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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第一章
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マーちゃん降臨!

 秘密兵器。

 それは強烈なインパクトで相手を打ち破り、勝利へと導くアイテムであり、最後の切り札。

 だが、どんな秘密兵器であろうとも一度見せてしまえば対策を練られ、二度目以降は勝利を収める事が難しく成ってしまう。

 だがこの者にはその常識すら眼中に無いようで、絶大な自信を覗かせる笑顔だけがあった。

 そしてまた、無惨にも毒牙に掛かる者が出てしまった。

「――勝者は、ま――ぶふぉぉぉぉぉ!」

 高々と真っ赤な水を噴き上げながら、前のめりに倒れ込んで行く先には、芳しい香りを微かに放つ焦げ茶色の沼。

 そして、その男を妖艶な笑みで見送る者の名は……。

 って、話が見えない、だと? いいじゃねえか、こんな出だしでも。俺だってたまには格好良く見せたい時があるんだよ。

 でもまあ、確かにこれじゃ分からんよな。

 ってな訳で、今より三時間くらい前に遡らせて頂きましょう。



           *



「話には聞いてたけど……。ハズキちゃんって凄いねー」

 俺の顔を見たリエルは物凄く感心していたが、ミズキはと言うと、

「まさかあなたに……そんな趣味があったとは……」

 愕然とした表情でそんな事をほざきやがった。

「ねえよっ! ってか、これは腕相撲大会に向けての秘策だって、さっき言っただろうがっ!」

 何故この二人がここに居るのか、と言うと、俺が呆けていた間にハズキが連れて来たからだ。

 本当ならばハズキ一人に任せて化粧だけにする心算が、妙に気合の入った彼女のお陰で、全身隈なく男の娘をやる羽目になってしまった。

 まあ、確かにその方が効果的なのは分かるけど、流石にミズキのあの台詞にはちと焦った。

 ま、直ぐに誤解は解けたからいいけどさ。

「それよりもそのカツラ。ミズキが弄るのか?」

「そうでありんす。髪はミズキが一番上手でありんすから」

 あんな事を言った割にはしっかりとカツラを手に、ミズキは起用に手を動かしている。が、ライルに被せて弄っているのが少々気に成った。

 尤も、何故か本人は喜んでいるので、そこは気にしない事にする。

 だって、ライルも凄え似合ってんだもん。流石は小さい頃の俺にそっくりなだけはある。

「でもさあ、本当にいいの? こんな事しちゃって」

 リエルは少しだけ困惑気味の表情を見せていたがその手元には、あのヴェロンで着せられた服をベースに、彼女のセンスで仕立て直された物が握られていた。

 それを視界に収めながら、あれをどう弄ったらそのドレスと一体化するのか、物凄く問い質したい気持ちはあったのだが、妙に怖くてとてもではないが、聞き出す勇気など俺にはなかった。

 だってリエルの場合は、下手な事言うとエスカレートしかねないしさ。

「こっちはタイツにしないとだめだよね」

 少しだけ困った様に渋い顔を見せるリエルの言動は、傍から見れば表情と一致しているのだが、ズボンを手に怪しげな道具を使ってテキパキと作業を始めた行動とは、まったく一致しておらず、本当に戸惑っているとは思えなかった。

 何故か目だけは生き生きしてるしさ。

「はい、出来ましたよ。あなた」

 リエルの不思議な作業を見入っていると、ミズキから声を掛けられたので振り向けば、彼女は誇らしげな表情を見せていた。

 無論、ライルにカツラを被せたまま。

 ライルが美幼女に変身したっ!

「流石はミズキでありんす」

 俺は目を丸くして驚き、ハズキが賞賛を送ると、ミズキは少しだけ照れながら説明をする。

「このままでも良かったのですけれど、耳の辺りから下の髪を緩く内側に巻いてふわっとさせて、少しだけ乱れた感じにしてみたんです。これなら少し艶っぽくみえますし、ただ真っ直ぐよりもいいと思いまして……」

 それを聞いてなるほどな、と俺は素直に関心した。

 ストレートのロングも悪くは無いが、緩くウェーブの掛かった髪は適度な広がりもあるし、若干乱れた印象を持たせる事で、グッと大人っぽく見せられる。

「なるほど、これに加えて少しだけ潤んだ瞳を相手に向ければ……」

 その事を想像しながら実際に瞳を潤ませてミズキを見詰めると、

「はうっ……」

 頬を桜色に染めて声を詰まらせた。

 なるほど、こういう反応をするのか。

 腕を組み、うんうん、と頷いていると、横から声が掛かった。

「マサトくんってさ、時々だけど、本当に男の子なのかな? って思わせる仕草をする時あるよねー」

 そんな事を宣いながら、リエルは手にした物を渡して来る。

「ちょっと着てみてくれる?」

 渡された物を繁々と眺めながら、俺は思う。

 何故、あれがこーなってこんなドレスになるのか。どうやってこの短時間で作り変えたのか。更に言えば、何で網タイツなのだろうか?

 足のお毛毛が目立つだろうに。ってか、内部の魔装は何処へ消えたんだ?

 疑問を沢山浮かべながらリエルの顔を見ると、何故かとても嬉しそうで、何かを遣らかす気満々に見えるから不思議だ。

「あのさ、これ……」

 俺が網タイツを手にして困惑の表情を作ると、リエルの笑顔が更に輝きを増した。

 む、何か嫌な予感が……。

 そう思ったのも束の間、リエルがミズキとハズキに目配せをすると二人は頷き、俺の事を押さえ込んだ。

「な、何す――」

「赤人さんと青人さんお願い! マサトくんに力貸さないで!」

 リエルが叫んだ瞬間、俺の体からは力が抜け、首以外が動かせなくなった。

 え? これってやばくね?

――お前等、なんちゅう事すんだよ!

 直ぐに自分の中に怒りの声を向けたが、気配はあれども一切の応答が無い。

 これ即ち……。

――加担してんじゃねえ!

 そうして俺は下半身だけを剥かれて、お毛毛を全部剃られてしまうのだった。

 ってか、アレのとこまで剃らなくてもいいじゃん! しかもご丁寧に剃り残しが無い様にお毛毛を焼くとか、火傷したらどうすんだよっ!

 つるつるのお子様となった――大きさは変わらないが――下の息子を不憫に思っていると、今度は上半身も剥かれ全裸にさせられてしまった。

 子供の見てる前で何と言う羞恥プレイだ……。

 そして、女物の下着を付けさせられ――胸にはご丁寧にでかい偽乳パットを入れられた――腕相撲大会用の戦闘衣装も着せられてしまった。

「仕上げでこれを被れば――」

 カツラがずれない様にしっかりと固定された後で椅子に座らされると、姿見を俺の前へと持ち出し全身を映し込む。

「うん。絶対これは俺じゃない」

 はい、完璧に化けました。

 しかも、俺が俺に惚れそうなくらいです。

 でもそう考えると、俺と同じ顔をしている可憐は、この姿になれる訳だから……。

「本気を出した可憐はこうなる、って事か」

「だねー」

「ですね」

「そうでありんすね」

 そんな事にも感心していると、漸く手足に力が戻って来たので、立ち上がって姿見の前で色々なポーズを取った。

 勿論、腕相撲を想定して、表情やらも色々と変えた。

 そんな事をしていたら俺の後ろで続けざまに何かが床に倒れる音が響き、振り向けば一名を除き、完全にノックダウンしていた。

 ライルだけは何故か目が輝いてるんだけど、変な趣味に目覚めないでくれよ。頼むからさ。

「しっかしこのパット、よく出来てんなあ」

 今着ているこのドレス、元と成った俺のドレスよりも胸元が結構大胆に開いているから偽乳だと簡単にばれる筈なんだけど、リエルが準備した――何で持ってたんかね――これは、肌との境目がまったく分からず、しかも、触れば感触までしっかりと伝えて来るという、とんでもなく精巧な代物だった。

 これも魔装義肢の応用なんだろうけど、こんな所にも無駄に凄い技術が使われているのかと思うと、半分呆れてしまった。

「でもまあ、いいか。戦闘力アップって事で」

 飛び跳ねると不自然に見えない揺れ方もするしなー。

 これで声色まで変えたら、俺だって分かる奴はかなり少ないんじゃないだろうか?

 そんな訳で、

「あー、えー、いー、うー、えー、おー、あー、おー、――こほん。こんな感じかしら?」

 遣ってみました!

「おとーさんがおかーさんになったー!」

 そしたらライルがはちきれんばかりの笑顔で叫び、部屋から飛び出して行ってしまった。

「ありゃ、これはちょっと不味いな」

 呟き、倒れている四人を何とか起こして事情を説明して、ライル探索に向かってもらい、俺は自分の荷物を漁り、ローブを引っ張り出して羽織る。

 最後にフードを目深に被って姿見の前に立ち、完全に隠れているか確認をした。

 足元だけはどうにもなら無いけど、全身を晒すよりも遥かに増しだからな。

 そうして待つ事十数分、無事にライルを捕縛して戻って来たのはスミカと……。

「貴殿は何をしておるのでござるか……」

 呆れた声音を響かせるアーツ辺境伯だった。

 その後直ぐに三人も戻って来たのだが、辺境伯の顔を見るなり、やっぱり、という確信に満ちた表情をしていたので、ライルの行き先など薄々感ずいていた様だった。

 とりあえず、アーツ辺境伯には絶対に口外しないと約束をしてもらい、ライルとスミカにも大会が始まるまでは、皆には内緒だから話しては駄目だ、と釘を刺した。

 俺はローブを纏ったまま大会に臨み、不審な目線を受ける事になったが、誰も足元には気が付かず、俺が男の娘に変身した事は隠し通す事が出来た。

 開会式が始まってから色々と驚かされもしたが、然程間を置かずに一回戦、第一試合の対戦相手が発表された。

「一試合目は――。小麦粉袋、五袋を軽々と持ち上げるという、ミュレイム商会所属の人夫! リベボルト・カーイス! そして、相手はっ! な、なんとっ! 我が国では彼を知らぬ者は恥、とまで言われ、幾つもの二つ名を持つあの超有名人! 亜人殺しのハーレム王ことっ! マサト・ハザマ卿だあ!」

 俺の名前が叫ばれるや否や、割れんばかりの大歓声が上がったのだが……。

「マヂかよー! もっと後ろに回せよなー!」

「行き成りそれとか、有り得ねえだろっ!」

「組みなおせよ!」

 等々、大会運営側への罵声も混じっていた。

 皆は一体、何を期待してるんだろうねえ。

 そんな罵声にも負けずに司会者は、声を張り上げ進めていく。

「それでは、御両名に登場していただきましょう!」

 司会者が試合場所の脇に設けられた台に乗る審判役の人へと視線を渡すと、審判は威厳たっぷりに頷き声を張り上げる。

「西! リベボルト・カーイス!」

 名を呼ばれた相手は棒を持った方の腕を上げながら、もう片方の腕を折り曲げて見事な力瘤を披露し、盛大な拍手を貰っていた。

「東! マサト・ハザマ!」

 俺は呼ばれても直ぐには出て行かなかった。

 まあ、宮元武蔵じゃないけど、どんな反応をするか見てみたかったのさ。

 案の定、というか会場がざわめき出し、中には逃げたんじゃないか、とまで言う者も現れたが、審判は多少首を捻りながらももう一度、俺の名前を叫ぶ。

「マサト・ハザマ選手へ警告! 三つ数えるうちに来なければ、失格にします!」

 一! 二! と思ったよりも早く数える声と、失格の一言で、俺は慌てて前へと足を動かし、丁度、三! の声を同時に俺は試合場所の手前へとなんとか出る事が出来た。

 あ、あぶねえ。もう少しで戦わずして負けるとこだった。

「マサト・ハザマ選手ですか?」

「ああ、そうだ」

 ローブを纏ったまま出て来たから、怪訝な表情で確認を取られてしまった。

 まさかあんな事言われるとは思ってなかったからな。

「次に警告を受けた場合は失格ですからね」

 え? マヂ? って事は俺、イエローカード貰っちゃったって事か?

 そんな事で焦る俺を尻目に、試合は無常にも進行して行く。

「それでは両者とも、台に上ってください!」

 言われて丸太へと続く階段に足を掛けた瞬間、

「あれ?! あいつ、ハーレム王と違くねえか?!」

「あっ! ほんとだ! あれ女の靴だぜ!」

 目聡い観客が俺の足元に気が付いて、そんな声を上げた。

 それが呼び水となり、次々に似た様な声が上がり始め、終には、

「おい審判! そいつ別人だぞ!」

 などと言うものまで現れた。

 だが審判はそれらを一切無視した。

 俺がこの姿で受け付けのお姉さんに食って掛かったのを見ていた人がいっぱい居たし、その話は当然、審判役の人まで伝わっているだろうし、実際に声も聞かせているから外野の野次には耳を貸さないのも当然だ。

 丸太の両端に備え付けられた台の上で、俺と対戦相手が向き合うと審判の声が響いた。

「それでは両者とも丸太に跨り、所定の位置まで移動してください!」

 俺は華麗にローブを剥ぎ取り姿を晒す。と、観客からどよめきと溜め息が溢れ、司会者は絶叫していた。

「こ、これは……、どういった事なのでしょうかっ?! ハザマ選手は男だった筈です! ですが今、あそこに居るのは、どう見ても女性です! しかも! アイシン様に勝るとも劣らない美女ですっ! 一体、ハザマ選手に何が起こってるんだああああああ?!」

 しかも、俺が丸太の手前でしゃがむと正面に居る観客が揃って膝を折り、スカートの中を覗きこもうとする始末。

 これには俺も、つい苦笑を浮かべてしまった。

 直視すると衝撃受けるから止めとく方が無難だぞ? なんて思ったけど、そこは自己責任だしな。

 ま、見える様なへまはしないけどさ。

 俺は極力、可愛らしい仕草で股がると、わざと相手に聞こえるくらいの声で「やだなあ、これじゃ風吹いたら見えちゃうじゃない」と呟き頬を染める。

 無論、声音は変えて。

 実際、風が吹けばスカートは巻くれ上がるから嘘は言ってない。

 だがその直後、ドッボーンという派手な音が聞こえたので前を見てみると、対戦相手の姿が無かった。

「おーっと、カーイス選手! 開始の合図を出す前にハザマ選手のスカートの中を覗こうとして落ちてしまったー! これは情けない! 情けないぞおおおおお!」

 これぞ正しく男の悲しい性、と言うものだが、男の娘のスカートの中味を覗くとか、はっきり言ってアホだ。

 しかも、落ちるまで頭を下げて覗き込むとか、どんだけ飢えてんだよ、って言いたい。

「只今、運営委員と審判による協議が入りました! 皆様暫くお待ち下さい!」

 俺の対戦相手の失態のお陰で試合が中断したのを受けて、司会者が観客に告げた。

 開始前に落ちちゃったし、そら協議するだろうね。

 俺は可愛らしく丸太に股がったまま結論が出るのを待つが、その間、観客に向けて愛想笑いを振り撒き、時折ウィンクや投げキッスを飛ばして男共を撃沈して遊んでいた。

「皆様、大変お待たせいたしました! 今、協議が終了した模様です!」

 司会者の声が響いたのを合図に俺は観客弄りを止め、運営本部テントから出て来る審判に視線を当てて動きを見守った。

 そして、審判は大に再び立つと、大きく息を吸い込んで発表した。

「大会運営委員との協議の結果、この試合の勝者は、ま――ぶふぉぉぉぉぉ!」

 審判が勝者の名を告げようとした瞬間、風が駆け抜けて俺のスカートを持ち上げる。

 そして、数多の男達が鼻から赤い水を吹き上げて昇天したのだった。

 勿論、審判だけは畑の香水に塗れたのは、言うまでもない。

 丸太に跨ったままで良かったよ。でなけりゃ、もっこりまで完全に見えてたからなー。

書きかけを何とか仕上げました。

ですが、次話は未定です。

でもエタる事だけはしませんので

気長にお待ち頂ければ幸いで御座います。

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