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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第三章
175/180

主は下僕?

遅くなりましたが、年明け最初の投稿です。

「……青人の結界が無かったら、やばかったな」

 俺の頭上で弾け跳んだ杭は衝撃波と爆風を、俺にだけ叩き込んで来た。

 勿論、それ相応の衝撃は受けたが、青人の結界とリエル渾身の魔装外骨格(マギパワードスーツ)のお陰で俺への被害は最小限に留まっていた。

 ま、至近距離からの爆裂音のお陰で、俺の耳は使い物にならなくなったけどな。

 尤も、耳鳴りが酷くて何も聞こえないだけで、深刻な障害は起きていない。

 でもそれは一先ず置いて於く。

 問題は、俺の周囲に広がった、一片の光も射さない真の闇だ。

 しかもこの闇は、何故か炎の様にゆらゆらと歪み、凝視していると平衡感覚すら失って気持ちが悪くなる始末。

 なので俺は早々に目を閉じて、視覚も遮断した。

 五感のうち、最も重要な聴覚と視覚が使えない今の俺には、周囲の様子を探る事など出来ないが、特に困る事は無い。

――真人さま、ご無事ですか?

――(あるじ)よ、生きてるか?

――まあ、目と耳はちょっと使い物にならないけど、問題は無い。

 ってか、生きてるか、はないだろ。

――耳の方は兎も角、これでは目を開けて居られないでしょうからね。

――軟弱だな、主は。

 軟弱って……。

――俺が軟弱かは兎も角、ここから出られそうか?

 ここから抜け出さない事には何も出来なさそうだし、会話する相手も居ないからな!

 とは言うものの、青人と赤人とは脳内会話みたいな事してるけど。

――周囲に与える被害を考えなければ問題ないのですが……。

――我等を中心とした半径百里を吹き飛ばしても良いなら、出る事は可能であろう。

――それは物凄く困るんだけど……。

 ここを中心として半径約四百キロを破壊する心算なら出られるらしいが、そんな事を許可出来る筈はない。

 尤もこの二人とて本気でやる心算が有る訳はないので、要するにそのくらいの規模を巻き込む力を開放しないと、ここから出るのは不可能と言っているだけに過ぎない。

 でもまあ、出られない訳じゃなさそうだし、一安心だな。

 俺がそんな風に安堵していると、二人は険しい気配を漂わせて来た。

――しかし、このままではジリ貧なのも確かです。

――であるな。僅かに放った我の炎も喰われた様だしな。

――喰われた? 赤人の神炎がか?

――うむ。この炎、おそらくは神力に近い力で起こされたと見るべきであるな。

――それに点いては心当たりがあります。

――心当たり?

 俺は首を傾げる。

 神力に近い力、と言うのが何なのか分からなかったからだ。

――怨霊、で分かると思いますが?

――なるほど、それならば我の炎が喰われた理由も説明が付くか。

 確かに人の怨みの念が凄まじい事は、歴史上に実在した人物が証明してくれてはいる。

 尤もそれが真実なのかは、俺に確かめる術はないけど。

 過去の日本へ行ける訳じゃないしな。

――って事はあれか? その怨霊がこれを引き起こしてるって事か?

 青人の話だとそういう風になる訳だけど、何となくそれだけじゃ説明が付かない気もするんだよな。

 俺の違和感を肯定するかの様に案の定、青人からは否定気味の言葉が飛び出して来た。

――確かに怨霊と酷似した霊力を感じはしますが、酷似しているだけで同じではないですね。

――ならば妖力か? だが、ここまで強い妖力など聞いた事も無いぞ?

 何だか凄く胡散臭い話になって来たな、とは思いつつも話を止める事はしない。

 この二人も人間じゃないからね。

 そんな事を思っている俺を尻目に、これを打ち破るにはこうするとどうだとか、それだと周囲に対する被害が大き過ぎるとか、あーでもないこーでもないと、二人の議論は白熱している。

 胡散臭さ満載の会話を聞きつつも、話の内容を考察していたのだが、俺はフッとある事に気が付いた。

 話の論点がずれてるのではないか、と。

 その事に気が付いた俺は、二人の会話が物凄く無駄に思えて、ついぽろっと口を挟んでしまった。

――あのさ、ここから出る必要って、あるのか?

 この発言には二人が訝しんだ。

 まあ、そうだろうな。

 このまま中に居るとも取れるし。

 だけど青人は、訝しみながらも聞いてくれた。

――どういう意味でしょう?

――二人の論点がずれてるのに気が付いたんだよ。

――論点? ですか。

――うん。

――お言葉ですが、ずれているとは思いませんが?

――そこなんだよ。

――そことは?

――考え方の違いってやつ。

 青人が眉間に皺を寄せて疑問を浮かべる様が、俺の脳裏にありありと浮かんだ。

 ま、俺と同じ顔だけどな。

――二人はこの炎を消し飛ばして出る心算なんだろ?

――消し飛ばす、というよりも、より大きな力をぶつけて打ち砕く、といった所ですね。この手の炎は自然に鎮火などしませんから。

 俺はやっぱり、と言う感想を持った。

 ここでウェスラから教わった、こっちの世界での魔法の事を少しだけ、話そうと思う。

 魔力が元になっている火の場合は、通常の火とは燃焼の原理が全く違うと俺は教わった。そしてその実演も見せてもらった。

 通常の火で薪に火を点けた時と魔法で火を点けた時に、薪が燃え始めて暫くした時点で水を掛ければ、両方とも普通に鎮火する。これは薪が発火点を超えて燃焼したからであって、薪が燃える、と言う部分に関しての違いは無い。

 最大の相違点は、魔法で火を点けた薪の炎に魔力を供給し続けると、水を掛けても消えない事だった。

 そして薪は殆ど燃えない事も確認した。

 何故そうなるのか疑問をぶつけると、薪を通じて供給された魔力の所為だと教えてくれた。

 要は魔力が薪代わりの燃料になる様なのだ。

 だから水を掛けても水中に突っ込んでも、魔力を供給し続ける限り消える事がないのだそうだ。

 なので、この暗闇の空間を維持し続けるには、燃料にあたる相応の何かが常に供給されていなければ成らない。

 それを踏まえた上で推察すれば、大本になる燃料の供給源さえ絶ってしまえば、この空間は維持出来なくなる筈なので、自然と解放される可能性が非常に高い。

 しかもこの空間は魔力とは違った力で作られている事から、レジムを取り込む事も無い筈。

――だからさ、直ぐに消えると思うんだよ。

 俺だって自分の考えが正しいとは思わないし、もしかしたら間違ってるかもしれない。けれど、こっちの世界の法則に則るならば、然程ずれてはいない筈なのだ。

――なるほど、一理ありますね。

――我も理解はした。だが、一つ問題があるぞ?

――ですね。

 俺だって問題がある事は、理解している。

――供給源を誰が見付けるのか、だろ?

 この件に関しては二人に頼るしかない事だ。

 悔しいけど、俺は役に立たないからな。

――うむ。承知しているならば良い。

――悪いな、手間掛けさせて。

 普段は面倒くさがって動こうとしないくせに、今回はやけに積極的だな、と思って感心していたのだが、次の台詞を聞いて、俺と青人は盛大な溜息を吐いた。

――今度は我が主を守護する故、任せたぞ、青人。

――全く、あなたは……。

――赤人らしいっちゃ赤人らしいけど……。

 まあ、こいつに期待した俺が馬鹿だったんだろうけど、なんていうかもう、苦笑いしか浮かばない。

 だが実際の所、何かを探るとか、細かい事をする、等という作業には、赤人は向いてない事は俺も分かってはいる。

 その最大の理由は赤人の能力だ。

 勿論、無理にでもやれと言えばやれなくはないと思うが、基本的に炎は静的能力ではない事からも分かると思う。

 ま、性格も細かい事向きじゃないけどね。

 対する青人は性格も当然だが、能力的に見てもこの場合は一番適している事も確かであり、赤人が丸投げするのも納得出来なくもない。

 でもそこはやっぱり人情。

 厄介事を押し付けられた青人に、俺としても同情の念を禁じえなかった。

 尤も、青人は小さな溜息を吐いただけだけどね。

――では、後は任せましたよ、赤人。

――うむ、お主も十分注意するのだぞ?

――言われずともそうしますよ。

 二人の会話がそこで途切れると、俺の皮膚が微かに温みを帯び始めた。

――良し、これで大丈夫であろう。

――もう少し、外部への抵抗を上げた方が良いと思いますが?

――ふむ、こうか?

 途端、周囲の温度が一気に上がった。

――熱い……。

 余りの熱さに俺が顔を顰めると

――む、済まぬ。ならば、この程度か?

 直ぐに赤人が調節をして、今度は熱めの風呂に漬かる程度に成った。

――もうちょっと低い方がいいかな?

 このままの温度だと、二十分もしたら湯当たりしたみたくなっちゃうし。

 でも俺の言に青人が待ったを掛けた。

――それ以上弱くしない方が良いですよ。でないと、あれに食い破られますから。

――ふむ。ならば主、済まんが耐えてくれ。

 要するにだ、これ以上(ぬる)くすると周囲に広がってる闇に浸食されるから、この状態で調査完了まで待たなくちゃいけないらしい。

 だけどここは一言だけ言わせてもらおう。

――なら、俺が茹で上がる前に終わらせてくれ。

 でも、返って来た答えは凄く冷たかった。

――了承しかねます。

――軟弱者めが。

 あれえ? 俺って一応、この二人の主人だよね? なんか扱いが随分と酷くない?

 それともあれか? 俺の方が立場が下なのか?

――あの、俺が主人なんだよな?

――そうですよ?

――然り。

――なんかさお前ら、俺の扱い酷くない?

――真っ当だと思いますよ?

――真っ当だな。

 こいつ等にとっては、これがデフォルトらしかった。

 ってか、これじゃ名ばかり主人じゃねえかよ。

――じゃあ、あれか? 俺のミスは俺の責任で、お前たちのミスも俺の責任なのか?

――ですね。

――だな。

――じゃ、じゃあ、俺の物は?

――私達の物ですが?

――我等の物だ。

――お、お前らの物は……。

――私達の物に決まっているではないですか。

――我等の物に決まっておろう?

 俺はその場で頽れ、足元にのの字を書き始めた。

 責任を取る為だけの存在とか、酷過ぎる……。

 そりゃあさ、今の俺は二人に頼らないと生きていけないよ? でも、いくら何でもこれはあんまりだと思うんですよ。確かにこうなったのは俺の責任だけどさ、二人だってミスったんだし、お相子じゃねえかよ。

――どうしたのですか?

 うっせいぼけー。

――放っておけ、何時もの事だ。

 けっ、偉そうにしやがって。

――ああ、成程、何時もの事ですか。

 納得してんじゃねえよ。

――うむ、それよりも早く調べるが良い。

 俺はもう知らん。勝手にしろい。

――そうですね、長々とここに居る訳にもいきませんからね。

 へん、俺は動かねえ。梃子でも動かねえかんな。

 やさぐれる俺を尻目に、青人は供給源を探し始めた。

 無論、どうやって探るかなど俺には分からない。

 ま、俺なんて名ばかり主人だし、聞いても教えてもらえないだろうから、どうでもいいけどな。

 ぶつぶつぶちぶちと小声で文句を垂れる俺を無視して、二人は淡々と作業を進めていた。

 捻くれてから一体どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、青人の調査は終わったのか、二人はしきりと俺に声を掛けて来る。

――マサト様、何時までそうしているのですか。

――主よ、さっさと機嫌を直せ。

 ふーんだ。俺なんてどーせ、要らない子だしい。

――これでは子供と同じですよ?

――情けないな、我等が主は。

 情けない子供で結構だい。

――いい加減にしてください。

――我もそろそろ限界だぞ?

 けっ! 俺はとっくに限界突破してんぜ。

――分かりました。それならば、こちらにも考えがあります。

――青人を怒らせるとは、無謀の極みだな。

 ちーっとも怖くないもーん。

 なんて、心の中でライルみたいに反論をしていたら、俺の右腕が勝手に動き始めた。

 あれ? 何で?

 そんな事を思ったのも束の間。

 次の瞬間には、凄まじい速度で手加減無しの往復ビンタが開始された。

 俺の頭を誰かが見たら、きっと阿修羅様の様に見えたに違いない。

 まあ、体感的に、だけど。

 でもやられる方の身にもなって見てほしい。

 見ている分には非常に滑稽だけど、超の付く高速で頭が左右に振れる、という事は中身も同様に振られる訳で、柔らかい脳みそは硬い頭蓋骨にビシバシぶつかる。結果、脳細胞の破壊が促進されて、一時的にはお馬鹿さんになってしまうだろう。

 ってか、なるってば! 絶対!

――謝りますか?

 超高速往復ビンタを受けている俺の脳裏に青人の声が響くが、それに応える余裕など微塵もなかった。

 だって、考える事すら出来ないんだもん。

 ちなみに叩いてる音は、ビシッバシッ、じゃなくて、ビシシシッ、って連続音が響いている。

――そうですか、私なんかには謝れませんか。

 耳に響く有り得ない連続音と、頭に響く青人の声に恐怖を感じた刹那、今度は左腕も勝手に動き出して、俺の脳天を打ち付け始めた。

 しかも、ゴンゴン、じゃなくて、こっちもゴガガガッという高速での打ち込みだった。

 上下左右に揺らされた脳みそは完全に思考を奪われ、抗う意志すらも消し炭に変えられた。

 その拷問が何分くらい続いたのか、俺には見当も付かないが――、

「ご、ごめ、んなっさ、いっ!! お、れが、悪かっ、たっ! だっ、からっ、やめっ、てっ!」

 知らぬ間にそんな事を口走っていた。

 すると俺の腕は動きを止めて、今度は蟀谷を左右の拳で挟み込むと、ギリギリと力を籠め始める。

 途端、ミシミシと音が出始めた。

 抗う意志すら奪われ、体を乗っ取られて何も出来ない今の俺に取ってこの音は、恐怖以外の何物でもなかった。

――では、私の言う事を聞いて頂けますね?

 そんな所へ青人の優し気な声が頭の中に流れ込んで来てしまえば、当然の事ながら頷いてしまうのも無理のない事だった。

 余談だが、この時の俺の記憶は全くない。

 無いのだが、赤人から後でこっそりと教えられて、余りの恐ろしさに顔面蒼白になって布団に潜り込み小刻みに震え、トラウマとして刻み込まれたのは言うまでもない。

――な、何をすればいいんだ?!

――そう身構えないでください。簡単な事なのですから。

――か、簡単な事?

――はい。囚われている女王の元から漏れ出している瘴気を一時的で良いので、完全に封じ込めるだけですよ。

――瘴気を封じ込める?

――そうです。簡単でしょう?

――で、でもどうやって……。

――そこは考えて下さい。私達の主なのですから。

 言われて俺は直ぐに考えた。

 熱で石を溶岩に変えて、女王蟻が熱で焼き蟻に成らない様に、溶岩との接触面だけを冷やせば良いのではないか、と。

 そしてこれを告げると、

――では魔力を渡しますので、後は宜しくお願いします。

 最後の最後で丸投げされた。

――そうそう、ついで、と言ってなんですが、私の視界もお貸しします。

 直後、目を瞑っているのに俺の頭の中に周囲の景色が流れ込んで来た。

 闇色一色の世界だと思っていた場所は、酷く禍々しかった。

 この禍々しさを何と表現すればいいのか、俺には分からない。

 でも断言は出来る。

 直接見たら普通の人間は、絶対発狂するに違いない、と。

 俺が顔を顰めただけで平常心を保っていられるのは、青人と赤人のお陰だという事も。

 そんな中に放置されている女王蟻は、自分の体を引き千切らんばかりの勢いで藻掻いていた。

 あれはたぶん、恐怖から逃げようとしていのだと、俺はそう感じていた。

 同時に何故か、彼女は俺が何としても絶対に助けなくちゃいけない存在だ、とも感じていた。

 無論、約束した、という事もあるけど、この感覚はそれだけじゃない気がする。

 自然、俺の足は前へと踏み出していた。

 でもその一歩を踏み出した途端、俺の体の周りの禍々しさが一気に増した。

 行く手を遮る様に、生贄を奪われない様にと。

「面倒くさ過ぎだろ、これ……」

 俺がそう呟くと、被せる様にして青人と赤人からは、とんでもない言葉が飛び出していた。

――これより疑似神格、第二形態(セカンドシフト)を開放します!

――気を絶するなよ、主っ! ゆくぞっ! 第二形態開放に伴い、直接神力を注ぎ込むっ!

 刹那、俺は声に成らない絶叫を上げた。

 体の内側から湧き出る有り得ない程の激痛に、俺の意識は何度も跳び掛ける。だけど俺は、目の前の彼女を絶対に救い出す、唯その一心のみで意識を保ち続けた。

 一生掛けても味わう事の無い痛みはたぶん、ほんの十数秒だったに違いない。でも俺にはその十数秒が、何十分にも感じられていた。

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