追加入りまーす
俺の魔力関係のデータはこの世界では余りにも非常識過ぎて、その為に書き換える事が必要となった。まず、魔力量は四千三百から三百へ。純度は推定プラス三十以上からプラス五へ。ただ、何故そんな事をしたかと聞かれれば、ウェスラからの進言があったからだ。
彼女曰く、マサトの処遇を巡って戦争が起きかねないから、との事だった。
まあ、俺としてもそんな事で国家間で戦争を起こされても困るし、国に縛られるのも嫌だ。何よりも、そんな事になれば皆と一緒に居られなくなるし、暗殺だ闇討ちだの、命を狙われる可能性だって有り得る。俺としてもそんな事態は避けたいので、この改竄は願ったり叶ったりだった。
取り合えず改竄された魔力でも、ウェスラの言っていた最低の七級はクリアしているそうなので、実技試験で何所まで上がれるかが鍵であったりする。
何故、それが鍵なのかというと、キシュアが吸血族なので実技無しで四級認定されているからなのだ。なので、俺も四級にまで昇らなければならない。そうしないとパーティーを組む事も出来ないと言われた。どうやら五級と四級が境目らしいのだ。通常なら五級とか四級あたりは中級者と言われると思うのだけど、この世界では違うようだ。
実の所、四級から上は依頼も格段に難しくなるから、それ相応の腕が無いと死ぬ確立が増すだけで依頼達成など出来ないらしく、その為に昇格試験が厳しくなるんだとさ。要するに上級者の足元、というか足の裏くらいの位置付けって事だね。
そして俺は現在、実技試験の待合室で待機中。ただ、不思議な事に、俺以外誰も居ないんだよね。もっとも、今の俺には好都合なんだけどさ。
実は今、剣に魔力を込める練習をしてるんだ。なぜ、そんな事をするかと言うと、ミスリル銀製の剣ってのは、魔力を込めてやら無いと普通の剣以下の性能しか発揮出来ないらしいのだ。なので、少しでも練習して使える様にしないといけないんだな。
もちろん、魔力を流し込む方法はウェスラ直伝、とは言いたいとこだけど、これは基礎中の基礎なので、誰に教わっても同じ。遣り方としては、体内の魔力を感じ取り、それを手の平から剣へと注ぎ込むのが一般的らしい。他にも有るような言い方をされたけど、まずはこれが出来なければ話にならないそうだ。
ただ、練習をしていて面白い事が分かった。この剣、魔力を込めるとその量により色合いが変化するんだ。何もしないと普通の銀よりも鈍い光を放つ程度なんだけど、徐々に量を増やしていくと、くすんだ銀色から表面を鏡面仕上げにした様な銀色へ。そこから更に込めると白っぽくなった後、黄色が混じり始め、そのうち黄金色に。もっと込めると虹色に光りだす。そこから更に込めると、青白い炎を纏ったみたいに揺らいだ光り方をする。
で、今はもっと込めると、どうなるか見てるとこ。
「ほう、ミスリルの剣とは面白い物を持っているな」
声の方に顔を向けると、さっきの獣族の女の子だった。
「扱いが難しいと聞くが、大丈夫なのか?」
大丈夫か、と聞かれてもなあ。
「さあ? ハロムドさんから渡されただけだしね」
俺はまた魔力を込めながら素っ気無い返事をする。
「なにっ! あ、あのハロムド・ボンクール殿が直々に渡しただと?!」
それほど驚く事なのか? あ、でも、おっちゃんのフルネームが分かったのは良かったかな。
「俺が使える剣らしいよ、これ。もっとも、使いこなせる様になったら、別な剣を打ってくれるって言ってたけどね」
「そこまで仰られたのか!」
何で一々驚くんだろう。
「で、では、ハザマ殿は相当な使い手であるのだな!」
「いや、剣技は素人も同然、というか武道全般が素人かな」
俺のこの答えに、彼女は呆気に取られて固まってしまった。
驚いたり固まったり、忙しい娘だねえ。
俺は練習を中断して剣を傍らに置くと、固まった彼女をマジマジと見詰めた。
身に付けている物は動きを阻害しない様にだろか、ブレストプレートとガントレットそしてグリーブだけ。しかも、ブレストプレートが見事なほど湾曲して盛り上がっている。これはウェスラとタメはれそうだ。
などと考えながら見ていると、行き成り頭を殴られた。
「いってえな! 誰だ殴った奴は!」
「わらわだ」
隣を見ると何時の間にかキシュアが、居た。
どっから入って来たんだ?
「いやらしい目付きで見知らぬ女子を見るなど、叩かれて当然!」
いや、それはご最もですけど、でも、俺は男ですから、そこは多めに見てくれると有り難いんだけどな。
「そ、そんなに見たければ、――わらわのを見れば良い」
頬を染めながら行き成り服を脱ごうとした彼女を俺は慌てて止めたけど、その拍子に椅子に押し倒してしまった。
「ハ、ハ、ハザマ殿は、斯様な場所で何を……」
その声に振り向けば、彼女が羞恥で頬を桜色に染め、そして、前に顔を向ければ椅子に押し倒されて肩が肌蹴、スカートの裾が乱れまくった状態のキシュア。しかも、恍惚とした表情まで浮かべてやがる。
俺はハッとして咄嗟に飛び退こうとしたが、時既に遅し、キシュアに頭を抱かえられて彼女の胸に顔を埋める格好になってしまった。
おお! 小ぶりだけど柔らけえ! じゃ無くて! これって、すっごい不味くね?
「こ、こ、この! 変態!」
怒声と一緒に鞘鳴りが微かに聞こえ、俺の中で最大級の危険警報が鳴り響くと考えるより先に体が動いた。空いた手で咄嗟に剣を掴んで、瞬時に魔力を流し込み背中に担ぐと、僅かに遅れて金属同士がぶつかる鋭い音が響き渡り、俺の背中に衝撃が走った。
あっぶねえなあもう。こんな事で剣を抜くなんて、少し堪え性が無さ過ぎだぞ。
「流石はわらわの旦那様。この様な状態でも剣を扱えるとは。これはご褒美を授けねばなるまいな」
抱え込まれた頭が開放されて俺が身を少しだけ離すと、今度は首に腕が巻かれてキシュアの顔が眼前に迫り、キスをされてしまった。それも、とびっきり濃厚に。
「い、一度ならず二度までも――! 剣士の風上にも置けぬ奴め!」
俺、剣士じゃないし、風下でいいっす!
と、言いたいけど、キシュアが離れようとしない。でも、二撃目は襲って来なかった。
彼女が満足するまで貪られてから俺はようやく解放され、キシュアは乱れた服も直さずに腕に絡む。そして獣族の彼女は、先ほどまで羞恥に染めていた顔を怒りに変えて俺を睨み付けながら、剣を片手に震えている。
何か言いたそうだな、と思っていると、案の定、口を開いた。
「き、貴様はあれほどの腕を持っているというのに、何故、わたしを謀った」
「謀る?」
「そうだ! 先ほど言っていたではないか、素人同然だと! 何故隠すのだ!」
「嘘じゃないよ。俺、習った事ないし。まあ、見てはいたけどね」
「貴様は見ていただけで、あれほどの事を遣って退けたというのか――」
驚きで目を見開き、彼女は拳を握り締めて震えていた。。
背後で鞘鳴りがすれば、剣を抜いたって事くらい気が付くし、その後どうするかなんて、嫌でも分かる。
「まあ、剣術の事はどうでも良いけど、一つだけ言っておく。無防備な相手の背後から剣を振るうのは剣士じゃない。それは、暗殺者だ」
この一言で彼女は剣を取り落とし、跪いてがっくりと項垂れてしまった。
「ま、まさか――こんなエロガキに諭されようとは……」
エロガキで悪かったな。ってか、この程度でエロガキ言うな。
「斯くなる上は……」
ん? 定番の自害か? まあ、それはそれで困るから止めるけどさ。
「わ、わたしと勝負しろ! そしてわたしが勝った時は大人しく斬られろ!」
おいこら、なんでそうなる。普通は自刃とか、そういう流れだろうが。なんで俺の予想の斜め上に行くんだよ。
「やだ」
「は?」
「だから、嫌だ、って言ってんだよ」
「いや……、そう言われても――ここはやはり勝負で白黒付けないと……」
何の白黒付ける心算だ、こいつは。
「だって、俺には何のメリットもないもん」
「めりっと?」
彼女が首を傾げてしまった。
メリットって通じないのか。
「俺が得しないって言ってるんだよ」
「そ、それはそうだが――」
口篭り、また俯いてしまう。
なんか面倒くさい娘だな。仕方ない、何か条件付ければ受けるって流れにするか。
「それじゃあさ、俺が勝ったらどうする?」
俯いていた彼女の顔に光が差し込み、精気が戻り始める。
何この娘、こんなので元気になるの?
「しょ、勝負してくれるのか?」
「俺が勝った時の条件があればね」
「わ、分かった。ハザマ殿が勝利した時の条件だな」
彼女がブツブツと何かを呟きながら暫く考え込む間、俺達はイチャイチャしていた。
「こら、そろそろ服を直せ」
「嫌だ」
「恥かしくないのかよ」
「旦那様と一緒だからな」
「なら、もっと脱ぐか?」
「ご所望とあらば」
「どうすっかなあ」
「煮え切らないお方よの」
「いや、流石に人目があると俺が恥かしいから」
「わらわは大丈夫だ」
「この淫乱さんめ」
「あん、その様な所を突付くでない」
「ここがええのか、それともこっちか? うりうり」
「だ、だから、――んあ、止めよと、――んむ、申して、――はあ、いるでは、――あふ、ないか……」
「その割には抵抗がないぞ、ほれほれ」
「ああ――」
「ほれほれ、我慢しなくてもいいぞ」
「ハザマ殿、何をして居られる」
俺はピタリ、と動きを止め、油の切れた機械の様に、ぎこちない動きで振り向くと、そこには、般若の形相で睨み付ける彼女が、仁王立ちしていた。
「わたしが真面目に考え込んで居たというのに、なんと破廉恥な事をしているのだ! それに、奥方も奥方だ! その様な事を恥とは思わぬのか!」
矛先がキシュアへと向かい俺はホッとしたが、それを彼女は平然と受け止めている。流石は齢百超え。
「旦那様の望みを叶えるは妻の務め。この程度、恥とも思わぬ」
俺が言うのもなんだけど、少しは恥じらいって必要だと思うよ。
「ハザマ殿!」
「は、はい!」
飛び火してきたー!
「貴殿は一体、奥方にどういった教育をしているのだ!」
「教育も何も、まだ一緒になって二日目だけど?」
「は?」
「新婚ですが、何か?」
嘘は付いてない。キシュアとは新婚ほやほやだし。
「では、一つ聞くが、昨夜はもしかして……」
「うむ、初夜であった」
キシュアの一言で彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まる。しかも、なにやらうわ言の様にブツブツと呟き始め、口元がだらしなく歪んで、涎が流れ始めた。
「おーい、よだれ垂れてるぞー」
彼女はハッとして腕で口元を拭うと、大きく域を吸い込んでから険しい表情を作る。
「わ、わたしとした事が、つい妄想の世界に……」
危ない娘だなあ。
「兎も角だ! 幾ら新婚だからといっても人前で遣って良い事と悪い事がある。そのくらいの分別くらいは持っていてもらいたいものだ!」
俺とキシュアは共に顔を見合わせて、アイコンタクトを取ると、この場は頷いて置く事にした。
「分かったよ。少しは自嘲する」
「少しではない!」
「はいはい、で、俺が勝った時の条件は決まったのか?」
このままだと話が進まないし、強引に進めさせてもらおう。
「うむ!」
彼女は自信たっぷりに腰に手を当てて胸を張る。
これって、片手に牛乳でも持たせれば風呂上りのポーズだよな。
「で、俺が勝つとどうなるんだ」
さて、どんな条件を提示するかな。場合によっては、拒否しないとな。
「それはだな!」
一瞬の溜めを彼女は作り、満面の笑顔で言い切った。
「貴殿が勝ったならば、婿に迎えてやる!」
「却下だ!」
俺の即座の駄目出しに彼女は愕然としながら抗議してきた。
「な、なぜだ?! 何が不満だと言うのだ!」
「妻が居るのに婿になんかなれるか!」
普通、隣に奥さんが居る相手に対して言う事じゃ無い事に気が付いて無いとか、どんだけアホなんだよ。
「結婚していると婿に迎える事が出来ないとは、初めて知った……」
今度は両手まで付いて跪くとさめざめと涙を流し始めた。
気が付く付かない以前の問題かよ!
「ならば、妻に成れば良いではないか」
それ言っちゃ駄目! 変なフラグ立っちゃうよ!
「そ、それは出来ん!」
顔を上げて彼女は落とした剣を手に取ると、勢いよく立ち上がり、それを掲げる。
「わたしが嫁になる条件は、この剣が折られた時のみだ!」
その時、硬い物にひびが入る様な甲高い嫌な音が響いた後、重々しい音を立てて床に何かが落ちた。
「あ」
「お?」
「ほう」
それは、半ばから折れた剣だった。
俺達はそのまま無言でそれに目線を落としてから、互いの顔を見合い、乾いた笑いを上げる。
「あははは――」
「はっはっは――」
「ふふふ――」
そしてまた、無言に戻った。
「マサト・ハザマさん、実技試験を行ないますのでお入りください」
俺が即座に立ち上がって脱兎のごとく部屋を後にしたのは、言うまでも無い。
俺は負けない、負けないぞ! 絶対ハーレム王になんかなるもんか!