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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第八章
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創生の魔術師

「な、何しやがる! 放せ、馬鹿野郎!」

「き、貴様! この様な扱いをしてただで済むと思うなよっ!」

 この切迫した状況でもまったく態度が変わらないとは、天晴れと言うべきか、流石はお馬鹿と言うべきか、私にはもう、分かりませんよ。

 でもまあ、変わらないという事は恐れてもいないという事ですから、十分役立ってくれそうではありますね。

「いいですか。これから私があの防壁を無効化します。そうしたら二人は、マサト殿の動きを封じてください」

「はあ?! んな事出来る訳ねえだろ!」

「その前に手を放さんか! これでは戦いの準備も間々成らん!」

 失禁様の前向きな台詞には一理あると共感出来た私ですが、お馬鹿さんが発した、出来る訳が無い、の一言には言い様の無い怒りを覚えてしまいました。

 それは、事を起こす前から既に諦めている性根が気に入らなかったからです。

 私は立ち止まると、騒ぐ二人を前方に放り投げて語気を強めて言い放ちます。

「出来る出来ないの問題ではありません! ここで遣らなければいけないのです!」

 私の怒声を聞いて呆ける二人を睨み怯ませた後、一拍の間を開け、今度は諭すように静かに口を開き問い掛けました。

「いいですか。今のマサト殿は正常ではないのです。それを放置すればどうなるか、貴方には分かっているのですか?」

 この問いはお馬鹿さんへ向けての物でしたが、その事を失禁様は直ぐに理解したのか、無言でお馬鹿さんの方へと顔を向けていました。

「俺は、奴に触れる事すら出来なかった……。奴の力を見誤った。その所為で――、マーティーはあの有様だ……。分かるだろう? リーダーとしちゃ失格なんだよ、俺はっ! その俺が何を今更……」

 語尾に悔しさを滲ませて、お馬鹿さんは項垂れてしまいました。

 確かに今の言葉を鑑みれば、その様な態度になるのも分からなくはありません。

 ですが、それではいけないのです。

 前へと進む力を無くした者が生きて行ける程、戦場は甘くないのですから。

「傷付き倒れた仲間を思いやり、最期を看取る為に傍に居る。その気持ちはとても素晴らしい事だと私も思います。ですが、ここは戦場なのです。そんな場で、己の命を掛けて戦いを挑み、敗れた仲間が願う事は一体、何だと思いますか?」

 こうして話している間にもマサト殿は離れて行ってしまっていますが、今はこのお馬鹿さんを何とかその気にさせなければいけません。

 それに、我等の国を築く為にも、ここは恩を売って置いて損はない場面ですしね。

 そんな事を頭の片隅に浮かべながらも私は、親身な振りをして話し続けました。

「仇討ちですか? それともこのまま見逃す事でしょうか? 違いますよね? それはここで項垂れていれば叶う類の物では無い事くらい、あなたも承知しているのでしょう? それなのに何故、ただ悔しがり己の不甲斐なさを嘆いているのですか。それとも、そうして嘆いていれば仲間の願いは叶うのですか? 誰かが助けてくれるのですか?」

 その時、お馬鹿さんの首が微かに左右に振られ、私はもう一押しだと感じました。

「ならば、その願いを叶える為には、誰かの助けを得るには、何が必要なのでしょうね?」

 私はそこで言葉を止めて待ちました、お馬鹿さんが答えるのを。

 ですがもし、このまま答えない様であれば残酷ですが、ここで私が引導を渡す事になるでしょう。遅かれ早かれ敗者の末路など、決まっているのですから。

 しかしそれは、杞憂に終わりました。

「…………奴に勝って勝利を捧げる。それが散った仲間に手向けられる、唯一の事だ」

「では、勝利する為に必要なものが何なのかも、既に分かっていますよね?」

「ああ。俺は魔法が使えない。だから、魔法を使える奴を仲間に加えればいい。だから――、手を貸してくれ。――この通りだ」

 お馬鹿さんは立ち上がり手を差し出して深々と腰を折り、私に助力を仰いできました。ですがそこで直ぐに握り返すほど、私は甘くは有りません。

 ただ力を貸してくれ、と言われても貸せる訳がありませんから。

「何ですか? この手は」

 暗にその程度では力など貸せぬ、と言って差し上げました。

 でもお馬鹿さんはお馬鹿さんなりの意地を見せ、腰を折ったまま私に訴え掛けて来ました。

「俺はお前の言った通り自分の不甲斐なさに、無力さに嘆いて諦めていた。奴には勝てない。俺の刃は届かない。マーティーを救う事さえ出来ない、ってな。だが気が付いたよ。俺はまだ、敵の居るこの戦場で生きてるんだってな。なら遣る事は一つだ。奴を倒せる力を持った者が現れるまで死力を尽くして足止めする。そしてそいつが来たら、全力で補助すりゃいいってな。だから頼む! その為にもお前の力を、この俺に貸してくれ!」

 漸くそこに辿り着きましたか。本当に情けないくらいにお馬鹿さんだったのですね。

 でもここで手を取るのはまだ少し早計と言うものです。一つ、確認しなければならない事がありますから。

 なので、私は本当に最後の質問を投げ掛けました。

「私が否、と言ったならば、あなたは如何(どう)するのですか?」

 私だってこれが意地の悪い質問だと重々承知してはいますが、どうしても必要な事ですから、仕方ありません。

 ですがこれにどう答えるかで、この方がどういった気構えで臨むのかが分かるのです。

 そんな意地の悪い私の問い掛けにもお馬鹿さんは、表情一つ変えずに、私の目を見詰めながらはっきりと告げてくれました。

「それでも俺は行く。奴に敵わず殺されちまうかもしんねえが、そん時は腕の一本、いや、指の一本でもいい。それを道ずれにして、俺の魂掛けて足止めしてやるぜ」

 先程までの上辺だけを取り繕った姿勢ではなく、内から湧き上がる闘志を表に出した態度で告げられた言葉に、私の心は漸く動かされました。

 良い返事ですよ、アンビット殿。それでこそ私が手を貸すに相応しい、と言うものです。

「あなたの気構え、確かにお聞きいたしました。ならばその命、私がお預かりさせて頂きます。マサト殿の魔法は私が全て押さえ込みますので、アンビット殿は魔法を気にせず存分に力を振るって下さい」

 そう告げてから、差し出された手を握り返しました。

 その握られた手の上にもう一つ手が重ねられます。

「私の事も忘れて貰っては困る」

 そこには失禁様――ティグルド殿とここはお呼びしましょう――が口角を吊り上げて不敵な笑みを見せていました。

 釣られて私達の口元にも笑みが浮かび上がり、互いの眼を見て頷き合うと、マサト殿の方へと顔を向けます。

「ではお二人とも、宜しくお願いします」

「おう」

「うむ」

 マサト殿との距離は大分離れてしまいましたが、私達の足ならば直ぐに追い付く事は不可能ではありません。ですからここは私の力を知って貰う為と少しでも勝率を上げる為に、今では誰も使う者の居ない、魔法に因る補助をお二人に施そうと思いました。

 誰も使うもの者が居ないという事に疑問を持つ方も居るかも知れませんが、説明するには遥か昔、私がまだベロ・ケルスと名乗っていた頃の事を語らなければなりません。

 今よりも千年近くも前、人の間でこの補助魔法は、ベロ・ケルスが作り出した魔法の中で最も使えない魔法、と言う烙印を押されていました。

 何故そんな烙印を押されてしまったのか、当時の私にはまったく分かりませんでしたが、今ならば理解出来ます。

 上昇した身体能力に感覚が着いて行けない者達が戦いでミスを連発して行き、全滅の憂き目に会うパーティーが後を絶たなかった、と言うのがその主な理由だったのではないかと、当時を思い返して今はそう推測しています。

 故に自爆魔法とまで言われ、忌避されてしまったのす。

 勿論、その大半が中堅に届かない者達だった、と言うのが事の真相ですが、底辺に位置する者達の数が余りにも多かった所為もあり、それがそのまま伝わってしまった事が最大の問題だったとも言えます。

 最終的には個々人で使用する為に編み出された風魔法による強化が主流となり、使われなく成って行った補助魔法は廃れ、魔法を使えない者は身体強化を行えなくなってしまいました。

 そして現在では、完全に失伝してしまった魔法の一系統と成ってしまったのです。

 無論、風魔法の強化にも感覚の差異は存在しますが、補助魔法よりも強化の幅が小さい為に然程の齟齬を生じ無い事がその背景にはありました。

 ですが、その様な事情が有りはしても、私は今それを使う事を決断したのです。

 それはこのお二人の実力ならば、必ず受け止め切れると感じたからでした。

 走り出そうとする二人の両肩に手を添えてその動きを止めると、私は口を開きます。

「これよりお二人に補助魔法による強化を施します。十割程度の能力上昇が見込めると思いますが、その際の感覚のズレは接敵するまでに物にして下さい。ああ、後ですね。これの維持には微量ながらお二人の魔力を消費いたしますので、魔力切れを避ける為に四半刻程度で切らせて頂きます。準備は良いですね? まあ、良くなくとも待ちませんが」

 お二人は一瞬、呆けた顔をしましたが直ぐに夫々が勝手な事を口にしていました。

「な、何馬鹿な事言ってやがる! 出来っこねえだろうがよ!」

「アンビット殿の言うとおりだぞ! 補助魔法など出来る訳がない!」

「黙りなさい」

 私が目に力を篭めて睨み付けると、お二人とも直ぐに口を噤んでくれました。

 その際、顔が青褪めていた事は無視するとします。

「土水火風、全ての属性を我が内に取り込み力と成し、補翼の力に変えて我触れる者に送る。身力強盛(オーバーブースト)

 詠唱終了と同時に彼等の体を眩いばかりの黄金色の燐光が覆い尽くしたかと思った途端、それは瞬く間に体内へと吸われる様にして消えて行きました。

 随分と久しぶりに使いましたが、昔よりも魔力の扱いに長けた所為か、この感じからするとやや多めに上昇していそうですね。

「どうですか? どこか異常はありませんか?」

 彼等は僅かな間、目を(しばた)かせながら呆けていましたが、私が問うと体を動かし確認した途端、驚きの表情と声を上げていました。

「なんで――、なんでこんなに体が軽いんだ?! まるで羽が生えたみてえだ! でもこれなら、俺に追い付ける奴なんていねえぜっ!」

「こ、これは一体何なのだっ! 力が――力が無限に湧いてくるぞっ!」

 私はその様を見て逆に驚いてしまいました。

 何故ならばお二人供にほんの少し体を動かしただけで、既に順応し始めていたからでした。

 そして、こうも思いました。

 この二人の潜在能力は途方も無いのかも知れない、と。

 だからと言ってその事で表情を変える私では有りませんし、況してや告げる事もしません。

 静かに見守りながら自身にも身体強化を施した後、

「そろそろ行きますよ?」

「そうだな」

「うむ、行こう」

 表情を引き締め向かう先に視線を向けると、誰が合図するとも無く、私達はマサト殿目掛けて駆け出しました。

「学者先生! 奴の魔法は頼んだぜ!」

「任されました」

「私はマサを押さえ込む役割に徹する! アンビット殿!」

「ああ、分かってる! 俺が奴を切り刻んでやるぜ!」

「死なない程度にお願いします。マサト殿が死ぬと私が困りますので」

「心得た!」

「善処はしてやる! だけどな、確約は出来ねえぞ!」

 まったく、どこぞの為政者の様な事は言わないで欲しいものです。ですが、もしもの時は私が何とかすれば良いでしょう。

 言葉を交わしている間に私達は攻勢防壁の攻撃範囲へと踏み込み、私は一つの魔法名を呟きました。

「貪り尽くしなさい。餓炎牙(スターヴファング)

 放たれたのはとても小さな炎の顎門ですが、これこそが私の切り札でもありました。

 どんな魔法でも喰らい加速度的に自らの存在を増やし、取り込んだ魔法を魔力として還元して存在し続け、魔術師自身は絶対に襲わずに新たに放たれた魔法すらも餌とする。しかも、属性に左右されないという、凶悪極まりない代物。

 餓えた牙を受けてしまった魔術師にとっては、これこそが最大にして最凶となる攻撃なのです。

 自らが放つ魔法は全て喰われ、相手の魔法は全て己に届くと言う、理不尽の塊なのですから。

 こんな理不尽極まりない魔法など、作り出した私ですら受けたのならば絶叫したい気分になってしまいます。

 そして攻勢防壁は餓えた牙とって、とても良い餌だったに違い有りません。

 風を喰らい始めて幾らもしないうちにかなりの数まで増殖して、中心にいるマサト殿の姿を晒してくれたからですから。

「よっしゃあ! 行くぜティグ!」

「参りましょう! アンビット殿!」

 二人同時に歓喜の声を上げて私を追い抜き、マサト殿へと肉薄して行きました。

 しかし私には、まだもう一つ遣る事が残っています。

 それは、精霊魔法も使用不能とする事。

 ただ、これの詠唱だけはあの二人に聞かせる訳には参りませんから、勝手にマサト殿の下へと行って頂けた事に感謝するとしましょう。

 二人がマサト殿と接敵した瞬間を狙い、私は足を止めて詠唱に入りました。

「世界に満つる精霊達よ! 古の盟約により我が名に於いて命ずる! この世をこの世としこの世足らしめる貴様等の力全てを、我が意、我が力、我が魂の全てに与えよ! これより先、我が命なくして他者に力貸す事無かれ! 我が名はベロ・ケルス! 最も古き契約者にして千年の時を経て尚探究を止めぬ、創生の魔術師なり!」

 これを唱え終わった後の私の耳には、精霊達の喜ぶ声が聞こえた気がしました。

 これで全ての精霊は私の支配化に置かせて頂ましたので、覚悟の程を宜しくお願いします、マサト殿。

ちょっと設定に不備が見付かりまして

話に齟齬が出ない様に修正させて頂きました。

勿論、今話に影響は全く御座いません。

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