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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
スリク皇国編 第一章
159/180

開幕! 腕相撲バトル!

 翌日は腕相撲大会が開催される当日とあってか、早朝にも関わらずノーザマインの人出は凄まじい物となっていた。

 大通りは肩も触れ合わんばかりの人出で賑わい、露天を出している店はここが稼ぎ時、とばかりに声を張り上げて客を呼び込み、酒場も外で立ち飲みが出来る様にと細長いテーブルを外に出して準備に余念がなかった。

 裏通りには、水晶球やカードなどを小さな卓に置いてローブを目深に被った者が座る怪しげな店が出揃い、そこには女達が挙って殺到しているようで、何かを告げられては一喜一憂していた。

 そんなお祭り騒ぎの中俺は、アーツ辺境伯の屋敷に与えられた一室で体の状態を確かめながら、リエルからある魔装を受け取っていた。

「へえ、これがそうなのか」

「うん、今のあたしが作れる最っ高の物」

「あっちの世界でもまだ実用化されて無いのに、まさかこっちでお目に掛かれるとはね」

 この一言にリエルは得意満面になり、胸を張って業とらしい咳払いをすると、自慢げに説明を始めた。

「技術的には魔装義肢の応用なんだけど、いろんな部品をかなり小型化してるから、作るのはこっちのが難易度高いんだよ。それとね、義肢と違う所はね、生身の体に繋ぐ必要が無いから意外と負担が少ないって所ね。でもやっぱりって言うとあれなんだけど、部品を小型化しちゃってるから耐久力の関係で出力の面だと不利なのは否めないのよねー」

 嬉しそうな表情は一転して、少しだけ渋い表情を見せた。

「でも、そんなのは今の俺の力と合わされば……」

「そう、それっ! それなのよ!」

 リエルはぐっと身を乗り出し、俺の眼前に迫る。

「義肢は失われた部分を補うだけだけど、マサトくんに言われて作ったそれは力を補助する為の物だから、使い方次第ですっごく応用範囲が広がるの! たとえば――」

 俺の顔に唾を飛ばしまくって熱く語る彼女を見ていると、職人気質の技術者だという事がよーく分かる。ただし、唾は余計だけど。

 彼女の言葉が途切れた所で軽く押し遣り、顔に飛んだ唾をタオルで拭くが、相当な量を受け止めていたらしく、タオルが結構しっとりとしてしまっていた。

 後で顔洗わないと駄目だなこりゃ。

「内部構造は説明されても分からないから於いて置くとして、これを覆ってるやつの強度な――」

 顔を拭き終えた俺が口を動かすと、良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりにリエルの瞳が煌き、最後まで言うのを待たずにまたもや顔を近付けて口を開き始めた。

「すっごいわよこれ! ハロムドさんに頼んでヒヒイロカネとミスリルの合金を極細の繊維状にしてもらったのを編み込んであるから、魔力量よりも質に応じて硬度が変わる、とんでもない機能があるの! しかもね! 普通の剣じゃ絶対に切れないし、寧ろ刃毀れするくらいなんだよ! それに、衝撃もある程度は吸収出来る柔軟性も有るし、今の所これ以上の素材は無いと断言出来るわね。でも剥きだしのままだと見た目が良くないでしょ? だから表面に皮を使って普通の皮鎧と同じ様に見せて相手の油断も誘えるようにしたの! ただねー、突きにはちょっと弱いのが難点なのよねー。ここだけはどうしても繊維状だと強度が出せないのよ。だけどそれ以外は、マサトくんの要望は満たしてる筈だよ?」

 鼻同士がくっ付きそうな近さで花咲く様な満面の笑みを湛えられると、流石の俺でもどぎまぎしてしまう。

 でも、彼女の顔がこんなにも近くにあるのだから、唇を軽く触れさせない手は無い、と思いお礼を兼ねて触れさせた。

「ありがとうな」

 言葉と満面の笑みも忘れずに渡した途端、ボンッ、と音がしそうなほど一瞬でリエルの顔が真っ赤に染まり、幸せそうな表情でその場に崩れ落ちていった。

「――ちょっとやりすぎたか」

 リエルの顔を覗き込んで苦笑を漏らしながら、手にした物を傍らの机の上に置き、彼女を抱えて俺のベッドに寝かせる。

「これ、ありがたく使わせてもらうな」

 小声でそう告げてから、幸せそうな表情を浮かべているリエルの頬に唇を寄せた後、俺は扉を開けて部屋の外へと踏み出した。

 瞬間、教授とばったりと会ってしまい、お互いに驚きの表情を向けて動きを止める。

 同じ屋敷に居るのだから顔を合わせる事は幾らでも有るし、これは仕方の無い事だが、流石に昨日の今日では気不味さが拭える筈も無く、直ぐに目線を逸らして俺はその場に止まり、教授は止めていた足を動かして足早に立ち去って行った。

 足音が聞こえなくなってから俺は顔を上げて廊下を歩き、洗面所へ寄ってから屋敷の外へと出る。

 向かう先は、腕相撲大会が開催される会場。

 場所は南門を出て直ぐ、という事なのだが大通りは混雑が激しい為に避け、裏通りを抜けて南門へと向かった。

 ま、裏通りも凄かったけどな。

 南門へ着くと門は完全に開放されており、会場までは自由に出入りが出来る様になっている様で、そのまま外へ出ると、俺は頭の中がクエスチョンマークで一杯になった。

「なんだあれ……?」

 会場と思しき場所には腕相撲で使う筈の台は無く、その代わりに、レンガを積んで何かを溜める為の用途に使う様な囲いの中に、俺の背丈よりも高い位置で丸太を平均台みたいに組んだ物が設置されていた。

「腕相撲大会の筈、だよな……?」

 俺がやや首を傾げながらぽかんと眺めていると、背後から話し声が聞こえた。

「へえ、随分と本格的じゃねえか」

「だなあ、気合入ってんよな」

「でも、あそこにまだ何も入ってねえみたいだけど、今からじゃ間に合わねえんじゃねえか?」

「いやさ、ちょっくら小耳に挟んだんだけどよ、あそこに肥えを入れるらしいぜ。だから直前まで入れないって話なんだよな」

「ほ、ほんとかよ、それ?!」

「泥水は水が勿体ねえとかって理由で、肥えなったらしいって俺は聞いたけどな」

「でもよ、それじゃ臭くて見てらんねえじゃん」

「臭く無いようにはするらしいけど、どうやるのかまでは俺も知らねえんだよ」

「でもそれじゃ、腕相撲に負けた奴は悲惨だよなあ」

「だな。でもよ、見てるこっちとしては面白くていいけどな」

「ちげえねえ!」

 背後で話していた二人は、声を上げて笑うと街に戻って行き、それを聞いていた俺は、物凄く渋い表情を取った。

「あの上でやって負けると肥溜め直行とか、洒落になんねえぞ……」

 でも俺が参加しないと勝者に辺境伯を掻っ攫われてしまうので、不参加、と言う選択肢は既に無い。

「背水の陣とか、たかが腕相撲で遣る事じゃねえよなあ……」

 負ける訳にはいかないが、もし万が一にも負けたら匂う男になってしまうとか、マヂで勘弁してもらいたかった。

 俺は溜息を吐きながら受付らしき場所へと向かい、そこに居たお姉さんにエントリーする旨を伝えると、物凄く驚かれてしまった。

「え、えと……、が、がんばって、下さい、ね?」

 疑問系で応援された俺は、苦笑を漏らしながら参加者名簿に名前を書く。と更に驚かれてしまった。

「は、ハーレム王……」

 彼女のこの呟きに周囲の人達がざわざわと騒ぎ始め、その声は俺の耳にも入って来た。

「流石はハーレム王だな」

「やっぱ狙ってたのか」

「でも、今回ばっかりは……」

「あんなに華奢じゃ勝ち抜けねえよ」

「――だけどよ」

「――ああ」

「憂さ晴らしにゃなるよな」

 色々と好き勝手に言われているが、どうせ始まったらぐうの音も出なくなるのだから、今のうちだけ喜ばせておこうと思い、言い返す事もせずその場を立ち去る。

 だがこの時の俺の頭の中には既に、禁断の作戦が思い浮んでいたのだった。

 再び裏路地を抜けて屋敷に戻ると、俺は部屋へと直行し荷物を漁る。

「備えあれば憂いなし、じゃないけど、まさかここで使う事になるなんてな」

 手にした物を繁々と眺めながら、そんな台詞を呟いた。

 今回の旅はガルムイのあの村へと立ち寄る用事もある為、秘かにある物を持参していた。

「しっかし、思わぬ所で役に立つもんだな」

 但し、これを持って来た事は、仲間と言えども大っぴらにするのは流石に気が引けていたので、誰にも話しては居ない。

 無論、ライルにも。

「ま、今回はしゃあない。自分の武器は有効に使わないと」

 参加者名簿をちらっと見た限りでも、軽く百人を超えていそうだったので、幾ら俺でも連戦では疲労が溜まってしまう。なので、その瞬間に出来る限り戦わずに勝つ方法を考えて思いついたのが、これだった。

「よし、後はハズキを捕まえないとな」

 今回連れて来た面子の中では、アレに関してはハズキが一番上手い。

 勿論、他の二人でも構わないのだが、アレだけはハズキに敵わない事は、セルスリウスに居た時に確認済みだし、妻達の中でもハズキと互角の腕前を持つのはアルシェだけ、と言うほど彼女の腕は素晴らしく、流石、廓詞(くるわことば)を話すだけは有る、と感心したものだ。

 俺は直ぐに妻達に宛がわれている部屋へと向かい、扉の前まで来るとノックをしながら声も掛ける。

「おーい、いるかー?」

『――今開けんす』

 聞こえて来た声から察するに、部屋に居るのはハズキだけの様で、少々安堵をした。

 あの二人も居たら、絶対自分達がやるって言い出すからな。

「何か御用でありんすか?」

 扉を開けて顔を出したハズキに、アレを頼む為に口を開く。

「ああ、実は――」

 が、俺の言葉はそこで止まってしまった。

 何故ならば、俺の顔と手にした物とを交互に眺める、ライルとスミカの顔があったからだ。

「おとーさん。それ、かつら?」

「かつらなんか持ってどうしたの? パパ」

 出来ればこんなにも早くこの二人に見付かりたくはなかったが、ここは仕方が無い。

 俺は部屋の中へと入れさせてもらうと、三人の前で事情を話した。

「――と言う訳なんだけど、どうだ? 遣ってくれるか?」

「マサトさんの頼み事でありんすから、嫌とは言いんせんが……」

 ハズキは口篭り困った表情を見せているが、ライルとスミカは、流石にぽかんとして驚いていた。

 まあ、ライルはあの事を知ってるけど、俺が自分からやるなんて、今まで一度も言った事はないからな。

 呆ける二人は兎も角、ハズキが気にしてるのはたぶん、腕相撲のルールだと思う。

 でも、アレが駄目だ、という規則など無いだろうし、あんな物の上でやる競技なら互いに手を組んで押し合うとかするだけだろうから、何の問題も無い筈。

「大丈夫だって、そんなに心配する事じゃないよ」

「違いんす」

 ハズキの口から放たれた言葉に、俺は呆気に取られてしまった。

「え?」

 違うって、どゆこと?

「こなに綺麗な肌とお顔なんでありんすから、中途半端は良くないとわっちは思いんす。なんで、やるならば徹底的にやるのが礼儀、とおっしゃるもんでありんす。マサトさんはここで僅かばかり待っていてくんなまし。わっちら三人で腕を振るいんすから」

 そう告げてから部屋を後にするハズキの背中を俺は、ぽかんとした表情で言葉を失い見送る事しか出来なかった。




        *




「ノーザマイン御領主、ジルハルト・ギム・アーツ閣下争奪杯、腕相撲大会を開催いたします!!」

 開会の宣言がなされると、割れんばかりの歓声が上がり、この腕相撲大会が異常な程の盛り上がりを見せている事が伺えた。

「続きまして、この大会の開催に於いては多大なる尽力をなされた、魔法教導師のローリー・ケルロス殿より開会の挨拶を頂戴いたします! では、どうぞ!」

 開会を宣言した男が演壇から降り、紹介された教授が上がると観客の一部は溜息を吐き、それ以外の者達は、どんな挨拶をするのかと固唾を呑んで見守っている。

 無論、俺達もそこは同じだ。

「――只今ご紹介に預かりました、ローリー・ケルロスと申します。実は昨晩、私はあるお方に叱られてしまいました。人の人生を踏み躙るような勝手な振る舞いはするな、と」

 教授の思わぬ吐露に会場全体がざわめき始め、聞いていた俺達もこれには驚かされて目を瞠る。

「ですが、この企画を発案し開催した事は、今でも間違っては居ないと、思っております。人々の笑顔や慶びの声、この大会に向けて意気込みを見せる者や、楽しみにしている者の活気に満ちた姿。それらを目にした私は、この様な催しが絶対に必要である、と確信に至りました。確かにアーツ閣下を景品の様に扱った事に対する責め苦は、幾らでもお受け致します。私にも落ち度があったのですから。しかし! 街の活気を見れば、閣下と言えども文句は出ないと思います! ユセルフ王国は冬の間は雪に閉ざされ、民は辛い思いを強いられる国です。だからこそ、この様な祭りが必要だと、私は考えたのです! そして、誰もが年に一度は楽しく笑い笑顔になれる、ユセルフ王国がそんな国であればと思います。これを気に、この祭りが毎年開催される事を切に願い、開幕の挨拶と代えさせて頂きます」

 身振り手振りを交えて感情豊かに語る教授の姿は、会場を埋め尽くした観客の心を奪い取ってしまったようで、先ほどのざわめきなど無かったかの様に静まり返っていた。

 そして、教授が深々と腰を折り壇上から降りようとした時、観客から一つの声が上がった。

「あんた! 最っ高のユセルフ国民だぜ!」

 この声を皮切りに、あちこちから教授の挨拶を湛える声が上がり、終にはローリーコールまで起こり始めた。

「ったく、これだから教授には敵わないんだよな」

 教授を称える観客の声を聞きながら俺は苦笑いを浮かべ、言葉を漏らす。

「教授さんに同意する訳じゃないけど、言ってる事は間違って無いのは確かかな」

「そうですね。この国には実際、必要かもしれませんね」

「わっちには手数事は良く分かりんせんが、でも、笑う事で平らかな世になるのでありんしたら、それはいい事だと思いんす」

 三人とも感化はされなくても、それなりに本質を突いた教授の語りには同意する所もあったようで、好意的に受け止めていた。

「先生ってすごいなあ……」

「うん……」

 流石にライルとスミカには難しかった様だが、観客の反応から教授が凄い事を言った、という事だけは十分、分かった様だった。

「素晴らしい開会の挨拶、有難うございました! ではこれより、ルールの説明を行います!」

 湧き上がる歓声が一瞬途切れた時、絶妙なタイミングで司会進行役の者が言葉を挟むと、再び会場は静まり返り、直ぐに説明が始まった。

「――丸太は手足のどちらかで抱え込んでも失格となりますので、ご注意下さい!」

 ルールは俺が思っていたのとほぼ同じだったのだが、あの上に立って力比べをするのではなく、膝で丸太を挟んで力比べをする様だった。

 あそこの上でバランス崩してどっちも落ちたら、匂う男になるしなー。

 ただ、次に言葉には目を剥き驚くしかなかった。

「それと今回は特別ルールが追加された事により、殺傷力の高い獲物以外は使用可能となっております!」

 要するに、今回の腕相撲は棍棒などの長物が使える、という事だった。

 道理で参加者全員が長い棒を持っていた訳だ。

 それを最初見た時、首を捻って不思議に思ったのだが、これで納得がいった。

「――以上で説明を終わります! 次に――」

 説明が終わった瞬間、俺は受け付けのお姉さんの所へすっ飛んで行き、今の話を何故してくれなかったのかと詰め寄る。

 だが、本来ならば参加申し込みをした際にルールを記した紙を渡す筈が、俺の参加に驚いたお姉さんは渡し忘れてしまったと、平身低頭で半分涙目になって謝っていた。

 そんな姿を見せられては、流石の俺もそれ以上怒るに怒れなかった。

 そうして俺は、目出度く素手で遣りあう羽目に成ったのであった。

 皆の下へと戻った俺はごちる。

「なあ、これだと俺、すっごく不利じゃね? ってかこれはもう、腕相撲じゃないよね?」

 得物を持った時点で腕とか関係ないしな。

「大丈夫よ、マサトくんなら」

「そうですよ。あなたなら問題ありませんよ」

「マサトさんでありんしたら、いけると思いんす」

「おとーさんなら勝てるよ!」

「パパ、強いもんね!」

 彼女達からは絶大な信頼を向けられ、子供達は俺が負ける事など、微塵も思っていなかった。

 おかしなルールのお陰で腕相撲じゃなくなっちゃったんだし、少しは心配してくれてもいいと思うんですけど……。

 俺のそんな思いを他所に、大会は恙無く進行していくのであった。

暫く更新が出来ません。

詳しくは活動報告をご覧ください。


               4月11日追記

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