プロローグ
日本の南アルプスの如き連なりを見せ、頂には万年雪を被ったデュナルモ大山脈。
その山の端が、金色に縁取られ、厳粛で荘厳さを醸し出し始める。
日本で古くは彼誰時とも言われたそんな時間に、俺達はここ、ユセルフ王国王都セルスリウスの北門に居た。
何故そんな時間に北門なんかに居るのか、と言うと、初めての商隊護衛の依頼を受けたからだ。
その行き先はヴェロン帝国の帝都、ベルン。
そこに着くまでの行程は約半月――十五日近くにも及ぶ。
これは順調に行けばこのくらい、という日数で、通常、二十日ほどは掛かるらしい。
これに同行するメンバーはウェスラとキシュア、ローザにフェリス、そして、俺を含めた五人。勿論、フェリスと俺の息子であるライルも一緒。
だが、アルシェとシアには留守番をお願いした。と言うよりもアルシェに妊娠の兆候が見られた為、シアと二人で残ってくれる様、皆で説得したのだ。最初はアルシェも行くと言って聞かなかったのだが、止めとばかりに俺が「元気な赤ちゃんを産んで欲しいから」と言ったら、素直に言う事を聞いてくれたので助かった。
まあ、着いた先の街で必ず手紙を書いて送る事と、ベルンでのお土産はきっちり約束させられてしまったけどね。それも、お土産は二人分。
アルシェには我慢してもらう訳だし、付き添うシアも同じ。だから、と言っては何だが、この位は当たり前だ。
でもまあ、まさかこの年で父親になるとは思っても居なかった。最も、こっちの世界では成人が十六なので、取り立てて珍しい事でもないらしい。
それにしても、僅か三ヶ月ほどしか経っていないのに、結構、この世界に馴染んでしまっている。これで何か唐突な事が起きて、もしもあっちの世界に戻ってしまったら、今の状態のままだと少し怖いな、と思う。
まあ、今の所戻れる方法も無いし、楽しいから戻る気も無いけどね!
でも何故、初めてでこんな長距離の商隊護衛なんかをするのかと言うと、これにも理由がある。
結婚式当日にヴェロン帝国皇帝陛下から直々に招待を受けたのだ。ただこれも、直ぐに、という訳ではなく、招待状として手紙を送ると言われただけなのだが、それを直々に言われる事自体かなり珍しいらしく、それをユセルフ王に報告したら、泡を噴いて倒れそうなほど驚いていた。
暫くして届いた手紙には、十の月の一週目の火の日に訪問するように、と書いてあっただけで、詳細は謁見してから、という割と大雑把なものだった。
ぶっちゃけ、こんなのは伝言でもいいだろ、と思うのだが、どうやらこの招待状がないと謁見するまで、下手をすれば二ヶ月以上待たされる事もあるらしい。その点、この招待状があれば一週間以内の謁見が確実なのだそうだ。
王様といい皇帝陛下といい、なんだか色々と大変なようだ。
そして俺は、少しばかり緊張しながら、護衛をする商隊を静かに待っていた。