転がり出したら止まらない
僕はおじちゃんとやくそくした次の日から、おかーさんたちに一回もあってない。
でも、あえないりゆうも知ってる。
だって、このお家のおしごとのおてつだいをしてるんだもん。
おかーさんたちにあえないのは、ちょっとさびしいけど、おしごとじゃしょうがないよね。
でも、きょうはさびしくないんだ!
ゴンおじちゃんとローリーせんせいといっしょに、おとーさんを見に行くから!
おとーさんとこにはまだ行けないけど、でも、それでもすっごいうれしい。だって、おとーさんがたたかうとこを見れるんだもん。
だから、おきてからずっとにこにこしてたら、おじちゃんに「現金なやつだな」って言われちゃった。
でも、げんきんってなんだろう?
あとでローリーせんせいに聞いてみよっと。
そして、ゴンおじちゃんと手をつないで、おとーさんのいるとこへ行ったら、すっごくおっきいとこでびっくりした。
おしろみたいにとんがったのがにゅーって六つもあるし、いろんな色のガラスがくっついたまどもあるし、人もいっぱいいた。
「すごいなー」
僕がおどろいてると、ゴンおじちゃんもうれしそうにしてたから、きいてみた。
「どーしたの?」
「ん? ちょっと懐かしくてな。俺も昔ここで戦った事が有るからな」
僕はもっとおどろいちゃった。
「そーなの?!」
「ああ、そんときゃ俺が優勝したんだぜ?」
にっこりと笑って、すっごくうれしそうだった。
「では、ゴンザ殿に勝ったマサト殿は、もっと強いのですね」
そうだ、ローリーせんせんの言うとおり、おとーさんはゴンおじちゃんにかったんだ。
「ま、そうなるか。でもよ、ここで戦った時は現役だったからな。今と比べっと、どうだろうな?」
何だかちょっとむずかしいことを言ってるから、僕はわからなくて、くびをちょこんってまげてるてると、ローリーせんせいがおしえてくれた。
「昔のゴンザ殿は、今よりももっと強かったそうです。だから、簡単に比べられないと言っているのですよ」
「そっかあ――。それじゃあ、おとーさんはむかしのゴンおじちゃんと同じくらいなのかな?」
「たぶん、あん時の俺より強えと思う。あいつは、魔法も使わず素手で俺と遣りあったんだからな」
おとーさんがゴンおじちゃんよりも強いって聞いて、僕はすっごくうれしかった。
「よし、行くか」
「うん」
中に入るとこへ行くと、そこにいたおにーさんに声をかけられた。
「済みません。亜人を連れて中には入らないでください」
あじんって何だろうって思ってたら、そのおにーさんが僕を見たんだ。
「例え子供であろうとも、亜人を中に入れる訳にはいきませんからね」
僕は中に入っちゃだめだって言われて、すっごくかなしくて泣きたくなっちゃった。でも、ゴンおじちゃんがおこったんだ。
「んだと、テメエ! そんなの子供にゃ何の関係もねえだろうが! それとも何か?! こいつが罪でも犯したってのか?! 何もしてねえだろうがっ! 第一、俺の顔も知らねえなんざ、武術の武の字も知らねえど素人だろっ! そんな奴がここに居て良いわきゃねえ! さっさとどっか行きやがれ!」
「な、何ですかあなたは――! 僕はこれでも騎士見習――」
「どうしました? 何を揉めているのです」
おくからあたまが真っ白なおいじちゃんが出て来て、けんかするゴンおじちゃんとおにーさんに声をかけた。
「こ、この方達が――」
「亜人の子供は帰れって、この馬鹿に言われたんだよ」
「確かに亜人種の出入りは厳しくせよ、と言いましたが……、帰せ、とは言っていない筈です」
おじいちゃんに言われて、おにーさんがあわてはじめちゃった。
「で、ですが――」
「それに、この方は第四十回大会の優勝者、ゴンザ・ミール様ですよ? その位は確認したのでしょうね?」
「い、いえ……」
おじいちゃんはいきをふーってはいて、首をふってた。
「まったく、これだから若い者は……」
そしておじいちゃんはしゃがむと、僕の目を見て言ったんだ。
「悲しい思いをさせて済まんな、ぼく。あのお兄さんは私が叱っておくから、許してくれるかい?」
だから、げんきにおへんじをした。
「うん、いいよ! おにーさんもおしごとなんだからしかたないもん! ありがとう、おじいちゃん!」
「そうかそうか、ぼくは優しい良い子だな。今日はいっぱい楽しんでいきなさい」
真っ白あたまのおじいちゃんは、とってもやさしかった。
まだあったことないけど、僕のおじいちゃんもやさしいといいな。
ゴンおじちゃんとまた手をつないで、とことこ歩くと、そこにはすっごいいっぱいの人がすわってた。
真ん中はひろばになってて、そこをぐるっといっぱいの人がすわって見てる。
そして、僕は見つけた。
「あ、おとーさんだ!」
おとーさんが女の人とならんで立ってて、何かおはなしをしてるみたい。
でも、僕がおっきい声を出しても、聞こえないかもしんない。
だって、こんなにいっぱいの人がおっきい声だしてるんだもん。
でも、いいんだ! おとーさんを見れたから!
「さて、どこか良い席は――、お! ちょうどあそこが空いてるぜ!」
ゴンおじちゃんがきょろきょろしてたのは、僕たちがすわるとこをさがしてたみたい。
そこへ行ってすわると、前にだーれもいないから、僕にもひろばがよくみえた。
「ここは通路の上だし、ライルが座ってても見えるからな」
そっかあ、だからゴンおじちゃんはきょろきょろしてたのかあ。
「ありがとう、ゴンおじちゃん」
僕はおれいを言った。
だって、僕のためにさがしてくれたんだもん。おれいを言わないと、おとーさんにもおかーさんたちにもおこられちゃうよ。
「礼を言われる程のこっちゃねえよ」
なぜかゴンおじちゃんは僕を見ないで、ほっぺをゆびでぽりぽりしてた。
なんでかなあ?
「では、これより組み合わせを発表いたします!」
おっきい声が聞こえたから、僕は前をむいた。
「さて、あいつはどの組になるかな?」
じゅんばんになまえが言われてたけど、おとーさんは一番さいごだった。
「ねえ、おとーさんはさいごなの?」
「その様ですね。これでは夕方になってしまうかも知れません」
僕はがっかりしちゃった。
「でもよ、意外と楽しめると思うぜ? 特に、一番最初の試合なんかはな」
がっかりしちゃった僕のあたまに、ぽんっておっきな手がのった。
「ライル、楽しめ。おめえさんはまだ、あいつの戦いしか見た事ねえんだろ? ここらで他の奴の戦いを見るのも悪くねえぞ」
おとーさんとちがう人のたたかいを見ると、どうなるんだろう?
ふしぎそうにしてる僕にローリーせんせいが言った。
「殿下、見る事も勉強になるのです。ですから、マサト殿の戦いの前に良く見ておきましょう」
見ててもおべんきょうになるなんて、ちょっとふしぎだなあ。
少ししてはじまったのを見て、僕はすっごいこうふんしちゃった。
だって、さいしょの女の人は男の人が剣を、えい、ってふっても、ぜんぜん当たらないし、まほうを、えい、ってしても、剣でばん、って切っちゃったりしたんだもん。それに、おどってるみたいで、とってもきれいだったし、さいごなんて、剣がいっぱいとび出たみたいになって、男の人はあっというまに倒れちゃったんだから。
「すげえな、あの刺突。現役時代の俺でも躱しきれねえぞ。それに魔法をぶった切るとか、なんだよありゃ。あいつも常識から外れた事をすっけど、あの女も半端じゃねえな」
「そうですね。あれはたぶんマサト殿でも躱しきるのは至難の業でしょうね。それに、単発の魔法でしたが、ああも簡単に捌かれてしまうとは、ちょっと厄介ですね。それも、かなり力を隠しての勝利の様ですから、これは少々どころの厄介さではなさそうです」
「まったくだ。流石、こんな大会を開くだけはあるわな」
何かゴンおじちゃんとローリーせんせいがむずかしいこと言ってるけど、僕はたのしかったからいいや。
僕はずっとすごいすごいってこうふんして、おひるごはんを食べたあとも、ずっとこうふんしてた。
だって、みんなすっごいんだもん。剣をばーんってふって、あいての人もそれを、えい、ってうけちゃうし、まほうだって、ぼん、ってなるし、あんなの僕じゃぜったいうけられないよ。
「おとーさんは何で僕に出てほしかったのかなあ? すごい人がいっぱい出てるのに」
僕が首をちょこんってまげて、ふしぎに思ってそう言ったら、ローリーせんせいが答えてくれた。
「そうですね――。たぶんですが、殿下とマサト殿のお二人で、この国の皇帝陛下の頼みを解決する心算だったのでしょう。どうやるのかは流石に私でも分かりませんが」
「そっかあ。ギリムおじちゃんのおねがいを、僕とおとーさんでかなえようとしてたのかあ」
でも、ローリーせんせいもやりかたが分からないなんて、やっぱりおとーさんはすごいなあ。
「ただ、少し心配です。マサト殿はこれを今、一人で成そうとしています。無茶をしなければ良いのですが……」
「この国をなんとかしてくれってあれを、一人で遣ろうとしてんのか、あいつは?」
「たぶん」
「何考えてやがんだよ……。一国の問題を一人で命懸けとか、正気の沙汰じゃねえぞ?」
え? おとーさんしんじゃうの?
「そんなの僕やだよ! おとーさんといっしょにいたいのに!」
僕がおっきい声を出したから、まわりの人がこっちを見てる。でも、僕は気にしない。
「すぐにいこうよ! おとーさんのとこに!」
だけど、ローリーせんせいが首をふった。
「今すぐは無理です。ですから、これから戦うマサト殿を見て、どうするかを決めましょう」
むずかしい顔をしてたけど、ローリーせんせいははんたいしなかった。でも、今すぐはだめだって言われちゃった僕は、ちょっとあたまにきた。だけど、ローリーせんせいの言うことは、おとーさんといっしょで正しいのも知ってるから、あたまにきたけど、がんばってがまんした。
僕だっておとーさんの力になれるんだって分かったから、ローリーせんせいの言うことは聞かなくちゃ。そうすれば、おとーさんにあえるんだもん。
「マサト殿が来ましたよ」
おとーさんが来たって言われて、僕はいそいで前をむいた。
「あ、ほんとうだ! おとーさーん!」
やっぱり僕のおっきい声じゃ聞こえないみたい。
でもいいんだ。かならずおとーさんにあえるって分かったから。
「それでは――、始めっ!」
おとーさんのしあいがはじまった。
あいてのおっきい人が、すっごいいきおいでおとーさんに向かって行って、剣を、えい! ってまっすぐ出した。でも、おとーさんはぜんぜんうごかないで、それをとめちゃって、それに、あれは、たて、っていうのかなあ。それであたまをがーんってなぐられたのに、ぜんぜんうごかなくて、僕はすっごいびっくりした。
でも、それは僕だけじゃなかった。
「おいおい何だよありゃ? あいつ何遣ったんだ?!」
ゴンおじちゃんもすっごいおどろいてたし、まわりの人たちも何も言わなくなっちゃった。
「たぶん、魔法障壁の応用でしょうね。普段は全身に巡らせている魔力を受ける箇所に集中して発生させたのでしょう。ですが、あれは私でも真似は出来ません。流石はマサト殿、と言うべきでしょうか」
ローリーせんせいがほめてる。
おとーさんってやっぱりすごいや!
おっきい人がはなれちゃったなー、って思ってたら、おとーさんがうしろにとんだあと、すぐにじめんから氷がぶわーっていっぱいはえてきて、おっきい人がまほうをつかったんだ、って分かった。そして、はなれてるのに剣をふったのが見えたら、いきなりものすごい火がぶわーって出てきて、おとーさんとおっきい人の間に火のかべができちゃった。
「おいおい、幾らなんでも遣りすぎだろ、これ」
「そうですねえ。まあ、マサト殿は派手好きと聞いていますし、らしいと言えばらしいですが」
おとーさんのまほうってすごいなあ。
でも、おとーさんがとんっておりた時、うしろのじめんがどかーんって持ち上がって、おとーさんの上に、こおりがいっぱいいっぱい出てきて、火のかべからおっきい人もとび出してきて、真っ赤な剣をつき出してた。
僕はおとーさんがしんじゃう! っておもったけど、でも、おとーさんはおっきい人に向かって行って、おっきい人の剣はおとーさんにささったけど、おとーさんがおっきい人をつかんだら、なぜかおっきい人は剣とたてをはなして、しゃがんじゃったんだ。
そして、おとーさんに手をのばした時、
「見るんじゃねえ!」
ゴンおじちゃんに目をふさがれちゃった。
何で見ちゃいけなかったんだろう?
だけど、すぐにその手をどかして見た時は、そこにはおとーさんしかいなかった。
おっきい人はどこ行っちゃったんだろ?
「なんてえげつねえ事しやがんだ、あいつは……」
「これは――流石の私でもちょっと……」
何だかゴンおじちゃんもローリーせんせいも、顔がぐにゅってなってる。
いやなことでもあったのかな?
そしたら、おとーさんがものすごい声でわらいはじめて、それを聞いた僕は、すっごくこわかった。
おとーさん! どうしちゃったの?!
*
試合終了後、直ぐに控え室へと戻った俺の元に、オラス団長が扉を荒々しく開けて飛び込んでくると、何故あんな事をしたのかと、物凄い剣幕で問い詰められ、それに一言も答えず無視を決め込んでいたら、皇帝陛下も甚く御立腹で、用意された部屋も取り上げられてしまった事も聞かされた。
別にこの控え室でもいいけどね。結構快適だし。
尤も、全力でやってもいい、と言ったのはオラス団長な訳で、その事を突くと口篭ったが、次も同じ事をしたのならば、騎士団全員でもって俺を叩き潰す、と宣言した後、部屋から出て行ってしまった。
何れ敵に回す予定ではいるが、今はまだ騎士団を敵に回すのは、不味い。少なくとも、決勝まで行ってからでないと駄目だ。それに、まだ彼女達が姿を見せていない。
この二組が同時に揃わないと、俺は本当にだたの悪に成り下がってしまう。
但し、その前に出て来て欲しい連中も居るのだが、そう簡単に行くとは思えない。なので、次あたりから出て来ざるを得ない様に仕向けないと駄目だろう。
オラス団長が居なくなった後、この先の事を思い、考えを巡らせていたが、脇腹から継続的に湧き上がる痛みに顔を顰めた瞬間、嘔吐感に襲われてトイレへと駆け込んだ。
でも、昼食を取っていないから、大して出る物など有りはしない。
だがそれでも、俺は吐き続けた。
体の中から何かを追い出す様に。
その間中、目や耳、口から炎を吐き出し苦しむイーズ団長の恨みがましい表情が、硬く閉じている筈の目の前を過ぎり、問い詰めてくる。
何故殺した。
何故俺なんだ。
何故俺が死ぬ必要があった。
何故答えない。
何故……何故……。
今の俺がそれに答える事は、出来る筈も無かった。
そして、いくつもの何故を繰り返すイーズ団長に耐え切れなくなった頃、俺は絶叫していた。
「俺にそんな事分かる訳ないだろうがっ! いい加減消えてくれよ! 出てくるなよ! あんたは……死んだんだから!!」
でも、本当は分かっていた。
彼は死ぬ必要が無かった事を。
殺す必要も無かった事を。
だけど、俺は始めてしまった。
だからもう、止まる訳にはいかない。
差し出された手を振り解かない為に。
その手を引き上げる為に。
俺は進む。
自分自身を信じて。
彼女達を信じて。
「俺は、決めたんだ……」
ゆっくりと立ち上がり、少しふら付きながら長椅子へ戻ると俺は横になり、そのまま目を閉じるのだった。




