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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第三章
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ローリー教授推参

 議論の余地など無い、とばかりに、非常識のレッテルを張られてしまった俺だが、こっちの世界の常識を知らない訳ではない。

 確かに魔法に関しては、こっちの世界の常識から外れている事をしているとは思う。でも、それは常識の殻を破っているだけで、根本的な部分は常識の範囲内に収まっている筈なのだ。

 例えば、多くの魔術師が使う魔法――言霊魔法と言われている――だが、これは詠唱をする事でイメージを具現化させる、という物。そして、そのプロセスを紐解けば、発する言葉に魔力を乗せて練り上げ形を作り、その言霊に沿って作り上げたイメージに更に魔力を固めて放つ、という方法を取っている。だが、これにかなりの無駄があると言う事に気が付いた時、何時も使う魔法を具現化するのに、詠唱は必要なのだろうか? という疑問が出て来た。

 こんな事を疑問に思ったのも、実の所は、面倒くさい、の一言に尽きるのだが、何時も使う魔法であれば、イメージもそのプロセスも体に染み込んでいる筈なので、ひょっとすると詠唱はいらないのでは無いか、との考えに至ったのは極当たり前の事だと思う。

 それを実際に遣るにはイメージが大事なので、しっかりと思う浮かべてそこに魔力を乗せる、という方法を試してみたのだ。勿論、乗せる、とは言うものの、魔力を練り上げるプロセスは詠唱をする時とそれほどの違いは無い。ただ、イメージを組み上げながら瞬時に魔力を練り上げて行くのだから、当然、詠唱をするよりも速く、放つ間隔も短く出来て、慣れてしまえばそこそこの連射が可能になる。そして何よりも大きなメリットが、詠唱を殆ど必要としなくなった事により、遠距離から放つ事が常識とされていた魔法を、近接戦闘をしながら放つ事が可能になった。

 最も、これは言霊魔法に限った話で、理魔法の場合はこの手法を使う事すら出来ない。何故なら、世界の事象を(もく)()()(ごん)(すい)、に当て嵌め、その一つ一つに魔力を込めて魔法を完成させ、最後に合成して放つ、と言う手法を取る為、イメージするだけでは全く意味を成さないのだ。

 そして、それに輪を掛けて扱い難いのが精霊魔法。

 どれ程扱い難いのかと言えば、契約した精霊以外の属性は扱う事が出来ない、と言えば分かると思う。そして、それに加えて精霊魔法では詠唱を省く事が全く出来ない。これは契約精霊を使役する、という特性が有るからで、詠唱無しで使う事は事実上不可能だからだ。

 ただ、俺の場合は詠唱はするものの、契約も無しにお願い、と言う形で精霊魔法を行使してしまうので、これに至っては常識云々ではなく、常識外れの規格外も良い所、とはウェスラの弁。しかし、俺の意識の中では、精霊イコール神様に近い存在、と成っているので、お願いをする、と言う事自体が常識の範疇に収まっている。

 実際、神様も精霊も精神生命体なのだから、同列に近い存在だと思うんだけど、どうもこっちの世界では認識が違う様で、神様は神様、精霊は精霊、と完全に分けて考えているらしい。

 ま、俺の考え方を分かって貰うには、こっちの世界では無理っぽいけどさ。なんせ、日本は八百万の神の世界だしね。

 持って来た弁当を食べながら、そんな俺独自の魔法に対する考え方をマリエに話をした。

 勿論、俺が異世界の人間って事が分かるような事は伏せてだけど。

 あ、ちなみに、弁当持ちはリエルが担当してくれた。なんせ、空間拡張魔装機を持ってるしね。

「なるほど、そう聞くと確かに言霊魔法はに無駄が多いな。まあ、他の魔法は私では扱えないので、聞いた意味は無いが」

 言霊魔法に関しては一発で納得したようだ。

「まあ、ワシもそれを聞いた時は目から苔が剥がれ落ちた気分じゃったからのう」

 こっちでは目から鱗は、苔って言うのか。覚えておこうっと。

「じゃが、マサトの理論で行けば、理魔法も同じ事が出来るのではないか?」

 確かにウェスラの言うとおり、可能だとは思う。だけど、その現象が起きるプロセスを正確に認識して正しくイメージ出来なければ、言霊魔法と同じ手法はまず取れない。

「出来なくは無い、と思う。でもさ、最終的に放つ魔法がどういった原理で起こるかが分からないと、たぶん、無理だと思うよ」

 ちなみに魔法談義には、ローザやキシュア、フェリスとリエル――あとゴンさんも――は混ざる事が出来ない。

 ローザは魔法を殆ど使わないし、キシュアは死霊魔法がメインなので、まったく別系統の理論だし、フェリスに至っては魔方陣を使うと言う、この世界では異端の存在だ。そして、リエルは魔装機の開発者という事からも分かるように、魔装を使った戦いに特化している為、魔法その物を使った所を見た事が無い。それにゴンさんはまったく使えない様なので、こう言っちゃ何だけど、この際、無視でいい。

 実際、ライルと戯れてるしね。

 しかし、ライルもゴンさんの何所が気に入ったんだろうなあ。今度聞いてみるか。

「でもさ、言霊魔法ってぶっちゃけちゃうと、あれ、決まった詠唱って無いのよね」

 リエルの発言に、俺達は目を丸くした。

「リエルは魔法が使えぬのではないのか?」

 キシュアが俺達の気持ちを代弁してそんな事を発言するが、

「でも、使えない、とは聞いてませんよね?」

 すかさずローザがその事を否定した。

「うん、ローザちゃんの言ってる事が正しいかな? あたしは使えないんじゃなくて使わないだけだし」

 使った所を見た事がなかったので、少し勘違いしてしまっていた様だ。

「だって、ポンちゃんに組み込んである魔法って、あたしが使えなければ組み込めないし、それに、魔装機開発って、魔法の事知らないと出来ないのよ?」

 穏やかな笑みを浮べて、少し誇らしげに彼女は語っていた。

 魔装機は魔法を知らないと開発出来ない。これは彼女の言うとおりだと思う。そもそも、魔力感知充填核、という物を理解するには魔力の事もそうだが、魔法の原理を知らないとどうにもならないらしい。俺も詳しくは知らないし、知った所で分かる筈も無いので細かくは教えてもらっていないが、魔装機開発に魔法は必須だと言う事だ。

「話は逸れちゃったけど、言霊魔法って決まった詠唱が無いからマサトくんの言っている事も有りだと思う。だって、最終的な結果が同じなら、発動が早い方が優秀って事だもんね」

「確かにリエル殿の言うとおりだ。私も魔法は使うが、遠距離からの牽制が主な使い方だったしな。しかし、今の話を聞いては練習をしない訳にはいかないな」

 マリエは腕を組んで真剣な表情で考え込み、唸り始めてしまったが、少し釘を差して措かないといけない。

「練習するのはいいんだけど、絶対他の人には言わないでもらえないか?」

「何故だ? これ程素晴らしい事を他人に教えない等、勿体無いではないか」

 やっぱり無詠唱に近い魔法の危うさには気が付いていない。

「これってさ、使い方に因っては皇帝陛下を、暗殺、という形で弑逆する事も出来るんだよ。だって、殆ど詠唱がいらないんだから、暗殺者にとって、これ程都合のいい魔法もないだろ?」

 この一言でマリエの顔から血の気が一気に引いていった。

「それに、皇帝陛下だけじゃなく、自分にとって邪魔な者を殺すのだって簡単なんだよ?」

「そ、それは……」

「詰まり、権力欲がある者にこの事が伝われば、必然的にどうなるかなんて、マリエなら十分、分かるだろ?」

 ゆっくりと彼女は頷き、唇を震わせながら了承の言葉を紡ぎ出した。

「わ、分かった……。絶対――、口外しないと、誓う」

 これでマリエは無詠唱の怖さを知った事に成る。ただ、それだからと言って必要以上に怖がられても困る。

「まあ、とりあえず練習する時は、俺達と一緒に狩りへ出た時にしてもらえると助かる。俺とウェスラが助言出来るから、結構短時間で物に出来るしね」

 その時突然、重々しい声が響いた。

『何やら楽しげな事を話していらっしゃいますな』

 マリエとゴンさんはその声に一瞬にして臨戦態勢へと移り、夫々の得物を手に立ち上がり構えたが、俺達には聞き慣れた声なので、慌てる事はない。

 最も、リエルが慌てていないのが不思議で目線を飛ばすと、何時の間にか眠っていたのには驚いた。

 食って直ぐに寝ると牛になるぞ。

「どうしたんだよ。こんな所まで来るなんて」

 俺が声の方へと振り向くと、茂みを掻き分けて三匹の三頭犬(ケルベロス)が姿を現した。

「三匹――! 一匹は角付き、だと!?」

「特殊個体ってやつかよっ!」

 二人が声を上げ更に緊張の姿勢を深める。

『おや? 見慣れない人間が三体も居りますな』

 特殊個体、と言われた三頭犬は慌てた風もなく、平然としている。

「ん? ああ、ローリー教授は初めてだったな」

「ろーりー?」

「教授?」

 二人ともそう言った後、呆けてしまった。

『ご紹介頂けると助かるのですが』

 ローリー教授は見た目と違い、言葉使いが丁寧なのが面白い所だ。

「そうだな、三人とも俺の仲間だし、今後の事もあるからそうするか」

『宜しくお願い致します』

 そして三人を紹介してから、教授の後に控える三頭犬の事を聞いた。

「なあ、ローリー教授の後に居るのって……」

『これは失礼致しました。この者達は我が子に御座います』

 後に控える二匹を促して前へと出させ、

『さあ、挨拶をするのだ』

 そう言って、三つある首のうちの一つを振る。

 なんか、便利そうだな。

――お初にお目に掛かります。自分は父上の第一子で御座います。

 一匹目の声が頭の中へ響き渡り、マリエとゴンさんは驚いて周囲を見回している。

――ご尊顔を承り、恐悦至極に存じます。私は第二子で御座います。

 二匹目は雌の様で、目元が僅かにそれを主張するように、柔和な感じを受けた。

「長男と長女か」

『はい』

「名前って、やっぱり無いの?」

『我等は名を付けませんので』

 俺のそんな疑問は、当然、とばかりに一蹴されてしまった。

 名前が無いと不便なんだよな、色々と。

 そんな訳で、俺がチラリ、とフェリスへ目線を送ると、彼女は微かに頷いてくれた。

「よし、フェリスから許可が出たぞ」

『おお! 有り難う御座います、女王陛下!』

――我等に名をお与え下さる等、何と寛大な!

 耳と頭、同時に声が響くと流石にやかましい。

「それじゃあ……、長男はファスで、長女はセリ、でどうだ?」

 俺は気軽に名付けた。

 ま、悩んだ所でいい名前が出てくる筈もないしね。

――素晴らしき名をお与え下さり、恐悦至極に存じます。

――何と言う心地よい響きなのでしょう。

 二匹とも満足してくれた様で、俺も嬉しい。

「今後とも宜しく頼むぞ」

――この命に代えましても!

――我等が主様の為ならば身を粉にして尽くさせて頂きましょう!

 何時も思うが、凄い忠誠心だよな。

『ワンワワンワン!』

『おお、これはライル殿下ではありませんか!』

『ワン!』

『お元気そうで御座いますな』

『ワンワン』

『ところで、人化の術はどうで御座いますかな?』

『ワ……』

 その一言で、ライルが固まった。

 しっかし、何言ってるのか相変わらず良く分からないな。

「それなんだがよう。お前、ライルに就いてやって教えてくんねえか?」

 顔を顰めながら頭を掻いて俺の隣へとフェリスが並ぶ。

何故(なにゆえ)私如きが?』

「俺じゃちょっと上手く教えられなくてな。厳し過ぎて逃げられちまうんだよ。しかも、この馬鹿が甘やかすから余計でよう」

 ジロリ、と睨まれるが、俺はそんな事では怯みもしない。

「だってお前、ライルの事叩いてるだろ? あれ、良くないぞ?」

「しょ、しょうがねえだろ! 物覚えが悪いんだし!」

「ありゃ物覚えじゃねえ! フェリスの教え方が悪い! 俺が魔法障壁の事を聞いた時だってそうじゃないか。気合でこうだ! とか、魔力をこんな風にダーっと流してとか、もっと、理論的且つ分かり易くしてくれないと、覚えるものも覚えられないぞ」

「う……で、でも――」

「でもじゃ――」

『夫婦喧嘩は子の前でするものでは御座いませんぞ?』

 痛い所を教授に突かれてしまった。

「そうだぜ、ローリー教授だっけか? そいつの言うとおりだぞ」

 ゴンさんにまで言われ、俺達は愕然としてしまう。

『私の意見に同意して頂けるなど、有り難いですな』

 ゴンさんに対して、三つの首を下げて礼を取るローリー教授。

「礼を言われるほどのこっちゃねえよ。人の間でも常識だからよ」

 対するゴンさんは手を振りながら、爽やかな笑顔を返していた。

 早くも馴染んでるやがる……。ゴンさん侮り難し。

『そうで御座いましたか。いやはや、我等も人も、子に対する姿勢は同じ様ですな』

 そう言った後、教授は笑い声を上げていた。

 三頭犬も意外と文化的思想は高いんだな。

『しかし、女王陛下の教え方が悪い事は分かりました。と成れば、私がお教えするしかありませんでしょうな』

 ローリー教授がウェスラに匹敵するくらい魔法に関して博識な事は既に知ってはいるが、あの姿のままでは一緒に居られる筈もないし、かと言って、毎日ここへ来る訳にも行かない。なので、どうやって教えるのだろうと、そんな疑問が浮かんだ。

「でもよ、いくら俺たちでも毎日ここには来れねえぞ?」

 ゴンさんが俺の思っていた事を口にすると、教授の頭全部の口元が歪む。

 なんか、すっごい迫力あるな。

『私が人化すれば良いだけの事ですよ』

 その一言でゴンさんは口をポカンと開けて呆けてしまった。

 ま、そりゃそうだ。俺だって三頭犬が人化なんて聞いた事ないもん。

「実は俺も人化はこいつに教わったんだよ」

 どうやら俺も表情に驚きが漏れていた様で、苦笑交じりのフェリスにそう言われてしまった。

「って事は、ローリー教授はフェリスより長く生きてるのか?」

『然様で御座います。女王陛下が幼少の(みぎり)は、私が教育係りでしたからな。まあ、どうしてここまで口が悪く成られたのかは知りませんが』

「口が悪いは余計だ!」

 フェリスは少しだけ剥れ、教授は含み笑いを漏らしていた。

 なんか、凄い事になって来たぞう。

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