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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第五章
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策士は策で墓穴掘る

 今、俺達はギルドに居る。ただし、受付のあるロビーではなく、この建物の地下にある一室だ。

 何故、そんな所に居るのか。それは依頼達成報告をしようとしたら、リエルさんに声を掛けられて連れて来られたのだ。しかも、応接間の様なテーブルとソファー以外、何の調度も無い部屋には、壮年、というにはまだ若く見える人物が座っていた。

「良く来てくれた。まあ、まずはそこへ掛けてくれたまえ」

 まるで少年の様な屈託の無い笑顔を見せるその人は、両手を広げて座るように促してくる。

「それじゃあ、遠慮なく」

 彼女達に目配せをした後、テーブルを挟んで彼の正面に俺が、ウェスラとキシュアは右手に、ローザとフェリスが左手にそれぞれ座った。

「で、俺達をこんな所に呼んでどうするんですか?」

 幾分警戒をしながら緊張の面持ちで聞く。

「そんなに警戒しないでくれたまえ。まずは自己紹介をしておこう。私はドレンド、ドレンド・ガンドー。このユセルフ支部の支部長をしている者だ」

 ガンドーって、ウォルさんと同じファミリーネーム――。って事は……。

「もしかして、まさかとは思いますけど、ドレンドさんはあの、ウォルケウスさんの身内の方なんですか?」

 その首がゆっくりと縦に振られた。

「そう、ウォルは私の弟だ」

 ウォルさんにお兄さんが居たなんてびっくりだ。

「そして、私は君の秘密を知っている」

 唐突に繰り出された言葉に、俺は驚愕で目を見開いた。

 俺が隠している最大の秘密は、この世界の人間じゃない、と言う事。今それを、この人は知っていると言った。でも、何故、王宮の関係者でもないこの人が知っているんだ。でも、それを知っていると言う事は――。

「ふふふ――、何故だ、って顔をしているね。種明かしをしようか?」

 種明かしなんかいらない。俺の秘密を知っているのであれば、大体の予想は付く。

「まさか――、あなたは王宮内に間者を潜ませているんですか?!」

 彼の口元が微かに吊りあがった。

 やっぱりそうか。スパイを潜入させて常に王宮の事を探っているのか。でも、何の為にそんな事をするんだ。

「本当に良く頭が回るね、君は」

「そうでもないですよ。例えば、何故ここへ連れて来られたのかは分かりませんしね」

 そうは言ったものの、なんとなくは察しが付いている。あの依頼は俺がギルドへ入った途端に王宮から出された物だし、幾らなんでもタイミングが良すぎる。そこから導かれる答えは、俺達は――正確には俺が――監視されていたと言う事。そしてここへ連れて来られたのは、その監視の目から遠ざける為だ。上の階ではどう足掻いても監視からは逃れる事が出来ない。それ故に地下室、と言う訳だ。

「それは嘘、だね。君は分かっているんだろう? あの依頼を横取りされた後に、あんな要求――いや、ギルドへの依頼、と言った方がいいかな? まあ、それを出したのだから」

 この人は全部お見通しって訳か。

 俺は降参、と言った意味で両手を上げて苦笑を漏らした。

「ははは、意外と素直だね。でも一応、聞かせてくれるかな? どうしてギルドにあんな依頼を出したんだい?」

 俺達が部屋に入った時こそ、本当の笑顔だったけど、俺と話し始めてからは、目だけは全く笑っていない。

――何だか知らないけど、試されてる――んだろうな、これは。そしてあの目付きは、主導権は自分が握っている、とでも言いたそうな感じだ。なら――、ひっくり返してやるか。

「良いんですか? 洗い浚い話しちゃっても」

「構わないよ」

「それじゃあ、まずはこの上の建物をふっ飛ばしてから、その話をします。他の職員に話されても困るので」

 別に話すだけならば、こんな脈絡も無い事を言う必要はない。これは俺が話の主導権を握る為の仕掛けだ。

「それは無理だよ。この地下室は例えアイシン様でも壊せない様に、魔法防御を幾重にも掛けてあるからね」

 彼の口元が僅かに変化するのを見て、俺は確信した。

 あんた、俺を舐めすぎだ。

「彼女の事は知ってますよね?」

 俺はフェリスに目線を向ける。

「彼女が何なんだい? 君の新しい奥さんってだけだろう?」

 その答えに俺は更に確信を深め、口角を吊り上げて笑った。

「なるほど、それじゃあ、ギルドは契約不履行をしたって訳か」

「契約不履行? 君は何を言っているのだね? あの契約は最後まで遂行したよ?」

 彼も笑う。でも、これで俺は、百パーセントの確信を持った。

「彼女の事を知らないって時点で、すでに不履行なんですよ」

 更に笑みを深めて言う俺に対して、ドレンドさんは若干訝る表情を見せるが、構わずに畳み掛ける。

「俺がギルドに出した依頼は〝俺達が街中に戻るまで周囲を監視する事〟の筈。それを完璧に遂行したのであれば、彼女の事を知らない訳は無い。でも、貴方は知らなかった。そして、今の口ぶりからすると、報告を受けていない、なんて事は有り得ない。そこから分かる事は、たぶん、三頭犬が倒された時点で監視要員が引き上げた、と言う事」

 俺はそこで話を一旦切って僅かに間を空けてから、確認の意味で一言、付け加えた。

「そうですよね?」

 そのままドレンドさんの返答を待つ。

「……そうだ。アイシン様の予想よりも多かったと報告を受けた。だが、討伐を完了した時点で終わっても問題ないと思うが?」

 大仰に溜息を付いてから俺は肩を竦め、苦笑いと共に首をゆっくりと大きく振って呆れた表情を見せると、ドレンドさんは顔を僅かに顰めた。

「なんだね? その我々を小馬鹿にした様な態度は」

 それには何も返さず、俺は更に挑発するような態度を取る。ソファーに踏ん反り返って足をテーブルに投げ出したのだ。

 本来この様な事は、目上の、それも交渉しているに等しい相手に向けて取る態度ではないが、遭えてそうした。

 俺のその姿を見てドレンドさんの瞳に憤りの色が燈り、その表情は徐々に歪み始める。が、流石は支部長まで上り詰めた人。軽く息を吐き出すと、直ぐに表情を消し去った。

「君が何を考えているのかは知らないが その様な態度は何の得にはならないばかりか(むし)ろ、損しかしないと思うのだが?」

 鋭い眼光を俺に突き刺す。しかも完全に表情を殺しているので、そこから考えを読み取る事も出来ない。

――やっぱ一筋縄じゃいかないか。さてと、それじゃあ、もう少し(あお)りますか。

 俺がそう思い口を開こうとした時、フェリスが退屈そうに愚痴を漏らした。

「マサトよー、こんな弱っちいのと何時までくっちゃべってんだよ。さっさと終わりにしろよなー」

 弱い、とばっさりと切って捨てる彼女の言に、流石のドレンドさんも怒りを隠し切れなかった様で、(おもむろ)に立ち上がると、フェリスを怒鳴り付けていた。

「ウォルよりも強いと言われるこの私を弱いなどとは、何たる侮辱! 貴様、何様の心算だっ!」

 先ほどまでの無表情は何所へやら。たった一言でプライドを傷付けられたドレンドさんは、怒りに紅潮した顔をフェリスへと向けていた。

 おいおい、俺がやろうとしてた事をたった一言かよ。

 そう、俺がやろうとしていた事は、彼を怒らせる事。ただ、この場合は怒る方向性が違うので、修正をする必要がある。

「弱い者を弱いと言って何が悪いんだよ。それとも何か? 挽肉にされねえと分かんねえのか?」

 フェリスの美しい顔が邪悪な笑みを放った途端、ドレンドさんの表情が一瞬にして青ざめ、後退(あとじ)さる様にしてソファーへと沈み込んだ。

 この脳筋娘、なんちゅう威圧感出しやがんだ。ローザなんか縮こまって震えてるじゃないか。まったく、心臓の弱い奴なら一発であの世行きだぞ。ってか、俺の計画を(ことごと)く台無しにしやがって、力技にも程があんだろ。

 青ざめて震えるドレンドさんを無視して、俺はフェリスに話し掛けた。

「フェリスさあ、せっかく俺が華麗にやろうとしてた事を力技で台無しにするなよ」

「何だよ。あいつを怒らせたかったのか?」

「そうだけどさ、お前、あの一言は無いだろうが。あれじゃ、武に誇りを持ってる人なら誰だって怒るぞ。しかも、俺が怒らせる方向とは違うしよ」

「んだよ、マサトがやろうとしてた事を俺が一発でやったのによお、なんで文句言われなきゃいけねえんだよ」

 俺にまで威圧してくる始末。だけど、俺にはそんな物効かない。なぜならば、魔法の一言を知っているからだ。

「そんな態度を取っていいのか? お前の飯だけ、手を抜くぞ?」

 一瞬、不貞腐れる表情を見せたのも束の間、

「なら、暴れてやる。暴れまくってやるから覚悟しておけ」

 鋭い眼光を俺に突き刺し、半ば本気を見せていた。

 まじい、こいつ半分マジ切れしてやがる。だからといって、折れるのは癪だしな。

「いいぜ、暴れろよ。その代わり、飯は抜きだからな」

 俺とフェリスの間に目に見えない火花が散った。様な気がした。

 うん、たぶん気のせい。

 暫く睨み合っていると、横からウェスラが呆れた風に口を挟んだ。

「まったく、食い物で喧嘩するなど、まるで童子(わらし)のようじゃ……」

「なんだと!」

「こう言うのは躾が肝心なんだよ!」

 俺達は同時に反論した後、また、睨み合った。

「今、聞き捨てならねえ事言ったよな?」

「ほお、そんなに嬉しかったのか」

 俺が小馬鹿にした態度を取ると、フェリスは顔を真っ赤にして立ち上がり、震える声で静かに言い放った。

「マサト、てめえ――俺とやる心算かよ」

 彼女に合わせて俺も立ち上がる訳には行かない。何故ならそれだと、同格だと言っているようなものだからだ。兎に角、俺の方が彼女よりも上である、という事を認めさせなければならない。それが獣に対する躾、というものだ。

「いいぜ、俺はこのまま相手してやるよ」

 某カンフー映画の主人公よろしく、左手で掛かって来い、と示す。余りにも余裕綽々な態度にフェリスは(つい)に激高した。

「な、な、舐めやがってえ!」

 俺とフェリスの距離は半歩程度。そんな距離は彼女に取っては無いに等しく、その体が微かにぶれて見えた瞬間には、俺の目の前で五指を鉤爪状に開き右腕を袈裟懸けに振り下す姿があった。目にも留まらぬ、とは正にこれだろう。だが俺は、その手首を難なく左手掴んで力に逆らわず斜め右下へと引っ張り、右手で二の腕を掴み更に引くと、彼女の体は俺の上に圧し掛かる形となり、そして、俺は左手を彼女の背後から喉元に回して爪を食い込ませた。

「勝負あったな」

 だが、それでも彼女は起き上がろうと激しく抵抗をする。

「ま、まだだ! 俺はま――ひあっ?!」

 暴れだした瞬間に喉に回した手で俺は、そこを優しく掻いた。

「んー、これでも抵抗するかあ?」

「んくっ――その、程度――くう――」

 やっぱ猫見たいにはならないか。んじゃ、仕方ない。

 身悶える彼女をひっくり返して仰向けにすると、左手はむき出しのお腹をゆっくりと撫で回して時折下腹部、ショートパンツの中に僅かに潜り込ませ、右手は猫にするように、爪で軽く喉を掻く。最初こそ抵抗をしていたが、次第にそれも無くなり、フェリスの荒い吐息だけが、室内に木霊し始めた。

「よしよし、いい子だ」

 そう言いつつも、俺はまだやめない。今朝の彼女ではないが、そのさわり心地が極上だったからだ。

 うーん、この感触、いいねえ。

「マ、マサ、ト――お、俺、もう……」

 喘ぎながら、息も絶え絶えに右手を伸ばして俺の左腕を掴む。そして、欲情に潤む瞳を向けながら上体を起こして、更に左手を俺の右腕に重ねると、首筋に顔を近付け 舌を這わせ始めた。

 その感触に思わず下半身がむず痒くなったが、それをなんとか理性で押さえ込みつつ、逃れようと試みた。だが、押さえ込まれた両腕はビクともせず、フェリスにされるがままになってしまっていた。

 やっべ、やりすぎちまった! このままじゃまずい! どうしたらいいんだ?!

 彼女の顔は徐々に上へと上がり、終いには俺の唇を塞ぎ、舌まで潜り込ませる始末。そして、口の中を散々蹂躙すると満足した表情で一旦離れ、妖艶な笑みを浮べながら俺を跨ぐように体を入れ替えて、上着に手を掛けて脱ぎ始めた。

 その時、ドレンドさんの咳払いが響く。と同時に、

「何をしとるんじゃ!」

「それは夜にやることだぞ!」

 ウェスラとキシュアの二人が慌てて引き剥がしに掛かる。でも、俺の力でも敵わないのに、ウェスラが敵う筈がない。キシュアは辛うじて彼女の右腕を動かす事は出来たようだが、そこまでだった。

「煩い、俺は今するんだ! 邪魔するなら容赦しないぞ!」

 腕の一振りでキシュアを跳ね飛ばし、それを見た俺は焦って飛ばされた方に目をやると、ちょうどローザが受け止めてたところでホッとした。

 そんな俺の安堵も束の間、彼女の上着が落ちる音がした。

 ちょ! マジヤバイこれ! 三人の前でだけならまだしも、ドレンドさんの前でなんてどんな羞恥プレイだよ!

「はやく、やろ?」

 そして、俺の顔を両手で包み込み、また唇を重ねようとした寸前、分厚い鉄板を殴った時の様な鈍い音が響き渡ると、フェリスが崩れ落ちた。

「ふう、危なかった」

 そして、俺の頭上スレスレには、側金(がわかね)が向いた状態の大剣が有った。

 俺にも当たったらどうする心算だったんだ……。

「まったくもう、マサトさんは節操が無いんですから!」

 そこには剣を元に戻しながら、頬を桜色に染めるローザが、微妙な感じの表情で怒っていた。

 いや、俺は節操あるぞ! こんな人目のあるとこでなんかやろうと思わないしな!

「悪い、助かったよローザ」

 俺は心の声を隠して苦笑しながら礼を言う。

「後でフェリスさんにちゃんと謝ってくださいよ」

「ああ、――分かってる」

 気絶しているフェリスに柔らかな視線を落としそのまま抱え、優しく頭を撫でた。

――今回の件が終わったら、きちんと相手してやらないとな。

「さてと、おかしな方向に進みましたが、契約不履行の件、どうします?」

 俺が気を取り直してドレンドさんに顔を向けると、彼は両手を上げて降参に意を示し、

「君達には負けたよ。まさかこの私が、そんな女の子相手に怯むとは思わなかったしね」

 自嘲気味の苦笑いを見せた。そして、暫く沈黙した後、真剣な表情を見せた。

「一つ、聞いていいかな?」

「何ですか?」

「彼女は――」

 その質問はたぶん、彼女の種族の事。なので、全部言われる前に答える。

「天族ですよ」

 俺のその答えにドレンドさんの目はこれでもか、と言うくらい見開かれ、完全に言葉を失うほど、驚愕して居た。そして、彼の口から息を吐き出す様に漏れ出た一言に、俺は顔を顰めるのだった。

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