表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第四章
27/180

馬鹿は死ななきゃ?

 マウシスさんから聞かされた事を三人に伝えた後、俺は依頼受付カウンターで、先ほど(かす)め取られた依頼の場所を聞き出してから、一つの提案をして、ある許可を取り付けた。勿論、強引な手段で得る、なんて事はしない。大体あれは、ギルドから俺達に直接来た依頼だし、それをあいつ等が横取りして強引な手段で許可させたのだから、こちらとしても何らかの行動を起こす必要が有ると思っただけだ。

 まあ、結果的に見て、ギルドとしても利益に繋がる行動になるのだから、許可を出さざるを得ない状況だったのも確かな所、と言うのもあるけどね。

 そしてギルドを出た俺達は、またハロムドさんの店に来ている。

 実はこの店、武具だけじゃなくて他の道具類も充実してたりする。アイテムバッグとか、ウエストポーチみたいな身に付ける小物入れとか。

「ハロムドさーん」

「なんでーい」

 奥から気の抜けた声がしてきた。

 相変わらず店に居ない人だな。

「欲しい物があるんですけどー」

「ちーっとまってろーい」

 また気の抜けた返事が返って来たので、俺は諦めて肩を竦めるしかなく、ウェスラは苦笑を漏らしていた。まあ、キシュアとローザは店内の品物を見ながら、ワイワイと騒いでいたから、その辺りはどうでも良いみたいだった。

 さて、それじゃ俺も何か物色しますかね。

 まずは店中をぐるりと見回す。と、面白い物を見付けた。

「へえ……、こんなのも作ってるんだ」

 俺はそれを手に取りマジマジと眺めた後、構える。

「おめえ、よくそんな物見つけたなあ。もしかして、俺と趣味が合うんじゃねえか?」

 振り向くと、ハロムドさんがニヤニヤしながら立っていた。

「ハロムドさん、これって、拳銃、ですか?」

「ケンジュウ、なんてもんじゃねえよ。そいつあ魔装短小砲だよ」

 見た目はまんま六インチくらいのリボルバーなんだけど、これも魔装なのか。

「魔装短小砲とは随分と珍しいのう。じゃが、これはちと長くないか?」

 確かに携帯性とか考えると、六インチって若干長いよな。

「この長さはな、携帯性と命中精度が両立できて、射程も若干だが伸びんだよ。しかもな、一番バランスが良いんだぜ」

「じゃが、普通は十セムくらいじゃろ?」

 ウェスラの言った十セムってのは長さ。あっちの世界の換算で大体十センチくらい。ちなみにこの世界の長さの単位は一ミリが一ミム、一センチが一セム、一メートルが一ネル、そして一キロメートルで一ケムと成っている。まあ、別に知らなくても困らないけどね。

「ま、普通はな。でもよ、たかが五セム伸ばしただけで、威力も命中精度も格段に上がるし、それにな、見た目に反してこいつは結構強力なんだぜ?」

 ハロムドさんは自信たっぷりだけど、それに対して、ウェスラは懐疑的な眼差しを向けている。

「信じてねえようだが、こいつはお勧めだぜ? 高くねえしな」

 高くないとか言うけど、弾が無いと駄目だから、決して安くはないと思うんだけどなあ。

「一応、聞くけど、いくらなんです?」

 俺の質問に直ぐに営業スマイルになるハロムドさん。でも、その顔は信用できないんだよな。

「この魔装短小胞は百五十クォーク。五十発入りの弾が五十クォーク。合わせて二百クォークだな。ちなみに、矢の値段と弾の値段は同じだ」

 この世界にも通貨単位はある。ハロムドさんが言った、クォーク、が単位。で、紙幣などという物は無いから、当然、全部硬貨。小さい方から、黄銅貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、となる。黄銅貨一枚が一クォーク、それが十枚集まると、銅貨一枚分、更に銅貨が十枚で銀貨一枚、で、銀貨百枚で金貨一枚になり、金貨が十枚で大金貨一枚となる。ちょっとややこしいけど、まあ、大金貨に至っては普通は手にしないから、俺達みたいな庶民には関係無い。

 これを円に換算すると、黄銅貨一枚が十円、銅貨が百円、銀貨が千円、で一万円が無くて、金貨が十万円で大金貨が百万円ってとこ。なんで一円の単位が無いのか、というと、銀貨が千円の価値と同じくらいと考えれば、自然とこうなるだけ。それに、あんまり黄銅貨も使わないらしくて、流通量も少ないらしい。あと、余談だけど、昔は大銀貨なんてのが有ったらしいけれど、意外と使いかってが悪かったらしく、自然に消えたそうだ。

 それを踏まえて、ハロムドさんの提示した金額を硬貨に置き換えると、銀貨二枚。日本円に換算して二千円ほど。日本円で二千円なら安いけど、この世界の標準的な人数の家庭――家族五人――で、一月当たり銀貨三十枚で無理なく生活が出来るそうなので、少々高い。それでも、武器としては安い部類に入るのだけどね。

「でも、その弾で魔獣は倒せるんですか?」

 これが一番の問題。俺達は戦争をする訳じゃないし、魔獣が倒せなければ話にならない。

「ん? 一撃じゃまず無理じゃねえか?」

 あっさりと無理って言ったよ、このおっちゃん。

「魔獣を一撃でぶっ倒すにはこっちの弾だな」

 別の木箱を手にした。

「それって――」

「五十発入りで千クォークだな」

「それじゃ、銀貨十一枚と銅貨五枚じゃん!」

 一般家庭のほぼ十日分の生活費では安くない。それに、弾は使い捨てみたいなもんだし。

「俺は一撃でって言ったんだぜ? 大体だな、この一撃で三頭犬がぶっ倒せるんだぞ。高くはないと思うがな」

「でもそれって、急所に当たればって落ちでしょ?」

「いや、胴体に当てれば三分の一は体が吹っ飛ぶ威力になってる」

 平然と恐ろしい事を口にされた。

 威力有り過ぎだろ、それ。

「標準の鉛弾の有効射程が四十ネル。で、この弾は魔装弾なんで、有効射程も伸びて六十ネルになる。んでな、鉛弾と同じ距離から撃てば、三頭犬なんざ一発って訳さ」

 要するに、小口径銃だけど、弾を変えると狩猟用に早代わり、みたいなもんか。でも、あっちの世界の拳銃が、通常二十から二十五メートルなのと比べたら、凄い有効射程だな。

「でもさ、さっきから魔装って言ってるけど、その魔装って何?」

 そう、あの雪だるまも魔装機と言った。そしてこの銃も魔装。しかも、弾まで魔装なんて、何がどうなってるのかさっぱり分からん。

 俺が首を傾げていると、ウェスラが説明をしてくれた。

「魔装はその名の通り、魔力が関係しておるのじゃ。正式名称は魔力感知充填核装備装置、と言うのじゃよ。なので略して魔装と呼んでおるのじゃ。これはの、魔力を感知すると同時に、核に充填された魔力を放出する特性があるからなのじゃ。じゃから、あらかじめ核に魔力を充填しておき、魔力を使って発動させるという、ちとややこしい装置なのじゃ。そして、それを中核として開発した物に魔装の名を冠するのじゃ」

 発動させる為には核に魔力を充填して、その充填した魔力を発動させる為に魔力を使うって訳か。確かにややこしいな。

「原理は分かったけど、なんで弾に魔装を使うんだ?」

「おめえ、馬鹿か?」

 呆れ果てた表情をハロムドさんが見せた。

「だって、弾は当たればいいんだろ? なら魔装にする必要ないじゃん」

 ウェスラとハロムドさん、それに、傍らで何時の間にか話を聞いていたキシュアにローザまで、皆で盛大な溜息を付いていた。

 何なんだよもう! 皆して!

「良いですか?」

 ローザが何故か手を上げる。

「良し、発言を許す!」

 ウェスラはまるで教師の様だった。

 何で此処で学校みたくなるんだ。

「魔獣は大なり小なり魔力を持っています。それも我々以上に。小鬼でさえ、人族の平均値よりも多いんです。三頭犬くらいの大型の魔獣ともなれば、体表面に恒常的に魔力障壁を纏う物すら居ます。接近戦における強力な物理攻撃や、威力のある魔法ならば無視出来るほどの物ですが、そんな魔獣相手に魔力の篭もっていない小さな鉛弾の遠距離攻撃なんて効きません。これは矢にも同じ事が言えますが、矢の場合は魔力を込めて射るので問題になら無いんです。それならば弾に魔力を込めればいいと思うかもしれませんけど、物が小さ過ぎて意味を成さないんです。そしてこれが、短小砲の弾に魔装弾がある理由です」

「うむ、合格じゃ! マサト、おぬしはワシが教えた事を忘れておる様じゃからの、良く覚えておくが良い!」

 そう言われて思い出した。

「そう言えば、そんな事も言ってましたねえ……」

 俺は現実逃避をする様に、遠い目をして皆から顔を背ける。だけど、それを許してくれない人が居た。

「旦那様よ。下半身にばかり血を回さないで、少しは頭に回さねばいかんぞ」

 そう言いながら俺の首筋に手を回すと、キシュアは徐に噛み付き、血を啜り始める。

「わ、分かったから、や、止めろ! 痛い、痛いってば! って、なんでこんなに激痛が走るんだよ!」

 押さえ付けられて暴れられない俺の目の前で、ウェスラは呑気な顔で遠くを眺めていた。

「そう言えば、吸血族に吸われて痛くないのは、唾液の所為じゃったかのう――」

 くそ、意識が朦朧としてきた。幾らなんでも吸われ過ぎだ。

 このままじゃ不味い、そう思った所でキシュアは離れていった。

 なんという絶妙なタイミングだ。

「ふう、久々に吸うと美味い。やはり旦那様の血は美味なるぞ」

「そんなに美味しいんですか?」

「ローザも舐めてみるか? 病み付きになる事請け合いぞ」

「病み付きにならなくていいから!」

 と言うか、これ以上吸われたら、マジでヤバイんだってば!

 でも、制止も虚しく、ローザはふらつく俺の体を拘束して、キシュアが噛んでいた位置に自らの犬歯を付きたてて、血を啜り始めてしまった。

「う……、もう、駄目――だ。意識が……」

 そのまま俺は脱力した。

 勿論、その後、何がどうなったか等、俺は知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ