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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第一章
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教祖誕生?

 翌日の俺は危なげ無く勝ち進み、準決勝へと駒を進めた。

 勿論、果敢に攻めて来た奴も居たけど、自分の力だけで俺に勝とうなんて無茶もいいところだ。だって、俺はリエル特製の魔装強化外骨格――マギパワースーツとでも呼ぼう――を着てるし。

 但し、あの形で何故機能してるのか、などと俺に聞かれても分からないし、リエルから説明を聞いた所で理解も出来ないけどさ!

 そうして大会最終日がやって来たのだが、ここで運営側から思わぬ提案が飛び出した。

 それは、準決勝以降の試合は武術試合にしてしまってはどうか、という事だった。

 勿論、得物は殺傷力の無い木剣や棍棒が指定された。

 何でそんな提案が出たのかは、分からなくも無い。

 俺を含めて残った連中が皆、武術の心得がある者ばかりだった所為だ。

 準決勝に駒を進めたのは俺の他に、何を考えているのかこの街を守る衛兵の二人とそして……。

「――なんでアレが出てんだよ」

 何故か準決勝第二試合に教授の名前が載っていた。

 無論、運営側の人間が出てはいけない、等と言った規定はないから、教授が参加する事に点いては何らおかしな所はないのだが、この催し物は教授の入知恵に因って辺境伯の夫を選ぶ為に開催された筈だ。

 そこに何で首謀者が、それも結婚など眼中に無いアレが参戦しているのか、理解に苦しむ。

「まさか、辺境伯に惚れた? のか?」

 そんな事を呟いてはみたものの、その思考は直ぐに破棄された。

 だってアレ、そんな可愛げが有る玉じゃねえしな。

 ただ、こうなると運営からの新たな提案すら、アレが誘導したとしか思えない。

 問い詰めた所で認めないだろうけどな。

 たぶんだけど運営委員の面子が揃っている場所で、普通に戦う方が面白そうな顔ぶれですね、とでも呟いたのだろう。

 尤も、それを真に受けたのかは憶測の域を出ないけど、運営もアレの影響を受け過ぎだと言わざるを得ない。

「教授さんとマサトくんが戦うのって、初めてなんじゃない?」

 一人ぶつくさと文句を垂れていると、対戦表を眺めていたリエルが俺に向かって楽しそうに告げて来る。

「そういえば……」

 言われて初めて気が付いた。

 確かに俺は教授と戦った事は一度も無い。

 戦いも見ていただけだし、どちらかと言えば教えられる事が多かった。

 勿論それは魔法の方だけだが、戦いに於ける心構えや態度、と言ったものは俺みたいな素人には物凄く参考となるなど、半分は師匠に近い存在だ。

「でもなあ、アレ。剣士とか騎士じゃなくて、どっちかっていうと魔術師だからなあ」

 剣を振る所なんて見た事無いし、第一アレの得意技は魔法なのだから、この提案は不利な要素てんこ盛りの筈だ。

 ま、身体能力で人間なんて圧倒出来るだろうけどね。アレは魔獣人だし。

 でも俺の言葉にミズキは、目を丸くして驚いた顔を見せていた。

「そうなんですか?」

「ああ、アレは魔法の方が得意なはずだ」

「あたしはてっきり剣術の方が得意なのかと……」

 何故ミズキはこんな事を言うのだろうか、と俺が怪訝な表情を取った時、超弩級発言がハズキとライルから飛び出して、俺の脳味噌は特大ハンマーでぶん殴られてしまった。

「ローリー様とキリマル様は、互いの技量が近いとおっしゃっていんしたから、良く剣の稽古をしていんしたけど、ぬし様は知らなかったでありんすかえ?」

「僕も先生に教えてもらった事あるよ?」

 これはもう俺に取っては寝耳に水、どころの話で無く、貴方の知らない世界である。

 しかも、キリマルと稽古をしていた、となれば腕の方も相当なものの筈。

 これが以前の俺であれば、そうなんだ、で終わりなのだが、ハズキの言うとおりキリマルと互角の腕を持っているなら、ミッシーを封じられると今の俺では、とてもじゃないが真正面からぶつかって如何にか出来る相手ではなかった。

 尤も、但し書きを付けていいのならば、青人と赤人のサポートが通常レベル、とは付くけどね。

 それにどうせアレの事だ。手加減とか手心を加える、等と言った事は百パーセントやらないだろうし、それどころか俺と全力で遣れる事を物凄く喜んでいそうな気がしていた。

 流石の俺も今回だけは敗北の二文字が脳裏に浮んだが、だからと言ってここまで来て諦める訳には行かない。

「どこまで俺をおちょくる気なんだよ、アレは」

 俄かに怒りが湧き上がる。

「よし! こうなったら、奥の手を使うぞ!」

「マサトくんに奥の手なんてあったの?」

「そんなのあるんですか?」

「流石はマサト様でありんす」

「おとーさんの手はふたつだけじゃないの?」

「パパ、無理しちゃだめだよ?」

 何だかえらい言われ様だが、俺には竜族すら丸め込む口、という最終兵器が残っている。アレに通用するかは分からないけどな。

「ふっふっふ。まあ、見てろって」

 俺が不敵な笑いを放つと同時に運営からの正式発表があり、腕相撲大会は行き成り武術大会へと切り替わった。

 そして、直ぐに第一試合を開始する事となったのだが……。

「これって――、手抜きって言わねえか?」

 試合の場所は腕相撲の時とまったく同じだった。

「しかも、相手から有巧打を貰っても負けで、落ちても負けとか、難易度高過ぎんだろこれ……」

 そして木剣を片手に試合場所へと上がった俺に準決勝の相手は、

「俺、終わってんじゃん……」

 俺の事を馬鹿にした様な目で見ながら自信満々に棍を振り回して、観客に自分有利をアピールをしていた。

「腕相撲大会から一転して武術大会へと切り替わってしまいましたが、試合の足場となる部分は変わっておりません! しかし! 準決勝に残った猛者には関係ない、と言えるでしょう! それでは準決勝第一試合、もう間も無く開始いたします!」

 相も変わらず熱い実況をしてくれる司会者さんの声を聞きながら、俺は臍を噛む思いで自分の失態を罵っていた。

「俺の馬鹿野郎が! いっつもこうだ! くっそー。ちゃんと説明聞いておけばよかったぜ」

 でも、俺の方をチラチラと見る度に嘲るような笑みを浮かべる相手を見ていると、何だか無性に腹が立ち、沸々と闘志が湧き出して――?

「って、あれ? 何でこんなに力が漲ってんだ?」

――主よ、殺れ。我が許す。

――私も許します。さあ、殺ってしまいなさい。

「って、何でお前らが怒ってんだよ?」

 俺よりも青人と赤人が猛烈に怒っていた。

 まあ、あれだな。自分よりも先に怒りを爆発させた奴が傍に居ると冷静になれるって、ホントだったんだな。

 ま、この二人の場合は傍ってよりも中、だけど。

「まあ、殺るか殺らないかは兎も角として、これなら負ける事はないか」

 勝手に強化された肉体に、それを更に強化する魔装強化外骨格(マギパワースーツ)

 そして、それに追従出来る俺の感覚。

 この三つが重なれば、正に鬼に金棒。

 試合開始の合図と同時に相手の懐へ飛び込むと、驚きで目を見開く相手の足を木剣で掬い体が泳いだ所へ剣を叩き込んで宙へと舞わせて、臭い所へと叩き込んだ。

「鍛え方が足りませんよ、あなたっ!」

 落ちていく相手にビシっと剣を突き付けて侮蔑の眼差しと共にそんな言葉を贈った後、悠々とした足取りで試合場所から降りると、静まり返っていた観客から一斉に歓声が沸き起こった。

「つ――、強い! 強すぎるぞお! これが、竜殺し、とまで言われるハーレム王、ハザマ卿の力の一端かっ! 余りにも鮮やか過ぎて、もう溜息しか出ません! なのでお願いします、ハザマ様! 私の嫁になってください!」

 司会者の最後の台詞に俺の顔は引き攣る。

「何をどうすりゃそうなんだよっ! てめえ一人でやってろっ!」

 とんでもない事を口走ってくれた司会者に向かって、俺は叫んでいた。

 まったく、何がどうなると男に男が求婚する様になるのか、頭をカチ割って中身を見て見たい気分だぞ、俺。

 だが有ろう事か奴は、陰々滅々とした口調で会場全体に向けて心情を吐露しやがった。

「私の想いは終ぞ届く事無く、ふ、振られてしまいました……。もう、生きて行く気力も、司会を務める気概も湧きません……。斯くなる上は修道士となり、この愛に一生を捧げるしかありません。皆様、短い間でしたが、私の拙い実況をお聞き頂き、有難うございました!」

 司会者席で頭を下げた男は、脱兎の如く駆け出して行く。

 それを俺も含めた会場の全員が唖然とした表情で眺めていると、

「貴方はたった一度の敗北で逃げるのですか?」

 アレが奴に声を掛けやがった。

 だがその一言で、涙に暮れる男の足が止まり、顔を上げる。

 涙と鼻水でグチャグチャになった男の顔は正直な話し、見るに耐えないのだが、アレには関係ないみたいだ。

「何度も挑戦しなければ掴み取れないものが、世の中には存在します。貴方の求めるものもそいった類ではないのですか? なのに貴方は、たった一度の敗北で引き下がってしまった。これは男として非常に情けないと、私は思いますよ? さあ、立ち上がりなさい。自分自身の為に。そして、何度でも挑戦するのです! あの方ならば何れ受け入れてくれるでしょう! 種族の垣根すら越えたのですから! 況してや性別の壁など、何時かは突き崩してしまう筈です!」

 最初は優しく諭すような言葉だったのに、最後ははっきり言って無茶無茶だった。

「性別の壁を崩せる訳ねえだろうがっ! 何考えてやがんだっ! この、アホ教授!」

 俺は叫ぶ。ありったけの力で。

 だがしかし、俺の声がアレに届く事は無かった。

 何故ならば、

「そうだよ! 諦めちゃ駄目なんだよっ!」

「愛に性別なんて、関係ないっ!」

「私達の崇高な想いは、ここに認められたのよっ!」 

 一部のアレな観客達がアレの演説に感銘を受けて騒ぎ出し、終には称え始めてしまったのだ。

 しかも、アレが手を上げると騒ぎはピタリ、と止まるし、俺に注がれる視線は無茶苦茶痛いし、ってかこれ、もしかして新興宗教が出来上がりつつあるんじゃねえか?

 あの司会者のお陰で流れが変な方向へと向かってしまい、俺は身の危険を感じて震えが止まらなくなった。

「皆さんの想い、このローリー・ケルロス、確と受け止めました! ですがまだ、動く時では有りません! 何れはその秘めた想いを爆発させる時が来ます! ですから今は、この競技を楽しむのです! 我等が教主、マサト殿とこの私の戦いを、その瞼に焼き付けるのです! 然すれば、如何な困難が待ち受けていたとしても、確実に乗り越えられるでしょう!」

 あの、俺って何時から教主、なんて怪しい者になったんですか? ってかお前、まだ試合もやってねえのに、なんで決勝に進出した気でいるんだよ。

 などと言った俺の気持ちなど地平の彼方へと吹き飛ばす様に、観客達――一部だけど――は大歓声を上げていた。

 一部の観客から注がれる熱い視線を浴びながら、俺はコソコソ――出来て無いけど気分的に――しながら皆の待つ場所へと戻ったが、優しく出迎えてくれる筈の三人の妻達から注がれる視線は、異様に冷たかった。

「マサトくんってやっぱり……」

「あなた、まさかとは思いますが……」

「わっちといわすものが有りながら、マサト様は……」

 夫々が夫々の台詞で、夫々に俺に問い掛けてくる。

 だがこれに対する答えなど、たった一つしか無い。

「三人が何考えてるのか知らんけどさ。俺、あっちの気も無いし、変な教えの教祖様にも成った覚えないからな」

 でも、妻達の疑いを帯びた冷たい瞳は、ちっとも緩む気配はなかった。

「あの野郎、まさかとは思うけど、家庭崩壊でも狙ってんじゃねえだろうな……」

 背中に冷たい視線を浴びながら俺は呟き、奴を睨み付ける。

 すると奴は、俺の視線を感じたのかこちらに顔を向けて有ろう事か、ニタリ、と口元を歪めやがった。

「何考えてるのか知らないけどな、俺を怒らせて得な事は何一つ無いって、体に教え込んでやる」

 俺は自然と周りに殺気を撒き散らし始め、静かに、そして完璧にブチ切れていた。

おかしい……。

第一章が終わらない……。


どこで間違った?!

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