エピローグ
あの政変騒ぎから既に一ヶ月が経ち、俺は相も変わらず街の人々からの視線に晒されている。
少しだけ生暖かくなったけどね。
そして、ギルドの依頼もちょこちょこと熟す毎日を送っていた。
ただ一つ、今までと違う所がある。それは俺達兄妹が、異世界からの召喚者だとばれてしまった事。最もこれは王様からの下知で行府が行ったらしい。
何故だろうな?
まあ、それでも俺の生活は今までと何等変わる所は無い。
そして、あの政変騒ぎを起こした王妃の処分だけど、王様は許してしまった。
どうして許したのかは分からないけどね。
ただ、ウェスラはこの処分に怒り心頭だったようで、暫くは手が付けられない程だった。
王様ももうちょっと考えて欲しかったな。
で、王妃の目的の代わりという訳では無いのだろうが、ヴェロン帝国と友好条約を結ぶとか結ばないとか、そんな話があるらしい。
ま、今の俺にはどうでもいい事だな。
「マサトよー、飯はまだかあ?」
「もうちっと待ってろ。そんなに落ち着きがないんじゃ、ライルに笑われるぞ」
そうそう、あのフェンリルの子供――ライルだけど、フェリスの実の子ではない事が分かった。どうやら彼女の姉の子供を引き取って育てていたらしい。何故、そんな事をしていたのか聞いたら「私は異種族間恋愛をするの!」とか言って姉が出て行ってしまったそうだ。
これって、絶対育児放棄だよな?
最も、その妹はこうして俺の妻になってるんだから、先を越されてる訳だが。
まあ、無事願いが叶うといいね。
頑張れ、お義姉さん! 少しだけ応援してるからね。
「サラダは持っていってもいいんですか?」
「ん? いいよ。もう出来てるし」
「ローザさん、貴方はスープをお願いしますね」
「あ、はい。アルシェアナ様」
「もう――、アルシェでいいって言ったじゃない」
「え、でも……」
「貴方もマサトの妻なのですから、呼び捨てで構いませんよ。それに、私よりも年上なのですから」
アルシェとローザは何だか凄く仲がいい。しかも、ローザの方は傀儡にされていた時の記憶が全く無かったらしくて、俺と戦った事は覚えておらず、その事を伝えたら酷く落ち込んで自己嫌悪までしていた。そんな折にアルシェと対面して相当慰めてもらった様で、それ以来、二人はとても仲良しだ。
俺を苛める時でも。
頼むから二人で苛めるのだけは止めて下さい。お願いします。
「む? なんじゃこれは?」
「何でしょう? 色からすると玉子料理でしょうか?」
「ああ、それは玉子焼きだよ」
「「玉子焼き?」」
「俺の世界の料理さ! 再現するのに苦労したんだぜ?」
「おお! 流石マサトじゃな!」
「料理の事はもう、わらわでは敵わぬな!」
この二人、ウェスラとキシュアは相変わらずだ。
キシュアはウェスラに話す時だけは敬語だし、ウェスラはウェスラで外見からは似付かない言葉遣いのまま。でも、二人はこれが素の姿なんだよね。
だけど、夜のお勤めは出来れば一人で来て欲しい。二人一緒とか、これだけ奥さんが増えると身が持たなくなってしまう。でも、それを言うと「自業自得じゃ」って言われるし、どうしたもんかね。
「シアー。パン持って行ってくれー」
「嫌です」
「おいこら」
「糸様から脱皮したマサトは嫌いです」
「どうやって脱皮すんだよ! 糸から!」
「こう、寄り合わせて――。これは脱皮ではありませんね」
「一人でボケて突っ込んでんじゃねえよ!」
「煩いですよ。銅貨様」
「それが俺の価値かっ!」
「はい、これ以上でもこれ以下でもありません。何も足せず何も引けない。ぴったりではないですか」
こいつは相変わらずブレがない。
なんだか俺に対する悪態だけは、益々パワーアップしている感じだけど。でもそれがシアの持ち味だし、打てば響く遣り取りは、俺も面白くてついつい夢中になってしまう事もある。でも、あの時はそんな彼女の機転のお陰でウェスラとキシュアが助かったと聞き、素直に感心して褒めたら、やっぱり無表情のまま顔を真っ赤にして照れていた。
ほんと、器用な奴だよ。違った意味で。
「さあ、早く食べましょう! マサトくんも席に着いて!」
「なんであんたが毎朝いるんだよ!」
「いいじゃない! 美味しい朝食は一日の活力になるんだから、ケチケチしないの!」
「今度、ドレンドさんに言って食費の天引きをお願いしますよ?」
「うっ」
「そこで言葉に詰まるなら、食費を直接くださいよ」
「い、いいじゃない! マサトくんは稼いでるんでしょ!」
ギルドで俺の試験を担当して、亡き者にしようとしたリエルさん。何故か今では家の朝食の常連と化している。
まあ、これも俺が悪いんだけどさ。
少し前、とは言っても二週間くらいだけど、昼頃にギルドへ出向いた時、ちょうどお昼用にサンドイッチを作って持って行っていたので、椅子に座って皆で食べていたら、彼女が物欲しそうな視線を寄越し、いくらか御裾分けした事があった。その時凄く喜んでくれて、家で食事でもどうか、と誘ったら、朝なら、と言う事で了承したんだけど、それに味を占めたらしくて、何時の間にか混ざるようになってしまった。でも、そのお陰で依頼とかを優遇してもらえてるから、おあいこ見たいな所はあるんだけれどね。
だけど、何故か俺の隙を伺っている様な気がするのは、気のせいだろうか?
ま、簡単に隙なんて今は見せないけどね! 俺も少しは進歩してるんだし。
「そう言えば、あんたら明日は結婚式なんでしょ?」
リエルさんが少し羨ましそうな表情で聞いてきた。
彼女の言うとおり、明日は俺と彼女達の結婚式だ。
何故、複数形なのかと言うと、俺の奥様方が凄いのだ。
アルシェは王女なので勿論だが、世界最高の魔導師であるウェスラや、父親が公爵であったため爵位としては侯爵位になるキシュア、シアは驚く事に男爵位を持っていて、ローザはガルムイに居る父親が子爵の為、当然、男爵。それに、天族であるフェンリル一族の女王であるフェリスと、実に蒼々たるメンバー。そして、その事を王様が配慮してくれて、全員で式を挙げる事が出来るように計らってくれたのだ。それも各国の重鎮まで招く形にして。しかも、あのヴェロン帝国なんて、皇帝陛下直々に来るって宣言したんだから驚きだ。
それに加えて、その宣言が伝わった他の国までもが、国王かもしくは王族が出席するというのだから、それこそ一大事。
そんな事もあって、ここ数日、俺は城で作法をみっちりとベルムラントさんとランガーナさんの二人にスパルタで叩き込まれていたりする。
ま、筋はいい、って褒めてもらってるけどさ。
それと、俺たちの式のついでと言ってはなんだけど、ウォルさんと可憐の式も一緒にやるらしい。
王様もなんだか随分当たりが柔らかくなったし、いい方向に転がったかな?
あ、そうそう。俺も爵位持ちになった。一番下の男爵だけどね!
「それじゃあさ、あたしらにお披露目する時の挨拶も決まってるの?」
「もちろん!」
俺は満面の笑顔で答えると、リエルさんを除く六人は笑いを堪えている。
ま、リエルさん以外は俺の第一声なんてもう分かってるしね。
「なによ? なんでみんな笑ってるのよ?」
彼女には悪いけど、そのまま分からないで居てもらおう。
だって、もう決めている事だし明日に成ればわかるから。
そしてその時、俺はこう言う心算だ。
「妹のオマケで召喚されました!」
ってね。
ユセルフ王国編は、これで完結です!




