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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第二章
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洩らすな危険

 大したトラブルも無く国境を越える事が出来て皆も安堵している中、俺だけは剥れていた。

 尤も、俺がそんな顔をしているからか、皆の表情には苦笑も浮かんでいたが。

 理由はカチェマの国境警備隊の対応。

 ユセルフ側では問題にならなかった事が、カチェマ側では何故か大問題になってしまったのだ。

 それは俺の外見。

 何故そんな事が大問題になったのか後から分かった事なのだが、カチェマの後宮に女装した男が潜入して、危うく王妃様が暗殺され掛ける、という大事件があったのだそうだ。

 しかも暗殺者が未だに捕まっていない事が、問題に拍車を掛けてしまっていた。

 そんな訳で、王妃様暗殺未遂騒ぎがあった事など知らない俺達は、三頭犬を連れている、と言うだけで嫌疑が掛けられてしまった。

 挙句に俺だけは、外見だけなら男と全く判別が付かないから、という理由で拘束されて尋問室に連れて行かれてしまった。

 しかも身分を証明する為に出したギルドカードですら信じてもらえず、偽造だと一蹴されてしまい、ほぼ完全に犯人扱いを受ける始末。

 無論、俺が暗殺者、という確たる証拠は一切無い。

 だが、こっちの世界では、疑わしきは罰せず、ではなく、疑わしきは捕縛して徹底尋問、それでも吐かなければ拷問に掛けてでも吐かせる、というのが常識らしく、罪を一切認めない俺は、本国へと護送され拷問を受ける事が決まった。

 勿論俺は反論はした。

 だけど一切聞いてもらえず、牢へと放り込まれた。

 その時、一人の騎士が慌てた様子で警備隊隊長へと何やら報告をした瞬間、俺の事を一瞬だけ見た後、その顔が見る間に真っ青になったと思ったら、泡を吹いてぶっ倒れてしまった。

 それから少しして俺は釈放、というか放逐されたのだが、謝罪の一つも無く追い出される様にして国境の砦から追い出され、皆と合流を果たした、と言う訳だ。

 ただ、俺の解放がもう少し遅かったら、ちょっとやばかった。

 カチェマ王国が。

 リエルの傍にはポンちゃんが浮遊していて、その本人は両手に魔装長砲――自動装填機能付き! ――を握り、両肩には魔装砲――こっちも自動装填――を装備し、腰の両側にはミサイルポッド――魔装噴進弾発射装置と言うらしい――を装備した、中長距離戦闘用の完全武装を整えていたし、ミズキとハズキの両手にはごついナックルが填められ、足元を見れば脛部分に五センチくらいもある棘がびっしりと生えた凶悪なグリーブを履いていた。

 教授に至っては、近場に居る黒妖犬と三頭犬を全て集めたのではないか、と思える程の集団を崖の上に潜ませていたし、ライルの傍にはなんと、ヴォルド――フェリスの弟――が本来の姿で傅いて――お座りだけどな――いたのだから、流石の俺でも驚きを通り越して、戦慄を覚えてしまったくらいだ。

 まあ、ヴォルドに関してはどうやって呼んだのか疑問もあるが、彼が居なくても戦力的には十分過ぎる訳で、そういった意味で俺は、火薬庫の番人なのかもしれない、と思ったくらいだ。

 とは言うものの、それで俺の怒りが納まる筈もなく、ぶつくさと文句を垂れながら脹れっ面で三頭犬に跨り移動をしていた。

「マサト様。一つお伺いしても宜しいでしょうか?」

 そんな俺に対して、新たに一行に加わったヴォルドが声を掛けて来る。

「なんだ?」

「何故、人のメスの姿をして居られるのですか?」

 そこはスルーして欲しかった、と思いつつも、説明は必要だな、と思い直して今までの経緯を簡単に話した。

「……なるほど、そうで御座いましたか。流石は我らが女王の王配と成られたお方ですな。我らが座す世界のみ成らず、この地をも支配なさる意気込みとはこのヴォルド、改めて感服しきりで御座います」

 えっと、どうしてそうなる?

 盛大に勘違いをされた俺は、大慌てで口を開く。

「いや、違うか――」

 だがその時、

「流石はフェリス殿の弟君です。良く分かってますね。実は我らは今、新たなる国の建国を目指しているのですよ!」

 教授が声を被せて来て、馬鹿な事を抜かしやがった。

「そ、それは誠か?!」

「だか――」

「勿論ですよ、ヴォルド殿!」

「あの――」

「では、全ての種族が住まう国を作るのですな!」

「ちょ――」

「そうです! ですが、それは既に始まっています!」

「お――」

「おお! やはりそうでしたか!」

「もしも――」

「今の我らが何よりの証、と言えば、聡明なヴォルド殿ならは分かるかと」

「だか――」

「やはりそうでしたか! 流石はマサト様ですな!」

 そんな馬鹿話をしている俺達を、四人の妻が苦笑を洩らしながら眺め、ライルとスミカはスヤスヤと眠り、上空にはエリー達が自由に飛び回っていた。

 教授とヴォルドの会話に割り込む事を諦めた俺は、何気なく前方に目線を向けた瞬間、飛び込んで来た光景に眉を顰めた。

 何だあれ?

 俺は目を凝らして何とか確認を済ますと、胸の内で舌打ちをしながら表情を険しくする。

 普通なら三頭犬に跨り、上空に妖鳥を侍らせて旅をする者の前に立ち塞がる野盗など、まず居ない。

 だが立ち塞がっている集団は、人間とは掛け離れた姿をしていた。

 遠目だから正確な所は分からないが、あのサイズからすると、たぶん身長は二メートル前後はある。しかもそれぞれの手には棍棒やら戦斧、戦槌に剣と楯など様々な武器が握られているのが見えるし、体格も大柄、と言うよりも寧ろ太っていて、頭は豚の様に鼻が潰れ、下顎からは鋭い牙が生えていた。

「まさか――あれは……」

 俺が洩らした呟きに、真っ先に反応をしたのは教授とヴォルドだった。

豚頭鬼(オーク)、ですね」

「あの数からすると、一氏族分は居るでしょうな」

 二人は馬鹿話をしていた時の態度とは一変して、真剣な眼差しを前方に送っている。

 そんな俺達の気配を敏感に察したのか、四人の妻達も鋭い目付きで前方を睨み付けていた。

 このまま進むのは幾らなんでも不味い、と判断した俺は三頭犬の足を止めさせ、皆に臨戦態勢を取らせる。

 すると、豚頭鬼の中でも一際大柄な奴が前に出て来て、声を張り上げた。

「我らは豚頭鬼が氏族の一つ、トマンス一族である! 故あって貴様らを襲わせて頂く! 覚悟の程は宜しいか?!」

 襲います宣言をされた俺達は一瞬呆けてしまったものの、互いの顔を見合わせると頷き合い、俺が全員の気持ちを代弁して放った。

「宜しい訳ねえだろうがっ!」

 俺達が彼らに何かをした、と言うのならここで襲われても文句は言えない。でも、その何かをした記憶が無い以上、素直に襲われてやる義理などどこにも無い。 

 それに、豚頭鬼達に何か訳があろうとも、無闇矢鱈に襲っていい理由にもならない。

「ならば、我らは貴様らの覚悟が出来るまで、ここで待たせてもらおう!」

 そう宣言すると、豚頭鬼達はその場に座り込んでしまった。

 しかも、俺達以外の旅人や商人達の通行妨害は一切しないのだから、始末に負えない。

 ただ、問答無用で襲われる事が無いと分かった俺達は、一先ずは如何するべきか話し合ったのだが、ここで意見は二つに分かれた。

 力ずくで押し通る派と、話し合い派の二つに。

 押し通る派は、大鬼であるミズキとハズキ、そして意外な事にジルの三人で、話し合い派は教授とリエルに加えて、武闘派だとばかり思っていたヴォルドの三人に分かれた。

 要するに、肉体派と頭脳派に分かれた、とも言い換える事も出来る。

 但し、俺だけは中立の立場を取る、と宣言させてもらった。

 双方から物凄い形相で睨まれたけど、どちらの言い分も成功する可能性はあるのだから、一方だけを支持する訳にもいかなかったからな。

 だから、という訳じゃないけど、先ずは俺が代表で豚頭鬼のトップ――氏族長と話し合いをする、という方向性で話し合いは纏まった。

 先に話し合いから、となったのは、力ずくで押し通るのは交渉が決裂してからでも遅くはない、という事と、叩きのめしてからの話し合いなんて、ただの脅しと同じだ、とヴォルドに言われてしまったから、というのもある。

 それに、万が一にも俺達が敗れてしまった場合、豚頭鬼の要求を全て飲まなければ成らなくなってしまう。

 魔獣や魔物の戦いの掟は、人間同士の戦とは違って敗者に容赦ないからな。

 そんな訳で俺は話し合いの輪から抜け出ると、中間地点まで歩を進めて声を張り上げた。

「俺の名は、マサト・ハザマだ! 正々堂々と正面から挑んで来た誇り高き豚頭鬼が一氏族、トンマス一族の氏族長と話がしたい! 出て来てはもらえないだろうか?」

 俺の事をジッと見詰めていた瞳の全てが、ある一点へと向けられると、先ほどの大柄な豚頭鬼が立ち上がり、集団の前へと出て来た。

 同時に俺は戦意が無い事を示す為に、ミッシーを腰から外し、後方へと放る。

 そんな俺の態度に驚いたのか、連中は一瞬だけ目を見開いた後、大柄な豚頭鬼に視線を送った。

「我らを前にしてのその姿勢、驚嘆に値する。なれば吾輩も貴様に倣わねばなるまい」

 口角を釣り上げた豚頭鬼は、武器を手放してから俺に向かって足を踏み出した。

 互いの顔が細部まで確認出来る距離までになると、俺はその場に胡坐をかいて座り込んだ。

「ほう、そこまでするか」

「お前は正々堂々と宣言してきた。なら、無抵抗を貫く者には手を出さない、と思っただけだ」

 不敵な笑みを浮かべて、目の前の奴を見上げた。

「貴様、マサト・ハザマ、と言ったな」

 俺は頷く。

「最近、大鬼の長がそんな名の人間に変わったと、聞き及んだが?」

「俺がキリマルから奪い取った」

 一瞬の睨み合いの後、

「――ならばその力、見せてもらおうか!」

 言うが早いか豚頭鬼は腕を振り上げ、俺の頭目掛けて振り下ろした。

「ふんっ!」

 気合いと共に俺の全身から小さいが耳障りな音が響き、豚頭鬼の太い腕を両腕で受け止める。

 僅かばかり奴の目が見開かれたが、口角を釣り上げると俺を押し潰す様に圧し掛かってくる。

 だがその程度で、魔装強化外骨格が悲鳴を上げる事はない。それどころか、俺は徐々に立ち上がり奴の腕を押し上げていく。

 そんな俺を驚きの目手奴は見ていたが、耳が小刻みに動き何かの音を捉えたかの様に俺の方に向いたままに成った後、大声を放った。

「その力、貴様の力では無いな!」

 どうやら俺の全身から響く音を聞き付けた様で、押し返している原因を見破られてしまった。

「そうだ。これは俺だけの力じゃない」

 素直に白状した俺に、奴は侮蔑の表情を向ける。

「人間が大鬼の長に納まったと聞いておかしいとは思ったが……。その様なカラクリが隠されていたとは。だが! そんな紛い物の力で、吾輩に勝てると思うでない!」

 奴の腕が倍近く膨れ上がった途端、駆動音とは別に軋む様な音を立てて魔装強化外骨格が悲鳴を上げ始める。

「どうだ! 吾輩の力は!」

「力だけなら、大鬼以上だな」

 押し潰されそうに成る中、感じた事を正直に口にする。

「ならば、負けを認めるか?!」

「いいや。この程度で負けてはやれないな」

 魔装強化外骨格の限界も試せたし、俺は自身の出力を上げる為に、中に向かって声を掛けた。

――頼んだぞ。

――任せよ。豚なぞひと捻り出来る力を与えようぞ。

 流石は赤人、闘争の時のノリの良さは一級品。

 間髪入れず万能感が顔をもたげ始め、押し込まれ始めていた俺の動きはピタリと止まり、同時に魔装強化外骨格の軋む音も止んだ。

「む?」

 瞬間、奴の表情が訝しげに変わる。

「おい、豚野郎。この程度の力で、俺に勝てると思ってんじゃねえぞ?」

 小馬鹿にした口調と嘲笑を奴にぶつけると、その顔は瞬く間に憤怒に彩られ始め、

「我らが一族を愚弄するその言葉、万死に値する! 貴様はここで、逝ね!」

 耳を塞ぎたくなる様な大音声で叫ぶと、空いているもう片方の腕をも叩き付けてきた。

 凄まじい速さで迫る剛腕を、俺は余裕の表情で受け止めた。

「ぐぬう……。何故だ! 何故なのだ! 先ほどまでは吾輩の方が勝っておったのに! 貴様、一体何をした!」

 何をしたと聞かれて、素直に白状する馬鹿は普通居ない。

「これも借り物の力だ、と言ったら?」

 でも俺は素直に白状した。

「この、卑怯者め! 何故己の力だけで挑まぬ!」

 怒りに染まった表情で俺の事をねめつける。

 ただ、今の発言から、この豚頭鬼が戦士だという事も分かった。

 ならば、俺達を襲おうとした理由を聞き出す事は、訳無い。

「お前は強い。それは認めよう。だがな、他の奴らは、どうだ?」

「吾輩には劣るが、貴様ごときに負ける奴などおらぬ!」

「俺よりも遥かに強い奴が後ろに控えていてもか?」

「くどい! 卑怯者が率いる輩なぞに、負ける様な者は居らぬ!」

 やはりこいつらも、強さが全てに於いての基準となっている。

「そうか。それじゃ、フェンリルにも勝てるんだな?」

「なに?!」

 やつの表情が怪訝な色に染まった時、

「ヴォルド! 見せてやれ!」

「御意!」

 人化を解いてヴォルドが姿を晒した。

「ば、かな……。何故、天族が、卑怯者の人間に従っておるのだ……」

 驚愕に目を見開き、俺を抑え付けていた力までも抜け始める。

「それはな、俺がフェリシアン・ビスリ・ヘヴェンス・スティート・マクガルド女王の夫だからさ」

 ヴォルドに向けられていた瞳がゆっくりと俺の方へと動き、恐怖の色へと染まり始めた。

「どうだ? 借り物の力も、凄いだろう? ああそうだ。ついで、と言っちゃなんだけど……、教授!」

 俺の掛け声に呼応して、教授も元の姿を晒した。

「我等、には――、最初から――、勝ち目など――無かった、のか……」

 豚頭鬼は力なく崩れ落ちて、茫然とした表情を浮かべながら呟いた。

 俺が二人に目配せをすると、人の姿へと戻り何食わぬ顔で俺の隣へと並ぶ。

「マサト殿、どうするのですか?」

「マサト様、如何致しましょう?」

 二人の問い掛けに俺は少しだけ悩む。

 何故俺達を襲おうとしたのかはこの際、後回しでいい。戦意も挫いたし、俺を襲えば一族皆殺しの恐怖も植え付けた。

 と成れば、後はどうやって従わせるかが、問題だ。

 こいつらは戦士としての誇りが高そうだから、無碍に扱えば一族全員、玉砕覚悟で向かって来るだろうし、だからと言って放って於いても何時かは似たような事で牙を向くかもしれない。

 ならば寛大な所を見せれば良いか、と言うと、それも違う気がする。

 考え込む俺の脳裏に、政略結婚、という言葉が浮かんだ、というか響いた。

――おいこら、まさかとは思うけど、こいつの娘でも娶れ、とか言うんじゃないだろうな?

――それが一番だと、私は思います。

 確かにそれが一番いい事は、分からないでもない。そうすればこいつらは自動的に天族であるフェンリル一族の庇護下に入れるし、序に言えば大鬼の支援も受けられ、更に言うと、三頭犬を筆頭とする四足獣達を味方にも付けられ、奴らは繁栄を謳歌出来る様になるだろう。

 そしてこの先、俺が四竜を倒して竜王の娘をも嫁に迎えれば、天族の中で最強、と言われる竜族の庇護すら得る事も可能だ。

――だけどなあ……。

 俺はチラリ、と四人の妻達を見る。

――何か問題でも?

――大有りだよ。どうやって後ろの四人を説得すんだよ。特にミズキとハズキは一筋縄じゃいかねえんだぞ?

 この二人の嫉妬心は、兎に角半端じゃない事は、既に実証済み。

 エリーの胸を見てただけで、お仕置き勧告されたからな。

――既に一人増えているではありませんか。

――それは決定事項だったから、何も問題は無かっただけだ。でも、今回は完全にイレギュラーだぞ。そう簡単に納得する筈ないだろうが。

――今更何を言っているのですか。それにあの者達は彼女等の下位互換では有りませんか。そんな者に嫉妬するなど、自尊心が許す筈ありません。

「そんな安直な考えでこいつの娘を嫁に貰ったら、失礼にも程があんだろうがっ! それにな、貰うなら、俺の嫁にくれと、きちんと言うのが筋ってもんだろうがよっ!」

 青人の余りにも他人事発言に俺は、蹲る豚頭鬼を指差しながら怒鳴る。

 そんな俺の姿を豚頭鬼は驚きの表情で眺め、教授とヴォルドは顔を見合わせている。

――あの、一つ宜しいですか?

「んだよ! まだ何かあんのかよっ?!」

――物凄い視線が突き刺さっているのですが、気が付いてますか?

 青人の指摘で俺は初めて、取り返しの付かない失態を犯してしまった事に気が付かされた。

 そして、恐る恐る振り返ると、今まで見た事が無いほどの満面の笑みを浮かべながら、瞳の中に炎を揺らめかせ、指をボキボキと鳴らしながら俺に近付いて来る、女大鬼が二人居た。

「えっと……」

 俺の脳味噌は空回りするばかりで、何の打開策も紡ぎ出せず、背中は冬の如く凍て付いた汗が滲んでいた。

「うふっ、うふふふふ」

「覚悟はいいでありんすか?」

 迫り来る恐怖に俺はすぐさま土下座を慣行して、許しを請う姿勢を見せたが、逆にそれは仇となった。

 次の瞬間には地面へと頭が減り込み、後頭部をぐりぐりされさた。

 それは正に地獄の苦しみ。

 息も出来ず、かと言って頭を地上に出す事も敵わず、後頭部からは強烈な痛みが断続的に広がり全身を駆け巡る。しかも、意識が薄れそうになるタイミングで頭を僅かばかり持ち上げられ息を吸い込めば、再び踏み躙られ悶えさせられる。

 どれくらい嬲られていたのか、俺には分からない。が、肉体が耐え切れなくなり痙攣を起こし始めた頃、俺は漸く地面から引き抜かれた。

 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、生きている事に感謝を捧げたその時、顎に強烈な一撃が加えられ空を舞う羽目になった。

 その舞は際限なく続けさせられ、俺の意識が朦朧とし始めた時、ここに居ない筈の人物の声が聞こえた。

 その声を聞いた俺は、お花畑へ行かなくていいんだ、と心から安堵し、安らかな眠りに誘われるように意識は闇に飲み込まれて行くのだった。

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