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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第六章
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壊れていく心

オラス団長に言われた事は、殺すな、という意味ではないと俺は思っている。何故なら、この闘技場の舞台では、殺すイコール死、ではないのだから。

 ならば、殺す事自体には何の問題も無い。

 ただ、こんな事を言うと、殺しを肯定していると、誤解を受けてしまうかもしれないが、これは戦う者どうしが心置きなく遣り合える舞台を整える為の措置で、本来ならば、万が一殺してしまっても死なないようにしてある、と言うだけ。

 だが、俺は証明してしまった。

 それが絶対ではない、と言う事を。

 そして、それを遣った俺に彼は、死なすな、と言ってきたのだ。

 だから二戦目は死なせない為に殺さなかった。

 開始と同時に、炎の刃を飛ばし、手足を一つずつ切り落として、落とした部位は全て灰に変えてやった。しかも傷口は焼かれているから出血もない。その上、四肢欠損ともなれば戦闘力も無くなるので、その時点で試合終了という、実に呆気ないもの。

 相手は最後に何か叫んでいた様だが、死なせれば何をされるか分かり切っているので、それを無視して悠然と立ち去り、残酷さを印象付けてやった。

 そしてこの戦いは、俺の圧倒的な力をも見せ付けた戦いでもあった。

 だが、これで思惑通りに事が運ばなければ、俺はまた、確実に破滅へと近付いて行くだけ。

 その事が分かっていても、()める事は出来なかった。

 そして、控え室へと戻った俺を待ち受けていたのは、オラス団長の拳の一撃。

 油断しきっていた俺は、それをまともにくらい、テーブルや椅子などの調度品を壊しながら、部屋の端から端まで吹き飛び、かろうじて顔を上げた時には、彼が部屋から出て行く所だった。

 その姿を目に入れたのを最後に保っていた意識を手放し、そのまま闇に飲まれていった。




            *




 ライル坊が眠りに着いた後に、ワシ等はゴンからマサトの戦いの一部始終を聞いたのじゃ。

 その話は、ライルが寝てから、と先にゴンに告げておいて良かった、と本当に安堵したほどじゃ。

 その内容は、顔を顰めたくなるほど、残酷な結果じゃった。

 開始と同時にマサトは炎刃を放ち、相手の左腕を切り落として灰に、それでも向かって来ると、足を、残った腕を、夫々(それぞれ)、一本ずつ順番に切り落として燃やしたそうじゃ。そして、残った胴体には目もくれず、踵を返して戻って行った、と言う事じゃった。

「なんて、酷い……」

 ローザが口元を手で押さえて目を見開き震えておるが、皆、同じ気持ちじゃった。

「なんという――」

 ローリーも絶句しておった。

「ああ、観客も絶句してたぜ。この俺だって一っ言も言葉が出なかったしな。あれじゃ、死んだ方がマシってもんだ」

 そうじゃ、生きておれば良い、というものではない。

「しかもよ、相手は死なせてくれって大声で叫んでたんだぜ? それを無視してあいつはそのまんま行っちまったんだよ」

「でも、あそこって、死んでも生き返るんでしょ? だったら元に戻るんじゃない?」

 死んで生き返るなどある訳なかろうに、リエルは何を言っておるのじゃ。

「死を回避出来るってだけだ。死んだら生き返えりゃしねえよ」

 リエルは顎に指を当てて考え込んでしまった。

「ですが、死なせるには初戦でマサト殿がやった様に、一瞬で灰にするなどしなければ無理なのですから、元に戻すのならば、強ち間違いでは無いのでは?」

 ゴンは溜息を付いて首を振り、ローリーの言も否定しよった。

「あの状態じゃ、もう元にゃ戻らねえんだよ」

「戻らない? とは、どう言う事なのですか?」

 訝るローリーには悪いが、ワシには分かった。

 ゴンが言いたいのは、死ぬ直前の傷の無い姿に戻るだけ、と言う事なのじゃと思う。じゃから、元には戻らぬ、と言うたのじゃろうな。

「詰まりじゃ、手足を失った状態では、それが普通の状態であって、元の手足のある姿には戻れぬ、と言う事なのじゃろ?」

「アイシン様の言うとおりだよ。普通は完全に事切れる前に、治療師が最低限の処置をして何とか繋ぐんだけどよ、あいつのやった事はそれも出来ねえから、もう元の体にゃ戻れねえんだ」

 これには皆、言葉を失い、呆然としてしもうた。

 じゃが、ワシだけはまだ言葉を紡ぐ事が出来る。幾らかは冷静じゃからの。

「では、そんな事をしたマサトは……」

「ああ、間違いなく、残虐非道な奴って見られてる」

 こうなったのは間違いなくワシ等の責任じゃろう。

 仮定の話しなぞしても仕方ないのじゃが、もしあそこでワシ等が去らねば、違った形になっておったやもしれぬ。

「だけどなあ、ありゃ相当まじいぞ。言いたかねえけど、あいつ、壊れる寸前なんじゃねえか?」

「マサトが壊れる? どういう事だ?」

 訝る表情をゴンに向けてキシュアが聞き返しよった。

 ゴンの言葉の意味を図りかねておるようじゃ。

「ゴンはこう言いたいんでしょ? マサトくんの心は壊れ掛かってるって」

「そ、そうなのか?! ゴンザ!」

 それほどヤワな心をしておるとは思わぬが、ゴンが判断したとなれば、これはのんびりしておれぬ。しかし、先ずは何故そう思ったのか、確認せねばなるまい。

「おぬし、何故そう判断した?」

 険しかった表情を更に苦渋の色で染め上げ、ゴンザは短く言葉を吐いたのじゃ。

「あいつの表情がよ、人形、みたいだったんだよ」

「人形、じゃと?!」

「ああ、口元だけを笑いの形に歪めた、な。それも、見てるこっちの背筋が凍りつくほどの」

 ワシは焦った。それは己が心を殺している証拠。それも、生半可な殺し方では、ゴンの言った顔にはならぬのじゃから。

 不味い、不味いぞ。早く何とかせねば、ワシの――ワシ等のマサトがマサトでなくなってしまう!

 皆の中に、焦りと不安が立ち込め始めたその時じゃった。

「それはもう少し大丈夫だと、思います」

 突然口を開いたローリーが、そんな事を平然とぬかしよったので、ワシは思わず勢い込んで口を開こうとしたのじゃが、フェリスの方が早かった。

「その根拠は、何だ」

 その一言でワシは冷静さを取り戻し、おや? と思ったのじゃ。こやつならば、ワシ以上に食って掛かるであろう場面じゃのに、淡々としておったからじゃ。

「ドルゲン様、と言えばお分かり頂けるかと」

「ドルゲン? あいつに何か言ったのか? おまえ」

「ええ」

「そうか」

 訳も話しておらぬのに、何故か納得してしもうた。

 それが不思議で、ワシ等は怪訝な表情を取ってしまったのじゃが、それを察したのかローリーが口を開きよった。

「詳しくは話せませんが、一応、協力を仰いだ、とだけ言っておきます」

 余りにも簡単と言えば簡単すぎる説明じゃが、協力を取り付けただけでも大したものじゃ。 

 じゃがしかし、この一言で皆も、いくらかは落ち着いたようじゃった。不安を払拭しきる事は出来なんだが。

「ふむ――、では、今しばらくは大丈夫、と言う事じゃな?」

「確証は持てませんが」

 確証は持てぬ、か。

 しかしこれは、致し方あるまい。心の問題では、今のワシ等ではどうする事も出来ぬのじゃから。

「後は、マサト次第、と言う事じゃな……」

「――はい」

 ローリーの首肯に、ワシ等は沈鬱な空気に包まれてしもうた。

「でも、あたしは信じてる。マサトくんは心の闇に呑まれたりしないって」

 そんな中、リエルの力強い声が響き、ワシ等はそれに同意するが如く、頷くのじゃった。

 今しばらくの辛抱じゃぞ、マサト。その心、ワシ等が支えに行くからの!




            *




 何処までも続く草原に吹き抜ける風は湿り気を帯び、フッと見上げれば、空には分厚い雲が広がり、今にも泣き出しそうだ。

 そんな場所に俺は佇み、遥か彼方の天空から降り落ちる数条の光を、漠然と眺めている。

 そして、傍らには、見知らぬ人物が二人。

 その二人もまた、光の帯を眺めていた。

「やっとですね」

「そうだな」

 突然、二人がそんな言葉を交わす。そして、俺の方に体を向け、

「ですが、まだ早過ぎます」

「今は戻るがよい」

 二人の腕が伸ばされ、その指が俺の額に触れた瞬間、目の前の景色が、色を変えた。

 そこは見慣れた部屋。

 テーブルや椅子が壊れているが、昨日から俺が使っている控え室だった。

「今のは、夢? でも妙に――、痛っ!」

 僅かに身動ぎしただけで痛みに襲われ、思わず呻いてしまった。だが、そのお陰で思い出した。団長さんに殴られた事を。

「くそっ、何だってんだ……」

 毒突きながら身を起こして軽く息を吐くと、壁に背を凭せ掛ける。

「あれでも出て来ないのか」

 今日の戦いを振り返り、溜息を付いた。

 やはり、殺しても死なない仕掛けが一番問題だ。それに、一対一、というのも不味い。初戦も今日の戦いも、一応は圧倒しているが、やはり脅威とは映らないようだ。

「くそっ、どうする。どうすればいいんだ……。いっそ、観客を巻き添えにするか?」

 でも、それだけは遣ってはいけない、と心の中から警鐘が聞こえてくる。

「やっぱり、一対一ってのが不味いのか。なら――」

 そこで思い付いた事は、闘技場内全体に魔法を放つ事だった。

「俺以外居なくなれば、いいんだよな」

 あの場には審判役の騎士の他にも何人か居る。それを全て消し炭に変えてやれば、かなり慌てふためくに間違いない。

「よし、次はあれを使おう。人間なら一溜まりもない筈だ。それでも出て来なければ、決勝は最後の手段しかないな」

 この時の俺は、口元に浮かび上がる笑みが何を意味しているかなど、気が付いて居なかった。


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