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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第二章
165/180

納得の……

 祭りも終わり、あれから一週間経った。

 今日はスリクへ向けて出発する日なのだが、俺は今、必死に考えている。

 何故、こうなってしまったのだろうと。

 三人の妻達はまあ、問題は無い。何時も通りだしな。

 辺境伯の事も――まあ、いいとしよう。

 決闘の必要は無い、って言われて、あっさりと俺の妻に成ったけど。

 スミカは今日も明るく朗らかで可愛いから、これも何時も通り。

 でも、笑顔はどこか曖昧だけど。

 だけどこっちの二人は一体、何を考えているんだ?

 複雑な表情をしながら俺は、先ず教授へと顔を向けた。 

「お前……、何してんだよ?」

 決勝で俺が教授に与えたダメージは、治癒師に完治不能、とまで言わせてしまった程、酷かったのだが、この教授(アホ)はどういう訳か、三日と掛けずに復活した。

 一体どういう体してんだよ。俺が言うのもなんだけどな。

 まあ、それはいいとして、今は目の前の教授(アホ)だ。

「マサト殿を少し真似てみたのですが、どうでしょうか?」

 その答えに俺は頭痛を覚えた気がして、蟀谷を押さえた。

 とりあえず教授(アホ)は放置しよう、そう思い、もう一つの問題へと目を向けたのだが、これがまた、何とも言い辛い。

「ライル、何で?」

「僕もおとーさんのマネー!」

「あ、そうなんだ……」

「うん!」

 そしてまた、蟀谷を押さえた。

 何で二人はこんな風になったのだろうか?

 まあ、ライルには兆候があったから、多少は仕方ないし俺の責任でも有る。

 けどこっちのアホはどうしてこうなったんだ?!

 兆しも全く無かったし、そんな素振りは微塵も感じさせなかった。なのに何故、こんな事になっているんだ。

 俺には訳が分からんぞ?!

「と、とりあえず、出発しましょう。国境は徒歩で越えないといけませんし……」

 ミズキが何か取り繕う様な感じでそう言って来る。

「そ、そうでありんす。さあ、行きんしょう」

 何故かハズキも少し慌てた感じでミズキに同意している。

 俺は二人の言動に若干訝しさを感じながらも、この問題を一旦棚上げして頷いた。

「そうだな。もう出ないと日没前までに越えられないしな」

 俺は辺境伯――ってもう俺の妻だから、この呼び方はおかしいか。

 ジルハルト・ギム・アーツだから、ジル、でいいよな。

 身体ごとジルの方に向くと、

「ジル、世話になった、というか、迷惑掛けて済まなかったな。俺達はもう行くけど、帰って来たら一番最初に会えるだろうから、それまで元気で待っててくれ」

 そう伝える。

 そしたら不思議な顔をされた挙句に、首まで傾げられてしまった。

 あれ?

 そんな仕草をした彼女の事を、ポカンと眺めていると、

「夫君は何馬鹿な事を言っているでござるか?」

 想定外の事まで言われてしまい、俺の脳内にはクエスチョンマークが飛び交った。

 馬鹿なことって、どゆこと?

 言われた意味が分からず俺が益々ポカンとしていると、驚くべき事実が齎された。

「もしかして覚えてないの? 一昨日の祝勝会の時『ジルちゃんを連れて行くと治める人が居なくなるから、代わりにアルシェを呼んで治めてもらう様にお願いする手紙を王様宛に出す序でに、皆を呼び寄せる手紙も出してくれ』って言った事」

 な、なんですと?! 俺がそっただ事言ったとですか?! 記憶にねえでげすよ?!

「ああでも、お酒飲んでたから、マサトくんは覚えてないのね。でも、今更覆せないわよ? だって、それって命令? ってあたしが聞いたら『マサト・ハザマ・ユセルフの勅命である! 直ぐに実行せよ!』って言ったし」

 ニコニコとするリエルの顔を見た瞬間、ミズキとハズキに素早く視線を向ける。

 すると、物凄い速さで俺から顔を逸らした。

 こ、こいつ等、絶対全員グルだ! 俺が酔った時に何か吹き込んで、手紙を出すように仕向けたんだ、きっと! だからあの時、慌ててたのか!

 再びリエルを睨み返すと、

「だって、マサトくんの収入じゃもう暮らせないから、あたし達ががんばるしかないでしょ? それにここだったら、赤ちゃんのお世話してくれる人もいっぱい居るから、アルシェちゃんも一緒に暮らせるし、王様だって安心してくれるでしょ?」

 余りにも的を得た言い分に俺は愕然として、何も言い返す事が出来ないのだった。



           *



 出発前に色々――主に俺関係で――有ったが、昼前にはノーザマインを出発した俺達は、今現在、国境目指して歩いている。

 エリー達には、国境の向こう側で待つ様に、と言って先行させてある。

 何故そんな指示を出したのかと言うと、スリク皇国は入国の際に、どこの国から来て何処の国境を越えて来たのか、明確に提示出来なければ入国をさせない制度があると、ジルに教えられたからなのと、国境まで飛んで行くと、確実に足止めをくらうと予想出来たからだ。

 そんな理由もあって、国境越えは普通に、と相成った。

 でも本当なら徒歩ではなく、俺は乗り合い馬車で行きたかった。

 人数が多いし子供も居るから、時間が掛かるしね。

 だけどリエルに「でもこの人数だと節約しないとこの先、お金が足らなくなるよ?」と言われたので、渋々ながら歩く事を了承した。

「それにしても……」

 全員を見回しながら俺は、後に続く言葉をグッと飲み込む。

 だって、女だけの集団とか、有り得ないしな。

 まあ、三人だけは中身男だけどな。

 教授は長身で服もそのままだから、男装の麗人って感じの知的美人に変身してるし、ライルは俺そっくりな小さな女の子と化している。

 ただし、教授の場合は化粧だけだし、ライルも服だけだから、何時でも簡単に元に戻れるみたいだけどね。

 だけど、俺は別だ。

 実の所、俺はまだ、あの時の格好のままで居る。

 今の所問題はないからいいけど、この女装、暫くは解けないのだ。

 解かない、じゃなくて、解けない、なのは何故か。

 カツラと義乳が外れないのだ。

 なんでそんな事になっているのかというと、実はこの二つ、リエル渾身の魔装義肢――というか魔装擬体らしい。

 勿論、装着された義乳の一体感から、もしかしたら、って予感はあったんだけど、まさか本当だとは思ってもいなかった。

 でも、カツラまでもがそうだったとは思ってなかったから、こっちは無茶苦茶驚いた。

 どうりで風呂に入って頭を洗った時、違和感が無かった筈だよ。

 でもこのカツラ、一体何時、仕込まれたんだろう? あの衣装と一緒に俺の部屋の箪笥にずっと仕舞って置いたのに。

 でも今は、そんな事どうでもいい。

 問題は何時解けるか、なのだが、その事を聞いたら、資金次第、と言われてしまった。

 何でも、着けるよりも外す方が厄介とかで、その為の魔装から開発しなければいけないから、なんだと。

 何でそんな厄介な物を造ったのか問い詰めた所、これを開発した経緯が、事故や病気で乳房や毛髪を失ってしまった女性の為、なのだとか。

 それを聞かされた俺は、怒るに怒れなくなった。

 だって、あっちの世界だって病気で乳房を失う人とか、治療の過程で毛髪を失ってしまった人とか居て、それで悩み苦しんでる人が居る事を知ってたから。

 ただ、この義乳とカツラ、肉体組織の一部を取り込む事で装着者本人の身体と遜色ない働きをするという、こっちの世界はもとより、俺が居た時代のあっちの世界ですら、完全なオーバーテクノロジーと言えるほどの代物でもある。

 事実は小説より奇なりって言うけど、幾らなんでもこれは行き過ぎだと思うのは、間違ってないと思う。

 でもまあ、そんなものを引き剥がすのだから、そりゃ専用魔装を開発する必要はあるよな、と納得もした。

 でも俺に、と言うか男に使うのは本来、想定外だったらしい。

 ってか、なんで想定外の使い方をしたのか、俺は当然ながら問い詰めた。

 コンニャクみたいに柔らかく、だけど。

「何とかして実験したかった所に、マサトくんが女装の件を持ち込んだから、つい……」

 と済まなそうな表情で言われた。

 要するに俺は、進んでモルモットにされに行ったアホウ、って事だ。

「でもこれで安全性も証明できたし、このまま実用化しても問題無いって分かったから、マサトくんには感謝しても仕切れないよ」

 満面の笑顔でこんな事を言われたら怒る事は出来ないけど、裏を返せば危険性がゼロじゃなかった訳だから、気持ち的には微妙だったりもする。

「まあ、今回は許すけど……。出来れば俺で実験しないでくれよな」

 とりあえずはやんわりと釘を刺すに留めておいた。




           *



「マサト殿、少し宜しいですか?」

 教授は遠慮がちに俺に声を掛けると、あの試合で見せた技の事を教えて欲しい。と言って来た。

 勿論俺は、口頭じゃ絶対無理、と断ったのだが、説明出来る範囲で構わないから教えてくれと、強く懇願されて結局、説明する羽目になっていた。

「べくとる? とは何ですか?」

「この場合は力が作用する方向の事だな。紙があれば書いて説明出来るから簡単なんだけど、今は無いから、そうだな――」

 俺は少しだけ考え込み、一つ頷いた後、片手を手刀の形にして上に振り上げた。

「例えば、この手を上から下に振った時――」

 俺は説明しながら手刀をゆっくりと降ろす。

「――指先に働いてる力の向きは下向きのベクトルになるのは、分かるよな?」

「はい」

「でもこれってさ、他にも力が作用してってのも、教授なら分かるだろ?」

「ええ。これが手でなければ、もっと早く落ちますから、下に向かうのとは逆向きの力――上向きのべくとるが、マサト殿の腕の力で加えられている、となる訳ですね?」

「流石教授だよ。飲み込み画早くて助かる。で、指先を石に例えると、その石には教授が言った力が今は働いてるから、落ちる速度が遅くなっている。そしてその逆向きのベクトルが下向きのベクトルよりも上回ると――」

 俺は石を拾って空へと放り投げた。

「――こうなる訳だ。でもこの場合、上向きのベクトルは俺の手を離れた瞬間が最大値だから、それ以上にはならないし、その後は下向きのベクトルがずっと掛かり続けるから、徐々に小さくなる。だから、今投げた石はまた地面に落ちるって訳だ。ま、本来はもう一つ別の力も働いてるんだけど、今は考慮に入れなくていい」

 投げた石が地面へと落ちるのを、俺と教授は目で追い掛けた。

「で、これを踏まえた上であの技を簡単に説明すると、教授が撃ち込んで来た剣の力のベクトルを変えただけって事なのさ。勿論、理論的にはもっと複雑だし、前提条件として剣速を見切れる目がないと駄目だし、序でに言えば、ここの回転が速くないと使う事は絶対に出来ない」

 俺は自分の蟀谷を指差してニヤリ、と笑った。

「では、マサト殿が使った技はもしや……」

 愕然とした表情を見せる教授に俺は頷き、

「教授の考えてるとおりだよ。あれは技ってよりも、理論を証明する為の実験に近いのさ」

 教授の憶測を肯定した。

 魔人剣、などと大層な名前が付いてはいるけど、武術とは全くの別物と言ってよく、あっちの世界で言う所の物理学に該当する学問なんじゃないかな、と今は思っている。

 ま、こっちの学問体系とか良く分からんけどね。

 ただ、親父曰く「これは技だ!」と頑なに言い張ってたけど。

 でも俺の見立てだとやっぱ技、と言うよりも科学に近い。だって基礎部分は完全に古典力学が関係してるし。

 だけど微妙に魔法っぽいんだよね、これ。

 ベクトルをロス率ゼロで狙った方に向きを変えてから、こっちから送り込んだ力を後から合成するとか、物理学だけじゃ説明しきれないんだもん。

 親父に言わせるとその部分が技らしいんだけど、教わった当時の俺からしてみれば、氣とか魔法とかいった類の胡散臭さ満載なのを混ぜ合わせた、錬金術と同じ様なものとしか思えなかったからね。

 まあ、それを理解して使えてる俺もおかしいっちゃ、おかしいんだけどさ。

「では、もしかしてあの技は、剣を持つ必要も無い、という事ですか?」

「理論上は、ね」

 そう、理論上は素手でも同じ事が出来る。

 でも――。

「現実的には剣を相手に素手とかは無理だけどな」

 俺は顔を顰めて両手を肩の高さまで上げて、お手上げのポーズを取った。

「無理、なのですか?」

「うん。素手だとこっちが痛い目を見るだけだからね。それにさ、相手の武器とほぼ同じ強度の武器が無いと、ベクトル変換も上手く行かないし」

 拳対拳なら兎も角、相手の武器には必ず触れる必要があるので、素手だとチョー痛いのだ。それに武器との相性と言うのも有って、出来る限り同じ武器が望ましい、という条件もある。

 しかも日本刀並みの切れ味を持った武器に素手で立ち向かうと、ベクトルを変換する前にこっちの手が先に切れてしまうので、そうなると最早、自爆技にしかならない。

 尤も、同じ武器、の部分は出来る限り、と言う表現を使っている事から分かる様に、抜け道も存在する。

 但し、実戦でそれを実行するのは不可能に近いから、この技は使える様で結局は使えないんだよね。

「そんな訳で結構条件がきついから、見た目ほど使える代物じゃないのさ。第一、ミッシーだと弾くよりも切った方が早いしな」

 腰に佩いているミッシーを軽く叩きながら、俺は自嘲気味の笑みを浮べた。

「そうなのですか……。出来れば私も覚えたかったのですが……」

 教授は惨く残念そうな表情で肩を落としていたが、俺はこの時、こいつならもしかすると、という期待が湧き上がっていて、軽い気持ちで声を発していた。

「ま、使える使えないはと兎も角、落ち着ける場所へ行ったら教えてやるよ。これは座学も必要だからな。それに、教授ならこの技から何か応用を思い付くだろうしね」

 その時の教授の変化は有る意味、劇的と言えた。

 落ち込んでいたのが嘘としか思えない程、教授は一瞬にして瞳を輝かせて、

「あ、有難う御座います、マサト殿! このローリー、身命を賭してご期待に沿えるよう、精一杯頑張りますので、宜しくお願いします!」

 無茶苦茶悦ばれてしまった。

 そんな話をしている最中に、ライルとスミカが同時に、声を漏らした。

「おとーさーん、つかれたよー」

「あたしもー。お休みしよーよー」

 確かにもう大分歩いたし、そろそろ休憩しないと二人の体力では最後まで持たない。

「よし、それじゃあ休憩にしよう。リエルは水を出してくれ」

 皆にそう告げて、街道から少し外れた所に腰を下ろした。

 水を飲んで一息点くと、ライルとスミカはうつらうつらし始め、このままでは少し不味いな、と思い始めた時、教授が口を開いた。

「お二人が大分お疲れの様子ですから、部下を呼びましょう。そうすればこの先は休憩の必要もありませんでしょうから」

 そう言って三頭犬を呼び寄せ、全員が乗って移動する事になった。

 しかもこれが馬よりも快適なのだから、三頭犬恐るべし、である。

 でも、教授は乗らなかったけどね。

 そんな訳で予定よりも早くユセルフ側の国境には着いたけど、そのまま三頭犬に乗って行った所為で、警備隊を大いに慌てさせた。

 そこで俺がすかさずギルドカードを見せた途端、全員が何かを納得した様な顔をしやがった。

 無論、通過証明も発行してもらったのは、言うまでも無い。

 そして俺の姿とカードを見た国境警備隊の隊長さんは、

「なるほど、これはこれで納得出来ますな」

 と言って何度も首を縦に振り、他の騎士達も大きく首を振っていた。

 言っとくけど、俺はノーマルだからな!

今話は説明回になってしまったなあ。


でも、たまにはいいか、な?

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