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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第五章
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言い争いは不和しか生まない

 自分の首枷の核を壊した後、三人の枷に手を(かざ)して核を壊す。それも、有り得ないほどの大出力の魔力を注ぎ込んで。

 何故、そんなに大出力の魔力を放出出来たのか、自分でも分からない。でも、一つだけ言える事は、体の内から魔力が溢れ出して来る、という事だけ。それこそ、この魔力を全部開放すれば、天候すら自在に操れるのではないか、というくらいの大魔力だった。

「よし、これで見た目だけは封印されたままにしか見えない筈だな」

 ローザの枷を最後に壊すと同時に、笑顔で朗らかに告げるが、ウェスラは微かに濡れた瞳で咎める様な視線を送ってくる。

「まったく……、成功したから良い様なものの、どれほどワシが心配したと思うておるか、マサトは分かっておるのか?」

 その視線にうろたえ、一瞬、目を逸らしてしまったが、俺は口篭もりながらも謝罪を口にした。

「いや、まあ、それは、その……ごめん」

 俺自身、頭に血が上り過ぎたと言うのもあり、失敗した時の事にまで思考が及んでいなかった事もあって、それで心配を掛けてしまうとは、冷静な心算でも冷静じゃなかった、と反省するしかない。

「分かって居るならば、もう何も言うまい」

 ウェスラはほう、と短く息を吐いた。

「随分と魔力を放出した様だが、体は大丈夫なのか?」

 心配そうな顔をキシュアが向けて来る。だが、疲弊するどころか、湯水の如く溢れ出る魔力のお陰で、はっきり言って、押さえ込む方が大変なくらいだ。

「なんだか分かんないけど、体の中から魔力が溢れ出して来るんで、疲れなんて全く感じないんだよ」

 苦笑を返す。

「溢れ出す、だと?!」

 困惑気味に驚くキシュアに、俺は頷き返した。

 首枷の核を壊した時ほどではないが、今でも魔力は湧き出して来ているし、そしてそれは、未だに尽きる気配すら見せていない。

「魔力が湯水の如く溢れ出すなど――、わらわはそんな話、耳にした事など無いぞ……」

 キシュアが助けを求める様にウェスラへと顔を向ける。そして彼女は、険しい表情を俺に向けた。

「大方の予想は付いておるが……。マサト、覚えて居るか? あの時ワシが言った言葉を」

「あの時? ……ああ、あの日の事か。それは覚えてるよ」

「ならば良い。じゃが、その力、今以上使うでないぞ? さもなくば……」

 それに俺は頷き返した。

「マサトの力とは何ですか? 姉さま」

「済まぬキシュア、今はまだ話せぬ。と言うより、今その話は後にしてもらえぬか? まずはどうやってここから出るかの方が先決じゃてな」

 ウェスラの言うとおり、この話は今回の件が終わってからでも遅くは無い。今は牢から何時どうやって出るか、が先だ。

「で、どうするつもりなんじゃ?」

「ん? とりあえず、今日は寝る!」

 全員、呆けてしまった。

 ま、どうする? と言われて、答えが、寝る! だもんな。

「はあ? 何でそうなるのじゃ?」

 訝る表情を見せた。

「だって、今出ても、どうせ直ぐ捕まって、もっと厳重な所にぶち込まれるだけだし。だから、今日は寝る」

「何故そう言い切れるのじゃ」

 皆、あの王妃と一緒に居た奴の事を分かってないのかなあ。

「あのさ、王妃と一緒に姿を見せた黒尽くめの奴が居ただろう?」

 三人とも頷き、心持眉根に皺を寄せて訝る表情を見せる。そして、俺が口を開こうとした瞬間、先にローザが声を漏らした。

「それと直ぐに出ないのと、何の関係があるんですか?」

 ああやっぱり、と溜息を付きたくなったが、小さく息を吐く事で誤魔化し、彼女の疑問に答える。

「あの黒尽くめの奴なんだけど、多分、暗殺とか諜報、潜入なんかが専門の筈だ。それも複数――いや、かなりの人数が居ると思う。そういう奴等が見張ってる中、どうやって見付からずに抜け出せばいいんだ? 何か騒ぎでも起きてくれないと、牢から出た時点で確実に捕まると思うぞ」

 全身黒一色、しかも、極力光を反射しない様にしてあるなんて、普通、そんな物を身に付けている職なんて、暗殺とかそっち系しか有り得ない。

「でも、夜間はお城の中を巡回警備する人数も減りますし、抜け出すなら今だと思うんですけど」

 確信に満ちた表情で告げる彼女ではあるが、俺はそれに首を振った。

「あの装備からすると、奴等は夜間戦闘が主な筈。それも、死角から気配を殺して襲い掛かってくる、そんな戦い方だと思う。しかも殺気なんて微塵も感じさせずに。そんなのを相手にしてたら、抜け出すどころか、囲まれて身動きが取れなくなるし、騒ぎを聞き付けて他にも集まってくる可能性が高い」

 俺がここまで警戒する理由をローザは知らない。何故なら、何も話していなかったからだ。ただし、ウェスラとキシュアには察しが付いていた様だが。

「そんなの、わたしとマサトさんなら全速力で駆け抜ければ振り切れる筈ですよ?」

「ウェスラとキシュアを置き去りにしてか?」

「そ、それは……」

 咎めるような言い方をされてローザは口篭もる。

 でも、なんでそこまで城から抜け出す事に拘るんだ?

「それじゃあ、俺とローザが城から無事に抜け出したとしよう。ただ、ウェスラとキシュアはまた捕まってしまった。それから俺達はどうするんだ?」

「もちろん、ギルドに報告しに行くんです。そうすれば何か対策を立ててくれると思います」

 確かに俺達が受けた依頼は内情の確認と報告。この観点で見れば、報告しに行く、と言うのは間違いではない。いや、寧ろ正しい。ただ、ローザは見落としている点が一つある。それは、ユセルフ支部の支部長としての立場でドレンドさんが出したのではなく、一個人として出した依頼、と言う事。裏を返せば俺達の誰かに何か有ったとしても、ギルドは一切口を噤む、と言う事だ。だから、ギルドが捕まった二人を助けるための対策を立てる事はまずない。それに、ドレンドさんが最も欲しい情報は、今、宮廷内で何が起こっているのか。要はそれさえ分かれば最悪、俺達の誰かが犠牲に成ろうとも何の問題も無い。何故なら、その情報次第で、この国に対するギルドの係わり方の方針を立てられればいいのだから。

「報告、という点だけ見ればローザの言っている事は間違ってないな」

「そうです、それが今のわたし達の仕事ですから。だから、報告すればギルドが……」

 俺はそこで遮った。

「ギルドは捕まった二人に対しては何もしないぞ」

「え?」

 俺のたった一言で、彼女が唖然とした。

「考えてもみろよ。俺達は政変が起こっているって報告するんだぞ。そんな時に内政干渉と取られかねない事をしたってギルドには何の得にもならない。寧ろ、そんな事をしたらマイナスもいいところだ。ギルドという組織は内政干渉をして、自分達に都合が良いように国を動かす組織だって思われるのが落ちだ。しかも、下手をすればそれがギルドという組織の意思と見なされてしまう。そうなったら、他の国だってギルドを自国に取り込むか排除の方向で動く筈。だから、二人の為にギルドが動く事は、無い」

「そ、そんな……」

 彼女は絶句して、悔しそうに下唇を噛み締め俯いてしまっている。

 今のローザの心境は俺にでも容易に分かる。報告をすれば、何か対策を打ち立ててくれると思っていたのだろうから。でも、それを俺は打ち壊した。たぶん、彼女の中では何故、が渦巻いている筈だ。

「これはローザが気に病む事じゃないよ。それに、皆には黙っていたけど、俺がやろうとしてる事は内政干渉その物だし、ギルドの依頼からは逸脱した行為なんだ。本当の意味での依頼を成し遂げる、という事なら、ローザの言った事の方が正しいんだ」

 こんな事を言っても気休めにもならないだろう。でも、決して彼女が間違った事を言っている訳ではないのだから、これは俺の本心でもある。

「なんで……なんでマサトさんは――そんなに冷静で居られるんですか……」

 何で話がそっちへ行くんだ。それに、俺はさっき冷静さを欠いていたと思うんだが……。

「俺のどこが冷静なんだ?」

 俯くローザに、静かに言葉を投げ掛けた。

「そういうとこです」

「そういうとこ?」

「今も感情を表に出さないで話してるじゃないですか。本当ならわたしなんか怒鳴られても仕方ない筈なのに、怒鳴りもしないで普通に話てるじゃないですか。それに、わたしの言った事に対しても、的確に分析して回答してましたし、冷静じゃない人が出来る事じゃないですよ」

 今の俺の上っ面だけ見て冷静だと思ってるのか。

「一つ言っておく。俺は冷静じゃないんだよ」

 途端、ローザは顔を上げた。しかも、その瞳に涙まで溜めて。

「冷静ですよ! 今だって――今だって何の感情も出してないじゃないですか! わたしの言った事に対して理路整然と話てた時もそう! この枷を壊した時も! 王妃様やウォルケウス様に対している時だって、全部冷静に対処してたじゃないですか! それをどうして冷静じゃないなんて言えるんです!」

 まるで親の敵を睨み付ける様な視線をローザはぶつけて来る。悔しさで顔を歪ませて、悲しさで瞳から涙を流しながら。でも俺は、そんな彼女を、静かに見詰めていた。

「俺はそんなに冷静か?」

「そうです」

 俺は一つ大きく息を吸い込み吐き出す。

「もう一度言う。俺は冷静なんかじゃない」

 そう、こんな馬鹿げた事を仕出かそうとしている者が冷静な訳ない。

「そんなの嘘です。マサトさんはあたしの事、馬鹿にしてるんですか? そんな嘘を見抜けないとでも思ってるんですか? もういいです。もう、あたしは貴方の事を、信じません」

 彼女には、俺が奥底で抱えている焦りや憤りは届かなかった。

「そうか。――なら、勝手にすればいい」

 思わずそんな言葉が口を付いて出てしまう。

「ええ、そうさせてもらいます」

 売り言葉に買い言葉。たぶん、ローザも引っ込みが付かないのだろう。

 彼女は立ち上がると鉄格子に向けて歩を進め、右手を伸ばして何事かを呟き始めた。が、その前にゆっくりとキシュアが立ちはだかった。

「そこをどいてください」

「戻るのだローザ」

「わたしはギルドへ行くんです。そうすれば皆助かります」

「それは無理だ」

「無理じゃ有りません!」

「では聞くが、ローザと同族の――、それも複数の手練相手に素手で勝てるのか?」

「そ、それは……。で、でもここにわたしと同族は――」

「マサトの言った黒尽くめ、あれはローザと同族だ」

「――そ、そんなっ! 嘘です! 嘘に決まってます!」

――ローザのやつ、意固地になり過ぎて完全に冷静さをなくしてやがる。少し不味いな。

 そう思っていると、突然、ウェスラが語りだした。

「そう言えば、北に()った時に噂で聞いた事があったのじゃが、ヴェロンには公にされておらぬ戦闘集団が有る、と」

 突然話し出したウェスラにまでローザは食って掛かる。

「それと黒尽くめに何の関係があるんですかっ!」

 そのまま射殺すかの様にウェスラをねめつけるが。当の本人は涼しい顔で睨み返していた。

「あ奴、――現ユセルフ王国第一王妃なんじゃが、今は、フォルチアナ・マーリエ・ユセルフ、と名乗っておる。じゃが元は、フォルチアナ・マーリエ・ヴェロン、と言うのじゃ。(こす)い事に今はヴェロンの名は名乗らんのじゃ」

 これでもか、というほどローザの目は見開かれ、その口は小刻みに震えている。そして、ウェスラは世間話でもする様に続けた。

「そのフェルチアナ――あ奴を守る為だけに育成された集団があると、ずっと前から囁かれておったのじゃよ。その根拠はの、二十五年以上も前に年端も行かぬ孤児の人虎族のみをあ奴が引き取っておった事。引き取られた数年後には、その孤児達を帝国内部の誰一人として見た者が居らぬと言う事。そして、数年前、皇帝の暗殺未遂事件があった事を、あ奴が自慢げに話しておった事。この三つ事を結び付け、その未遂事件を処理したのが、あの孤児達ではないか、と実しやかに囁かれる様になったのじゃ」

「で、でもそれは噂話で……」

「いいや、多分事実じゃな。あ奴の前で未遂事件の話題が出た時〝妾が育てた子等が片付けてくれた〟そう自慢げに言っておったそうじゃからの。じゃから、あの黒尽くめはたぶん、あ奴の私兵じゃ」

――ウェスラの言った事が本当なら、かなり厄介な相手だな。

 そこでふと、疑問が浮かんだ。

「なあ、キシュア。なんであれが人虎族って分かったんだ?」

 彼女がニヤリと笑い、口の端から牙を覗かせた。

「この核を壊された時、密かに死霊を放ったのだ」

 抜け目無いやつだなあ。

「それじゃ、こっそりと情報収集宜しく頼む」

「承知した」

「それと、ウェスラ」

「ん?」

「あの王妃の目的、これではっきりしたな」

「そうじゃの、これで確信が持てたの。じゃが、あ奴を許さぬのは何が有っても変わらぬ」

 一瞬、ウェスラの表情に怒りの色が現れたが、それも直ぐに消え何時もの表情へと戻る。

「しかし、マサトは良くあ奴のやろうとした事が分かったのう」

「急激な変化ってのは、直ぐにばれるもんなのさ」

 口角を吊り上げ、黒い笑みを作り上げる。

「それは悪人の顔じゃぞ?」

 ウェスラは自分の両肩を抱き、震える仕草をした後、怖い怖い、といいながら笑っていた。

 その仕草を見て俺が少しだけ安堵したのは、たぶん、ウェスラしか分からないだろう。何故、そう思ったのかは自分でも分からない。でも、彼女が柔らかな視線を向けて来た瞬間そう感じた俺は、自然と笑みが浮かんだ。

 彼女達と遣り取りをした後、俺はローザに向かって声を投げ飛ばす。

「この話を聞いてローザはどうするんだ? それでも出て行くなら、俺は止めないけど」

 俺はローザに顔を向けたが、彼女は直ぐに目を逸らして、何も言わずに牢屋の隅へ向かい腰を下ろすと、膝に顔を埋めてしまった。

 多少の問題はあるけど、とりあえずは一件落着だな。

「んじゃ、俺寝るから」

「うむ」

「わらわも、もう暫くしたら寝る」

 俺は床に寝転がり腕枕をすると目を瞑った。

 全ては明日からだ!

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