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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第四章
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無自覚の力!

 翌朝、早くに目覚めた俺は昨晩の事を思い出し、一人で顔を真っ赤に染めた。あの大人しい感じのローザが余りにも積極的過ぎて、反撃の糸口が見付からないまま済し崩しになさってしまったからだ。しかも、その隙を付かれ、ウェスラとキシュアにも攻め込まれてしまう体たらく。お陰で負け戦になってしまった。

 ま、別にいいけどね。三人とも満足した様だし。

「さてと、そろそろ起きて……」

 呟きはそこで止まる。両手両足に体まで三人に絡め取られていたからだ。右腕と右足はウェスラに、左腕と左足がキシュアに、そして体、といっても腰の辺りにローザが抱き付いていた。

「ちょっとこれ、まずいな……」

 本当はまずいどころの話じゃない。全裸の俺に、全裸の彼女達が絡み付いているのだ。しかも、色々な所が密着してその感触が直に伝わってくる。気持ち良い朝の目覚めが、このままだと昨晩と同じ煩悩(ぼんのう)(まみ)れに成ってしまう可能性が非常に高かった。

「どうすれば……」

 俺は必死に考えるが、どうしてもその考えが邪な方向へと突き進み、段々と煩悩に支配され始めていたその時、

「おはようございますう……」

 腰に張り付いていたローザが目覚めた。

「お、おはよう」

 若干焦り、慌てて挨拶をすると、彼女は体の上をそのままずり上げて来ると、身動きが取れない俺にキスをした。

「朝から元気ですね。またやっちゃいます?」

 微かに頬を赤らめながら平然と言うローザ。だけど、本気じゃないのは表情を見れば分かる。でも、俺がやると言えばそのまま行為に及びそうな気配もちらつかせていた。

「却下だ!」

 幾ら元気になってるとは言え、朝からなんて流石にやる訳にはいかない。

「ちょっと残念です」

 ふふふ、と悪戯っぽい笑みを零して、彼女は前を隠そうともせず、そのまま起き上がる。

 ちょっと惜しい気もするけど、(ただ)れた生活をする訳にはいかないしな。

 程なくしてウェスラとキシュアも目を覚まして、おはようのキスをしてくると、やっぱり隠しもせずに起き上がった。

 なんだか皆、羞恥心が欠けて来て無いか?

「なあ、恥かしくはないのか?」

 一応、聞いてみる。

「何アホな事言っておるのじゃ。恥かしく無い訳なかろう」

 あ、恥ずかしいんだ、やっぱり。

 でも、そうだよな、下着を着けるにしても布団の中でなんて無理だし、恥かしくても起きるしかないんだよな。

 そういう訳で俺も布団から抜け出したが、三人が思いっきり視線を逸らしたのは言うまでも無い。

 朝の生理現象は隠せないからね!



                     *



 俺達は着替えて顔を洗い終わると、台所で途方に暮れていた。その理由は昨日の残り物。そう、俺が丹精込めて作ったシチュー。それが大量に余っているのだ。これを一日三食食べたとしても三日経っても終わらない。最も、四人で食べたらの話ではあるけれど。

 ただ、ウェスラの話に因れば、アルシェ達が昨日帰ってこなかった事を(かんが)みれば、今日も帰って来るかは怪しいとの事だった。実の所、彼女を含めた親衛隊は、王国内で何か問題が起きると城に拘束されるか、極稀に派遣される事が有るのだそうだ。

 でも俺は、それを疑問に思った。

 城に拘束されるのは分かる。人数が少ないとは言え、ユセルフ王国でも最高戦力の一角なのだから。だけど、派遣とはどういう事なのだろうか。しかも、王女であるアルシェまで派遣するなど、死んでも構わないと言っている様なものだ。それに、アルシェを溺愛するあの王様が同行を許可するとも思えない。最も、アルシェには甘い王様なので、彼女が無理やり頼み込めば許す可能性もある。それでも危険が最小限な時以外は許す事はない筈だ。

 そんな疑問が頭の中を駆け巡り、腑に落ちない点をウェスラに伝えると、何とも歯切れの悪い返事が帰ってきた。

「ま、まあ、あれじゃ。アルシェ達の問題じゃし、ワシも首を突っ込めぬのじゃ」

 アルシェ達の問題、か。

 確か、アルシェは第三王女と言っていた。それは即ち、上には姉が二人居ると言う事。でも基本的に第一王位継承権とかいう物は、通常は王子――長男が有する筈。そう考えると最低でも、四人兄妹と言う事に成る。

「なあ、アルシェには弟って居るのか?」

「おらぬ筈じゃが? それがどうしたのじゃ?」

 弟は居ない、とすれば兄は居るか。でも今はそこまで聞かない方がいいかもしれない。

「まあ、ちょっと気に成る事があっただけ。別になんでもないよ」

 どうでもいいと言うように俺は軽く肩を竦めて自嘲気味に笑う。ただ、ウェスラは怪訝な表情を見せると同時に、安堵もしている様だった。

 それに俺としても首を突っ込む訳にも行かない。なんせ、明日は城に登城しなければいけないので、ここで安易に問題を起こす訳には行かなかった。彼女の夫に成った身ではあるけどね。

 全ては明日、登城して王様に謁見してから、と自分に言い聞かせて、この疑問は仕舞いこんだ。



                       *



 朝食後、今日もまた俺達はギルドへと向かう。せっかく冒険者登録をしたのだから、何か依頼を受けてみようという話になったからだ。

 依頼を受けるに当たって、北と南、どちらが良いのかとウェスラに尋ねた所、依頼は南でしか受けられない、と言う事だった。じゃあ、何故北に出張所的なものが有るのか、というと、報告だけの為に有るのだそうだ。この王都は面白い事に一般人、――要は俺達みたいな冒険者や商人、王国民などが使える出入り口は、事実上、北と南にしかない。一応、西にも有るのだけれど、そこは軍属専用なのだそうだ。そして、当然王城が東に有る事から、東の出入り口は無い。では、東から攻められたら、と疑問に思うかもしれないが、その心配は全く無い。そちらの市壁は城壁と重なり合う形で、厚みは倍もあり高さも他よりも高くなっている。因って、東から攻めよう物ならば、弓や魔法での格好の的にしかならないのだ。それに、この国に攻め入るには南か北しか無いのだから、こんな形でも問題ないのだろう。

 ま、俺達にはどうでもいい事だけどね。軍役は免除されてるしさ。唯一つ、心配が無い訳じゃないけど、それも今は問題ない。

 と言う訳で、今、俺達はまたギルドへとやって来ている。そして、掲示板の前に居る訳だが、なんか(ろく)な依頼が無い。

 残っているのは七級以下の依頼か、三級以上の依頼だけ。四級、五級あたりの依頼は、全く無かった。

 ちなみに、七級以下の依頼は採取や農作業の手伝い、店の掃除とか、子供のお使いか何でも屋かよ、って感じ。対して三級以上になると討伐系や商隊護衛なのだが、どれもこれも日帰りで受けられそうな依頼はなかった。

「旦那様よ。どうする?」

 俺はキシュアのに言われて考え込んだ。

 採取は兎も角、掃除や農作業なんてパスだ。だからと言って商隊の護衛は出来ないし、今日だけは遠征しての討伐も駄目だ。どうしたものかと悩んでいると、後から声を掛けられた。

「すみません。緊急の討伐依頼が入ったのですが――」

 俺が振り向くと、そこにはあの時の試験官が居た。

「「あっ!」」

 同時に声を上げると、彼女はばつが悪そうに俯いてしまう。

 そりゃそうだよなあ。俺の事目の敵にして、亡き者にしようとしてたんだし。しかも、それがばれた訳だから、ギルド内での地位も落ちただろうしなあ。

 もっとも、彼女にしてみれば、今の俺達の後姿じゃ分からなかったんだろうけどさ。

 俺は試験を受けた時の制服姿ではなく、カーキ色のロングコートに下は麻のシャツと皮のズボン。それも大腿の前部に金属板が貼り付けてある物で、足元は同じく皮製で金属板が貼り付けてあるロンググリーブ。腕は袖に隠れてはいるけど、ガントレットに指なしのグローブを嵌めて、胸部にはブレストプレート。それに、剣は鞘に収めて腰から吊っているので、柄も見えないが、完全に冒険者の格好。

 ウェスラなんて真っ黒なローブで髪まで隠れてるし、キシュアは漆黒のドレスで髪は昨日とは違い結ってもいない。それに、ローザは身に付けている物こそ変わっていないけど、巨大な剣を背負ってるんだから、昨日とは(えら)い違いだ。しかも、キシュアを除いた俺達の装備は、外見からだと相当使い込まれてる様にも見えるしね。

 そんなとんでもない格好の四人組なんて、後から見れば当然、昨日、試験を受けたばかりの冒険者だなんて気が付く訳が無い。

 ちなみに、俺の着ている物は、全てキシュアが用意をした。彼女の父が昔使っていた装備を引っ張り出して来たのだが、それを身に付けてみると、(あつら)えた様にぴったりだったからだ。

 まあ、そんな事で気が付かなかった彼女ではあったけど、俯けた顔を上げて営業用の表情へと直ぐに戻していた。

「改めてお伺いします。緊急討伐依頼が入りまして、こちらをお受けして頂けないでしょうか?」

 俺の前に依頼が書かれた紙が出される。それを読む事は出来ないけど、取り合えず受け取ろうと手を伸ばした時、横合いから紙を(かす)め取られた。

「こいつは俺達がやらせてもらうぜ!」

 それは昨日、俺に凄んで来たあの男だった。

「い、いけません! 然るべき腕の冒険者に当たらせる様にと、王宮から来た依頼なのですよ!」

「うっせえよ。王宮なんざ知った事か。それに、そんな奴に出来る事なら俺達にだってできらあ」

 男はそのまま受付へと紙を持ち込み、無理やり承諾させている。

 しかし、然るべき腕の冒険者とか、相当危険なんだろうな、たぶん。ま、この際だから採取でもいいか。それに、あいつにも仲間が居るみたいだし、何とか逃げるくらいは出来るだろ。

 俺は僅かに視線を動かして、悟られない様にその仲間を見た。

 黒と白のローブを纏った魔術師が二人に、弓師と剣士、そしてあの男も剣士だろうから、まあ、パーティーとしてのバランスは悪くなさそうだ。

 しかし、どの顔もなんだか卑しい顔付きをしてる。これじゃあ、盗賊、と言われても納得しちまうぞ、俺。

「申し訳御座いません。こちらからお願いをしておいて、あのような事になってしまうとは……」

 深々と腰を折り、彼女は謝罪する。でも俺は気にしない。大体、ああいった馬鹿は何所にでも居るし、たぶん、依頼は失敗するだろうって思ってるから。

「別に気にはして無いよ。でも、気を付けた方がいい。たぶん、失敗すると思うから」

 実は、彼女が謝るタイミングで俺はキシュアからさっきの討伐内容を耳打ちをされていた。

 それは黒妖犬(ヘルハウンド)の討伐で数は二十匹。

 そこで俺はすぐに計算を弾き出し、そこから得た予測を元に、失敗すると言った訳だ。

「一応、彼等の中には一級の冒険者も居る様でしたから、一概に失敗するとは……」

 一級も混じってるのか。って事は、そこそこの腕はあるって事だな。

「なあ、ウェスラ」

「なんじゃ?」

「黒妖犬二十匹って、普通、そんなでかい集団って有り得るのか?」

 俺の中に有る知識では、精々十匹前後が普通だと彼女から教わった筈。なら、そんなでかい集団は有り得るのだろうか。

「二十匹はワシの経験から言っても有り得ぬが、例外も無い訳ではない。じゃが、そこまでの数が纏まって居るならば、別の固体、即ち、黒妖犬以外がボスとして纏めて居るじゃろうな」

「べ、別の固体ですか?!」

「うむ、これはワシの推測じゃが、たぶん、三頭犬(ケルベロス)辺りではないかと思うの。しかし、それが事実だとしたならば、本来は二十匹では利くまい。少なくとも五十匹は居るはずなんじゃが――。ただのう……」

 そこで首を傾げて考え込んでしまった。

「何か引っ掛かるのか?」

 ウェスラは唸るばかりで答えようともしないが、変わりにあの女性が答えてくれた。

「それが事実だとすれば、ギルドに依頼する事ではなく、本来は騎士団の仕事ですし、もっと大騒ぎになっている筈なんです。それに、そんな物が依頼として回ってくる事自体、おかしな話なんですよ」

 俺は首を傾げた。

 さっき、緊急の依頼と言っていた筈。それがおかしいとは、どういう事なのだろう?

 考え込む俺に女性は近付くと、耳元で囁き始めた。

「実はこの依頼なんですが、あなた方がギルドへ入ると同時にお城の使いの方が持ち込んだのです。ただ、たまにそうやって依頼が来る事も有ったので、受けた者は不思議には思わなかった様ですが、今まで、こんな中途半端な時間に来た事は無いんですよ」

 それだけを言うと、彼女は素早く俺から離れた。

「そういう事か……」

 お陰で事態が飲み込めた。

「ありがとうございます――ええと……」

 俺は礼を言ってから気が付いた、彼女の名前を知らない事に。

「済みません、貴女のお名前を聞いてませんでした。宜しければ教えて頂けませんか?」

 少しだけ困った表情を見せると、彼女は戸惑いを浮かべていた。

 昨日、あれだけの事をされた相手が怒るならまだしも、困った顔見せるとか、戸惑うのも無理ないよな。でも、なんで頬がほんのりと染まっているんだろう、謎だ。

 (しばら)く戸惑う彼女を不思議に思いながら眺めていると、俺の目を真っ直ぐに射抜きながら意を決したのか、はっきりと名乗った。

「わたしはリエル――リエル・マウシスと申します」

 そう名乗った彼女を俺は改めて見詰める。

 目尻は微かに吊り上がり意志の強さを表し、薄暗い室内にあっても輝く金色の瞳、やや小さめな鼻梁に薄めだが真っ直ぐに引き結ばれた赤い唇、そして、淡いオレンジ色の髪をボブカットにしている所為か、やや活発な印象も受ける。それでいて見る角度が変われば幼くも大人びても見え、着ている服もあっちの世界で言えばスーツに良く似ているが、体のラインが微妙に分かる程度のタイトさを持って、自分の魅力もほんの僅かばかりアピールしていた。ただ、腰の辺り、というか尾骶骨付近から、先っちょがスペードの形の様な、典型的な悪魔的尻尾が生えてたりしたけど、これは今、初めて気が付いた。

 そんな彼女に俺が抱いた印象は、理知的。云わば理系のお姉さん的な感じだった。

 あの尻尾から察するにマウシスさんは魔族なんだろうな。獣族には無いのに魔族には有るとかちょっと不思議だ。

「本当にありがとうございます。マウシスさん」

 今度こそ、しっかりと腰も折り、礼をした。

 彼女としては仕事の一環からの助言なのだろうけど、俺にはそれが非常に有り難かったのだから、きちんと礼をするのは間違いではない。ただ、彼女からすれば意外な行動だったのか、何故か動揺していた。

「べ、別にあなたの為に言った訳ではありません! そちらの三人が巻き込まれては問題があると思ったからです!」

 そのまま踵を返すとカウンターの方へと歩いていってしまった。

 なんだ? あの態度?

 俺が訝しげに思いながらその背を見送っていると、後からウェスラとキシュアの笑いを押し殺した声が微かに聞こえ、俺が振り返ると、

「おぬしはやはり面白いの」

「これはもしかすると、もしかしますね、姉さま」

「そうじゃの」

 そんな二人に、俺とローザは首を傾げた。

 何だこの意味深な会話は?

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