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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第一章
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またゲットだぜ

 静寂の中、俺は残身を解いて緊張を緩め、一息付く。そして、転がるゴンさんを見て驚いた。

 今俺が出せる限界に近い力を込めた一撃を見舞った筈だったのだが、彼は意識を失っていなかったのだ。それどころか、まだ立ち上がろうと足掻いている。最も、立ち上がったとしても、まともに戦えるとは思えないのだが、その意志力は称賛に値する。

 そんな彼に向かい足を動かし、そして、声を掛けた。

「驚いた。あれを受けて意識があるなんて」

 これは俺の正直な感想だ。

「この程度で――意識を手放す奴は一流じゃねえ……」

 苦しげに言葉を吐き出す彼を見ていると、効いていない訳でもなさそうだった。

 それでも何とか立ち上がろうと身を捻るゴンさんに、手を差し出すと、それを不思議そうに見詰めた後、視線を俺に向けた。

「情けを掛けようってのか?」

「違います。これはお礼です。ゴンさんのお陰で俺は初めて自分の全力を出せた。だから――」

 最後まで言う前にゴンさんが俺の手を握り、口元に笑みを浮かべる。

「なら、遠慮は要らねえよな」

 そのまま引っ張られて体制を崩し、膝を付いてしまった。

「なにを――」

 するんですか、と言い掛けて、

「油断は禁物だぜ?」

 悪戯が成功した子供の様な笑みで言われて気が付いた。

「命を掛けた真剣勝負なら、俺の負けって事ですね」

「ま、そう言うこった」

 互いに笑みを交わして立ち上がると、観客から盛大な拍手と声援が送られていた事に気が付き、少し気恥ずかしさを覚えたが、

「この場はお前が勝者だ。観客に手ぐらい振れよ」

 ゴンさんに言われ手を振ろうとした時、解説者らしき人物の声が響き渡った。

「皆様、ご静粛に願います。これより、大公殿下からのお言葉が御座います」

 それを受けて観客は静まり、俺の隣からは舌打ちが聞こえてくる。

 なぜに舌打ち?

「まったく、あのアホ殿下。また難癖を付ける心算だな」

 それ聞こえたら不敬罪になるんじゃないの?

 などと思いもしたが、それが聞こえる範囲には俺以外、誰も居ない。

「随分と大公殿下の事、嫌ってるんですね」

「今のこの国で、あの殿下が好きな奴は少ねえよ。ま、先代は別だがな」

「もしかして、かなり自分勝手なんですか?」

「自分勝手どころじゃねえよ。ありゃ、体がでっかいだけの只のガキだ」

 なるほど、と納得出来た。要するに、自分の思った通りにならないと気が済まない性格って事だ。

 そんな事を話していると、唐突に言葉が流れ始める。

「僕は今日ほど失望した日は無い。何故なら最後の試合で決まりが破られたからだ!」

 何言ってんだ? ルールは破ってないはずだぞ。

「観客の諸君は不思議に思わなかったか? あの二人の戦いを見て! 僕は直ぐに見破った! ハザマ卿が魔法を使った事を!」

 観客の一部がざわめき始める。

 おいおい、何アホな事言うんだよ。

「僕はこの試合だけは魔法抜きで純粋な力のみで戦う様に指示した。だが、それが守られる事はなかった。その証拠があの獣の如き動き! 人が獣の様な動きなど出来る筈が無いのだ! それは即ち、魔法を使って身体能力を上げた証拠だ!」

 更にざわめきが大きくなり、俺がゴンさんに呆れた目線を送ると、彼は苦虫を噛み潰した様な表情で怒りを露にして、大公殿下を睨み付けていた。

「ふざけんじゃねえぞ……。俺達の戦いを見世物にしただけじゃ飽き足らず、ケチまで付けようってのかよ……!」

 それには同意だが、相手が悪過ぎる。なんせ相手は大公殿下だ。それも我侭一杯と来ては、面と向かって暴言を吐こうものなら、即、不敬罪でぶちこまれるに違いない。

「だが、(あえ)て僕は許そう! それは、魔法を使わねば粉砕に勝てないと言っている様なものなのだから! 因ってこの試合! 僕は粉砕の勝利としたい!」

 アホ殿下が貴賓席で両腕を広げて、寛大な姿勢を見せてはいるが、観客の間には微妙な空気が流れていた。

 それはそうだ。魔法を使っているかどうかなんて、ある程度目が肥えている者なら直ぐに分かるからだ。

 大体、解説者の顔を見ても、この馬鹿、何をほざいてるんだ、と言った感じで呆気に取られていたのだから。

 だけど、これは非常に不味い。俺は別に構わないが、家の奥様方が絶対黙っていない。しかも、ローザを除いた三人は魔法がバッチリ使える。況してやウェスラには、セルスリウス城を破壊した、という前科がある。

「なあ、ゴンさん。この国って税収どんくらいある?」

 俺のこの問い掛けには訝しげな表情を見せるゴンさん。

 最も、この反応は当たり前だろう。だが、俺は聞かずには居られなかった。

「何関係ねえ事言ってんだ?」

 これも当然の反応だ。

「いやあ、ちょっと言い難いんだけど、ウェスラ達が俺の事で怒ると、たぶんこの国が傾くんじゃないかなあ、と……」

「はあ? なんで――」

 その続きはたぶん言えないと思う。突如として轟音が響き渡ったのだから。そして、そちらに顔を向けると、無常にも城が崩壊の憂き目に遭っていた。

「あーあ、やっちゃった」

 呟きと共に観客席に目を向けると、その一角だけが見事なまでに空いていて、そして、貴賓席では大公殿下が両腕を振り上げた姿勢で、愕然としたまま固まっていた。

「もしかして、お前が言ってたのって――これかよ……」

 苦笑いと共に俺が頷く。

 それと同時に、ウェスラの声が闘技場に響き渡った。

「そこの馬鹿者! ワシの夫を愚弄するとはいい度胸じゃ! 因って、手始めに城を更地に変えてやった! 次は如何様な事をされたいのじゃ!?」

 そして直ぐに――、

「テメエがこの国の頭か! 俺の番を馬鹿にするなら一族全員でもって相手すんぞ、ごらあ!」

 最強コンビが宣戦布告をしていた。

 個人で国に宣戦布告できる戦力を持った覚えはないんだけどなあ……。

「おい、アイシン様は分かるが、もう一人の姉ちゃんはなんだ?」

 眉根に皺を寄せてフェリスの事を聞かれたので、一言だけ告げた。

「フェンリルの女王で俺の妻」

「って事は何か?! あのアホ殿下、フェンリルに喧嘩売ったのと同じってのかよ!」

「そうなるかな?」

「おいおい、それじゃあ……」

「まあ、俺が止めなければ国が滅ぶ?」

「なんで疑問系なんだよ!」

「だって、大公殿下の返答次第だしね」

「何とかならねえのかよ」

 何とかねえ……。

「出来なくは――無い、かも?」

「ほ、本当か?!」

 たぶん、皇帝陛下からの手紙を見せれば一発だと思う。何故なら、謁見した時に、ここでの顛末を報告すれば、大公殿下は何らかの責任を取らされるからだ。

「うん、一応、俺達、ヴェロン帝国皇帝陛下に招待されてる身だしね」

「は?」

「直筆の手紙貰ってるんですよ」

「はあああああ?! お、おまっ! それって……!」

 ゴンさんが絶句して固まった。

 無理も無い。なんせ俺達はヴェロン帝国の賓客扱いのようなものだしね。ただ、その手紙を見せても信じてはくれるかどうかが、一番の問題だったりするけれど。

「まあ、とりあえず行って来る」

「行くって――お前どうやっ――」

 気軽に翼を生やし空へと舞い上がる。

 下ではゴンさんが口を大きく開けたまま再び固まり、同時に観客の度肝をも抜き、しかも、貴賓席に向かって飛んでいくのだ。それは警戒されて当然で、周囲に控えたこの国の魔術師達や弓兵から狙われまくる羽目になった。

 最も、その攻撃全てを風魔法で無効化した。ただその時、何故か志向性の風刃が発生して、俺を狙った相手に傷を負わせた事は内緒だ。

 精霊さんが怒ったのかもしれない、と言う事にしておこう!

 固まる大公殿下の前で浮遊状態で止まると、

「貴様! それ以上近付けば命は無い物と思え!」

 裏から騎士様が大量発生して、ついでに魔装砲まで突き付けられた。

「別に殿下にどうこうする心算はありません。ただ、これを見て驚くかなあと――」

 懐に大事に仕舞って置いた手紙をヒラヒラと見せた。

 その手紙の表面には、盾の中の中央に羽を広げた竜が、その羽の下に獅子と熊の横顔を象った紋章が印刷されていて、それを見た騎士達は目を見開いて固まっていた。

 あれ? 効き目が強すぎた?

「き、き、き、貴様……ま、まさか……」

 その時、大公殿下が辛うじて口を開き呟き始めたが、俺はそれを無視して口を開いた。

「俺達、ヴェロン帝国皇帝陛下から直々に招待受けてるんですよ。なので、謁見した時に、ここでの出来事を話す許可頂けませんか?」

 この一言で殿下は青ざめて力なくその場にへたり込んでしまい、騎士達すら戦意を喪失していた。

 あー、やっぱ効き目が強すぎたみたいだ。

 動かなくなった殿下と騎士は無視して手紙を仕舞いながら、俺は隅の方で縮こまってこちらを伺うリエルさんに目線を送ると、

「リエルさん、帰ろうか」

 手を差し出して微笑み掛ける。すると、彼女の表情もいくらか明るくなり、笑顔で頷き返して来るが、直後、不安そうな表情を覗かせる。その原因は首に嵌った丈夫そうな首輪とそこから伸びる鎖。その鎖が壁に繋がり、彼女を縫い止めて居たからだ。

 それを確認した俺が無造作に右手を振るうと、微かな甲高い音と共に、断ち切られた鎖が石床を叩く音を響かせ(わだかま)り、そして、それを呆然と眺めてリエルさんは呟いた。

「今の――魔法……?」

「そうだよ」

「詠唱が……」

「ああ、イメージに魔力を乗せるだけだから詠唱なんていらないよ」

 彼女は目を見開いて絶句していた。

 あれ? 俺って変な事した?

「まあ、兎も角、さっさと行こう」

 彼女が動く気配を見せないので、強引にお姫様抱っこを敢行して、ゴンさんの元へと戻る。その間、何故か観客から歓喜と冷やかしの声があがり、物凄く恥ずかしい思いをしてしまった。

 その後、ゴンさんを連れ立って闘技場から出ると、四人が呆れ顔で出迎え、リエルさんは腰を深々と折って謝罪していた。

 ま、これである程度の蟠りは解消しただろうし、何の感のと言いつつ、四人とも優しいから仲良くしてくれるだろう。最も、夜のお相手は帝都ベルンに着くまでお預け、と言われていた様だけどね。

 そして俺はタエス公国でも有名となり、新たな二つ名が加わる事となった。

 その名は――。

〝強奪のハーレム王〟

 どうやらリエルさんを大公殿下の下から連れ去ったのが原因の様だった。

 確かに連れ去ったのは事実だが、別に強奪した訳じゃないんだけどなあ……。

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