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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ユセルフ王国編 第三章
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そうだ、冒険者ギルドへ行こう

 いやはや今朝起きた時はすっげえ恥かしかった。なんせ、全員全裸で抱き合って寝てたんだから。しかも、昨晩の事がありありと脳裏に蘇って来たもんだから、もう全身から火が噴出すんじゃないかってくらいだ。ただ、そんな事を思っていたのは俺だけだった様で、四人は起き出すと代わる代わる俺におはようのキスをしてきた。もっとも、頬は桜色だったけどね。ただ、動揺する俺に比べて、彼女達からは、幸せそうな雰囲気しか伝わってこなかったのが幸いかな。

 で、今は着替えて食堂で朝食中。

 今朝のメニューはバタートーストにサラダとスープ、それにホットミルクという、至って簡素な物。ただし、俺のお手製だ。もっとも、人数が人数なだけに、ウェスラ達にも手伝ってもらったけどね。ただ、パンの表面を焼いて、バターを塗るって事をこの世界では遣らないらしい。だから凄く珍しがられた。

 俺達は昨夜と同じくまた五人で一つのテーブルを囲み、静かに朝食を食べているのだが、何故か親衛隊の面々の視線が時折突き刺さるんだよね。

「なあ、なんか凄く視線が痛いんだけど、なんでだ?」

 それは俺以外にもシアやアルシェ、ウェスラの三人も感じていたようだ。

「なんでじゃろうなあ?」

 ウェスラが首を傾げる。

「さあ? 私にもちょっと」

 アルシェも同じ仕草をする。

「マサトが何かやらかしたのではないですか?」

 相変わらず、と言いたい所だけど、流石に今朝は切れが悪い。

 四人で首を傾げていると、キシュアがとんでもない事を言い放った。

「仕方ないであろう? 昨夜、われ等にアレだけ嬌声(きょうせい)を上げさせてくれたのだから」

 嬌声って……。

「まさか、聞こえてた訳、じゃないよな?」

 キシュアの口元が軽く釣り上がり、自嘲とも取れる笑いを作った。

「奴等は皆、獣族であろうが。ならば戸を閉めておっても駄々漏よ」

 彼女はニヤニヤしているが、他の三人は完全に茹で上がり、俯いてしまった。俺は良く分からず少し考え込む。

――獣族だから聞こえたってどゆこと? えーと、ウォルさんは人狼族で、確か、親衛隊の殆ども同じ。んー。なるほど、――わからん。

「なあ、なんで獣族だと聞こえるんだ?」

 考えても分からないならば、聞くまでだ。

 でも、キシュアに呆れた顔をされてしまった。

「わらわの旦那は阿呆だったのか……」

 大きな溜息を付いて、首を左右に振る彼女。

 分からないから聞いたのに、何だこの反応?

「マサトは基本的に阿呆ではないのじゃが……」

「ええ、寧ろ頭は良い方ですが……」

「ヒモですから仕方ありません」

 全員に溜息を付かれて首を振られた。

「なんだよ、皆して。分からないから聞いてるのに、どうして溜息付くんだよ」

 今度はウェスラ達だけでなく、この場に居る全員が溜息を付いていた。

 なんでそうなる。

 少し不安になり始めた時、呆れ顔を俺に向けてキシュアが口を開いた。

「獣族はな、どの種族も(おおむ)ね人族よりも身体能力が優れているのだ。詰まる所、人族には聞こえなくとも、あやつらには聞こえていると言う事だ」

「なんで身体能力が優れていると聞こえ――あっ……!」

 そこでやっと気が付いた。

 身体能力というのは何も運動能力の事だけだけじゃない。視覚や聴覚、嗅覚や味覚、触覚といった五感も身体能力の一つ。それを踏まえれば、動物の容姿を残す獣族の場合、人よりも秀でた部分が必ず有る。それに人狼族であれば、聴覚と嗅覚は人よりも優れていてもおかしくは無い。なんせ、狼はお犬様の親戚だしね。

 俺は自分の顔が猛烈な勢いで赤くなって行くのが、分かった。

「そ、そ、そ、それじゃあ……、終わるまで皆寝られなかったのか!」

 一斉に頷かれた。ただし、その中で三人だけ、頷きもしない人物が居た。

 ランガーナさん、ウォルさん、そして可憐の三人だ。

 まあ、ランガーナさんは人族だから分かる。同じ意味で可憐も聞こえていたとは思えない。でも、ウォルさんに聞こえていない筈は無い。もっとも、ウォルさんならば聞こえていても、聞こえてないフリくらいはすると思うけど、この場合、何故か余りにも不自然な気がした。だって、普段のあの人なら、頷きはしなくとも苦笑くらいは見せる筈だからだ。それが、我関せず、と言わんばかりに黙々と飯を食ってる。どう見ても怪しい。

 俺が彼の背中に視線を突き刺していると、何故か、真っ赤な顔をした可憐に睨まれた。

 なんであいつが俺を睨むんだ?

「なあ、ウォルさんと可憐って付き合ってるのか?」

 小声で四人に聞くが、何故か四人揃って困った表情をした。それを見て俺は、ピンと来た。

「そうか、付き合ってたか」

 俺は一人納得をする。この場合の俺の付き合ってたは、深い仲になっている、と言う意味だ。

 そんな俺を見て四人は安堵の溜息を付いてるけど、本当なら俺にも話して欲しかった。でも、こればっかりはどうしようもない。それに本人達が俺に内緒にしているのならば、それを彼女達から無理やり聞きだす訳にもいかない。ただ、これだけはハッキリしてる。もし二人に何か問題が起きても、その時俺は、力を貸さないかもしれない。冷たい様に聞こえるかもしれないけど、秘密にすると言う事は、そう言う事なんだから。

 まあ、影からちょこっとだけは手を貸すかもしれないけどね、可憐は身内だし。

「マサト、実は……」

 アルシェが掛けて来た声を、俺は手を上げて制した。

 先ほどとは打って変わって、黙々と食事をする俺の姿を見て、アルシェは何かを感じたのかもしれないし、それに、表情に出てしまっていたのだろう。だけど、ここで彼女の口から聞いても、何の意味も無い。

「アルシェ、ワシ等が何を言うてもマサトは変わらぬ。それにな、ワシもマサトと同じ考えじゃしな」

「うむ、わらわも姉さまと同じだ。われ等が言う事ではない」

「そうですね。私もその立場にはありませんしね。すべては……」

 シアはあの二人に一瞬だけ目線を送り、直ぐに元へ戻した。

 俺達の周りに重苦しい空気が立ち込め始める。そんな空気を吹き飛ばす様に、俺は明るい声で話題を切り替えた。

「さてと、今日から仕事を探さないと。なあ、どっかいいとこ知らない?」

「ヒモが仕事をするなど許しません」

 即効でシアから駄目出しを食らった。

 シアの中じゃ俺はヒモ確定らしい。

「あのなあ、俺はヒモになるなんて一言も言ってねえぞ。あんまりヒモヒモ言うと、夜の相手してやらんからな」

 悔しそうに表情を歪めたシアを見て、俺は勝った、と思った。

「なら、マサトを拉致して犯すまでです」

 朝でもやっぱり全開ですか。

 ぶれないやつだな。

「働くにしても身分証が無ければ職には就けぬぞ」

 衝撃的事実の発覚。

 身分証を持ってない俺は、働く事が出来ない様だ。

 非常に不味い。これではヒモ確定もいい所だ。

「わらわもその様な物は持っていないぞ?」

「キシュアは出生証明さえ出来れば大丈夫じゃ」

「出生証明か」

「それを証明する物はすでにあるじゃろ」

 両手を叩き合わせて、大きく頷くキシュア。

「これか」

 右手から突然生えた黒剣に俺はびびった。

「な、なんだそりゃ?!」

「ん? ああ、そうか。旦那様は知っているが知らんのだったな」

 驚く俺に、キシュアは悪戯っぽい笑顔を見せた。

 知ってるけど知らないってどう言う事だろう。と言うか、俺は全く知らないんだが。

「まあ、今見せたから問題ないな。これはオスクォルの魔器という物だ。この刀身に触れたものは、有機無機に関わらず、闇に飲み込まれるのだよ」

 こんな風にな、と言って俺の目の前のパンを突き刺した。するとそのパンは、見る間に闇色に変わって、光に溶けて消えて無くなった。

「お、俺のパンが……」

 大事に最後まで取っておいた、チーズを塗りたくったパン。皆に内緒で食べようと思っていたパン。口に入れるのを楽しみにしていたパン。それが綺麗さっぱり消えてしまい、俺は肩を落とし、がっくりと項垂れた。

「ふん、自分だけ食べようとした罰だ。わらわの分も作っておけば、この様な事はしなかったのだがな」

 キシュアはジトッと睨んでくる。だが、項垂れながらも、俺の口元はにやけていた。

 ふっふっふ、アレだけだと思うなよ。

 俺は(おもむろ)にテーブルの下から皿を取り出して、素早くその上の物を口元に運ぶ。

 よし! さっきのよりも大盛りのチーズパン! いただきま……。

 パンを貫き黒い剣先が覗くと、そのパンも見る間に溶け消えていった。

「ああああ! お、俺のパンがあああ!」

「ったく、わらわが知らないとでも思っていたのか。吸血族の嗅覚を馬鹿にするでない」

 今度こそ俺はテーブルに突っ伏して涙を流した。

「ううう……俺の、大好物……ナチュラルチーズパン……ごめんよお――食べてあげられなくてごめんよお……」

 メソメソと泣く俺を、ウェスラもキシュアも鬱陶しそうに眺めて溜息を付いていた。

「たかがパンでこうなるとは……。わらわの旦那はやはり阿呆なのか……」

「ワシもなんだか評価を改めたくなるの」

 その時、音を立てながら椅子からアルシェが立ち上がると、一礼して何も言わずに足早に食堂から出て行ってしまった。それを見たシアは、小さく溜息を付くと静かに椅子から立ち上がる。

「それでは私も失礼させていただきます」

 目礼すると踵を返して歩き出す。

 俺がそんな彼女の背中を何とは無しに見送っていると、何かに気が付いた、とでも言うように立ち止まると振り返った。

「そうそう、働くのは許しませんが、狩りは許します」

 そう告げると、食堂から出て行った。そして、親衛隊の面々も食事が終わると食堂から出て行き、俺とウェスラとキシュアの三人だけが残された。

「皆、何所へ行くんだ?」

 俺は突っ伏したまま顔だけ上げて、眉根を寄せる。

「城じゃよ」

「城?」

「あ奴らにはあ奴らの仕事がある。それに、アルシェとて執務を放り出す訳にはいかんしの」

 そう言うウェスラの表情は少し険しい。たぶん、何も言わずに出て行ったアルシェの事が気掛かりなのだ。

「手を差し伸べる事と、手を出す事の区別が付いていないか」

「仕方あるまいよ。ワシやキシュア、それにシアと違い、アルシェはまだ十七年しか生きておらぬからの。それに、カレンとの仲もある。(むし)ろ、十七年しか生きておらぬのに、ワシ等と同じ思考が出来るマサトの方がおかしいのじゃよ」

 二人の目線が俺に注がれる。

「それって俺の思考がじじいって事か?」

 素直に受け取ればこうなる。でもたぶん、二人が言っている意味は違うのだろう。

「違うわ、たわけ。まあ、どうせ気付いておるじゃろうし、これ以上は言わぬがの」

 俺は肩を竦めて苦笑いをするだけだ。

「そう言えば、シアが狩りはしてもいいとか言っていたな。あれはどういう意味なのだ?」

「あー、言ってたなあ。――野生動物でも狩って食料を取って来いって事なのかな?」

 二人で揃って首を傾げていると、ウェスラが納得した様に頷いていた。

 やっぱ、食料調達の狩りでいいのかな?

「たぶん、冒険者ギルドへ行けと言うておるのじゃろう。あそこならばマサトの身分証も手に入るじゃろうしな」

 来ましたよ。ファンタジーの王道、冒険者ギルド。そこに登録してギルドカードとやらを手に入れればいいのか。なるほど、それなら簡単だな。

「しかしなあ……」

 ウェスラが渋い表情で俺を見詰める。

「なんだよ、問題でもあるんか?」

「マサトは精霊文字の読み書きが出来ぬじゃろ?」

「自分の名前なら書けるぞ」

 そこで盛大な溜息を付かれてしまった。

「仕方ない。キシュア、おぬしも登録せい」

「わらわもか? それは構わぬが、姉さまはどうするのだ」

「うむ、ワシはすでに登録済み、と言うか特別枠で勝手に発行されておるでな、ほれ、この通りすでに持っておる」

 胸の谷間から薄い金属性みたいなカードを取り出して、ヒラヒラと振っている。対するキシュアは、自分の胸元を見て顔を悔しそうに歪め「わらわも成長すれば」などと言っていた。

 期待してるぞ、一番の成長株。

 そしてウェスラの話に因れば、この世界の冒険者のランクは級で表すらしい。最初は十級から始まり、そこから九、八、七、と上がって行き、一級まで行くと、その先は段になるそうだ。そこからは一段、二段と数字が増えて行き、最終は五段らしいのだけど、その上に特別枠である特段、というのが儲けられており、それは国や何処かの組織からの推薦がなければ成れないらしい。

 算盤とか書道みたいで馴染みやすい。

「でも、なんでキシュアも一緒になんだ?」

 登録するだけなら俺一人でも問題ないと思うけどな。

「おぬしが字を読めぬからじゃよ。依頼はギルドの掲示板に張り出されるが、すべて精霊文字で書かれておるから、マサト一人ではどれを受ければ良いか分からぬじゃろ?」

 確かに、読めなければどれを受ければ良いのかなんて、分かる筈無い。こんな所でヒモ属性が発揮されてしまうとは、思いも因らなかった。

「ああ、そうじゃ。一応、マサトだけは実技試験があるから気は抜く出ないぞ。普通、十級なぞから始まる阿呆はおらぬからの。最低でも七級より上からがスタートじゃと思うが良い。まあ、心配はしておらぬがな」

 何故か不敵な笑みを浮かべている。でも、なんで俺だけなんだろう。

「なあ、キシュアは試験無いのか?」

「無い。というより、吸血族を試験する奴なぞ居らぬわ。魔族の中でも飛び抜けた存在じゃしの」

 確かにそうだよな、と妙に納得出来た。

「他に聞きたい事は無いか?」

 まだ質問したい事は有ったけど、それは道々聞いていけばいいだろう。

「今はここまででいいよ」

「よし、それでは行くとす――ああ……、マサトは金が無いんじゃった」

 腰を上げかけたウェスラがまた元へ戻り、項垂れて溜息を付いてしまったが、キシュアは何所から取り出したのか、皮袋を手にしていた。

「姉さま、わらわが持っているから大丈夫だ。旦那様の分くらい余裕であるぞ」

 テーブルの上にそれを、ドン、と置くと口を開けて中身を見せる。

 そこには、金貨が沢山詰まっていて、それを見て絶句する俺の隣でウェスラは「これでヒモ確定じゃな」と笑っていた。

 俺、泣いていいですか?

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