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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第一章
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ポンちゃん復活とハーレム事情

 野外プレイの話が纏まり、何故かリエルさんまでもが加わる事になってしまって呆然としている所に、後方から蹄の音と、石畳を叩く車輪の音が聞こえて来る。

その音に惹かれる様に振り向くと、目の前に巨大な馬が聳え立っていた。

「むお?!」

 思わず驚きの声を上げる。

 そこには、ばんえい競馬とか農耕で使われる、体高が二メートル近くもある大きな馬がいた。

 そんな大きな馬が引くのは、通常サイズの馬ならば二頭立てで引くような荷馬車だ。しかも、その荷馬車が四台もあり、商隊の人数も御者を含めて十人余りも居た。

 最も、御者以外は皆武装しているので、それなりに腕に覚えはありそうだが。

「少々驚かせてしまったようですね」

 声が降ってきた方へと顔を向けると、一人の男が御者台に座っている。

「もしかしてあなた方ですか? 私共ザロン商会が依頼した護衛の方々は?」

 爽やかな笑顔と共に声が投げ掛けられた。

 その男の年の頃は三十前後に見える。銀髪で少し長めの髪を後で束ね、青い瞳と柔和な目元に少し大振りな鼻、そして、爽やかな笑みを形作る唇。体付きは戦う事よりも、日常での重い荷物を持つ事に慣れたような、がっしりとした上半身と丸太のような足。その姿は商人、と言うよりも、どう見ても人夫にしか見えない。

 男の言った商会の名前は依頼書と同じ。と言う事は、この人がこの商隊の代表なのだろう。

「はい、俺達が依頼を受けました」

 男は荷馬車から降りると、俺の方へと歩み寄り、笑顔と手を差し出しながら自己紹介をする。

「私はザロン商会で北部の輸送路を担当しておりますレジン・カーベルと申します」

「俺は、マサト・ハザマです。一応、このパーティーのリーダーをしています」

 差し出された手を握ると、意外と強めの力が返って来た。

「マサト・ハザマ――、ああ! あのハザマ様ですか! いや、これは、貴方様に護衛して頂ける等、光栄の至りです!」

 行き成り畏まった礼をされてしまった。

 うーむ、男爵位でもやっぱこうなるのか。

「男のロマンを体現されているお方として、私達一同、尊敬いたしておりますよ!」

 そっちかよ!

「ま、まあ、体現しているかどうかは兎も角、そんなに畏まらないで下さい」

 爵位で畏まったのかと思ったら、そっちで畏まるとか、おかしいだろそれ。もっとも、男爵位なんて下っ端もいいとこだし、その下は騎士候しかないしな。

 苦笑いで返しながら、そんな事を思っていた。

「でも、女ばっかじゃねえか。こんなんで役に立つのかよ」

 カーベルさんと話している脇から、不満そうに口を挟んできた男が居た。

 身長は二メートル近くもあり、かなりがっしりとした体付きだ。髪を短く切り揃え顎鬚(あごひげ)を蓄えた風貌は如何にもベテラン冒険者然としているが、顔の造作自体は醜い訳では無く、笑えばそれなりに女に持てそうな顔付きをしていた。

 ただ、男の感想は最もだと思った。

 ウェスラはローブで顔を隠してるから女としか分からないし、キシュアはあんなに可愛らしい格好だし、フェリスもローザも華奢だからな。最も、ローザの大剣を見てギョッとしてたみたいだけど。

「大丈夫よ。この()達の実力はあたしが保障するから」

 リエルさんが笑顔でスッと前へ出て来ると、その姿を見止めた二人の目が若干、驚きで見開かれたが、間を置かずに訝しげな表情へと変わった。

「なんでギルドの魔装機使いのあんたがここに居んだよ」

 冒険者風の男が不満そうに募った。

「あら? あたしが居ると何か都合でも悪いのかしら?」

 二人の間に火花が散った、様に見えたのは気のせいだろう。でも、余り仲は宜しくない様だ。

「そうじゃねえ! あの胸糞悪い魔装のお陰で俺は二級から上に上がれてねえんだよ! ったく、あんな凶悪なもん作りやがって!」

 男は忌々しげに唾を吐いた。

 公衆の面前でそう言う事しちゃ駄目だよ。今は人居ないけどさ。でも、この人も冒険者だったのか。

「あの程度が倒せないようじゃ、高が知れてるわね」

 薄く笑いながら肩を竦めて呆れた態度をリエルさんが取った。

 もしもーし、挑発はいけませんよー。

「てめえはぶっとばされてえのか?」

 男が拳を振り上げると、リエルさんは素早く俺の後に隠れる。

「おい、優男。そこをどけ」

 この人、完全に目が据わっちゃったよ。しかも、段々蟀谷(こめかみ)に青筋が浮かんできてるし、こりゃ、俺の後でリエルさんが何かやってるんだろうなあ。

「はいはい」

 素直にどいた。

 自分で巻いた種は自分で刈り取ってもらわないとね。

「ありがとよ。これでぶっとばせるぜ」

 口元を弓なりに吊り上げた男がリエルさんに向かって足を出すと、その彼女は俺に抗議の視線を送ってくる。

 そんな視線を送ってきても駄目です。自業自得なんですから。

 俺もしっかりとそう目で返しておいた。

 悔しそうに身を振るわせた彼女だけど、素早く腰に着けたポーチへ手を伸ばし、不敵な笑みを浮べ始める。

 何やらかす気だ、この人?

「うふふふ――。まさか、こんなところでお披露目するとは思わなかったけど……背に腹は変えられないわ」

 その言葉と同時に、何かボタンを押すような音が微かに聞こえた。

「これがつい最近完成したあたしの新しい魔装! 空間拡張魔装機! ヒローゲルくんよ!」

 凄い発明品なのに、名前を聞くと物凄く残念に聞こえるのは何故だろう?

「そして、――出でよ! ポンちゃん改!」

 叫び声と共に彼女の隣の空間が歪み、あの雪だるまを産み落とした。

 福笑いの顔、複数の腕に複数の武具、そして、ふよふよと地面に浮かぶ姿。紛れも無くそれは、俺が壊したあの雪だるま。ただし、腕が三対六本に増えていたけど。

「ポンちゃん!」

 思わず声に出してしまった。

 それが聞こえたのか、ポンちゃんは身動ぎを一つすると、猛烈な勢いで俺に迫り、周りをぐるぐると回りだし、その姿は何故だか嬉しそうに見えた。

「な、直してもらったんだ……」

 俺の呟きに慣性を無視してピタリ、と止まると、手にプラカードを持ち、その表面に文字が躍る。

 一体何所から出した?! これはもしかして考えたら負けか?! 負けなのか?! 

(そうだよ! 僕、直してもらったんだよ!)

 一応、精霊文字の勉強をしたお陰で、難しくなければ読める様に成っていたのが幸いだ。

「そ、そうか」

(ねえねえ、その子は?)

 プラカードの表面の文字が変わる。

 一体どんな原理なのだろうか?

「この子はライル。俺とフェリスの子供だ」

(そうなんだ! よろしくね! ライルくん!)

『ワワン!』

 あれ? ライルって精霊文字読めるのか。

 俺がそんな事を思い、フェリスに目線を向けると頷かれた。

「ちょ、ちょっと! ポンちゃん何してんのよ! こいつを何とかしなさい!」

 慌てたリエルさんが叫んでいるが、それを無視してポンちゃんはライルを撫でている。

「いいのか? 行かなくて?」

(大丈夫! 僕が行かなくてもお母さんなら何とかするよ!)

 確かに作った訳だから、生みの親には違いないが……。生物学的には違いすぎるだろ。

 ポンちゃんはリエルさんを無視し続け、リエルさんはポンちゃんに文句を言いながら男と追いかけっこを始め、俺達は半ば呆れながらそれを眺めていたのだった。




                  *




 敗者も勝者も無い不毛な追いかけっこも終わり、予定よりも若干遅れはしたが今は街を出て街道を北へと向かっている。

 まだ危険な地帯ではない為、俺達は隊列の後方に固まり、その後を着いて行くだけだが、それでも一応は警戒をしていた。

 周りがトウモロコシ畑なんで何も見えないけどね!

 無言で歩く俺たちの中で、一番元気なのがライルだ。

 商隊の一番前まで走って行ったかと思えば、直ぐに戻って来たり、時折、商隊の他の人の隣で嬉しそうに飛び跳ねていたりと、活発に動き回っている。それを見ている俺達や商隊の面々も、ライルのお陰で終始和やかな雰囲気に包まれていた。

「おいあれ、犬にしちゃ珍しいな」

 不意に話しかけられて顔を向けると、リエルさんと追いかけっこをした人が並んで歩いていた。

「えーと……」

 名前を聞き忘れていたので、何と呼べばいいのか口篭もっていると、

「ボスコ、ボスコ・ムーバってんだ。ボスコって呼んでくれていいぜ。ハーレム王さんよ」

 ニヤリとした笑いを落とされ、俺はそれに苦笑いで返す。

「で、あの犬だけどよ。珍しいよな。毛並みといい額に角といい、魔獣の子供にも見えるぜ」

 この人の考えは半分当たっている。確かにライルは犬じゃない。でも魔獣でもない。

「ああ、フェンリルの子供だよ。ライルってんだ」

 その目が大きく見開かれていく。

 差し詰め、こいつ何言ってやがる、とでも言いたいのだろう。一応説明だけはした方がよさそうだった。

「ライルはさ、フェリスの息子なんだよ。で、フェリスが俺の妻になったから、俺達と一緒に居るって訳さ」

 フェリスが一族の女王だとかは言わなくてもいいだろうと判断した。そこまでばらす必要もないし。

「そ、そうか……」

 とりあえずは納得してくれたようだ。

「なるほどな……。亜人殺しか……。納得したぜ」

 妙な方向で納得されたよっ! くそっ! なんだか墓穴を掘った気分だ。

「しっかしおめえも凄え野郎だな。こんだけ嫁を侍らせて、尚且つそれが全部亜人だとは、もしかして絶倫か?」

 何故話がそっちへいく。

「マサトは絶倫だぞ?」

 誰だ! ってこんな話に絡むのはキシュアか。

「ん? 嬢ちゃんももしかしてこいつの嫁か?」

「わらわは子供ではない。見た目で判断しないでもらおう」

 キシュアの場合は実年齢と容姿が乖離(かいり)してるからな。

「そうだな、人族じゃねえんだもんな」

 このボスコとか言う人、見た目に反して、仲良くなると結構気さくかもしれない。

「で、ほんとに絶倫なのか?」

「うむ、普段はわらわと姉さまの二人を相手にしてるからな。それに他の者とも毎日だ」

「おお、そりゃすげえ」

 何故かキシュアとコソコソと話してる様だけど、全部聞こえてるからな。

「それに、わらわが初めての時は、四人いっぺんだったぞ」

「ホントかよそりゃ?!」

「本当じゃ!」

 ウェスラまで出て来た!

「わたしの時は三人でしたよね?」

「マジか?!」

「俺の時は四人だったな」

 もういいや、好きにさせておこう。

「おいこら」

 ボスコさんの視線が俺に向けられる。

 なんでしょう?

「おめえ、絶倫にも程があんだろ」

 何の事ですかね?

「ったく、優男のくせして凄え奴だな。おまえはよ!」

 思いっきり背中を叩かれて、思わず転びそうになった。

「でもまあ、そんくれえじゃなきゃ、ハーレム王には成れねえってことか」

 何か一人で納得してしまった。

 でも、実際は結構疲れる。大体これだけ増えると、それなりに相手をしないといけないのもそうだが、どうも人間の女性よりも遥かに積極的なようで、それもまた毎日やる羽目になる原因だったりする。最も、それが羨ましいとか思われている様なのだが。

 肉食系とか言われたりするけど、その上を行く暴食系だしな。うちの奥様方は。

 そんな話をしているうちに、何時の間にか穀倉地帯を抜けて、草原へと出ていた。そこは見晴らしは良いものの、所々に大きな岩があったりして隠れる場所には事欠かない。

 そんな草原を駆け巡る風を感じながら、遠くを流れる雲を眺めつつ、俺達は何事も無く進む。そして、水場も近付いている事を知らされ、一行の中に安堵の空気が漂い始めた。

 そんな和やかな雰囲気の中、俺は、何かのフラグでも立ちそうだな、などと思っていたら、案の定、前方の岩陰からばらばらと人が湧き出した。

 ちょっとテンプレ過ぎて笑えないのは気のせいか?

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