましかよ! でもよお、そんな昔のカビの生えたお方が俺達に何しようってんだよ!」

 ベロ・ケルスは人族の間では伝説の人物。

 しかし、既に遥か昔に死んでしまった者の名前。

 その名前を騙る等、彼等にしてみれば滑稽なのだろう。

 だが、俺達は知っている。

 彼――ローリー教授が、ベロ・ケルスその人だと、言う事を。

「では、お見せいたしましょう! 悠久の果てに手に入れた、新たなる力を!」

 教授の右腕が横にゆっくりと上げられ、右側の観客席に向けられた。

堕天雷(サンダーフォール)(ストーム)!」

 詠唱も何も無い、ただ魔法名を口にしただけ。だが、それだけで手を向けた観客席に天から無数の雷が降り注ぎ、嵐の如く荒れ狂い、弓士と魔術師を一瞬にして人型の灰に変えていく。

 完全な無詠唱魔法。それもその規模から推測すると、これは理魔法だ。

 今、目の前で起こった事は、未だ俺にも出来ない事を教授が成し遂げてしまっていた、証拠だった。

「す、すげえ……」

「こ、これが――」

 俺とマリエが教授の放った魔法に言葉を失っていると、

「ウォオオオオオン!」

 ライルが空に向かって遠吠えを放ち、左手の観客席で悲鳴が上がり顔を向けると、見た事の有るメイド服を着た女性が血飛沫を舞わせながら巨大な剣を閃かせて踊り、もう一人の同じメイド服に身を包む女性は、真紅の霧を撒き散らしながら疾風の如き速さで縦横無人に飛び回る。

 後方で上がる悲鳴に振り向けば、無数の青白い物が揺らめき、次々と魔術師と弓士を飲み込み、そこにもメイド服の少女が、闇色の剣を片手に立っていた。

 そして、闘技場全体を揺るがす轟音が響き渡り前へ向き直ると、長い銀髪を揺らめかせメイド服に身を包み両腕を広げたウェスラが、炎の中で艶然と微笑んでいる。

 その光景を目の当たりにした騎士団は恐慌状態に陥り、我先にと闘技場の出入り口に殺到し始める。

 だが、数人が扉に手を掛けたその瞬間、内部から爆発が生じ、扉ごと吹き飛ばして後方に居た者を巻き込み、血達磨に変身した。

 そこには、緊張感のない福笑いの顔を持った雪だるまがふよふよと浮き、その影で肩に丸い筒の様な物を担ぎ、騎士団の中心に向けているリエルの姿があった。

 その彼女もまた、メイド服を着用していた。

 そして、逃げ道すらも奪われた彼等に止めを刺すかのように、教授が両手を軽く広げて前へ突き出し、小さく呟く。

水牢(ウォータープリズン)

 一瞬にして半球状の水の壁が出来上がり、その中に閉じ込められた残りの者たち数人が無理に突破しようとして触れた瞬間、取り込まれて鎧ごと圧搾され、只の肉塊へと変わる。それを見て観念したのか、絶望の色に染めた表情で残りの者はその場に崩れ落ち、項垂れてしまっていた。

 俺は吃驚していた。だが、それはその光景にではなく、彼女達が現れた事に対してだ。

「皆、どうして……」

 彼女達の事は信頼している。こんな俺に着いて来てくれていたのだから。

 しかし、あの時帰れ、と言った俺を助けに来てくれるなど、思っても居なかった。

「おかーさんたちもおとーさんといっしょにいたいから来たんだよ!」

 誇らしげに笑うライルの言葉を聞いて、俺は、心底嬉しかった。

 一人ではない、と分かったから。

「これで余計な邪魔は入れなくなりました。マサト殿は決勝で存分に力を振るってください」

 前方の騎士団を水壁で封じ込めながら、教授が突然そんな事を言い出した。

「それって、どういう――」

「皇帝陛下との約定を果たすのです」

 言われている意味がまったく分からず、俺は困惑の表情を浮かべる。

「これは私がある者達と意識を繋げていたから分かった事なのですが、皇帝陛下とドルゲン様を拉致監禁したのは、破竜騎士団の者なのです」

「何だって?!」

 告げられた事実に驚き、俺は声を張り上げる。だが、教授はそれを軽く受け流し、滔々と語り始めた。

「考えても見てください。皇帝陛下の身柄を拘束するにはお傍に近付く必要があります。それはドルゲン様も同様。ですが、何処の馬の骨とも分からぬ者が近付ける訳がありません。皇帝陛下はドルゲン様率いる破流騎士団が常に護衛していますし、ドルゲン様に正面から挑み掛かって勝てる者等そうはいません。なので、二人に怪しまれずに近付き拘束出来る者など限られています。そこから分かる事は、破竜騎士団内部に内通者が居る、と言う事なのです。そして、その内通者と繋がっているのが、あの者達です。でなければ、マサト殿とマリエ殿の関係を知っている筈はありません。ですから、あの者達を潰してしまえば、内通者は裏で糸を引いている者と、直接接触しなければ成らなくなるのです。そうなれば、この国の問題は解決へと向かいます。何故なら、私の目が至る所で光っているのですから」

「でも、それが決勝戦をやるのと何の関係が……」

「有りますよ? マサト殿が最後の仕上げをするのですから」

「え?」

 俺が最後の仕上げ? まったく意味が分からないぞ。

 訝る俺に目線を投げ掛けると、教授は口元に笑みを浮かべる。

「今は時間が有りませんので、詳しく申し上げる訳には参りません。ですが、これだけは覚えておいてください」

 目線を元に戻して一拍の間を空けると、俺に告げた。

「強く、優しく、暖かいその心、決して無くさないでください。そして、貴方はライル殿下の本当の父だと言う事も」

 そして、開いていた手を握り込む。

「潰れなさい! 圧壊水擁(ウォータープレス)!」

 水牢に囚われた者達を一瞬で押し潰し赤黒い塊に代えると、教授は満足げな表情で振り返った。

「これで私の治療は完了致しました。最後の治療はマサト殿、貴方にお任せします。存分に演じ切ってください。では、私はまだやる事がありますので、お先に失礼させて頂きます」

 俺たちに向かって慇懃に一礼すると、その身をフワリ、と浮かせて虚空へ消えて行く。

「まったく、空中浮揚(レビテイション)まで操るとは、魔獣にしておくには勿体無いの」

 去り行く教授の姿を眺めながら、ウェスラがいつの間にか傍に来ていた。

「それはさて置き。その女子はなんじゃ? ん? 説明如何に因っては……」

 先ほどまで燃え盛る炎を操っていた彼女の瞳から、絶対零度の視線が俺に突き刺さった。

「あ、いや、この女性は……」

 口篭る俺に更に別の声がぶつかる。

「その人ばっかりずるいです! 私にも膝枕してください!」

「はあ? 何言ってんだよ?!」

 見当違いの言に思わず突っ込んでしまったが、見回せば、皆が俺の周りに集まっていた。

「マサトはこういう格好が好きなのか……」

「うわー、マサトくんってえっちなんだー」

「また増えるのか?」

「おとーさん。おかーさんがふえるの?」

 夫々が好き勝手な事を言い始め、俺は誤解を解く為に必死で説明をし、ナシアス殿下は膝の上で、安らかな寝息を立て、マリエは苦笑を浮かべていた。

 これも教授の計画なのか?! なあ、誰か教えてくれ!

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