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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第五章
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涙は男を怒らせる

 なんだか周りが騒がしい。俺はこれから眠りに付くというのに、これでは静かに眠れないではないか。でも、それも已む無しだろう、特に戦場では。

「……きろ! 起きるのじゃ!」

 あれ? ウェスラの慌てた声が聞こえる。俺はまだ生きてるのか?

「ええい! この役立たずめ! さっさと起きねばナニを焼ぞ!」

 俺のナニはフランクフルトかよ!

「もう死霊どもが持たぬ! マサト、何とかしろ!」

 無茶言わんといてください。

「おぬしはワシ等を不幸にする心算なのかっ!」

 俺は幸せだぞ?

「だ、駄目だ! 押し切られる! このままではわれ等全員死んでしまうぞ!」

 死ぬ? なんで? どうして?

「は、早く起きるのじゃ! もう、ワシもキシュアも魔力が尽きる!」

 ああ、魔力ねえ。そんなもんもありましたなあ?

「また金的をすれば目が覚めると思います!」

 ちょっとまて! また金的、だと?! って事は俺、気絶してただけかよ!

 目を開けると、素早く身を起こし金的を避ける為に動こうとして、俺は目を見張り固まった。

 ここまで俺を抱えて何とか下がったのだろう。全員が部屋の隅にまで追い込まれ、騎士達に対峙しているのは死霊が五体。その隙を抜けてくる相手には、ウェスラが何とか火球を放って牽制している。その騎士達は室内に必ず十人ほどが留まり、傷付いた者が出た時のみ、その者を後方へと送り、通路で待機する者が入れ替わる様に室内に踏み込んで、常に人数を保ちながら攻勢に出ていた。

 なんだこの状況は、何時の間に踏み込まれた?

「は、早く何とかせい!」

 肩で大きく息をしながらウェスラが叫ぶ。

「何とかって、何をどうすりゃ……」

 行き成り目の前で起こっている事に、頭が上手く回らず呆然としている所へキシュアからの叱責が叩き付けられた。

「マサトは死にたいのか!」

「死にたい訳ないだろ!」

「おぬしはこの状況で生きていられると思うておるのかっ!」

 だって、城の騎士達は俺の事知ってるはずだし、殺される事なんてまず有り得……。

 そこで騎士の一人と目が合った時、行き成り氷を押し付けられる様な悪寒が背筋に走った。

 作業するかの如く淡々と剣を振るい、一言も発さず、極め付けは意識の全く感じられない瞳。

 まさか!

「もしかして――こいつら全部操られてるのかっ?!」

「そうじゃ! こやつ等の目を見れば一目瞭然じゃろっ!」

 それじゃ、もしかして可憐も……。いや、あいつの目は普段と同じだった。と言う事は、脅されている?

「と、兎に角、何とかせい! もう、魔力が残っておらぬ!」

 疑問だらけだし、この人達を傷付けたくはないが――、皆を守る為にはやるしか――ない!

 俺は思考を現状打破へと直ぐに切り替え、その為の状況分析に素早く移行した。

――先ずは入り口の閉鎖と同時に通路側の騎士を排除して援軍を絶つ。その後室内の騎士の無力化、だな。

 一瞬で分析から回答を導き出し、それを成す為に必要な事柄が頭の中を駆け巡る。そして、床に手を付け目を瞑ると、静かに詠唱を唱えた。

「石に宿る精霊に願い奉らん。我求むるは人形。何人も寄せ付けぬ力持つ人形成り。その力持ちて、我等を苦しめる者達を退け給う。石人形(ゴーレム)召喚!」

 今まで鎧が擦れる音しか聞こえなかった室内に、廊下で悲鳴と金属を叩き付ける音が木霊する。その音に室内の騎士も一瞬動きが鈍り、その隙を突き、俺は腰のホルスターから短小砲を抜くと、騎士達の足を狙い全弾を撃ち尽くした。

 幾ら玉が小さくて、相手が鎧を纏っていようと、こんな至近距離でなら問題ない!

 次々に騎士達は倒れ、残す所は六人ほどとなった。

 流石に密集していた所為もあり、一人一発とは行かなかったようだ。

「後は死霊どもでなんとかなるよな?」

「まったくマサトは遅すぎだ」

 口角を吊り上げ、牙を覗かせる。

「ひやひやさせ居ってからに」

 安堵の溜息に笑顔を乗せた。

「ご、ごめんなさい!」

 アルシェは謝っている。けど、寧ろ謝るのは俺の方だ。

「悪いアルシェ。ウォルさんの治療をお願い出来るか?」

 廊下では相変わらず悲鳴と打撃音が鳴り響いているが、室内はほぼ片付ける事が出来たので、当初の目的を果たす為に頼んだ。だが、アルシェは首を振り悲しそうな表情を見せる。

「私が繋がれているこれ、実はシーリンの魔具なんです」

 首から垂れ下がる鎖を手に、そこに悲しげな瞳を落とした。

「シーリンの魔具?」

 俺が訝しげな表情を見せると、ウェスラが驚きと共に口を開いた。

「それはヴェロンに伝わる魔具ではないか。何故、そのような物がここに有るのじゃ」

「シーリンの魔具って……?」

 分からない俺は聞くしかない。

「これはの、魔力を吸い取り、場に縫いとめる為の物じゃ。この世界で最高強度を誇る捕縛具じゃよ。それが証拠に、鎖の先端は床に食い込んでおるじゃろ?」

 鎖を目で追うと、その先は石床と同化していた。

「これじゃあ、引き抜く事も出来ないか」

 余り考えている時間はないが、顎に手を当て俺は僅かに黙考をする。

――魔具って事は、キシュアが持つオスクォルと同等の物と思った方がいいな。となると、オスクォルを使っても壊すのは無理って事だよな。くそ、厄介な物を着けやがって。

「こいつを破壊出来る物なんて、無いよな?」

 一応聞いて見たが、ウェスラは首を振った。

「この世界に置いて、魔具、と呼ばれる物を壊せる物等有りはせぬ」

「オスクォルでもか?」

「無理じゃの」

 なら、使った奴が解除するしか方法がないって事だよな。

「ウェスラはこいつを外す方法は――?」

 一応、聞いてみる。

「知らぬ、というか、知っておる者等居らぬ筈じゃ」

「なに?!」

 誰も知らない? どういう事だそれは?!

「シーリンの魔具は、捕らえた者が生きている間は結して離しません。だから、外し方は無いのです」

 悲しそうに笑う彼女の瞳から、諦めからか、一筋の涙が零れ落ちた。

 この城に登城してから、無茶苦茶頭に血が上る事ばかりだ。何故そうまでして力を手に入れたがる。力で奪った物は必ず力で奪い返されるというのに。そんな簡単な事すら分からないのか、あの王妃は。

 この時の俺の声は酷く冷たかったと思う。でも、彼女達には何故だかなんて、分かりきっていただろう。

 俺は感情が表に出易いらしいから。

「アルシェ」

「はい」

「俺が必ず助けて出してやるから、ここで待ってろ」

「はいっ!」

 瞳一杯に涙を溜め込み、精一杯明るい笑顔を見せてくれた。

「ウェスラ」

「なんじゃ」

「これを渡しておく」

 俺はコートのポケットから紙を二つ取り出すと、彼女に渡した。

「これは?」

「王の囚われている場所と、俺の武器が運び込まれた場所だ」

「何故これをワシに?」

 床に手を付きながら答える。

「俺が騒ぎを起こしている間に王様を連れ出して欲しい。今動けないアルシェを除くと、この中じゃ一番城内に詳しいからな。まあ、武器は俺が行かなきゃ無理だし、そっちは別に構わないけど」

 そして、再び石人形を数体召喚する。

「キシュア」

「なんだ」

「こいつ等を連れて行け。キシュアの命令を最優先で聞くようにしてある。複数の死霊を操るお前なら、この程度は軽いだろ?」

 力強い頷きが返ってきた。

 これで、こっちはいいだろう。万全とは言い難いけど、何とかなる筈だ。

 立ち上がり、三人に背を向けて無言で歩き出す背中に、ウェスラの心配そうな声が張り付いた。

「マサト! 決して――、決して死ぬでないぞ!」

「死なねえよ。寧ろそれは俺の邪魔する奴にでも言ってくれ」

 歩きながら短小砲を引き抜くと、魔装弾を装填し、そのまま戻す。そして、部屋の外の壁に手を向けると、小さく呟きながらイメージに魔力を乗せた。

「吹き飛ばせ。火炎弾」

 それは巨大な炎の塊であると同時に周囲から風で隔絶された塊。外に一切の熱を漏らさない代わりに、空気中に漂う魔力の残滓を炎が取り込めない状態となる。

 この世界には魔力の残滓、レジム、と呼ばれる物が空気中に漂い、それを取り込む事で攻撃魔法は威力を減衰させる事が無い、とウェスラに教わった。そしてそのレジムを消費する事で、スフ、と呼ばれる物が形成され、それが空気中に拡散される。勿論、魔法が当たった場合も内部に残った魔力とスフは拡散する事になる。そのままではレジムが無くなってしまう筈なのだが、そこは上手く出来ている様で、空気中に漂うスフは、木々や生物の内部で再び魔力として再形成され、一部はレジムとして空気中に放出される、という循環を繰り返しているらしい。

 そのスフを外部に漏らさないようにすると、どうなるか。

 答えは簡単、内部のレジムを消費し尽して、不完全燃焼にも似た状態を作り上げる。

 これは(あたか)も火災現場で起きる事に酷似している。そして、俺はそれをイメージして最小限の詠唱を使い、イメージごと具現化させた訳だ。

 この場合、風は炎を周囲から隔離する壁、俺が込めた魔力は燃焼材料、レジムは酸素、そして、スフを可燃性一酸化炭素ガス、と置き換えると目標に当たって壁の一部が砕けた場合どうなるか――。

 それは、バックドラフトと良く似た現象を引き起こし、その破壊の力は風により全てをコントロールされ、目標物へ全ての力を注ぎ込んだ。

 結果、城の分厚い壁を吹き飛ばし、直接外へ出る通路を作り上げる。

 これは以前、魔法を教えてもらっていた時、ウェスラから聞き出して既に確認済みだったから出来た事でもある。

 俺は自分のイメージ通りになった事に満足を覚え、口角を吊り上げ、その通路から飛び立つのだった。

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