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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第一章
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炸裂! 一子相伝の剣!

 続けて行われた準決勝第二試合は、余裕で奴が勝った。

 試合の顛末を簡単に説明すると、奴の相手も棍で奴は俺と同じく木剣で相対した。

 奴は相手の攻撃を上手く捌きながら徐々に間合いを詰めて行き、最後は武器を弾き飛ばして喉元に木剣を突き付けて降参させやがった。

 速さで決めた様に見える俺の試合は実際、力押しだから、奴の勝ち方は正に対極と言っても過言では無い。

 それが示す事は、奴は殆ど実力を隠しきって決勝に上がって来た、という事だ。

「やっぱ敵に回すと、厄介窮まりねえな……」

 以前、敵に回したくは無い、と思ったけど、あの時想定してたのは集団戦で指揮を取られる事だった。

 でも今の試合を見た後では、想定が甘過ぎた事を実感させられた。

 戦略や戦術にも長け、前衛としても後衛としても使え、尚且つ指揮も行える。どんなポジションに当て嵌めても完璧に熟す奴の技量は、舌を巻かざるを得ない。

 確かに俺の技術は奴に及ばないかも知れない。でも、奴が知らない技を俺は知っている。

 でもそれが通用するかどうかは未知数だから、俺の勝機は余り高くは無いかもしれない。

「だけどな、勝つのは俺だ」

 口角を吊り上げて不敵な笑みを零しながら俺は、ある事柄を提案する為に、運営委員が詰めるテントへと足を向けるのだった。



             *



「まさか自らが不利になる条件で戦うとは……」

 怪訝な表情で奴がそう言うのも無理は無い。

 目の前の試合会場には半径百メートルほどの円内に、高さ約一メートル、直径約十センチ程の杭が無数に突き刺さり、尚且つ俺が腰から下げている剣は、普通の剣だったのだから。

「うっせい。不利かどうかは戦えば分かるこった」

 この試合だけは、刃引きした剣を使用させろと、俺が運営に詰め寄り強引に了承させたからなのだが、特に何かを企んでそうした訳じゃない。

 だって、俺達が打ち合いなんかしたら木剣は一発で折れちゃうだろし、それはそれで詰まらないからな。

 で、準決勝まで腰に佩いていたミッシーがどこに有るかと言うと……。

「おとーさーん! がんばれー! ミッシーもがんばれーって言ってるよー!」

 ライルに背負われていた。

 俺から離れると重さを増していく筈のミッシーが、何故かライルには適用されない、と言う不思議な現象を起こしている事が判明したからだった。

 それが分かったのは、セルスリウスに戻ってから諸事情で仕事を休んで療養していた時、ライルが持ち出して薪割りをしていた所為だ。

 しかもミッシーの奴、俺が死んだらライルを主にするとか、知らない間に主従契約の約束までしてしまったらしい。

 ただ、そうなった経緯がまったく分からなかったので、なんで扱える様になったのか聞いた所、俺が仕事を休んでいる間、ミッシーが寂しそうだったからお話をしてお友達に成った、という告白には戦慄を覚えたけどな。

 それにしてもライルは、一体誰に似てしまったのだろう?

 ただし、奴はこの事を一切知らない。

 ま、奴が居ない時の出来事だったし、それに、俺が誰にも言っちゃだめだ、と釘を刺したからってのもあるどね。

「なるほど、そう来ますか」

 驚きと感心を混ぜたような響きが篭った声を耳にしたが、それには答えない方がいいだろう。

 なんせ下手に返せば俺が遣り込められるだけだしさ。

 だから、と言っては何だけど、

「フッ」

 軽く鼻で笑っておいた。

 真正面から口撃しても奴に適う筈が無い事は、俺も分かっている。だからと言って搦め手が聞くか、といえばそれも怪しい。

 ならばどうするか。

 まともに答えずに疑心暗鬼を煽るのが一番いい。

 俺よりも遥かに頭が回るから、勝手に要らぬ事を考えて見当違いの答えを導いてくれるに違いないからな。

「何を企んでいるのですか、貴方は」

 ほら、もう何かを考え始めた。

「あ? 何の事だ?」

 俺は深く考えてこの試合に臨んでは居ない。試合会場と得物の変更をお願いしただけだ。

 少々強引に、だけど。

 だから、何か聞かれても顔に出る事も無いし、言われて変化した表情から予想した所で、答えに辿り着ける筈も無い。

「大方、私の動揺でも誘おうとしていたのでしょうが、この程度では動揺など致しませんよ」

「あそ。ならいいや」

 少し余裕を見せていた奴の顔が、俺が返した言葉で直ぐに怪訝な表情へと戻った。

 まあ、そうなるよな。

 何も考えて無い相手の思考を読み取ろうとしてる訳だし。

 ま、今の俺には知ったこっちゃないけどね。

 精神的に優位に立つ為の駆け引きを始めている俺達の間に、割り込む声があった。

「これより決勝戦を開始いたします! 決勝にて相対する二人の事は、皆様の方が良くご存知かもしれません! 東は数々の二つ名を持つ我が国最強の魔導剣士にして、絶世の美貌の持ち主! マサト・ハザマ卿! そして西はっ! 我が国、いや! このデュナルモに於いて最高の頭脳を有する魔法教導師の一人であり、この大会を開催するに至った立役者、ローリー・ケルロス殿! 方や実力を存分に見せ付けて華麗なる勝利で登り詰め、方や実力の片鱗さえも窺わせず、全てを秘匿しきり決勝まで駆け上がってまいりました! そして今! 雌雄を決すべく、両者は舞台へと上がりました! 勝利の栄冠はどちらの頭上に輝くのかっ! そして、我等が敬愛して止まぬアーツ閣下の夫となるのはどちらかっ! ここの戦いの先に答えが待っています!」

 復活した司会者が熱く語り、その熱は観客へと瞬く間に伝播して行き会場全体を包み込んでいく。

 その様はある種懐かしさを伴った既視感を、俺に感じさせていた。

――あれ? 前にもこんな事が――。

「審判の準備も整いました! 間も無く試合開始です!」

 あった様な、と心の中で続け様としたその時、司会者の声で俺は我に返る。

「始め!!」

 同時に開始の合図が響き渡った。

 合図とほぼ同時に飛び出した奴は剣を両手にコートの裾を靡かせ、地を這う魔鳥の如き速度で瞬く間に中央付近を超えて目前にまで迫っていた。

 余りの速さに慌てながらも柄に手を掛けて剣を抜き放とうとした瞬間、俺は奴の目を見てしまった。

 俺を見て居ない様で動きの全てを捉え様と半眼に閉じられた瞼の奥で怪しく光る瞳は、正に獲物を狩る魔獣のそれだった。

 恐怖から来る怯み。

 それが俺の動きを止めた。

「っ!」

 俺は呪縛から逃れる為に唇を噛み切り意識の覚醒を促して止まった動きを再開する。

 だが奴相手にこの反応の遅れは致命的だった。

 既に奴は眼前まで迫り、左剣が左下から空を裂き襲い掛かり始めていた。

 ここで諦めていたら俺はとっくに終わっていたかも知れない。

 でも俺には、負けられない理由がある!

「なめん、なああああ!」

 顔を顰めて歯を食いしばり現状で出せる最速で剣を抜き放ち斬撃を弾き返す。

 なんとか剣を合わせる事が出来たお陰で初撃は受け流せた。

 微かに安堵したのも束の間、奴は弾き飛ばされた力を利用して身を回し右剣を加速させて二撃目を放っていた。

 その有様は奴に取っては全てが予定調和であり、俺に取っては全てがイレギュラー。

 初っ端でピンチを招いたのは奴が双剣、というのもあるが半分は俺の侮りもある。

 話を聞いて理解した心算になってしまっていた事が大きかった。

――だめだ。これは避けられない……。

 首筋に迫り来る斬撃に成す術も無く諦めた時、

――一時開放します! 第一形態(ファーストシフト)

――今だ行け、主!

 内から声が響き渡った。 

 途端、俺の体は奇妙な感覚に囚われた。

 目に映る全ての動きが突如として止まって仕舞ったのだ。

 一瞬、死の間際のあれか? とも思ったが体が感じる感覚自体がそれに否、を告げている。

――これは一体……。

 しかも何故か俺だけが普通に動ける確信があった。

 何故そんな事が分かるのだろうと、この奇妙な感覚に疑問を胸に抱いた時、その答えは自らの内側から齎された。

――この状況を打破する為に擬似神格の第一形態を開放しました。早く脱出して下さい。

 疑問は多々有るが、今は内なる声にしたがって止まった時の中、俺はゆっくりと動いた。

 奴の剣を潜り右側へと抜けて、間合いの外へと逃れ再び剣を構えて仕切り直しの姿勢を取る。

 そして――、

「いいぞ」

 自分自身に語り掛ける様に呟くと、世界は通常の動きを取り戻した。

 途端、俺がさっきまで居た場所を剣が斬り裂く。

 だがそこに俺はもう居ない。

 奴の目は驚愕で見開かれながらも素早く構え直して俺を見付けると、訝しげな表情を向けて来る。が、今度は無闇に突っ込んでは来なかった

 その動きに、流石、と俺は感心した。

 沸き立つ観客には刹那の攻防、と映った様だが、俺達は違う。

 俺は停止した時――たぶん止まってないと思うけど――の中を動いて余裕を持って躱し、そして奴は、俺が瞬間移動をしたと思っている筈。

「どうした? 来ないのか?」

 俺は口角を緩めて軽い挑発を掛ける。

 尤も、こんな事に乗る様な奴じゃないから、これは会話を引き出す為の切っ掛けだ。

 尚も訝しげな表情を見せる奴は、俺の動きに警戒をしながら口を開いた。

「あの状態から一瞬でそこに動くなど、この私でさえ出来ない芸当。それなに貴方は……。一体、何をしたのですか」

 何をしたのか、なんて聞かれても、俺に分かる訳がない。

「フッ」

 だからまた、鼻で笑っておいた。同時に中へ向けて声を掛ける。

――おい。アレの速さを凌駕するには、どの程度だ?

 俺の言ったどの程度、というのは勿論、強化率の事だ。

――凌駕は出来ぬ。良くて何とか付いていける程度だ。

 返答を受けて俺は考える。幸いにも奴は俺の事を警戒して様子見の状態だしな。

 赤人は何とか付いていける程度、と言った。となると手数に勝る双剣の攻撃など、早々に捌ききれなくなって直ぐに破綻する事は目に見えている。それに一度剣を合わせただけだが、力に関しても奴の方が上、という事も分かった。序でに言うと技量も俺よりありそうだ。なんせ双剣を扱えるんだしな。

 こうやって考えると、如何に俺が魔法に頼り切って居たのかが分かる。

「ふう、こりゃ言われたとおりみたいだな」

 俺は一つ息を吐いた後、構えを解いて自然体になった。

 構えを解く、などと言う行為は、武術を知る者からすれば無謀にも思えるかもしれない。でも俺には形と言うものが無い。より正確に言えば、特定の流派の元で学んだ事が無いのだ。だけどそんな俺でも武術には憧れも有ったから、構えを取る、と言う事には憧憬の念があった。

 かっこいいしな。

 だけどあっちの世界に居る時、そんな俺を見た親父に苦笑交じりで言われた事があった。

「武術の才の無いお前が、何アホな事してるんだ?」って。

 今の今まで失念してたけどなー。

 勿論これには俺も反発したし食って掛かった。

 可憐よりも俺の方が強かったし、近所に有るどこの道場へ行っても俺に敵う奴は居なかったからな。

 でも親父はそんな俺を見て、笑いながら言ったんだ。

「お前みたいな奴はな、形に嵌ると弱くなんだよ。俺が良い例だしな。序でに言うと、母さんも似たようなとこあるんだぞ?」

 これは内緒だからな、と最後に付け加えてた。

 尤も、直ぐにばれて母さんに殴られてたけどさ。

 でもそんなアホな親父だけど、俺に一つだけ技を教えてくれた。と言うか「可憐に教えても絶対に扱えないが、お前なら使えるだろうからな」とも言っていたっけ。

 その当時はこの技にどんな意味があるのか分からなかった。物凄い複雑怪奇な理論と合わせて魔法がなんちゃらとか教えられたし、殆ど座学だったから、これの何処が武術なんだよ? とも思った。

 序でに親父の頭の中身も心配したけど。

 だけど今なら――こっちの世界に来て魔法の何たるかを学んだからこそ、理解出来る。

 ただ、親父が何でこっちの世界の魔法理論なんか知ってたのか、疑問は残るけどね。

「あんまり使いたくはなかったけど、仕方ないか」

 小さく呟いて俺は親父から教えられた技を使う事を決意すると真顔になり、無防備な状態のまま足を踏み出し奴に近付いて行った。

 俺の行動に奴は顔を顰めて警戒感を露にするが、向けられる視線からは油断や隙は微塵も感じられない。

 そして、あと一歩踏み出せば奴の間合いに入る、と言う所で俺は足を止めて静かに語り掛けた。

「なあ、負けを認めてくれないか?」

 初撃を何とか躱しただけの俺が言う事じゃないけど、出来れば仲間に向かってこの技は使いたくない。だからそう言ったのだが、奴はゆっくりと首を振った。

「私はこれでも一種族の頂点を極めた者です。明確な負けを突き付けられでもしなければ、縦に等振れません」

「そっか……。なら、仕方ないな」

 俺が無造作に一歩を踏み出し奴の間合いに入り込むと、疾風の如き攻撃が始まった。

 幾重にも重なる剣閃が檻の様に囲い逃げ場を塞ぎ、鞭の様に(しな)る切先は複雑な動きを見せて罠に誘い込む。そこへ死角から狙い澄ました斬撃が襲いそれを躱したとしても精確に急所を突いて来る。

 緩急と硬軟を複雑に織り交ぜた奴の剣技は剣の舞と言って差し支えない程美しく、繰り出される精緻な技の数々は、奴が歩んで来た生の長さを物語っていた。

「凄いな、流石だよ」

 余りの見事さに俺は、風に揺れ撓る柳の様に斬撃の事如くを紙一重で躱し続けながら賞賛を送る。

「その言葉、そっくりそのまま、お返しします! ここまで躱し続けたのはマサト殿、貴方が始めてです!」

 そんな奴の表情は歓喜に染まっていた。

 俺はそれを見て、奴の事を不憫に思った。

 全てに於いて優秀で、何事も極めるまで止まらなかった故の悲劇、と言えば聞こえは良いが、これが長い生の中である種の諦めを生み出し、今の教授を形作った原因なのかも知れない。

 それが今、全力でぶつかれる相手に初めて出会えた事への慶びの表情を見せている。

 ただ、それが悪い事なのかと聞かれれば、俺は悪くは無いと答える。でも良い事なのかと問われても俺は、否と答えるだろう。

 ライバルと呼べる者が居ない事は、結構寂しいものなのだから。

「なら、俺を上回る奴を紹介してやるから思う存分負けて来い。でも今は――俺に負けろ。だから、死ぬなよ?」

 俺は動きを止めると奴の剣戟の全てを、ただの一閃で弾き飛ばした。

 その瞬間、金属同士を叩き合せる澄んだ音が長々と響き、ほんの一瞬だけ全ての音が途絶える。

 そして、苦しげな表情に満足そうな笑みを浮かべた奴の手から、剣が零れ落ちた。

「親父は魔人剣、って言ってたな、これの事」

「魔人、剣――です、か……。確かに、これ、は――人の技では――あり、ま……」

 奴は満足そうな表情のままその場に崩れ落ちる。

 剣を握っていた両腕は骨が砕けてしまったのか(ねじ)れてあらぬ方向へと曲がり、着衣から滲んだ血が地面を濡らしていった。

「な、何が――、一体何が起きたんだあああ?! 終始試合を優勢に進めていたケルロス殿が、突然倒れてしまいましたああああ! ああっと! 救護班が慌てて飛び出していきます! これはまさか予想外の――」

 司会者が絶叫する中、駆け付けた救護班が教授を担架へと乗せて救護所へと運んで行く姿を見送りながら、俺は溜息を吐いた。

 そして、今だ絶叫を止めない司会者の声に背を向けて、俺は皆の下へと足を向けたのだった。

何か出た!

主人公より上位のチートがチラッと出た!


でも、本編には出て来ない、と思いたい……。

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