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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ヴェロン帝国編 第一章
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草木は眠れど俺は眠れないかも

 それにしても寒い。コートを着てても全く意味が無いと感じるほど冷え込んでいる。これではまるであっちの世界の初冬と同じだ。

「九月なのになんでこんなに寒いんだよ……」

 つい愚痴が漏れた。

 山間部だからと、多少の覚悟はしていたが、どうやら覚悟が足りなかったらしい。。

「まあ、一応は山中じゃしの」

 ウェスラの言うとおり、この国は山中の盆地の様な高原に位置している。その所為もあり、北の国よりも冬の訪れが意外と早いのは分かる。でも、まだ九月でこの寒さは、はっきり言って冷えすぎだ。最も、こんな冷え方は心当たりが無い訳でもないが。

 それでも余りの寒さに文句の一つでも言いたかったが、言った所で温まる筈も無く、溜息を付くことでその代わりにした。

「マサトは寒がりだな」

 キシュアは何時もの戦闘服、というかゴスロリ服の上に真っ黒な毛皮のコートを羽織り、一人だけ暖かそうな格好をしている。

 俺にそれを下さい。

「――そんなに寒いんですか?」

 身に付けている物が俺よりも薄いのにそんな事を言うローザ。

「寒い、と言われりゃ寒いが、気合でどうにでもなるぜ!」

 更に寒そうな格好をしているフェリスは妙に元気だ。

 うん、この二人は絶対おかしい。

 でも、こうなったら仕方ない。あの手を使おう。

「ライルおいでー」

 息子の名を呼びながらしゃがんで笑顔を向けると、嬉しそうに尻尾を振りながらすっ飛んで来たので、それを捕まえて抱き抱えた。

「よしよし」

 その体温の高さに満足して顔面雪崩を引き起こして頬擦りすると、ライルも顔をぺろぺろと舐めてくるので、雪崩から土砂崩れに変わり、更に頬擦りをしてしまう。

 そんな様子を皆は呆れ顔で眺めるが、俺は気にしない。

 寒くなけりゃ満足だしな。

「はあ……。親子っつーより、ペットと飼い主だな……」

 フェリスがそんな事を呟きながら溜息を付いていた。

 仕方ないじゃん。ライルはまだ人化出来ないんだし。

「まあ、逆の見方をすれば、親ばかに見えなくもないがの」

 それも当たっているかもしれない。

 なんせ、フェリスがライルの事を怒ると、必ずと言って良いほど俺の所に逃げて来るしな。甘やかすな、とは言われてるけど、これだけ懐かれると、つい、ね。

「でもよー。そろそろライルも人化出来る歳なんだよなー。それを、この馬鹿父が甘やかすもんだから……」

「いいじゃん、俺が甘やかさないと逃げ場が無くなっちゃうだろ?」

「そりゃそうだけど、少しは協力してくれよ。じゃないと、そいつ、一生人化出来なくなっちまうし、あと五、六年もしたらマサトと変わらねえくらい育っちまうぞ?」

「そうなのか――。そうすると俺が乗れそうだな!」

「馬鹿かてめえは!」

 怒りながら溜息を付いている。

 意外と器用だな。

「ライル、大きくなったら父さんを乗せてくれるか?」

『ワン!』

 嬉しそうに吠えてくれた。

 ちなみにこの子。見た目に違わず、泣き声が犬とまるっきり同じだったりする。

「駄目だこりゃ……」

 フェリスが項垂れてしまった。

 ふっ、勝った。

「姉さま、これが親子なのですね!」

 胸前で両手を組んで目に星を煌かせながら、眩しそうに俺達を見詰める姿は、とても、百歳を超えているとは思えないほど可愛い。しかも、髪をツインテールにしてるからなお更だ。

「あれを親子、と言うのは、ちと違う気がするのう……」

「さっき親子って言ってなかったっけ?」

 違うと言われては、少し反論しないといけない。一応、養子とは言えライルは俺の息子だし。

「ワシは親ばかと言うただけじゃ」

「そうだっけ?」

「そうじゃよ」

 ま、いいか。

「それよりもだ! 何故アルシェに出来て、わらわに子が出来ぬのだ! 性交の回数は多いのに!」

 行き成りストレートな事をでかい声で言うなよ! でも、言われてみればそうだな。

「なんで?」

 俺はウェスラを見た。

 困った時のウェスラ頼み。こう言う事は神様より確実だしね。

「アルシェの場合は四分の一ほどエルフの血が混じっておるのじゃが、純血では無い故、人族との間に子を儲ける事は容易なんじゃよ。じゃが、ワシ等の場合は完全に異種族間な訳じゃからな、簡単には出来ん」

 なるほど、そういう理由があったのか、って、え? アルシェが四分の一エルフ? 詰まり、クォーターって事?

「アルシェって人族じゃなかったの?!」

「うむ、母がハーフエルフじゃからの」

「だから亜人殺しなんて二つ名を付けたのか!」

「うむ!」

 ドヤ顔で肯定されてしまった。

 何て事だ。俺の奥様が全て亜人だったとは……。

 これはアキバあたりのオタク様からしたら、きっと羨ましいを通り越して、殺意を向けれれかねないぞ。まあ、この世界に居ればだけど。

「でも、最近は夜もマンネリ気味ですよね」

 キシュアといいローザといい、行き成り何を言い出すんだよ。

「そうじゃのう」

 そこは同意しちゃだめだろ。

「わらわは問題ないぞ。未だにあの大きさには慣れぬしな」

 いや、そういう問題……あれ? まとも、か?

「マサトのは人族とは思えねえくらいでっかいからなあ!」

 そこで頷かないで下さい。

「朝っぱらから俺の下の息子の話で盛り上がってんじゃないよ」

 ほんとに、この奥様方は変な所で羞恥心が欠落してるよな。

「マサトくんのってそんなに大きいの?」

「でかいぞ!」

「へえ……」

「なんであんたがここに居る……」

 しゃがみ込んで俺の下半身を凝視していたのは、リエルさんだった。

「そんなにおっきいのかあ……」

「おいこら。人の話聞けよ」

「ねえ、今夜、やらない?」

「だーかーらー、人の話聞けってんだよ! ってか、今夜は野宿だし! 商隊護衛だから出来る訳ねえだろ!」

 つい、律儀に答えを返してしまった。そもそもこの人、俺の奥さんじゃねえし。

「野外もいいですね!」

 何言ってんだよローザは!

「そうじゃの!」

 ウェスラもかよ!

「みんなで一緒だな」

 俺を殺す気かよ!

「燃えるぜええ!」

 気合入れるんじゃねええ!

「夜間の見張りどうするんだよ! やってて守れませんでした、なんて恥かしくて報告もできねえぞ!」

 そうだよ、夜間こそ襲撃に備えなくちゃいけないのに、やってる場合じゃねえっての。

「それは問題ねえ! 黒妖犬と三頭犬を呼ぶから大丈夫だ!」

 襲われる側に守られるなんて本末転倒だぞ! そんな事したら、商隊の人が泡吹いてぶっ倒れるわ!

「流石、女王じゃの!」

「うむ、流石だ!」

「フェリスさんが居れば夜が楽しく過ごせますね!」

「さっすがあ! それなら安心だねっ!」

「あんたは俺の妻じゃねえだろがっ! ってか、皆で感心してんじゃねえ!」

 ったく、どこまで暴走すりゃ気が済むんだよ。

「ええー、いいじゃなーい。あたしも仲間に入れてよー」

 仲間に、じゃなくて、妻に、の間違いじゃねえのか?

「それより、なんでリエルさんがここに居るんだよ」

 いい加減話を元に戻さないとな。

「ああ、あたしね。ベルン支部へ行く事になったの!」

「は?」

「だからー、ベルンの支部へ移動になったのよ」

「なんで?」

「え、いや、その……」

 このタイミングで移動とか、有り得ねえ。もしや――。

「自分で言い出したんだろ」

 半眼になって睨み付けると、彼女は目を泳がせて、額に汗を掻き始めた。

 こりゃ図星だな。

「ここの支部だって人手が潤沢な訳じゃないんだろ?」

 ドレンドさんの話だと、セルスリウス支部は、この国の気候の関係で職員が来たがらないと言っていた。

 それもそうだ。冬は雪に閉じ込められるし、標高も高いから寒さだって半端じゃない。しかも、慣れるまでは動悸息切れも激しいので、かなり鍛え上げている冒険者でさえ、辛い時もあると聞いている。

 そんな支部へ、事務職専門の職員が進んで移動する事は、まず有り得ない。

 最も、一つだけ良い事はある。それは、南北の交易路が交わる場所ならではのメリットだ。でも、そんなメリットは商人にしか関係ない事が多い訳で、普通の人にはデメリットの方が遥かに多い。

 ま、夏は涼しくて過ごし易いってのは有るけどね。

「だ、だ、だ、大丈夫よ! そ、それにわたしって、元々技術屋だしね!」

 技術屋? リエルさんが?

「何か作ってるの?」

「何かって、ギルドの実技試験で使ってるポンちゃんは、あたしが作ったのよ?」

 なんですと? あの雪だるまをリエルさんが作ったとですか?!

「何驚いてるのよ」

 だって、朝飯食ってる姿からは、とてもじゃないけど想像できないんだもん。

「信じてないなー。その顔は」

 そりゃ、信じられないよ。

「まあ、いいわ。ところでマサトくん」

「ん?」

「ポンちゃんに何かした?」

「何を?」

「あたしが聞いてるんだけど?」

 いやいやいや、話が見えないんですが?

「俺、あの実技試験の時しか対戦してないぞ」

「そうかあ、なら、なんでだろ?」

「何か問題でも起きたんですか?」

 彼女は行き成り腕を組んで唸りながら、何かの思案を始めてしまった。

 ま、いいや。放っておこう。

 そして、俺が奥様方の方へと視線と耳を傾けると、有り得ない事に、野外プレイの話が纏まり掛けていた。

 そして、それを止めさせようとした俺の意見は勿論、全て却下されたのは言うまでも無い。

 やばい、このままじゃ皆がおかしな方向へ目覚めてしまう。どうしよう……。

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